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Free・World・Story~フリー・ワールド・ストーリー  作者: 月見 呆一 (旧 月見)
第一章 異世界の迷子 クレスヴィル前
6/37

5 返事 任務内容

「―――『ナギサ・ヴィクタール・ビュレ・バルトリンク』?」


 なぜか、答えが聞こえた。


 その声に、渚はハッとして顔を向ける。

 見ると、さっきまで肉に夢中になっていた筈のロッシ。彼が、手のひらに収まる大きさの黒い板を、鋭い爪でつまむようにしながら見つめていた。

 オリガが、怪訝な表情で言った。


「ロッシ、一体なんだ?」

緊急任務エマージェンシー・クエストだとよ。お前らの方にも来てるだろ?」

「いや、それは分かるが…、その名前は、どこから出てきた?」

捜索(、、)の依頼だとさ。依頼主はロックフォール。特徴とか書いてるが、たぶんこの()のことだぞ?」


 言われた三人は、疑問を顔に浮かべた。腰に付けたポシェットのような革袋から、同じようなモノを取り出す。すこしだけ渚に警戒の一瞥をよこし、ロッシと同じように、掌に乗せたそれを見つめ始める。

 しばらくのあいだ、四人がそれとにらめっこするのを、渚は呆然と眺めていた。


 ―――さっきのは、いったい何だ?


 聞きおぼえがありそうで、聞いたことがない名前。

 それに呆然としている渚をよそに、四人はそれぞれの表情で黒い板を見続けている。

 やがて、オリガが顔を上げ、考え込むように眉間にしわを寄せた。

 そして、ロッシに言った。


「―――捜索の依頼は分かったが、なんだ、この注文オーダーは?」

「知らん。多分、内容込みで、この値段なんだろ?」


 やはり興味はなさそうに、その鋭い爪でつまんだ黒い板を見ながらロッシが言う。

 グラスが眉間にしわを寄せ、悩むように言った。

 

「しかし、それにしてもこの金額は…、今が今とはいえ…、博打か?」

「この話が本当だとして、ある意味じゃ安いぐらいよ? まあ、どっちにしても魅力的ねぇ?」


 興味しんしんといった具合に、熱心に黒い板を見るイリサ。

”黒い板”の何か、それを話題に、四人が会話に没頭していく。悪い子じゃなさそうだし、とか、だが、よくわからないし、とか、いろいろと言い合っている。その表情は深刻だが、妙な熱気があった。しかし、何に盛り上がっているのかは、分からない。


「…あの、どうしたんでしょうか?」


 おずおずと、それでも話に乗り遅れまいと、渚は四人に声をかける。さっき聞こえた『捜索依頼』からするに、悪い話ではないはずだ。四対の目がそれに応えて、渚に向けられる。

 さっきまでの警戒、それに今度はさらなる困惑を混じえた色が、そこにあった。一瞬、四人で目を見合わせる。何かのアイコンタクトが交わされる。

 四人の中から、オリガが、切りつけるように言った。


「…答えろ。お前は、『ナギサ・ヴィクタール・ビュレ・バルトリンク』で、間違いないのか?」

 

 渚は再び聞いたその名前に、一瞬面くらった。しかし、果敢にオリガに挑んだ。


「―――その前に、一つ聞かせてください。それを出したのは、さっき言ってたロックフォールさんで間違いないんですよね?」


 オリガの眉が一瞬、しかめられた。しかし、答えは返ってきた。 


「ああ…、そうだ」

「体の大きい、傷だらけの鎧を着た?」

「そうだ」

「アメリ君と一緒の?」

「さっき言った二人だ」


 仲間のこともわからんのか? その表情は、そんな言葉を語っている。

 視界の端にそれをとらえながら、渚は、しばらくのあいだ、うつむいた。こめかみに指を添え、くりくりと揉みほぐす。


 渚は、長いあいだ、黙っていた。四人が、じっとこちらを見つめている。ちりちりとして、痛いほどだ。その視線に耐えながら、渚は考えに考えた。肉の焼ける音がやけに耳につく。どこかで、ローフォレの遠吠えが聞こえる。腹は、決まった。


 渚は、顔を上げ、そして、言った。


「―――ええ、私が、その”ナギサ”で間違いありません」


 出来る限り、自信のある表情を取り繕うと、渚は断言した。

”ナギサ・ヴィクタールうんぬん”は知らない。しかし、今はとにかく、この話の流れで押し通し、この四人に助けてもらう。後のこと(、、)は、その時に考えればいい。”生き残れ”! とにかく、森を出る!

