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世界の断片③

お久しぶりです!ラミレシアです!

さて、今回は新キャラ登場って事で一つ!

では本編どうぞ!

その頃、水の里を囲む森、通称水の森とラマリア荒原の境界辺りにて、

全身ぼろきれで体を覆った3人組が横に並びながら水の里がある方角へと歩を進めていた。


その中で一番左側を歩くぼろきれを纏った少女だけはフードが後ろへ飛ばされたのか素顔を晒し、

額に汗を浮かべては炎天下から来る暑さに耐えながらだるそうに歩いていた。


少女は140センチ程の身長で肩程まである髪を後ろで三つ編みにし、

整った顔つきの中に緑色の眼色をした特徴的な持ち主だった。


「マカ兄・・・水・・・」


「ねえよ。さっきあげたので全部だ。それよりピーナ、フード被れよ。

顔がばれたらどうすんだ」


「見た奴全員消せばいいのよ・・・」


「んな無茶な・・・」


ピーナと呼ばれた少女の無茶振りに呆れつつも、

隣を歩くマカ兄と呼ばれた180センチ程の男は、右側を歩く一番小柄な子供の手を握っていた。


マカ兄は右側を歩く小柄な少年の表情を確認する為か一度止まると、

体をしゃがませ覗き込む様に見入る。


そこには少女と同じ瞳の色を持ち少し背が低いものの色白で、

一言でいうと病弱そうな少年の顔があった。


少年は何故か作り笑いの様な表情を浮かべたまま覗き見るマカ兄をじっと見つめ返す。


「ピエタ、大丈夫か?」


「・・・」


「こりゃ・・・大丈夫そうだな・・・たぶん・・・」


何も喋らず表情も一切変えなかったピエタの何を見てそう言ったのか定かではないが、

マカ兄はそう判断すると手を繋ぎ再び歩き始める。


「マカ兄、ピエタはね、私様の弟なのよ?丁寧に扱いなさい」


「へ〜いっと」


マカ兄と呼ばれた青年は怒られつつも、

ピーナのフードをさり気無く直すと3人は再び黙々と歩き始めた。



しばらくすると、目の前には鬱蒼と生えた森が見え、

その片隅では森の上流から流れてきたであろう小川の水が太陽光を浴びて輝いているのをマカ兄が見つけた。


「お!?ピエタ!ピーナ!水があるぞ!?今度は幻覚じゃない!と思う!」


「へ?・・・おお!?天使の水〜!」


マカ兄に続いてピーナもそれを確認するや否や突然叫びながら森に向かって走り始めた。


「お、おい!?ピーナ!?」


「早く!早く!ピエタおぶって来て!置いて来たら承知しないぞ!」


「それは・・・お前だっつーに!」


マカ兄はいつも通り作り笑いをしているピエタをおぶさると、

ピーナの後に続いて走り出す。


「お前の姉ちゃん、人使い荒いな・・・」


「・・・」


走る振動で僅かだがピエタが「うん」と頷いた様に見ると、

マカ兄は口元に笑みを浮かべた後速度を上げた。


池までもう少しという所で、

突然先頭を走っていたピーナが何かに頭をぶつけ尻餅を突いた。


それを見るやマカ兄達もピーナの元へと駆け寄っていく。


「お、おい。ピーナ、大丈夫か?」


「何よ?!もー!何なのよ!」と、

ピーナは赤く腫れあがった自分のおでこを涙目になりながら手で抑えていた。


「ピーナ、見ろ。結界があるんだ」


マカ兄に言われるままピーナも視線を追うと、

そこには日差しの照り返しが無ければわからない程透明な壁が森を囲む様に存在していた。


それを見るなり不貞腐れる様な表情で腕組をするピーナ。


「やっぱり仕事が先なの!?目の前に水があるのに!?」


「仕方ないよ、こればっかりは。結界はそう簡単に壊せないし」


「これだから魔術士は嫌いなのよ!」


「こっちの世界では巫女って言うらしいぞ?」


「どっちも同じよ。それよりどうするのよ・・・。

見た限りじゃ近くに里の人らしいのはいないみたいだけど・・・。

見つけ次第襲えないじゃない・・・」


「お前は野犬かよ・・・。

まあ、情報じゃ巡廻してる奴等が居るみたいだし、ぼちぼち待つか。

そうだな・・・。ピエタもいるし、二人は岩陰に隠れて待ってるか?

