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ラクダ旅

カウル達がラクダ屋にやってくると、そこには大勢の商人や冒険者が列を作っていた。

どうやら皆ベータに行く人達のようだ。


キングスコーピオンが討伐されたのが発表されたのは昨日の昼過ぎだ。

その後に近隣の村に騎士団が伝令に行っていたらしいから、そこに滞在していた商人や冒険者もこっちに来たのだろう。


結果、ラクダ屋の前に行列ができたという訳だ。

この列を見てカウルは急に心配になってきた。全てのラクダが貸し出されてしまうのではないか?と。


このラクダ屋はかなりのラクダを保有しているが、それでもこの数の商人や冒険者が一人一人ラクダを借りて行ったら自分達までラクダが残っている可能性はかなり低い。


せめて荷物を運ぶためのラクダが1頭は欲しい。

なにせ黄金魚をラクダに運んでもらうために専用の容器まで買ったのだ。それを無駄にはしたくなかった。


着々と減っていくラクダの数・・カウルがラクダ屋のカウンターにたどり着いた時にはラクダは見当たらない状態だった。


「いらっしゃいませー。」

「ラクダってまだ借りられる?」


カウルはダメ元で聞いてみる。前に来た時にラクダがいた場所は見事に空になっているから望み薄だが、もしかしたらがある。カウルはまだ希望を捨てていなかった。


「ちょっと高いやつなら1頭だけ残ってるよ。」


店員は少し意味深に言ったが、そんな事は関係ない。取り敢えず大量の荷物を持たなくて済む事にカウルは安堵した。


「いくらですか?」

「金貨で55枚」

「・・・え?」


予想外に高額なレンタル料を請求された。

ラクダ一匹借りるだけでそんなに料金を取るものなんだろうか?

前の世界の金額だと55万円相当なんだが。

それとも生き物を面識がない人間に貸すんだしこれが普通なんだろうか?


サラサ達の方を見ると顔を顰めているのでやっぱり高いんだろうと思うが。


「料金は金貨55枚。最高級のキングラクーダのオスだよ?高いけどキングラクーダは4人くらいなら乗れる巨体だし、パワーもあるよ。」


キングラクーダといえばゲームだったときは上位の召喚獣だったはずだ。

この世界では召喚獣も生き物として生活しているらしい。

・・・イフリートとかバハムートとかもどっかにいるんだろうか?


金華55枚は痛い出費だが払えない額ではないし、4人で分割すれば普通のラクダよりちょっと高いくらいですむ。

なによりそれしか残っていないならしょうがないとしかいえない。


「じゃあそれ借ります。」

「まいど。ラクダは10日過ぎると勝手にこっちに帰るように教育してあるから注意して。1ヶ月過ぎてもラクダが帰ってこなかった場合はギルドに報告してラクダの弁償をしてもらうことになっているから注意してね。」


カウルは店員にギルドカードを見せて、その後契約書にサインをする。

金華を55枚店員に渡し、いよいよラクダとご対面だ。


キングラクーダはラクダ屋の最奥にある大扉を抜けた先にいた。

大きさは少し大きめの自動車といったところだろうか。確かにこの大きさなら背中に4人を乗せて移動もできるだろう。


「速さは最大で普通のラクダの3倍のスピードが出るよ。人語はある程度理解できるけどそこまで賢くはない。餌は10日分渡しておくから適量を毎日2回、朝晩だけで大丈夫。ラクダだけをこっちに返す場合は首にこの餌袋を括りつけてあげて。自分で食べるように教育してるから、それでなんとかなる。」


そのあとカウル達は店員に餌のやり方とラクダに対してやってはいけない注意事項なんかを簡単に説明された後、キングラクーダの手綱を渡された。


カウル達はキングラクーダにそれぞれの荷物を乗せてグラウフルを出ることにした。

ラクダを利用してベータに向かった場合、遅くて4日後、早くて2日後にはベータに着くらしい。

キングラクーダの背中にはオプションとして木で作られた人が乗れるスペースが付けられている。

4人と荷物が楽に乗れるスペースだ。当初の予定では黄金魚はラクダの両脇に括りつけるつもりだったがこれならそんなことをしなくても大丈夫そうだ。

前にカウルとライラ、後ろにサラサとミンミが座り、キングラクーダの手綱を握るのは交代で行うことになった。とはいってもキングラクーダはベータまでの道を覚えていて、簡単な指示をすれば後は勝手にベータに向かってくれるらしいが。


因みに今、サラサとライナ、ミンミはカウルが持ってきた黄金魚に夢中だ。

オアシスで泳いでいるのは見たことがあるらしいが、こんなに間近で見たことはなかったらしい。

グラウフルを出てから3人でずっと黄金魚を眺めてキャッキャと騒いでいる。

女性が3人寄れば姦しいというがこれは納得だ、とカウルは思った。


「カウルさん、これって美味しいんですか?」


ミンミが意外にも食い意地が張った質問をしてくる。

ミンミはおっとりとしてそんなに食欲が強いイメージがなかったのでこれは意外だ。やはりこの世界での最大の娯楽は食事なのだろうか?


「いや、臭みが強いからそこまで美味しくないよ。ちゃんとした調理をすれば美味しいけど、手間が掛かるし技術が必要だから黄金魚は観賞用の魚として扱うのが一般的な魚なんだ。」

「そうなのか。まぁ、これだけ美しいものを喰らうのは確かに勿体ないしな。」


カウルが黄金魚について説明するとライナが落胆したようにため息を吐いたあと、納得したように頷いた。

しかしその後も黄金魚の調理法をしつこく聞いてくるところを見ると食べるのを諦めてはいないようだ。


「そんなに気になるなら今日は黄金魚のいるオアシスで休むことにしようか。順調に進んでるから日が暮れるちょい前には着けるだろうし、その時に一回黄金魚を自分で捕まえて食べてみればいい。」


カウルがそう言うとサラサ達もそれに同意したので、今日はオアシスでキャンプをすることになった。

キングラクーダは思ったより速い。これなら遅くても明後日にはベータにたどり着けるだろう。





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