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それぞれの…

お久しぶりです。

またよろしくお願い致します。

では本編へ。

それから数時間の時が経ち、太陽が3時を指し示す頃、

岩に寄りかかり眠りにつく4人の内サキが目を覚まし静かに立ち上がった。


そして、懐から手の平サイズ程の石を2個取り出しじっと見つめる。


「そいつは何だ?」と岩に寄りかかりながらじっと見据えるマカネス。


「起きてたんですね」とサキ。


「そりゃあ、まあな。こんなご時世だ、嫌でも周囲の気配を体が感じる様になっちまった。

それより、そいつは?」


「・・・これは宝玉の欠片ですよ」


「宝玉の欠片って・・・さっき言ったやつか?」


サキは「ええ」と返事をしながら岩陰から少し離れると荒野全体を見渡した。


その様子を見てマカネスも又、

「ちょっと待てって。勝手に動き回るな」と言いながらその後を追いかけていく。


「何する気だ?」


「欠片を地面に埋めるだけです」


「埋めてどうなる?っていうか・・・キレイな石だな。ちょっと見てもいいか?」


「・・・はい」


マカネスは意外にもあっさり渡され拍子抜けするも、

自分の手の平に転がる見たこともない石に目を奪われた。


「これが宝玉の欠片・・・。どことなく夢魔石に似てる様な・・・」


「夢魔石?それは何ですか?」


マカネスはサキに宝玉の欠片を返しながら言葉を続ける。


「その名の通り夢の様な石だ。石を持って強く念じると魔法の様な力を得る事ができる。

もちろん精霊とか無関係にな?」


「精霊なしで魔法を?本当に夢の石ですね」


「小さいけど夢魔石を持ってるぞ?見てみるか?」


腰に吊り下げられた皮袋へ手を伸ばしたマカネスは、

指先程の大きさをした虹色に輝く石をサキの前へと差し出した。


それを見るなりサキは表情を濁らせるが、

マカネスは特に気にした様子もなく言葉を続けていく。


「こんだけ小さくても相当な値打ちがあるんだぞ?半月分位の食料が買える程だ」と自慢げに話すマカネス。

サキはそんなマカネスに興味がないのか、

何故か日陰で眠っているピーナ達を傍目に見ると「これは使わない方が良いと思います」と告げた。


「は?何で?」


「何でと言われると返答しかねますが、ただ、良い結果はうまないかと。

もし、使う時が来るとしたら…あの子達を守る時ですか?」


サキの問いに神妙な表情を浮かばせるマカネスの前へ宝玉の欠片が差し出された。


「これ一つ差し上げます」


「は?何で?あんたのだろ?」


「一つ予備で持っていたものですから。もし、それを使用し何か予期せぬ異常事態が起きたら、

ピーナさんに宝玉の欠片を持たせ強く念じる様にさせてください」


「話が読めないけど・・・?」


「私の独り言です。気にせずこれを持っていて下さい」


サキは特に気にする様子も無くマカネスの胸元へ宝玉の欠片を押し当てると、

再度宝玉の欠片を地中に埋める為か周囲を見回し歩き始める。


その背を見つめながら、何の為に宝玉の欠片を渡してきたのか?

そして、夢魔石を知っている様な口ぶりにマカネスは困惑するばかりだった。


それから数時間後の陽が地平線へと隠れ始めた頃、

サキの両腕を縛ったマカネス達一行はラマリア荒原を南下しはじめた。


「これで仕事は終わりだったよね?」


「ん?ああ。後は次来る巡回船で元の世界へ戻れば、金持ちな生活が俺達を待ってるぜ?