此処は俺一人でも何とかするぞ?」


「別にマカ兄の心配はしてないけど?」


「お前なぁ・・・。まあ、いいけど。それより・・・」


マカ兄は周囲を見渡すと此処から200メートル程離れた位置にある、

二人が隠れられそうな岩肌を見つけ指差した。


「あそこでいいよ。そこで待っててくれ」と言いながらピエタを背中から降ろすマカ兄。


「りょーかい。ピエタ、行くよ?」


普段と変わらず表情を変えないピエタの手を力強く握り、

ピーナは何かを語りかけながらながらその岩陰へと歩いていく。


「何だかんだ言っても、お姉ちゃんなんだよな・・・。その優しさを少しでも周りに向けてくれりゃあ・・・。

まあ、あんな事があったんだ。無理もないが・・・。

それより俺はどうするか・・・。ピーナも気付いてはいた様だけど・・・」


マカ兄はピーナたちが歩いて行った方向とは違う方へ視線だけ向けると、

「どうするかな・・・」と深く考え込んだ。



一方で、その様子を遠く離れた岩陰から顔を出し、双眼鏡でじっと見つめる人影がいた。

その人影は金の鎧を着用した兵士で、暑さからか兜は外しており額には汗を沢山浮かべていた。


「ガーネス小隊長、3人に動きがありました。一人を残して二人は近くの岩陰に移動していく様です」


兵士が報告した岩陰の奥にはガーネスをはじめとした数人の兵士がいたが、

どの兵士も身動ぎ一つせず暑さにじっと耐えている様子だった。


ガーネスもまた俯いた状態から、報告してきた兵士へだるそうに返事を返していく。


「一人って誰だ?」


「誰って言われても体にぼろを羽織っているので顔はわかりません。

ですが、あの身長と人数からして例の3人組の一人だと思われます」


「例の3人組・・・あいつらか・・・。

もうしばらく様子を見ろ」


ガーネスは見張りの兵士へ指示を出すと、

何か苦い思い出を思い出したのか忌々しそうに表情を歪めたのだった。



今から10日程前のネバルゲ村は金の鎧を着た集団に占領されたばかりで、

銃や剣を持った兵士が忙しそうに走っては村の連中を家々から強引に引きづり出していた。


そんな様子を見ながらピーナ達3人は並びながら、

ぼろきれを羽織ったまま大通りを奥へと進んでいく。


「中々酷いな・・・」


「当たり前よ。戦争なんだから。それに魔術士の中でも大物がこの大陸には7人もいるんでしょ?