 いきなり身元を話し始めた渚に、オリガの眉がピクリと上がった。


「本人に、間違いないか?」

「ええ、間違いありません」


 渚は、笑みを浮かべて答えた。その笑顔に、オリガは次の言葉を切りこみ損ねる。

 代わって、グラスが考えるように、首を傾げた。


「なぜ、さっきまで黙っていたんだい?」

「実は、(ゆえ)あって、お二人に―――アメリさんと、ロックフォールさんですが―――ちょっと、この辺りが、怖いところだと聞きまして…、それで警戒していたんです」

「…森のことを聞いていたのか?」


 グラスの厳しい声。

 渚は、出来る限りバツの悪い笑顔に切り替えた。申し訳なさそうな調子をこめて、言った。


「いえ、その…、街に奴隷商人が出ると聞いて…、それでこのあたりも近くだし、そうなんじゃないかと思って…。―――すみません…」

「私たち、奴隷商人に間違えられてたの?」


 おかしそうに、イリサが笑う。グラスがため息をついた。


「まったく―――あの二人は、一体何を考えてるんだ? こんな()にそんなことを言ったら怖がるに決まっているだろうに…」

「いえ、お二人は悪くないんです。私が勝手に動いてしまっただけで、本当は街の近くで、すぐに合流するつもりだったんです」


 笑顔を崩さないようにしながら、渚は話し続けた。グラスは渋い顔だ。 


それにしても(、、、、、、)だよ。あの二人は何をしていたんだ。こんな状況で君みたいなのを連れて歩くなんて…」

「いえ、ちょっと、その街の近くに一人でいるところを、何というか、襲われまして…」

「襲われた!?」


 グラスが声を上げるようにして言った。渚は苦笑のままだ。


「その、ケンカ、に、巻き込まれたようでして…」


 ごまかすように、言葉を濁す。グラスは気が立った馬のように、鼻を鳴らした。


「クレスヴィルは、いま、殺気立ってるんだ。街の近くなんてところじゃ当たり前だよ。君は、二人とはどういう関係なんだい? どうやら、”城崩し”さん、ずいぶん必死に君のことを探しているよ?」


 どうやらグラスの渋さは、ここにいない二人に向かい始めたらしい。良い流れだ。

 渚はさらに続けた。 


「まあ、雇い主(やといぬし)といいますか、何と言いますか…。とにかく、一緒に連れて歩いてもらっているんです。それに会ってからまだ日が浅くって、ただ、ロックフォールさんと、アメリさんとしか知らなくって…」

「どこかのお嬢さん、…なのか? つまり二人は仕事(、、)か。守りきれるとでも思ってたのかな? それにしても、きみは”二つ名”を知らなかったのかい?」

「はい。(まぎ)らわしくて、すみませんでした」


 ウソはついていない。

 渚の言葉に、四人組が、ため息をついた。ロッシまでもが苦笑いを浮かべている。


「それがこんな(ざま)じゃ、信用問題だな。必死にもなる、か…。お嬢さんは、なんだい? 物見遊山かなにかかい?」

「まあ、そうですね。二人は、お強いとのお話でしたし…。お給金をお支払いする代わりに、連れ歩いてもらってると言いますか…」

「豪勢というか、馬鹿らしいというか、あんた、命知らずだねぇ。よりによって、いまのトレスヴィルまで付いてくるなんてなぁ。お嬢様の道楽か? (どお)りで、仕立てのいい服を着てるわけだ」

「道楽…。いえ、その通りかもしれませんね」


 のんきな調子のロッシ。微笑み返す渚。だんだん、空気がゆるんでくる。

 そこに、一つの太刀風。

  

