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12番隊諜報部

こんばんわ・ラミレシアです。

今回は12番隊諜報部のお話です。

その頃、フィレーネ達聖騎士団12番隊はネバルゲ村の住民達約千五百名程を連れ、

長い列となりアシスの隠れ里へと向かっていた。


その中で隊列を離れて馬に乗ったまま向かい合うソフィアとセルベルト。


「ソフィアさん、この数日間でまとまった情報を報告してもいいですか?」


「ええ。お願いするわ。それより、小隊長へ昇格してギルダから開放された気分はどうですの?」


「えーっと・・・そうですね・・・少しは気が楽になった・・・んじゃないでしょうかね・・・?」


セルベルトはソフィアの言葉に対して妙に慌てた様子で、まるで自分ごとではないかの様に言葉を濁す。


「・・・まあ、分かったわ。続けて」


「は・・・はい。えーっと一つは水の里へ送った間者の事なんですが、中隊規模の人数と見られる金の鎧を着た謎の兵士達が水の里へ向かって進軍しているのを確認しました。

位置は水の里から歩いて南下2日と言ったところとの事。丁度水の里を囲む森とラマリア荒原との間あたりです。


二つめはアシスの森に複数点在する隠れ里の何処かに火の巫女が潜伏しているとの事です。

明確な所在は追って調べています。


それと、水の神殿へは水の里同様に大隊規模と思しき金の鎧を着た謎の兵隊達が現在進行中です」


「現在の情報は以上?」


「はい。追加情報は入り次第お伝えいたします」


セルベルトは言うべき事柄だけを伝えるとそそくさと踵を返し隊列へと戻ろうとした。


「待って」


「はひぃ!」


突然の呼びかけに動揺するセルベルト。


「よく此処まで迅速且つ丁寧に情報を収集し整理しましたわね。有無を言わせぬ正確な伝達ご苦労様。

まるで、裏から誰かが糸を引いてる様ですわ」


”まだ隠している事があるんでしょ?”と言わんばかりのソフィアによる言葉と視線がセルベルトの背中へと突き刺さる。


「な・・・何も・・・無いですよ?ほんと・・・ですよ?」


「それなら、何故こちらへ顔を向けてくださらないのですか?冷や汗でも流れていらっしゃるのでしょうか?

律儀で真面目なセルベルト小隊長さんですもんね」


ソフィアはいつの間にかセルベルトの横に並び立ち目を細めてじっと見つめていく。

その間もセルベルトの引きつった表情は一向に収まる気配はなかった。


(ギルダ隊長・・・一貫の終わりかもしれません。小隊長に就任して数日にして首なんて簡便してくださいよ!)


結局セルベルトは全てを洗いざらい話すこととなったのだった。



「つまり、ギルダから小隊長という就任による給料アップと情報の一切合財を交換したわけですね?しなかったら殺すっていう脅迫付きで」


「・・・はい。お願いします・・・首だけは・・・!僕には身寄りの無い兄弟がいるんです!それを止められたら・・・」


馬上から泣きそうな表情で何回も頭を下げるセルベルトを困った表情で見つめるソフィア。


「それなら、この事は私も知らなかったって事にしましょうか?」


自分の耳をも疑うこの言葉にセルベルトは頭の中が真っ白になった。


「もちろん、条件つきですけどね」


(また条件!?条件なんて大嫌いだ〜!)