それを匿っているんだから至極当然の事でしょ。ってマカ兄何処消えた!?」


ピーナは動揺しつつもすぐに周辺へと視線を巡らせるがマカ兄の姿は見えない。


すると、大通りの反対側に並んだ家々の前で、

倒れている村人に銃を突きつける兵士へ話しかけているマカ兄の姿があった。


「また首突っ込んで・・・もー」


それを見るなりピーナはピエタの手を取り大通りを横切ろうとし、

何かにぶつかりよろめいた。


「何だお前?前見て歩けよ」


偉そうに見下ろすガーネスを見るなり、

ピーナは舌を噛んだのか痛そうな表情をしつつも言葉を投げ返す。


「はによ、おっしゃん!あんたこそ前に眼をつけなさいよ!」


「誰がおっさんだ!誰が!」


「あんたに決まってるでしょ!おっさっ!?」


ガーネスは突然凄い剣幕でピーナの首元を掴み上げると、

フードがさらりと外れ顔も露になった。


「ほう。口は悪いが高値で売れそうな女じゃねえか。これだけ粋がってればさぞかし貰い手が多いだろうな」


「その・・・汚らわしい手を・・・どけなさいよ・・・糞野郎・・・」


睨み付けて来るピーナにガーネスは容赦なく地面へと叩き落し、

その音で気付いたのか遠くにいた兵士達も何事かと集まりだした。


「一体何の騒ぎだ?」


「ガーネス小隊長が女の子をいたぶってる」


「まじか。どれ・・・ってめちゃくちゃ美少女じゃねえか!

あんなの村にいたか!?」


「馬鹿、違げえよ。服見てみろ。あれはたぶん傭兵だ」


「傭兵に女もいたのかよ!」


「それにしても美少女だよな。あれは将来有望だろ。

敵兵だったら間違いなく俺が一番槍だったんだがな」


「そんながっかりするな。噂だがこの世界の魔術士は美女ばかりらしいぞ。

殺すことは大前提だが、その前なら良い夢見れるかもな」


そんな兵士達の下卑た視線に晒されながらも、

事態はどんどん悪化を辿っていった。


近くにいたピエタはというと集まってきた兵士達に外へ外へ炙り出され、

挙句の果てに輪の外へ放りだされてしまった。


そんな状況ですらピエタはいつも通り少しだけ笑った表情をしたままその場に立ちつくす。


「早く土下座して謝れ。糞ガキ!」


「ケホッケホッ・・・嫌よ・・・そっちこそ謝りなさいよ!」


「てめえ・・・殺してやっ!?」


ガーネスが腰に刺してある剣に手をかけようとした時、

その手を誰かが掴み止めた。


「ガーネス小隊長様、申し訳ありません。

私の連れが大変ご迷惑をおかけいたしまして。

何卒私に免じて許してもらえませんでしょうか?」


とっさに剣を掴んだとはいえ、

ガーネスは自分の体が嫌な緊張感を伝ったのが分かった。


「マカ兄・・・」


マカ兄はピエタの手を繋いだままピーナを一瞥すると、

すぐさまガーネスの前へと移動し再度頭を下げた。


「お前は何者だ?フードを取れ」


ガーネスに言われるままフードを取ったマカ兄は、

短髪で右耳にいくつもイヤリングをつけた清清しい青年だった。


それを見るなり周囲に集った兵士達にざわめきが走る。


「おい、あれってクラウス隊長の知人って噂のなんでも屋マカネスって人だろ?」


「ああ。間違いない。俺は一緒にいるところを2回見てるからな」


「じゃあ、あの美少女と少年もクラウス隊長の知人って事か!?

