グラウフル
「ここがグラウフルかぁ。」
馬車の護衛がカウル一人になったあとは特に魔物の襲撃もなく順調に折り返し地点であるグラウフルに到着することができた。
グラウフルに着くまでの間に所々焦げた地面があったので、もしかしたらあの麒麟がカウルたちを襲う前にここら辺の魔物を倒していったのかもしれない。
グラウフルは中心に湖があり、湖からベータ側が完全な砂漠、アルファ側には少し緑が残っている。
住宅地はアルファ側にあり、露店や商店なんかはベータ側に集まっている。
売っている物は砂漠地帯用の装備や服、後は保存食といった物しかない。
流石に果物の種類は少ないが、代わりに様々な種類の干し肉が並んでいる。
カウルはガラフトとブラハムを病院まで連れて行って入院の手続きをした。
因みに2人の依頼料は入院費で全て消えることになっている。
まぁ入院費だけでも出してもらえただけ運が良かっただろう。
依頼は失敗したといってもいいものなのだから、依頼料は貰えなくても文句は言えない。
カウルは2人に簡単に別れの挨拶をして病院を出る。
とりあえずグラウフルの感想は暑いの一言だろう。あと砂が靴に入ってきてウザイ。
歩きにくい。水にまで値段が付いているのが納得できない。
カウルは少しイライラしていた。ゲームの時はクーラーが効いた部屋で画面越しに暑そうな砂漠を見ていただけだったので良かったが、今はその砂漠が目の前に広がっている。
しかもグラウフルはまだ砂漠の入口・・多分ベータはもっと暑くて水は高額だろう。
「ベータは行くの止めようかな・・」
カウルは悩むように呟いた。少しだが、本当にそう思い始めている。
しかしここまで来たんだし、せっかくだからと言う事でカウルはラクダを見に行く事にした。
前の世界では日本から・・というか旅行なんて学生時代の修学旅行以外していない。
砂漠は暑くて嫌な所も沢山あるが、いいところもきっと沢山あるだろう。
カウルは自分にそう言い聞かせてラクダをレンタルしてくれる店を探した。
・・・
ラクダをレンタルしている店は簡単に見つかった。
店が大きく、看板に【ラクダレンタル】と書いてあるので嫌でも目に入る。
ラクダレンタルはラクダを飼育する場所を必要とするためか他の店の3倍位の大きさだった。
店は大きいのだが、そのほとんどがラクダの飼育スペースのようで店に入ると思ったより狭い。
カウンターには赤髪をポニーテールにした女性がいかにもダルそうに座っていた。
女性はカウンターに顎を付けてグッタリしている。
「ラクダを借りたいんだけど・・」
カウルはラクダを借りるためダルそうにしている女性に声をかける。
女性は顔をあげてチラリとカウルを見るがすぐに顔をしかめた。
「あんた、ベータに行く気でしょ。」
「そうだけど、なにか?」
「それじゃダメよ。帰って。」
女性はそう言うと机に顎を付けて出て行けと手を振った。
これにはカウルも納得できない。
金ならそれなりにある。どうしてもと言うのならラクダを買い取ってもいい。
カウルはムキになって女性に詰め寄るが、女性の意見は変わらない。
どういうわけなのか良くわからないがここでラクダを借りることはできそうもないようだ。
グラウフルはここしかラクダを貸し出す店はないようだった。
このままだと徒歩でベータに行かないといけない。
ゲームだったときはアルファからグラウフルまで行くよりもグラウフルからベータまでの方が距離があった。
つまり最低でも馬車で3日はかかるという事だ。
カウルは全力で走ればラクダや馬よりも早く移動できるが、そこまでする気にはなれない。
この暑さの中で数日砂漠を全力疾走とか嫌すぎる。
カウルはとりあえず宿をとってからここら辺の情報を集めることにした。
ラクダレンタルの正面にある宿屋【砂蠍亭】に入り空き部屋がないか尋ねると、ちょうど部屋が空いたらしい。
宿代を払いつつカウルは宿の店主にラクダレンタルについてさり気なく訪ねてみた。
「ん?あぁ、今はベータまでの道にキングスコーピオンが出ているからなぁ。金ランクの冒険者をガンマとシータに要請してるから、討伐が終わるまでラクダは借りれないと思うよ。」
店主がいうキングスコーピオンはゲームだった時はイベントで出てきたレベル130の魔物だったはずだ。
夏休みの長期イベントで限定的に出現して、倒すと一定の確率で【蠍の尻尾】を落とす魔物だった。
その蠍の尻尾を10個集めると毒系のアイテムをランダムで引けるくじ引きが1回できるというイベントだ。
「このイベントで【鬼殺しの毒刀】を当てた時は嬉しかったなぁ。しばらくメイン武器にしてたっけ。」
カウルは懐かしいなぁ、と空を見上げた。
宿の店主の話ではキングスコーピオンの目撃情報は1体のみ。
「めんどくさいけど狩りにいくかなぁ。」
カウルはゆっくりと街の外に向かって歩き出した。