「ちょっと、待て! まだどうやって(、、、、、)お前がここに来たのか、聞いていないぞ?!」

「ああ、それは、これからご説明します」


 あわてたようなオリガを、ほほえましい目で(そんな目を浮かべた気で)見ながら、渚は、余裕を持つため、一拍、間をおいた。これ(、、)が一番肝心なのだ。


 四人に向かって、そのプリン知識を披露するとき、それと同じような心境を思い起こす。しっかりと出来たプリンの想像図。それを、しっかりと相手に伝える。形から香り、味まで、すべてだ。相手は、きっと感動する。これ(、、)を話せば、きっと、四人は納得する。

 分かり切ったことを言うだけだ。結果も、分かり切っている。必死に、渚は自分に言い聞かせた。背中を、冷たい汗が伝っていく。ギュッと、手を握りしめる。

 決心を固め、渚は、口を開いた。


「―――私、”人間”じゃ、ないようなんです―――」




 ―――言ってしまった。


 自分で放った言葉を聞き、その言葉に身をすくめて、渚は思った。


 しょうがないことだと、思う。


 事実だとも、思う。


 それでも、改めて自分の口から言ってしまうと、なかなかくる(、、)モノが、ある。


 ローフォレ―――オオカミっぽいモノ―――の群れには数十回は囲まれ、襲われた。それより強いらしいモノたちにも、さんざん襲われた。あっという間に骨になる筈の森の中を、ここで言う二つ時、それがどのくらいかは知らないが、それ以上のあいだ生きて、全速力で走りまわっていた。何も飲まず食わずで走り続けた。それなのに、自分は喉も渇かず、さっきから焼けている肉に、食欲すら湧かない(、、、、、、、、)


 最初は、緊張のせいかと思った。しかし、散々な昨日を過ごしたはずなのに、空腹を覚えるどころか、四人を相手に、駆け引きをしている余裕まである。四人をのんびりと、見ていられる余裕がある。昨日、月明かりの晩、疲れて、倒れたはずの体。そんな体は、その疲れのかけらすら、感じられない。


 たった今、それを、自分は、認めてしまった。


 今の自分の状況を説明するのに、どうしても必要だった。だからこそ、あえて言った。だが、言ってしまったことで、本格的に人間じゃなくなってしまったんだな、と、実感が湧く。

 もちろん、効果は織り込んでいた。勝算はある。きっと反応は返ってくる。これで効果がなかったら、見た目通りに、泣いてしまいそうだ。

 渚は葛藤に耐えながら、四人を、そのルビーのような瞳で見つめ、ただ、じっとその効果の現れを待っていた。




 渚の放った一言は、確かな効果を生んだ。


 一瞬の呆けた顔、そして、それぞれの表情が、それぞれの反応を示し始める。


 オリガは、その険しい顔が、少しだけ緩む。イリサは、子供が玩具を見つけたような顔。グラスはまるで観察でもするように、興味深げに渚を見て、ロッシはふーんと頷いた。

 ある程度は、予想通りの反応だった。


 オリガは、多分、自分のことを無力な小娘とみていたはずだし、イリサは面白い方へと流れていく。グラスは、なんだか『天国』の田辺のような感じがするし、ロッシはやはりといった感じだ。

 たぶん、こんな反応だろうなと、渚は思っていた。

 なにせ、この中には、人間が一人しか(、、、、)いない。


 グラス―――彼が、ただ一人、(髪の色を除いて)明らかな”人間”だ。

 オリガとイリサは、耳の形が違う。それ(、、)はアメリと同じもので、アメリは”人間”ではなかった。

 そして、ロッシは、ぱっと見は人間だが、明らかに爪が鋭すぎる(、、、、)。人間の、というよりも、むしろ昨日襲ってきた、クマっぽい奴のそれに近い。少なくとも、ローフォレよりは鋭いだろう。何よりときどき見える歯が、生肉でも食いちぎれそうなほど尖っているのだ。手ぶらのようだが、素手でも戦いたくはない。

 目の前にいる四人組は、そんな組み合わせなのだ。たぶん、自分がこのこと(、、、、)を説明しても、ある程度の理解は示してもらえる。そう、渚は踏んでいた。そしてそれは当たったらしい。