通りで美少女なわけだ・・・」


「っていうか、これやばいんじゃないのか!?」


そんな話を嫌でも小耳に挟んだガーネスは戸惑いを隠せない表情を見せ、

それを見るや否やマカネスは畳み掛ける様に口を開いた。


「私はマカネスと言います。この度は大変ご迷惑をおかけしました。

次からはちゃんと躾けておきますのでご容赦くださいませんか?」


「う・・・うむ・・・。分かった。次から気をつけろよ」


マカネスが「はい」と申し訳なさそうに返事をすると、

ガーネスは集まってきた兵士に「仕事へ戻れ!」と叫びながらそそくさと何処かへ歩いて行ってしまった。


それを見終えるやマカネスはピーナを抱き起こす。


「あんまり無茶すんな。面倒事はごめんだぞ。

それに、俺が止めに入らなかったら手出そうとしてただろ?」


「だってあのおっさんが!」


「わかった。わかった。おっさん、おっさん言うな。

誰にだって言われたくない言葉はあるんだ。

それよりピエタの事考えてやれ。

一人はぐれそうになってたぞ?」


マカネスにピエタの事を言われ表情を曇らせるピーナ。


「まあ、指定の小屋へ行こう」とマカネスの言葉に3人は再び川の字で歩き出す。


「それより、クラウス隊長と知り合いだったの?」


「まあ、色々あってな。

それより、俺達は軍人じゃないとはいえ所属してる間はその場の最低限のルールって奴がある。

それくらいは予め知っておいた方がいいぞ?」


「私は縛られない女なの。仕事だけやれば良いし。何よりめんどくさいもん。

そういうのはマカ兄の仕事でしょ?」


マカネスはさり気無く自分とピーナのフードを頭にかけなおすと、

「上達するのはそっちの口ばっかだな」と愚痴を漏らすのだった。




ガーネスが苦い思い出を噛み締めていた頃、荒原の大地を太陽の光が燦々と照らす中、

マカネスは一人うつ伏せに倒れこんでいた。


「さすがにこの直射日光はきついな・・・。

死んだら墓用意してくれっかな・・・。

してくれないな・・・。ピーナは自己中だし、ピエタはそのピーナの弟だしな・・・」


死にそうな表情で横たわるマカネスの元へ、乗馬した数名の女性達が現れては数メートル手前で足を止めた。

その者達は5名からなる集団で、全員が水の里の民族衣装であるハージェを着用し腰には帯剣している。


5名の女性達がマカネスを馬上から見下ろしていると、

後ろに控えていた女性の内一人が先頭にいた女性へ耳打ちした。


「衛女長、私が確認いたしましょうか?」


衛女長と呼ばれた女性は拒む様な手付きと共に「しなくていい」と言うと、

じっとマカネスを見つめたまま懐から皮袋を取り出した。


「お水必要でしょう?奥に隠れている子達が特に」


「・・・」


衛女長の言動と身動ぎしないマカネスを観察する様にじっと見つめる女性達。


「・・・俺達をずっと見てたのか?」と言いながら埃を払いつつ立ち上がるマカネス。


「ええ。次に来る巡廻の寝首でも取ろうとしていたのですか?殺気が漏れてますよ」


「別にそうじゃない。まあ、この際だから聞くけど、あんた達はこの地に住む者達でいいんだよな?」


「そうだとしたら?」


「率直に言う。巫女を差し出してほしい」


「無理だと言ったら?」


「強引な手段にでるだけだ」


真偽を見定めるかの様にじっと見つめる衛女長と強気な姿勢を崩さないマカネス。


二人の間に沈黙と緊張が駆け巡り、

その様子を後ろに控える4人の女性達は固唾を飲んで見守っていた。

すると、沈黙を破り先に動いたのはマカネスだった。


ぼろきれの中に突然手を突っ込んだマカネスが取り出した物は、

長く延びた爪の様な武器で拳に装着できる様な物だった。


マカネスはそれを装着し突如として走り出すと、

衛女長の横を瞬時にすり抜け背後に控える女性の喉下に向かって躊躇なく爪を伸ばした。