ピエタを医者に見せる事もできるしな」


マカネスの言葉にピーナは「うん。ピエタもゆっくり休めばきっと・・・」と呟きながら、

手を繋ぎ隣で歩くピエタを見ながら少しだけ笑った。


そんなマカネスへ「あの、巡回船って何ですか?」とサキは問いた。


「ん?さっき言ったろ。軍勢が集落を取り囲むって。

その戦いに参加してくる兵士共が船に乗って送られて来るのさ。それが巡回船だ。

今はまだこの大陸へ2カ国しか攻め入ってないが、今後はもっと多くの国がこの大陸へ乗り込んで来るだろうよ」


「そうですか…」と淡々と返事はしたものの、

マカネスにはサキの表情がわずかだが暗く影を落とした様に見えた。


「まあ、乗り込んでくる奴らの目的は魔術師の捕縛か殺しのどちらかだし。

明白な抵抗さえしなければ魔術師以外は大丈夫だと思うけどな。

後は宝玉くらいか・・・」


顎に手を当て考え込むマカネスへピーナは呆れた表情で声をかけた。


「マカ兄はほんっと・・・この人を人質として見ないのね・・・。

容姿に騙されて寝首かかれるのが落ちよ?何せ魔術士と一緒にいた人なんだからね。そこ分かってる?」


「まあ、美人に寝首かかれるのは悪くないが、

ただ・・・俺にはこの人が悪人に見えねえんだよな・・・」


「だってさ・・・。サキって言ったっけ?

魔術師の事は諦めたら?そうすればマカ兄がきっと何とかするかもよ?」


「お心遣いは感謝いたします。

ですが、私は水の里と水巫女様と共に生きます。それ以外の考えは持ち合わせてはおりません」


そう言い切るサキを観察する様に見つめるピーナ。


「だったら間違いなくあんたは死ぬわね。世界は魔術士を殺すだろうし」


「そうですね。だったら・・・私も死ぬのでしょう」


二人の会話を聞いていたマカネスは「二人して死ぬ死ぬ言うなよ。まだ何とかなるかもしれねえだろ?」と口を挟む。


「マカ兄はすぐそうやって軽はずみな事言って・・・」


「軽はずみで何が悪いんだよ?俺は何時だって軽はずみだぜ!」


「マカ兄はいつもそうやって軽はずみな事ばっか言ってるから、

皆から馬鹿にされるんでしょ!?

私の身にもなってよ!」


「何だと!?」「何よ!?」


言い合う二人を他所にサキは黙々と歩き、

ピエタもまたいつも通り特に気にする様子も無く歩き続ける。


「暑いですか?」


サキの問いにピエタはちらりとフードの傍らから顔を覗かせるも特に返答は無い。


「そもそも何でこういう事になってるわけ?!

あの人を弱らせればそれで済む事だったじゃん!それにまだ今からだってまだ遅くないし!」


「んな事言ったって・・・・」


(俺の殺気を知りながらも俺達の事を気遣って、剣より先に水を差し出してきたんだぞ・・・。

調子狂うに決まってるだろ・・・。と言えればな・・・。

言ったとしても、ピーナの事だし・・・血も涙もない事いうに決まってるし・・・)


言葉を喉に詰まらせ困惑するマカネスへ、

ピーナは嫌そうな表情をしつつも小声で聞いた。


「もしかして・・・本気で好きになったの・・・?」


「え・・・いや・・・そうじゃねえよ!?人質は大事に扱うもんだ・・・うん!そうだ!」


どぎまぎするマカネスを細目でじっと見つめるピーナは、

自分の予感がどんぴしゃだと理解した。


それを踏まえた上でマカネスへ耳を貸せと言わんばかりに手でサインする。


「マカ兄・・・正直に答えて。本気・・・なのね?」


「・・・割と・・・本気かも・・・」


マカネスの答えにピーナは困り果てた表情で顔を落とし深い溜息を一つ。


「な・・・何だよ。その溜息は・・・」


「あのね、マカ兄。やめといた方がいい。

美女で無表情、おまけに魔術士の仲間。

死亡フラグ立てる様なもんじゃん!

一体この短期間の間に何があったっていうの?!」


「何があったって・・・何もねえけど・・・。

ねえけど・・・」


「つまり、一目惚れか・・・」


「そう!それそれ!」


「バカ兄!直感で動くな!バカ!バカ!バカ!バカ!」


こそこそと喚き散らすピーナとマカネスの隣では、

何時の間にかピエタとサキが極自然と手を繋ぎ歩いている。


話に夢中になっているピーナとマカネスは、

そんな事には気付かずこそこそと話を続けていく。


「とにかく、此処から先は情で動いちゃだめだからね!

あ・れ・は魔術士の仲間!分かるでしょ!な・か・ま!ね?

もし助けたりなんかしたら大変な事になるからね?」


「そりゃあ・・・そうだろうな」


「分かってるならいいけど。

それに私達の世界にはモモさんとかカエデさんとかステリエッタさんとかいるじゃない?

