開戦
カウルがアルファに来てからもうすぐ1カ月になろうとしていた。
マッドハッターが最後に残した言葉が本当ならそろそろ暗黒大陸の魔物達の総攻撃が始まるはずだ。
この事はアルファの中でも一部の人間しか知らない事だ。
こんな事知ってもパニックになるだけだろう。どうせ何処にも逃げ場は無いんだから総攻撃が始まる瞬間まで不安にさせることはない。
それが冒険者ギルドの上層部の最終決定だった。
この約1カ月、カウルは防御壁や地下の避難部屋を造るのに殆どの時間を使っていた。
アルファにいる冒険者達を訓練する事も考えたが、それは今更だろう。どんなに頑張ったところで1カ月じゃどうにもできない。
それよりも住民達を魔物達に見つからないようにした方が生存確率は高いと考えたのだ。
戦うのはカウルと四聖獣、あとは四聖獣の配下の魔物位で良い。
隠れる事に徹すれば全員は無理でも誰か生き残る事はできるだろう。
「こんなもんだな。何とか間に合った。」
カウルはそう言って避難所の扉を閉める。
避難所は何重にも強化魔法が掛けられた建物になっている。
因みにこの避難所は囮で、本物の避難所は地下にある洞穴になっている。
本命の方は隠蔽魔法を何重にも掛けてあるので見つからないはずだ。見つかっても逃げられるように転移用の魔法陣も完備している。
……まぁ、転移用の魔法陣は追跡させない為に移動先をランダムにしてあるので、運が悪いと転移した場所のせいで死ぬとかもありそうだが、そこは仕方がないだろう。
アルファにいる冒険者達にも暗黒大陸の魔物が来たら隠れてもらうように言ってあるが、多分無視して戦おうとする冒険者がほとんどだろう。
そうなったら助ける事は出来ない。できるかもしれないが、余裕がない。
避難の仕方は事前に教えてあるから問題ないだろう。
カウルは最近ずっとゲームの時と同じ最強装備に身を包んでいた。
魔物達がいつ来ても大丈夫なように。
・・・
ズズン……
避難所が完成してから2日後の朝、大きな揺れがアルファを襲った。
カウルが窓から顔を出すと巨人が迫ってきているのが見えた。
「デットオーガって……いきなりボスクラスのお出ましかよ。」
巨人の身長は大体25mくらいだろうか?
アルファのどの建物より高い。アレに攻撃されたら防御壁なんか一溜まりもないだろう。
魔物の名前はデットオーガという。
暗黒大陸で一番最初に戦うであろうボスの魔物だ。
攻撃力と防御力が高く、代わりに俊敏が低い。暗黒大陸の魔物の中では比較的戦いやすい相手だ。
しかし、戦いやすいといってもそれはゲームだった時の事、しかもカウルは4人でパーティを組んで戦った事しか無い。
1人で戦った場合、どれだけ苦戦を強いられるんだろうか?
カウルは軽く舌打ちをすると宿を飛び出した。
今のアルファにデットオーガと戦えるのはカウルしかいない。
走りながら補助魔法で自分を強化する。
カウルの走るスピードはどんどん上がっていき、すぐにアルファの外に出る。
そのままデットオーガの足もとまで辿り着き、そのまま足の腱を長剣で切り裂いた。
「ガァアアァアァッツ!?」
切り裂いたデットオーガの足の腱から血が大量に噴き出した。
同時にデットオーガの痛みによる叫び声で地面が揺れる。
「もういっちょ!」
カウルはもう片方の足の腱を斬ってデットオーガの動きを止める。
瞬間、グランオーガの右腕がカウルを襲う。
「―――っつ!?」
直撃は何とか避けたものの、カウルは掠った衝撃で地面に叩きつけられる。
デットオーガの拳がダメージで動けないカウルを襲う。
ガガッガガガッガガガガガガガガガガガガガガガ――――
一発一発が地面を抉る拳がカウルを襲う。
「グァアアァアアッツ!!」
デットオーガが勝利の雄叫びを上げる。
「うるさいなぁ。」
デットオーガの首から突然血が吹き出る。
「勝ち誇ってんじゃねぇよっつ!!」
デットオーガの鼻の上には何時の間にかカウルがいた。
体中から血を噴き出しているが五体満足だ。
カウルはデットオーガの目を抉りデットオーガの顔から離れる。
デットオーガはカウルが離れると同時に地面に倒れて動かなくなった。