それを無駄のない動きで馬から降りた衛女長が左から割り込むように短剣で受け止め、

爪を向けられた女性は目の前で繰り広げられた出来事に目を見開いた。


「あんまり現場慣れしない奴らを連れまわさない方がいい。

こんなに脅えて可愛そうだぜ?」


「子供を連れてやってくる貴方がそれを言いますか?」


今度は衛女長が右手に持った剣でマカネスの喉元へと剣を振り下ろす。

すると、マカネスは衛女長を強引に地面へと押し倒し剣先を避けた。


「俺の仲間を甘く見ないほうが良い」


マカネスは左腕で衛女長の右腕を押さえ込む。


それを見るなり衛女長は「下ががら空きですよ」と言いながら、

男の股間を思い切り蹴り上げた。


「うぉおおおおおおおおお!?」


ヒットした様に見えた蹴りも、

マカネスが瞬時に体を離した為か手応えが少なく衛女長は眉に皺を寄せ唇を強く噛んだ。


「今のはヒヤヒヤしたぞ!俺まだ未婚なんだからな!?」


「全員、水の里へ戻りアーシャ様へ連絡後指示を仰いでください。

よろしくお願いします」


マカネスの言葉を無視しつつ、衛女長はいつも通り淡々と目を丸くさせている仲間へ投げかけた。


「は・・・はい!しかし、衛女長は!?」


「様子を見て援軍を。それとサリナ副長に頼むとお伝えください」


「は、はい!急いで戻ります!」


4人の女性が急ぎ馬に鞭を入れ走り出そうとした所へ、

またしてもマカネスがその行く手へと躍り出る。


「行かせねえって!」


「私と二人では不満なのですか?」


衛女長もまたマカネスへ向けて走りながら懐から仕込みナイフを取り出すと投げつけていく。

それを簡単に爪で防いだマカネスは、腰の剣を抜き向かってくる衛女長の初太刀を片手で防いだ。


そこからは二人の激しい攻防が始まった。


お互いに強さを見極めるかの如くバランスの取れた剣と爪の打ち合い。


「不満はないぞ?こんな美人は見たことがないからな。

でも、美人には棘があるってな!」


「棘こそ男の人にとっては最高の香辛料なのでは?」


「それも悪くないけどな!」


それからしばらく炎天下の中打ち合いをしていた二人の内、

衛女長が先に動きをぴたりと止めた。


「どうした?疲れたのか?」


「いいえ。そろそろ頃合だと思いまして」


「頃合って何が?援軍来るまで持ちこたえるんだろ?」


「いいえ。私の降参ですよ」


「は?何で?俺すげえ楽しいのに」


「何か・・・その無頓着さに腹が立ってきました。

私では貴方に勝てない。それは貴方ならわかりますよね」


衛女長はさも当然の様に剣と短剣をその場へ捨て去ると、

その代わりに懐から再度皮袋を取り出した。


「何してんだ・・・?」


「そろそろ水、必要でしょ?

それともただの戦闘狂なんですか?だったらいくらでもお相手しますが」


衛女長の怒気を含んだ言葉で何かを思い出したのか、

空に浮かぶ太陽を見てマカネスは「あ」と声を漏らした。


太陽の傾き加減からして二人は小一時間程戦っていたのだ。


「あの子達は貴方の帰りをじっと睨んで待ってる様ですよ」


衛女長の言葉と共に後ろの岩場へ顔を向けたマカネスの視界に飛び込んできたのは、

岩を握り潰さんと握り締めてはこちらを睨みつけるピーナの姿だった。



「マカ兄!何のこのこ戻ってきてるの!?

他の人質は!?それと水奪ってくれた!?」


岩場で体を隠しながら立て続けに吼えるピーナの視線の先には、

苦笑いを浮かべながらこちらへと向かって歩くマカネスといつも通りの衛女長だった。


「いやあ・・・人質はこの人だけだ。

もう援軍は来ないらしいから、連れ帰るのはこの人しかいないな。うん」


「ちょ・・・。

私たちの仕事は痛めつけた人質を数名確保する事!忘れたの?!