 やがて、オリガが口を開いた。


「―――そう、だったか」


 バツは悪い。しかし、喉のつかえがとれたような、すっきりした調子だった。

 ロッシが歯を向きだすような笑いを浮かべた。


「やっぱな。なんか匂いが違うとは、思ったんだ」

「しかし、見た目はヒト族だが…? いや、目が違うか?」


 観察するような目を向けながら、グラスが言う。

 イリサが面白そうに言った。


「お嬢さんはなんなの(、、、、)? 私は”リヨス”だけど?」

「―――実は、それが、わからなくて…」


”リヨス”は、多分種族か何かだろうなと考えながら、渚が答えると、あのイリサが、ポカンと、目を丸くした。渚は苦笑を浮かべて言った。


「じつは、二人―――アメリさんとロックフォールさん―――について歩いているのもそれが原因でして、アメリさんの方が、何か知っているようなんです」

「自分がなんの種族か分からないの?」

「お恥ずかしい話ですが…」

「だから『何なんでしょう』、か。ふーん…」


 訳ありかな…? そんなことをつぶやいて、イリスはどこか遠い目になった。


 四人とも、それぞれの形で、納得はしてくれたらしい。いよいよ、場の空気がゆるみ、焚火の周りに、暖かい空気が漏れ始める。渚は小さく息をつく。何だか、やっとまともに息ができた気がした。

 ウソ八百の話だったが、なんとか、ここまでは来た。だが、すぐに次に取り掛からないといけない。


 オリガが、渚の顔を見て、頷いて言った。


「まあ、事情があるのだろう。―――では、お前は、何か出来る(、、、)のか?」


 これ(、、)も問題だ。自分のことを把握しようにも、何ができるか分からない。とりあえず、今のトルメンティアの森で、生き残れることはできるらしい。そうとしか、説明できない。


「分かりません。ただ、どうも足は速いようでして、森の中を走り回っているうちに、ここまで来ていたんです」

「魔法は?」

「いや、それが、なんなのかさえ、分からない有様でして…、これからあの二人に教えてもらうところだったんです」

「なるほど―――だから、詫びも兼ねてこの内容…、か」


 またも、嘘。

 言っていてイヤになってくるが、生きて帰るにはそうするしかない。また森の中を走り回って帰るなんて、冷静になってしまった今では、さすがに無理だ。あの牙の大合唱は、さすがに怖い。


 ナギサの返答を聞き、オリガは考え込んでいるようだった。ちらりと、その視線が黒い板に落ちる。そして、他の三人を振り返った。


「この任務(クエスト)、受けるか?」


 オリガの言葉を受け、三人がうなずいた。 


「いいんじゃない? どっちにしても金額は魅力的だし」

「良いだろう。受けて、損はあるまい。こんな子を放っておくわけにも、いかないしな」

「いいぜー」


 三人の答えを聞き、オリガはうなずいた。


「―――では、私たちは、『ナギサ・ヴィクタール・ビュレ・バルトリンクの捜索依頼』、受けることにしよう」


 そして、渚に向き直ったオリガは、その目を見て、宣言するように、言った。


任務クエスト、確かに請け負った。”ナギサ”、お前を、無事に街まで帰してやる」


 オリガの言葉は、力強く、頼もしく、渚の耳に届いた。

 渚は、口を開いた。


「…頼まれて、いただけるんですか?」


 渚は、震え声で言った。

 オリガはその言葉に、力強くうなずく。

 その様子を、イリスは楽しそうに、グラスは思慮深く、ロッシは気楽に、ながめている。今更ながら、じんわりと、焚火の温かさが、体に染みた。


「―――ありがとうございます…」


 渚は、くたっと、その場にへたり込んだ。

 そんな渚に、オリガが苦笑を浮かべる。 


「…泣くのは、森を出てからにしろ」

「…泣いてません」


 ―――トルメンティアの森、その『光の泉』で、渚は、やっと、生きた心地というものを味わっていた。多少、涙腺が緩くなったのも、仕方ない。オリガが、やっと近づいてきて、ぽんと、その華奢になってしまった肩をたたいた。


