【Epilogue】
先ずは謝罪を。
長い間お待たせして申し訳ありませんでした。
仕事の関係と、家庭的な問題がありまして暫くパソコンに触れる機会がありませんでした。手前側の理由で皆様の期待を裏切った事を深くお詫びします。
孤独な夜というのも今では別段珍しくもない。
珍しくはないのだが、……それに慣れる事が出来るかは別問題だろう。
だからこそ、新たな同居人──いや、人ではないだが──の存在はそれなりに喜ばしい物だった。
掌の上には、小さな、そここそ掌サイズの精霊が一匹。
試験の際に保護したこの子はいたく私の魔力が気に入ったらしく、どうしても泉に帰ろうとはしなかった。
しょうがないので、学園に許可をとって従魔として使役する事で共に行動が出来るようにしたのだが、流石に精霊のままでは拙いと気付いたのか、保健室から退室してすぐ位から猫の姿で行動するようになっていた。……やはり此処には精霊も魔物の一種であると言う考えが存在しており、一部の者以外は外で見れば襲ってくる可能性が存在している。可愛らしい容姿をした精霊が多いが、基本的に悪戯好きな彼等を鬱陶しく思う者は少なくない。
「取り敢えず、今日からよろしく頼む──レン」
精霊は人語を介さないが、理解をする事は可能だ。
その証明とでも言うかのように、可愛らしく一鳴きした後、ペロリと私の掌を舐めた。
……最近学園では虐げられる事が多かったせいか、この程度の社交辞令で少しだけ涙腺が緩みそうだ。尤も、泣くような事はありえないが。
早々に寝巻きへと着替え、食事の準備を開始する。
今日は、……そう言えば先日店長から良いキャデロッサ──橙色の根菜類。ケーキにすると自然な甘味が楽しめる──を頂いたな。流石に主役にはインパクトが欠けるが、引き立て役や口直しには良いだろう。今日のメニューは決まったな。
「今日もまた、アムルタの宝を喰らう事を御許し下さい」
食卓に興味があるのか、精霊は物珍しげにハンバーグを凝視している。
その様子に苦笑しながら、私はグラッセを口に運んだ。
……やはり店長と比べると味が大味で、バターの量が多かったらしく少しばかりくどい。
それでも美味しく食べれるので気にしない。それよりも黒パンの硬さの方が相変わらず許しがたい。昔祖父から頂いた白パンは本当に希少だったらしく、学園の周囲でもそれなりの金額を払わねば購入できない。食生活も大事だが、一応、……もう目標などないが、それでも冒険者を目指す私からすればその様な贅沢ができるはずがなく、その分のお金で剣や鎧──と言っても通称エプロンと呼ばれる麻製の物だが──の整備に金を使用する事を優先している。
それでもたまには贅沢しようかなと悩んでしまうあたり、私は贅沢者なのだろう。
「───アムルタの宝が主の下へと旅立てますように」
食器を洗いながら、明日から始まる長期休暇をどうするべきかをふと考える。
明日から始まる休暇は学園内の施設の補修工事の為のもので、期間は一週間は確定しており、工事の進行具合によっては多少変動する事も有り得る。
バイトで全てを潰すのも一興だが、冒険者として依頼をこなすのもいいかもしれない。
尤も、討伐依頼や秘境探索等は不可能だ。学園周辺の雑務が精々だ。
……取り敢えず三日はバイトを入れれば生活面で潤いが持てるだろう。
残りの四日はその時々で決めれば良いだろう。その時に思い行動した方が、無理に計画して行動するよりも有意義の事もある。
「……さて、眠ろうかレン」
胸元に飛び込んでいたレンを抱きしめて、ベッドの中へと潜り込む。
窓の外には忌々しく輝く銀月が浮かんでおり、それに持たれて見下ろす女神の柔らかな声が響いている。
昔は見惚れた銀月も今やただの呪いの象徴でしかない。
慈愛と狂気の神であり、一部では死と生を司ると言われる女神───ハルティナ。
私はいつか彼女に一矢報いる事が出来るのだろうか。
そんな無駄な事を考えて、……私はぬくもりを抱いて意識を手放した。
これにて第一章は終了でございます。
次の二章は休暇中の七日間(+α)を書かせて頂こうと思っています。




