下見
バイトが2週間ぶりにお休みなので更新しました。
変な文章があったら教えてくれるとこれ幸い。
今の時間は日を跨いでの深夜2時、酒場も閉まりサラサたちと別れた後、カウルは造りかけの防御壁を見に来ていた。
アルファに元からある魔物避けの壁から数メートル離れた場所に防御壁は建設中だ。
壁の材料にはカウルの強化魔法が掛かっており、完成すればレベル180程の魔物でも30分は耐えられるように作っている。
そんな防御壁も、もう少しで暗黒大陸側だけは完成する。
そこで防御壁の建設は一時終了になる。理由は簡単、カウルが旅に出るからだ。
完成にはまだ数ヶ月掛かるだろうが、カウルの仕事は材料に強化魔法を掛ける事だけ。
それはあと1ヶ月も掛からない。カウルはそれが終わったらすぐにベータに向かおうと思っていた。
暗黒大陸から来るだろう魔物のことは心配だが、準備をしていないわけじゃない。
武器や防具にも強化魔法をかけて装備の底上げをしているし、魔物をやり過ごす為の地下室なんかも作っておいた。
これで住人が死ぬ確率はグンと下がるだろう。
心配は心配だがアルファに留まり続けるわけには行かない。
暗黒大陸の魔物から住民を守る為の仲間を集めないといけないし、なによりカウルが他の町を観光したい気持ちで一杯だからだ。もうワクワクを抑えきれない。
・・・
朝になりカウルは穴熊亭に戻って朝飯を食べている。
今日は朝からステーキ定食だ。
柔らかくて脂がのっている肉をナイフで切り分けて食べる。
この世界に来る前は少食で朝からステーキなんか考えられなかったが、この世界では良く動くからなのか、朝からのステーキも平気になっている。むしろ好物になっていた。
食事を終えると今日は防御壁の方には向かわずにエルフの森に向かう事にした。
強化魔法を掛けた防御壁用の資材は余裕を持って作っているので今日は行かなくても大丈夫だろう。
この世界に来て最初にいた場所であるエルフの森・・そこは最初とは景色が一変していた。
度重なる暗黒大陸からの魔物の進行により森は踏み倒され、湖は汚されている。
美しいとまではいかないものの、緑豊かで生命力に満ちた森は死の大地に様変わりしていた。
カウルはエルフの森を歩き、森の端・・暗黒大陸との境界線に来ていた。
大きな看板が前にあり、そこには立ち入り禁止と書かれている。
ゲームだった頃はここに見えない封印がされていて、空中都市オメガで5つの試練を突破しないと進めない仕様になっていた。
カウルはその境界線に手を伸ばすが、そこに見えない封印はない。
試練を突破しない限り、壁の様な感触がそこにあるはずなのに、だ。
封印の向こうにも普通に通ることができた。
「・・やっぱりか。」
ここの封印は魔物を暗黒大陸に留めておく為のものでもあったはずだ。
この封印が消えていた為に暗黒大陸の魔物がアルファに攻めてきているんだろう。
封印が破られたのか?それともそもそも封印なんか無かったのか?
それは良くわからないがゲームの時は封印を破ることはできなかった。
封印は無かったと考えるのが妥当だろう。封印を破るだけの能力をもった魔物なんて考えたくない。
瞬間、暗黒大陸の奥の方から多くの視線を感じた。
視線の方を見てみると奥の方に高レベルの魔物が集団でこちらを見ているのがみえる。
こちらに来るという感じはなく、ただこちらを見ているだけ。
レベル200相当の魔物が数十体、こちらを睨んでいる。
あれが一斉に襲ってきたらカウルでもギリギリの戦いを強いられることになるだろう。
幸いにも装備は万端だ。逃げきる事はできるだろうし、戦っても負けはしないと思う(死にかけはするだろうが)
そんなことを考えていると魔物は暗黒大陸の更に奥へと消えていった。
カウルは魔物の行動に嫌な不安を覚えるが、一人で暗黒大陸に入るつもりはないのでそのまま帰ることにした。
今日の目的である暗黒大陸の封印があるかどうかの確認はできた。
封印が無くなっていたのは予想していた事だが、実際に見ると結構テンションが下がる。
「とりあえずギルドにはみんながエルフの森に近づくのを禁止してもらうしかないかなぁ。」
何も知らない冒険者がうっかり暗黒大陸に入っちゃったら確実に死ぬだろう。
そうでなくてもエルフの森に来ていたら暗黒大陸の魔物と遭遇して殺される可能性もある。
アルファくらい距離が離れていれば魔物を発見して討伐もできるが、エルフの森にいたんじゃ守る事もできない。
カウルは色々面倒くさくなってきたなぁ、とため息を吐きながらアルファに戻っていった。
・・・
カウルがアルファに戻っていった後、朽ち果てそうな木々の後ろから3人の少女が倒れるようにして出てきた。
彼女等は3人が3人とも死人のように青ざめていて、ガタガタと震えている。
彼女達はエルフの森にある【暗黒大陸を封印している結界】を調査しにきた冒険者上がりの騎士団員だ。彼女達は騎士団の身分を隠し、冒険者として情報を集めにアルファにきていた。
彼女達はさっきの事を思い出していた。
多数の殺気と睨み合う男のことを。確かカウルとかいう冒険者のはずだ。
「ありえない・・あれを受けて平然としていられる人間なんて最早人間とは思えないわ!」
3人のうちの一人、サラサが不安を拭うように叫ぶ。
ライラとミンミも同意見のようだ。少し離れたところから見ていた自分達ですら意識を失いかけたのに、彼は平然としていた。
それは実力の違いを見せつけられているようで、彼女達はそれを認めたくなかった。
「とりあえず・・団長に報告しましょう。封印がなくなっていたのも問題ですが、カウルという冒険者の事も報告しなければ。」
ミンミがそういうとライラとサラサも頷き、遠くに待機させていた馬に乗って消えていった。