「”オリガ・ディアマンテ”だ。たしかにナギサの無事は請け負ったが、帰りは自分の足で歩いてもらうからな?」

「…分かっています。とにかく森を出られるだけで、十分です」


 オリガの手が差しだされる。渚は握り返した。


「帰りは、よろしくな?」

「はい、こちらこそ。よろしくお願いします」


 そう言って、二人は笑いあった。イリサが声を上げた。


「あー! オリガ、ずるいー。ナギサちゃん、”イリサス・ファン・アークイル”よ。よろしくね」


 イリサが、元気よく自己紹介する。


「”グラース・ルーカン”。縮めてグラスだ。よろしく」

「”ロッシ・ラ・パーチェ”。よろしくな。ナギサお譲ちゃん?」


 二人につられ、残りの二人の、名前が聞こえる。

 渚は、笑みを浮かべ、それに答えた。


「”ナギサ”です。みなさん、どうぞ、よろしくお願いします」


 そう言って、四人に深々と頭を下げた。

 何が何だか、分からない世界。数字のはずだった、今は現実となってしまった世界。自分が何になったのかも分からない。

 だが、ここで、自分は生き抜いていかなくてはならない。そのためには、何が何でも、やれることはやってやる。

 そんな決意とともに、”渚”改め”ナギサ”は、力強く、自分の名前を、四人に、この世界の住人に向かって、言い放つ。どちらにしろ、たぶん、間違ってはいないはずだ。

 オリガが、それに応え、うなずいた。


「よし! では、さっそく、帰り支度をしよう。まあ、まずは食事からだな。ああ、グラス、ギルドへの連絡を頼めるか?」

「分かった。だが、この()への訓練(、、)や、勉強(、、)はどうするんだ?」

「報酬のこともあるし、持ち回りでやりましょうよ。服だってぼろぼろだもの。クレスヴィルの服屋にも連れて行ってあげたいしさぁ」


 突然、また妙な言葉が聞こえた。


「ちょっと、待ってください! どういうことですか?」


 ナギサはあわてて言った。オリガが、笑みを浮かべながらそれに応えた。


「ロックフォール、彼に感謝しろよ? 旅で生き残れるように、魔法と最低限の知識も教えるようにという依頼だ。彼らは動けないだろうからな。その点は私たちも一緒だが、あの二人よりは手が空いている」

「はい?」


 ナギサは理解できなかった。二人が動けない? この四人にいろいろと教わる?


「―――あの、なんでそんなことに?」

「それも知らんのか? あー、いや…」


 オリガが呆れたように言った。しかし、すぐに真面目な調子で続ける。


「”ギルド”に所属しているものは、今、招集がかかっている。『クレスヴィルの街にいるハンターは、すべてトルメンティアの森の問題に対処するように』とな。特に、あの二人は名が知られている。だから、この森の問題が片付くまで動けないんだ」

「えっ!?」

「そして、依頼の内容はこう(、、)だ。『ナギサ・ヴィクタール・ビュレ・バルトリンクの捜索。そして、旅の基礎知識、魔法、自衛手段の教授』。妙な依頼だが、しっかりと遂行させてもらう。安心していいぞ?」


 力強い笑顔を向けてくるオリガ。だが、ナギサは、開いた口がふさがらなかった。なんだそのミックス依頼は、とか、これで悪い奴らに目をつけられていたら、どうするんだ、とか、いろいろと疑問は浮かぶ。だが、もっと厄介な事情が持ち上がっていた。

 二人が動けないということは、会えるかどうかわからないということだ。少なくともこの四人が納得してしまうほどには、会えないということだ。アメリ君に会えない。つまり、


 ―――私は、自分が何か(、、)、ちゃんと聞けるのか?


 言い知れぬ不安。ナギサが、そんなことを感じているなど、四人はまるで考えていない。それぞれが、何か袋のようなものを取り出して、食事の支度を始めている。

 それを呆けたように見ているナギサに、ロッシが、くしに刺さった肉を持ち上げて、言った。


「旅の基本は、まず腹ごしらえからだ。お嬢ちゃん、食うか?」


 ローフォレの肉、それは筋張っていて、なるほど、確かに、おいしそうには見えない。やっぱり空腹は感じない。しかし、言われるがまま、ナギサは呆然として、それを受け取る。何も考えられないまま、それを口へと運んだ。固い肉に歯を立てる。


 ―――ローフォレの肉はまずい。


 聞きたいことも聞けないままに、それは、この世界に来て、ナギサの新しい知識、第一号となった。


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