そもそも傍から見て人質らしくないんですけど!?」


「勝手に捏造すんな。俺達は人質を連れていけばいいだけだろ。

あんまりああだこうだ言うならピーナにはこの水あげないぞ?」


マカネスの掲げた手の中には大きく膨らんだ皮袋が収まっていた。


「おおお!?やっぱり水か!?ピエタ!水だって!水よ!」


いつも通り何も言わないピエタに笑顔を向けた後、

ピーナは岩陰から出てきてはマカネスの持つ皮袋をひったくった。


そして、そのまま真っ直ぐ岩陰の元へと戻ると、

皮袋の先端を紐解きピエタの口元へと押し当てた。


「少しずつだよ。焦って零しちゃもったいないからね」


そんな様子を見ていた衛女長はマカネスへと視線を移した。


「水巫女様を何故狙うのです?」


「俺達からしてみればそれは愚問だ。

では逆に何故守ろうとする?」


「水巫女様は宝玉に選ばれしお方。

宝玉の力と自身の力を使いこの世界に安定と秩序をもたらしている」


「宝玉?宝玉とは何だ?」


「宝玉は世界の要とも呼ばれている、言わばこの世界の宝のことです」


「やはりあるのか・・・この世界に・・・」


深い溜息をしながら神妙な面持ちで考え込むマカネスへ、

人質とは思えない素振りで間髪居れずに衛女長は質問仕返していく。


「今度はこちらの番です。先程、愚問とおっしゃいましたが、

その意味を教えていただきたい」


衛女長のじっと睨みつける様な目付きを見据えたマカネスもまたゆっくり口を開いた。


「魔術士は・・・っと俺達の世界では巫女を魔術士と呼ぶんだが、

魔術士は俺達の世界にある各国の王を次々と殺した戦闘集団だからだ。

だから、魔術士全てに指名手配がかかってる。俺達は”魔女狩り”って呼んでるけどな。


信じられないと言いたそうな顔だな。


その気持ちは初め誰もがそう思った。

あの国々を代表する魔術士が?とな。


だが、今となってはそんな気持ちを抱く者は俺達の世界にはいない。


世界の理を壊した魔術士を、むしろ憎んでさえいるだろう」


「だから、この世界の巫女をも殺すと?」


「そうなるんじゃねえの?

あんたを人質にとったのもただの仕事だ。さっきも言ったはずだけどな。

そういや、名前を聞いてなかった。

おっと、俺はマカネスって言うもんだ。あんたは?」


「サキ」


「サキか。言っておくがもうじきステネイラから来た軍勢がそこにある集落を取り囲む。

その時の交渉道具としてあんたは使われるはずだ。

それまでは大人しくしていてくれよ?」


「分かっている」


サキとマカネスが話をしている所へ、

皮袋片手に不機嫌そうな表情で歩み寄ってくるピーナ。


「な〜に人質と楽しそうに話してるわけ?

この人魔術士の仲間なんでしょ?

ほっときなさいよ」


突然話に入ってきたピーナを見て、サキはこの子が誰かとマカネスへ視線で訴えた。


「そいつはピーナだ。俺の仲間だな」


「何、私の紹介までしてくれちゃってるのよ!マカ兄!

こんな奴に名前を教える事ないわよ!」


「ピーナさんもマカネスさんと同じ武器を使うのですね」


「何、人の武器じろじろ見てるのよ!