そっちの人にしとけば?」


「あれは飲み屋の女だろ!って何でそれを知ってる!?」


マカネスの問いに「さぁ?」と目を背けて応えるピーナ。


「ってあんた!何ピエタの手触ってるのよ!?」


ピーナは怒りながら二人の繋いだ手を強引に引き剥がし、

サキを睨みつけながら自分の方へとピエタを引き寄せた。


「勝手な事しないで!」


ピーナの言葉に無表情のまま「申し訳ない」と頭を少し下げるサキ。


「だから、喧嘩するなって」


「尻軽男は黙っててよ!」


「尻軽男って・・・」とぼやくマカネス。


「とにかくマカ兄はこの仕事が終わったら素直に帰る事!

それと、あんたは人質!それで終わり!もう係わり合いになることはない!

分かった?」


「分かっています」


ピーナの不機嫌オーラが周囲を包みこみ全員が黙々と歩く中、

マカネスだけは困り果てた表情をしていたのだった。



その一方で、水の里の方角に向けラマリア荒原を北上する軍隊があった。

軍隊は荷台が付いた約30台程の車で構築され、

金の鎧を着用した兵士も含め多くの人々が乗っていた。


軍を率いる様先頭を走る車内には、

運転手も含めて白を基調とした服を着用した人が前後部座席に分かれて4名座っている。


前の運転席には20歳程の清潔感溢れる短髪な男性。


その左側には頭を丸めた30台と思しき髭を生やした男性。


後部座席にも30歳後半の髭を生やし長い髪を後ろで縛った男性はいるが、

車内についた窓から入る風を感じながら眠そうに外を見つめている。


その隣には不機嫌そうな表情で窓から外を睨みつけ、

汗を掻いた中年と思しき小太りな男性がいた。


「わしは暑いんだ。カイザリ隊長、その窓を閉めてくれないか?」と怒った口調で述べる中年男性に対し、

「は?無理」ときっぱり断りを入れるカイザリ隊長と呼ばれた男。


「貴様、いい加減にせんと此処から放り出すぞ!?」


カイザリと呼ばれた男は中年男性の言葉を「は?」と鼻で笑い返すと、

「できるものならしてみれば?」と言い返した。


中年男性はその態度に顔を真っ赤にさせ怒りを露にすると、

勢い余る様カイザリの胸倉へと掴みかかった。


「貴様!最近伸し上がった若造の分際で!わしの命令を聞けぬのか!?

