アーサー
カウルはグレンとソモンと別れてギルドに戻ってきていた。
ギルドにはもう他の冒険者を紹介してもらおうとは思っていない。そこら辺はグレン達に任せることにした。
ベータ周辺だけならギルドよりもグレン達の方が顔が広いと思ったからだ。
ギルドに来たのは別の理由になる。
それは別の街の情報を収集するため。正確に言えばガンマとシータの情報が欲しかった。それがどんなに小さな情報だとしても今のカウルには喉から手が出るほど欲しいものだ。
ギルドに入るとそこには重い顔をしたオヤジさんと少数の冒険者の姿があった。
オヤジさんはカウルが入ってきたのを見ると難しそうな顔をしたまま手を振ってくれた。
「何かあったんですか?」
「よう、首尾はどうだ?こっちは最悪だ。シータが落とされた。」
親父さんの言葉にカウルは衝撃を受けた。
シータは雪国で雪山の奥深くにある街だ。雪女と狼男の共存する集落で、天空都市オメガと暗黒大陸を除けば最高ランクの魔物がでてくる場所のはず。
そこに住んでいる住民も、そこで活動する冒険者もかなりの強さがあるはずなのに……
問題はもう1つある。誰が、どの勢力がシータを落としたか、だ。
この世界はゲームと一緒で敵対国というものが存在しない。周りをグルリと暗黒大陸に囲まれていて、封印結界によって守られているって設定だったはずだ。
「誰に落とされたんですか!?」
「誰って暗黒大陸の魔物にだよ。しかも相手は一匹だったそうだ。」
「たった一匹に?いや、魔物によっては確かにありえるけど。」
オヤジさんは書類整理があるからと席を外したため、報告に来ていた冒険者に話を聞くことにした。
どうやら相手は黒龍を強靭にした感じのやつらしい。人語を操りその攻撃力は尻尾のひと振りで建物を粉砕するほどのようだ。
しかも金ランクの冒険者の全力の攻撃を受けても傷一つつかない防御力を持つとのこと。
「バケモンですね。」
「あぁ、しかも人型に変身しやがった。ありゃあ倒せないわ。勝てる気がしない。」
冒険者の話から想像するにそれはジャバウォックだろう。それだったらシータが落とされるのもわかる。ジャバウォックは暗黒大陸のボスの一体だ。レベルは230で攻撃力だけならカウルのステータスを軽く上回る。
「しかも封印結界が一瞬消えて、そこから出てきやがった。今は結界も修復されているけど、これからはどこからでも暗黒大陸の魔物が出てくる可能性があるってことだ。」
冒険者は暗い顔を隠さずに言った。今の話が本当なら状況は最悪だ。
この世界の人間たちには暗黒大陸の魔物の相手は荷が重すぎる。今だってジャバウォックだけでもすべての都市を壊滅させることが可能だろう。
それをしないのは相手が遊んでいるからだ。
カウルが戦えば何とかジャバウォックを倒すこともできると思うが、倒した所で暗黒大陸の魔物達を本気にさせるだけだろう。
カウルはある程度の冒険者を集めたあと、天空都市オメガに向かい、冒険者達を纏めて強化するつもりでいた。封印結界を管理している四獣に話をつけて安全に修行を付けてもらうつもりでいたのだ。
時間が無いとカウルは焦っていた。まだブラスターの連中とパッソー夫人位しか実力のある人を見つけていない。
予定よりも魔物の進行が速い。有望な冒険者をある程度集めたら早急にオメガに向かう必要があるのかもしれない。
ギルドを暗い雰囲気が支配していた時、重武装の騎士みたいな男がギルドに入ってきた。
190cmを超える長身とプロレスラーみたいな体つき、そして身につけた銀色の鎧は風格を感じさせるには充分だと言えるだろう。
「我は十字の騎士団が総団長、アーサー!ここにカウルというは人物はいるか?」
アーサーと名乗った男が兜を脱ぐと、そこには金髪のショートカットが眩しい美男子の姿があった。勝気そうなツリ目が女性人気高そうでカウルは何となく腹が立った。
カウルもこの世界では美男子の部類に入るはずだがアーサーは別格だ。正統派美男子って感じがする。
「俺がカウルですけど?」
「そうか、お前が?思っていたより…まぁ、いい。暗黒大陸の封印のことは知っているか?」
どうやらアーサーは暗黒大陸の封印のことを知っているようだ。
さすが十字の騎士団の総団長といったところか。
(っていうか、思ったより…なんだ?弱そうってか?失礼なやつだなぁ。)
カウルはもうアーサーの言動1つ1つが気に入らなくなっていた。
なんかキザッぽいし、モテそうだし…要するに嫉妬しているのだ。
「我はお前が暗黒大陸と戦う準備をしていると聞いた。そこに我々も加えてくれないか?」
「まず俺の事をお前って呼ぶのをやめろ。」
カウルはアーサーのことが一目見て嫌いになっていた。
だけど十字の騎士団と繋がりができることはかなり嬉しいと言える。
こうしてカウルとアーサーは険悪なまま握手を交わし、同盟は結成された。