勝手に名前も呼ばないでよ!人質の癖に!」


「そいつはクローって言うんだ。手に嵌める武器で長い爪が伸びてるのが特徴でな。

こっちにはないのか?」


怒り浸透のピーナを他所に会話を進めるサキとマカネス。


ピーナは目元に涙を浮かべながらサキを睨むと、腰にぶら下げてあったクローを装着した。

そして、「人質のくせに!」と叫びながらサキの喉元に向かって右腕を突き出す。


しかし、サキはそれをしゃがんで避け、ピーナと距離を取る為かすぐさま後方へ下がった。


「ピーナさんお強いですね。危うく喉を掻き切られる所でした」


「何よ!人質の癖に偉そうね!さっきから無視してくれちゃって!」


ピーナは容赦なくサキへと切りかかった。


ピーナの攻撃をぎりぎりで避けつつ、大人と子供では差がでる脚の長さを生かした攻撃で威嚇するサキ。

しかし、ピーナにはそれをものともしない程の確かな腕があった。


それに加えて勝てる自信があるのだろう、

サキの懐へとぐいぐいと入り込み攻撃を繰り出していく。


「これでどう!」とピーナによる渾身の一撃が胸囲へと繰り出されるが、

サキもまた服が僅かに破けるものの体を逸らし避けきった。


そんな戦いが続く中、剣を常日頃から持っていたサキには、

どうにもピーナの攻撃を受け止めようとする癖がでてしまう時があった。


その為か、相手の攻撃範囲とそれを見切る目はあるものの掠り傷が両腕へ確実に増えていった。


「さっきまでの余裕はどうしたのよ?言ってみなさいよ!」


サキの表情は変わらずとも、

ピーナの足技も駆使した多彩な攻撃はサキを追い込んでいった。


「これを使いな」


マカネスから突然投げ渡された短剣。

それは先程荒野にて捨ててきた自分の短剣だった。


「マカ兄!何でそいつに加勢するんだよー!」


「お・れ・は、美人に弱いんだよ。知ってるだろ?」


マカネスの言葉に不機嫌そうな表情で「もういい!」と言い放つと、

ピーナは短剣を持つサキへと再度襲い掛かる。


それからしばらく、両者の間で拮抗した激しい攻防が行われた。


サキは短剣を持った事により得意分野であるカウンターに磨きがかかった。

一方のピーナは相手が鋭い一撃を持つという事が脳裏を過ぎり思い切った攻撃ができないでいた。


そこへマカネスが突然「もう終わりなー」と空気を読まない声で言い放つ。


「何よ?まだこれからよ?」


「お前人質を殺す気か?」


マカネスに言われピーナが視線を戻せば、サキは呼吸を乱し肩で息をしていた。


「たいしたものですね・・・。私では勝てそうにないです」


「・・・貴方も中々やるわ。認めてあげる。

でも、また私を馬鹿にしたら許さないからね!」


「覚えておきます」


ピーナはきつい口調でサキへ念を押すとそそくさとピエタの元へと歩いて行った。


「気になるか?」


じっとピーナの後姿を見つめていたサキへマカネスは問いただす。


「いいえ。何でもないです。それよりも私を本体へ連れて行くんですよね?」


「ああ。だが、その前に10時間程此処で時間を潰してから戻る。

じゃねえと、また照りつける日差しの中を歩かないといかんし」


「わかりました。それまでは自由行動ですか?」


「ん?まあ、そうだな。だが人質って事だけは忘れるなよ?

此処を離れようとしたら切らなきゃならん」


サキは「承知しています」とだけ呟くと、

ピーナ達の奥側にできる小さな岩陰へと移動して座り込んだ。


そんなサキを警戒しつつピエタの手を取りピーナはマカネスの元へと歩いて来る。


「ねえ、どういうつもり?

あれって人質の態度じゃないわよね?」


「堂々としたもんだろ?言い方は静かだがその奥には火がついてるみたいだ」


「もー!また訳分からない言い回しして!それでどうすんの?あのまま放っておく気?

逃げるかもしれないわよ?」


「あいつはそんな事しねえよ。

もう俺達なんか見てない。次にやる事を考えてる」


「次って何?」


「さあ?それより、お前等も夕刻まで休んでおけ?

見張りは俺がするからさ」


「すぐ戻らなくて良いの?」


「あいつらは嫌でも此処へ来るんだ。

そう焦る事でもないって」


「ふーん。マカ兄が良いって言うならいいけどさ。

それより、はい、お水。マカ兄の分も取っといたから」


「たまには優しい時もあるんだな」と言いながらマカネスは渡された皮袋に口を付け音を立てて飲んでいく。

そこへピーナによる腹部への一撃。


「たまには余計!後はピエタと私で飲むから!」


ピーナはマカネスの手から皮袋を再度奪い取ると、

不機嫌オーラを放ちつつピエタを連れて向こう側の日陰へと行ってしまった。


その後姿を見ながら「ほんと・・・加減ってものをしらねえ・・・」と、

腹部を押さえながら苦痛の表情でぼやくマカネスだった。

読んでいただきありがとうございます。

書きペース遅くなってるのは秘密です(*´ω`*)

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