ルーフェンス将軍からこの隊の最高責任者を受けているのはこのわしなのだぞ!?」


「近寄るな。息が臭い。吐き気がする」


「貴様!」と怒り出す中年男性へ前の座席から突然声がかかった。


「お止めください、ルーヒツラ隊長。私達は仲間同士なのですよ?」


見れば運転手である若い男性がバックミラー越しから話しかけていた。


その助手席に座る男性はというと困り果て俯いている様子から、

何かしらの理由から止められないでいるのだろう。


「ふざけるな!こいつは命令に背くばかりか、わしをコケにしてやがるんだ!」


興奮しきった様子でカイザリの胸倉を強く揺らすルーヒツラに対し、

あくまで冷静に言葉を返す若い男性。


「とにかくお止めください。お体に障りますよ?」


「お前までわしを馬鹿にする気か!?」と最早暴走状態のルーヒツラに、

カイザリは静かに口を開いた。


「ルーヒツラ隊長、一つ聞いてもいいか?」


「は?何だ!」


「戦場とはどんな所なんだ?」


カイザリからの突然な投げかけに面を食らうも、

ルーヒツラは突然何を思ったか悪い表情を見せると腰から小型の筒を抜いた。


「敵を服従させ、お前の様な粋がった馬鹿が死ぬところだ!」


殺気を放ち小型の筒をカイザリの頭へと押し当てるルーヒツラの様子に見てみぬ振りも出来なくなったのだろう、

助手席に座る男性が後部座席へと振り返り止めに入った。


「ルーヒツラ隊長、銃はお下げ下さい!我々の急務は魔術士討伐!仲間割れではございません!」


「だからどうした?」と血走った表情で応えるルーヒツラ。


そんな殺気溢れる室内に突然「ふふふ・・・ふははは」とカイザリの笑い声が広がった。


「何が可笑しい?いや、もう死ね」とルーヒツラは躊躇無く銃の引き金を引いた。


ドン!と大きな音が鳴り響くと同時に黒煙が銃から漏れ、

車内には異様な雰囲気が立ち込める。


そんな状況でも運転手である若い男性は車を止めなかった。

むしろ何事も無かった。見ていなかったと言わんばかりに前を向き平然とした様子で運転をしている。


「ルーヒツラ隊長!?いくら何でもやりすぎです!・・・え?」


助手席に座っていた男性は、

先ほどと打って変わった様子で驚愕した表情をするルーヒツラに気付いた。

むしろ、ほんのわずかだが強張った表情で震えてさえいる。


何事かとルーヒツラの視線を辿れば、

カイザリの頭に打ち込まれたと思われた銃弾が頭部寸前の所で止まっていた。


助手席の男は再度自分の目を疑うものの、

ルーヒツラの表情が現実だと告げていた。


「な・・・何だこいつは?!」と声を震わせ再度引き金を引くルーヒツラ。


だが、またしても銃弾はカイザリの眼前にて速度を失った。


助手席の男はこの状況をどう理解していいのかわからず、

助けを求める様に隣に座る若い男性へと視線を向けた。


運転手がそれに気付き「大丈夫ですよ。いつもの事です」とだけ告げると、

何食わぬ顔で視線を前方へと戻した。


助手席に座る男性が混乱する中、

カイザリはゆっくりと体を起しながら口を開く。


「すぐ引き金を引く・・・、これだからせっかちな人間は・・・。

まだ俺が正解か不正解か言ってねえだろ?」


宙に浮いていた銃弾は何かの力から開放された様に座席の下へと零れ落ち、

ルーヒツラは銃口をカイザリに向けたまま脅えた表情で後ずさった。


「き・・・きさま、何者だ・・・」


ルーヒツラの手は車外へと出る為か、ドアノブをまさぐっている。


「何者って・・・。まあいい。正解だ。

だが、俺じゃなく・・・お前だった様だけどな」


助手席に座る男性が固唾を飲み見つめる中で、

ルーヒツラの首元をカイザリが素早く握り締めた。


「アガガ」と苦しそうに足掻きながら首絞められるルーヒツラと、

楽しそうにやってのけるカイザリ。


「戦場では人が死んであたりまえ。それがあんたの口癖だったな。

その通り。あんたは正解だ」


白目を剥き脱力するルーヒツラの首へカイザリの指がぐいぐいと食い込んでいく。

そして、行くところまで行ったルーヒツラの首は不気味な音を立てて折れ、

助手席に座る男性の目前にて死体という烙印を押されたのだった。


「やっぱりこいつ臭せぇ。バンキッド、これどうすればいい?」


「うーん・・・そうですね。足元にでも置いておいて下さい。

後で処理しておきますよ」


カイザリの言葉にやはり平然と応えるバンキッドと呼ばれた運転席の男性。


助手席に座る男性は目の前で繰り広げられた光景に中々声が出なかった。

それは、今までの経験上見てはならないものを見た者には大概死が付きまとうという恐怖からだった。


それでも「お前達は・・・何者だ・・・」と臆せず尋ねる助手席の男性。


「何者って・・・」と言いながら死体を座席の下へと押し込みながらカイザリは言葉を続ける。


「同じダージ王国の味方に言う冗談にしちゃ笑えないな」


「カイザリさん、クラウス隊長を殺しますか?」


助手席に座るクラウスは自分の名前が運転手であるバンキッドの口から出た瞬間、

”やはり”と言う言葉が脳裏を過ぎると背筋が凍りつく感覚を覚えた。


「早まるなって。殺すなよ」


「カイザリさんに言われたくないです」とぶっきらぼうに応えるバンキッド。


「どっちにしても殺すなよ。クラウス隊長は俺と息が合う。だろ?」


突然話を振られ動揺するもクラウスは心底分かっていた。

自分の眼前にいる者に命を握られており、

今更どんな虚勢を張ろうとも無意味であると言う事を。


それでも、クラウスは胸に宿る軍人としての誇りを盾に言葉を紡いだ。


「な、何の事だ?」


「率直にいうわ。短い期間だが俺はクラウス隊長、あんたを見てきてこう思った。生粋の軍人だとな。

だからこの世界に必要だと俺は踏んだ。座席の下で眠ってるコイツと違ってな。

だから殺すのに惜しい」


カイザリの言葉にクラウスは理解できないと言いたげな表情で眉に皺を寄せる。


「何難しい顔してる?死にたかったのか?」


「・・・そうじゃない。こんな現場を見せられた後で、

俺はこれからあんた達とどう接すればいいのかわからないだけだ」


クラウスの真剣な表情と言葉に対しカイザリは口元に笑みを浮かべ、

誰にも聞こえぬ声で「正直な奴だ」と呟く。


「まあ、そうだろうな・・・。

だが、出来れば見なかった事として振る舞ってほしい所だが・・・無理か?

