表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/60

守護獅子と黄金魚

ゲームの時はダメージを受けたり魔物を攻撃することで出血したり、血を浴びたりしたとしても瞬時になかったことになっていた。

しかし今はゲームでなく現実だ。

防具に付いた返り血は消えないし、勿論倒した魔物の死骸も消滅したりなんかしない。


それはもう分かっていたことだ。

これまでも魔物との戦闘で嫌というほど血を浴びている。

だがこんなに大勢を相手にしたことはなかった。しかも室内で。


床は血の海、辺りには肉塊の山――凄い血生臭さにカウルは顔を顰める。

戦闘中は頭に血が上っているからか、そんなに気にならなかったが戦闘が終わって冷静になれば場の凄惨さに吐き気すら覚えた。


急いで奥の守護獣の間に向かう。

奥には頑丈そうな大扉がある。まさにボス部屋だ。

カウルが扉を開けて中に入るとそこには祭壇がある。

祭壇の上には係長って感じの顔と獅子の体をもった魔物【スフィンクス】がいた。


顔のせいで中間管理職臭が漂っているが、それ以外は守護獅子の迷宮の外見そのものだ。


「ほう、冒険者とは珍しい。その剣で我を殺そうというのか?」


中間管理職っぽいスフィンクスがカウルを見下ろしながら語りかけてくる。

喋る魔物は珍しい・・というかこれが初めてだ。


カウルは意思疎通ができるだけでスフィンクスを殺すのに躊躇いが出てきていた。

考えてみれば今回この魔物は誰にも迷惑をかけてない。

どちらかといえば、スフィンクスのいる迷宮に不法侵入して殺戮ショーを勝手に開始したこっちが悪役だ。


「どうしたというのだ?いきなり固まって?」


そもそもカウルにとって守護星の腕輪はそこまで欲しいものじゃない。

あってもいいかな、程度のアイテムだ。

そう考えていると急にカウルはやる気がなくなってくるのを感じた。


「あ、なんかすいませんでした。帰ります。」

「え、いきなりなんなのだお前は?我を倒しにきた・・そして秘宝を奪いに来たのではないのか?」

「あ、はい。そうなんですけど、なんかやる気なくなっちゃって。帰ります。」


カウルはスフィンクスに一回お辞儀をすると部屋を後にした。

スフィンクスにしてもカウルが自分より数段上の実力があるのを感じていたので無理に戦おうとは思わない。

カウルが出ていくのをただ眺めていた。


・・・


カウルは守護獅子の迷宮を出てオアシスに向かった。

勿論キングスコーピオンの尾を取りに行くためだ。

今日はもう遅いのでオアシスでもう一泊してからグラウフルに帰ることにする。

オアシスについたらそのままキャンプの準備だ。・・といってもテントなんか持ってきてはいないから薪を集めるだけなのでキャンプの準備はすぐに終わる。

薪を集め終わったらカウルは一旦薪を置いて湖に向かった。


このオアシスの湖には【黄金魚】という魚が生息している。

ゲームだったときはクエストアイテムでそこまで重要なアイテムではなかったが、今ならきっと価値があるはずだ。なんせ黄金の魚だし。

確か黄金魚は特別な捕獲方法でしか取れなかったはず。カウルの予想が確かならば黄金魚を捕獲できる人間は限られている。

そしてそれができる人間はわざわざこんな所に来てまで黄金魚を欲しがったりはしない。そんなことをしなくても充分にやっていけるからだ。

湖を覗いてみると、カウルが予想していた通り黄金魚はゲームだったときよりも多く湖を泳いでいるのが見える。


黄金魚は強い防御力と耐性を持ち、動きが素早い。しかも警戒心が強いため釣竿には食いつかない。防御力と耐性が強いため並の魔法は効かないし、だからといって強い魔法では黄金魚に傷が付く。麻痺薬や毒薬も同じ理由でNGだ。


ではどうやって捕獲するか?

色々なやり方はあるが今回は足技系スキル【震脚】で起きる衝撃波での気絶を狙う。

これは【震脚】の熟練度がMAXでなければ失敗してしまうが、MAXなら必ず成功する。しかも黄金魚は気絶しただけから生きたまま捕獲ができる。

衝撃系の魔法でも捕獲はできるがノーダメージでの捕獲はこのやり方しか発見されていなかったはずだ。

カウルはさっそく足に力を溜めて【震脚】の動作に入る。

気を練り上げながら足を大きく上げて、そのまま大地に足を叩きつけて気を解放する。


―――ドンッ!


大きな音の後に続いて大地に亀裂が入り衝撃波が発生する。

衝撃波はオアシスの木々を揺らし、オアシスに住む小動物たちが突然の事に驚き蜘蛛の子を散らすように逃げていく。


「おぉ、こりゃ大量。」


【震脚】で起こった衝撃波が消えたのを確認してカウルが顔を上げると湖には黄金魚がプカプカと水面に浮かんでいた。

因みに黄金魚は少し小さめの鯉ってかんじだ。

残念ながら今は良い入れ物がないので布と落ちている木の枝を使って即席の生簀を作りそこに気絶している黄金魚を入れていく。

小さいが水桶を持ってきているので2匹位ならグラウフルに持っていけるだろう。

グラウフルに向かう前に水桶に移して走ればギリギリ生き残るかもしれない。

グラウフルからオアシスに着くまで走っても半日かかっているので難しいかもしれないが、黄金魚は普通の魚よりも生命力が強い。防護力だけなら下手したら普通の街の住人よりも強いだろう。その黄金魚ならば何とかなるかもしれない。


因みに黄金魚はそこまで美味しくはないらしい。

ゲームのイベントでも黄金魚を届けたあと貴族にガッカリされるシーンがある。

まぁ、ちゃんとした調理の手順を踏めば美味しいらしいが、あくまで黄金魚は観賞用の魚なのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