無理なら軍を自ら辞退してもらうか死んでもらうか・・・しかないな。後々面倒な事になる前に」


クラウスは深く考え込む様に視線を落とすが、

沈黙の末ゆっくりと顔を上げた。


「・・・一つだけ聞かせてくれ。

あんた達はダージ王国の為に戦ってくれてるのか?」


「当たり前だ。さっきから味方だと言ってるだろ。疑い深いな、クラウス隊長。

自分で言うのもなんだが、俺は俺の誇りを持って軍に入った。

それだけは疑われたくねえな」


カイザリの言葉が真実かどうかを見抜く様に、

じっと見据えるクラウス。


眼は古代より”真実の瞳”と呼称され、

見る側も見られる側も嘘偽りを隠す事が出来ないと言われている。


その為に、比喩表現の一つとして”目が笑う”用いられる。


「・・・分かった・・・見てみぬふりをしよう。

此度の魔術士捕縛はダージ王国にとって必ずやらねばならぬ事・・・。

失敗は許されないからな・・・」


クラウスがまるで自分に言い聞かせる様に納得すると、

カイザリは車内で背伸びをしながら突然甲高い声を上げた。


「かぁ〜!良かった!これでクラウス隊長を殺さずに済むわ〜。

仕事できる奴いなくなると俺も大変だしよ!」


先程までの緊迫した空気を吹き飛ばすカイザリに面食らうクラウス。


「良かったですね。カイザリさん。おっと、カイザリ隊長」


「ちゃんと隊長って付けろよ。俺は隊長なんだからよー」


「カイザリ隊長も僕の名前をバンキッド隊長って呼んでください」


バンキッドの言葉に「うぇ〜い」と適当に返すカイザリ。


そんな光景の移り変わりに順応できないクラウスへ、

「クラウス隊長、これからもよろしくお願いしますね」とにこやかに挨拶してくるバンキッド。


クラウスが妙に納得できないと言った表情を見せるも、

自分の席へ座りなおすとバンキッドが普段通りに話しかけてきた。


「でも、内心ルーヒツラが死んで良かったと思ってるんじゃないんですか?クラウス隊長」


「何故そう思う?」


「強姦、虐殺、闇取引・・・あの人がやってきた事を上げだせばキリがありませんからね。

それによって不幸になった人は大勢います。

あなたが一番ご存知でしょう?」


「・・・」


「国の上に立つ者は下々の人達を守らなければならない。そうですよね?」


「私の・・・力不足だ・・・」と呟きながら拳を強く握り締めるクラウスを見るも、

バンキッドは何故かすぐに話の話題を変えた。


「さてカイザリ隊長、次の最高責任者どうします?」


広くなった後部座席で横になりながら、

眠そうな声で「ん?クラウス隊長で」と応えるカイザリ。


「だそうですよ?引き受けてもらえますか?」


「私がか?いや、しかし・・・私はお前達ほど強くない」


「強さじゃ軍はまとまりません。クラウス隊長が一番知っているでしょう?

それに、既に手は講じてあると思うんですが・・・」


「マカネス達の事知っていたのか・・・」


「はい。ルーヒツラ隊長は人質を使って何か良からぬ事を考えていたようでしたので少し探り入れてました。

まあ、その前にクラウス隊長が手を打ってましたけどね」


「今回の人質を迎え入れる件は止むを得ないと私は思っている。

そこから少しでも情報を引き出し魔術士との交渉又は交換を俺は申し出るつもりだ。

できれば魔術士以外の人間に危害を加えたくは無い」


「軍人としての鏡ですね」


「そうじゃない・・・ただ、もう人が死ぬのを見たくないだけだ」


「どちらにしても、今回の魔術士捕縛の最高責任者はクラウス隊長で決定です。

僕達二人が推薦ですから・・・ん?」


クラウスと話していたバンキッドは何かを確認したのか、

目を細め前方をじっと見つめだした。


その様子に「どうした?」とクラウスが聞くと、

バンキッドは「噂の彼らが戻った様ですよ」とにこやかに応えたのだった。

48章でお会いしましょう

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