セルベルトの頭の中はもう真っ白なのか真っ黒なのかわからない程混乱し始めていた。


「嫌・・・ですか?ならしょうが」


「条件全て飲みます!お願いします!」


「そう言ってくれると助かりますわ。小隊長に就任したてのセルベルトさんを解雇なんて十二番隊の恥になりますし。

私もそんな指示出したくありませんもの」


「そうですか・・・そうですよね!・・・それで・・・条件と言うのは・・・」


「こんな事おおぴらに言えませんの。耳を貸してくださいます?」


セルベルトはこの時嫌な予感が体中を駆け巡っているのは重々承知していた。

だが、兄弟の為にと全身を奮い立たせてソフィアの方へと顔を寄せていく。


「・・・してください。とお伝えしてください」


この話を聞いてしまった時点でセルベルトはこう思った。やっぱりあの人に付いていくべきではなかったと。


呆然と馬上にて佇むセルベルトを他所に、

先に行ってしまった隊列に追いつくべくソフィアは先に駆け出すが途中で振り返った。


「セルベルト小隊長!いずれ良い事ありますわ!それではお願い致しますね!」


ソフィアの甲高い声とは裏腹にセルベルトは裏返った声で返事を返したのだった。



隊列に戻ったソフィアはすぐさま先頭を歩くフィレーネの横へと馬を付け、

セルベルトからの情報だけ(・・)を報告した。


「進行が早すぎる・・・。何処から手をつけて良いのかわからないじゃないか・・・」


「落ち着いて下さい。まずは一つずつ成していきましょう。急いては事を仕損じるとも言いますわ」


「・・・そうね。既にソフィアの中でシナリオが出来ているのでしょ?それを話してくれる?」


「読まれてますのね。さすが私のフィレーネ様ですわ」


「貴方のものになったつもりはないけどね。で、どうなの?」


「そうですね・・・まずは火の巫女を探し出し話をしてみてからですわね。

あちらはあちらで何か情報を持っているかもしれませんし。

もちろん、こちらは既にセルベルト小隊長が動いているので、後は時間との戦いになりますわ」


「水の里と水の神殿はどうする?」


「敵方の人数的に、水の里と神殿は共に天然の要塞と言われる程の結界と罠がありますので、

早々には落ちないと考えますわ。いずれにしても12番隊だけでは何とかしようにも人数が圧倒的に足りませんわ」


「つまり、動く為には人数か・・・」


フィレーネの呟きを聞き取るや否やソフィアは突然含み笑い漏らした。


「どうした?突然失礼だぞ」


「いえ・・・申し訳ありませんわ。ただ、どうしてもフィレーネ様は動きたいんだなって思いまして」


「当たり前だろう。こんな時にじっとなんかしてられるものか。」


さも当然の様に応えるフィレーネの表情を見るや、ソフィアはまた笑みを零して「そうですね」と応えたのだった。



一方、俯いた表情のまま隊列の最後尾に戻ったセルベルトの肩を、

訝しげな表情をした体格の良い男性が叩いた。


その男は背が2メートル近くと大変高く、

短い黒髪を後ろで縛った無精髭を生やしていた。


「セルベルトどうした?そんな明日にでも世界が終わるみたいな顔しやがって。

小隊長に昇格したばっかだろ?もっと嬉しそうに仕事しやがれってんだ!」


「ガンズさん・・・。僕もうだめかもしれません・・・」


「は?突然お前何言ってんだ?あ・・・まさか・・・ソフィア副隊長に振られたのか!?」


「ち・・違いますよ!?そんな告白する勇気なんて僕にはありませんよ・・・」


「じゃあ、なんだよ?」


「大事な話なので、外に出ていない諜報部隊全員を集めてから話ます。これは・・・もう僕だけの事ではすまされないかもしれません・・・」


セルベルトの辛辣な表情にガンツもただ事ではないと察したのかすぐに他のメンバーを呼びに動き出し、

それから間もなくして、10名にも満たない男女が隊列の最後尾にいるセルベルトの元へと召集された。


召集された全員が馬に乗りセルベルトを中心に円を掻く様に並び立つ。


セルベルトは自分の左方にて、いかにも”馬に飼い成されているのはどっちだよ”と言われてもおかしくないほどの小柄な少女を皆に紹介し始めた。


「皆さんに集まってもらったのは他でもないです。ってその前に言うの忘れてましたが、この度、聖騎士団12番隊諜報部隊に配属されましたスバルさんです。

同じ12番隊にずっといたので、知ってる人はいると思いますがよろしくお願いしますね」


その少女は短髪で黒髪、それでいてくりっとした魅力的な瞳を持ちながら、

何処か小動物を思わせる程緊張気味な表情をしていた。


「あ・・・あの、この度は・・お日柄もよく・・・じゃなくて・・・、

ソフィア副隊長の指示でこちらへ配属される事になりました、スバルと申します!よろしくお願い致します!」


「「・・・」」


スバルの自己紹介に唖然とした表情のまま皆が沈黙したが、次の瞬間周囲がざわめき立った。


(お・・・おい。今の笑って良いところなのか?!)


(俺に聞くなよ・・・笑えないけど・・・可愛いから許す!)


(お前笑ってあげろよ!)


(何で俺だけなんだよ・・・)


そんな中、一人だけお腹に手を当てて笑い始める女性がいた。


「ククク・・あはは、お前・・・冗談のセンスねえのな。逆に引きすぎて面白かったよ」


その女性は頭の後ろで髪を一括りにしキリっとした表情をしていた。

加えて170センチ近くはありそうな身長に凹凸の激しい大人の魅力溢れる風体を曝け出していた。


「私はガーネットって言うんだ。一応この小隊の副隊長をやってる。

スバル・・・だっけ?お前身長どれくらいだ?」


「え、あ・・・えと140センチくらいです・・・」


((ちっさ!?))


「年齢は?」


「16歳になります・・・」


「あの目狐の推薦だから問題ないとは思うが、一応経歴聞いてもいいか?」


「あ、はい!えと・・・去年12番隊に入隊させていただき、一昨日までは2番小隊で見習いをやっていました」


「成る程・・・あいつの下ね・・・・」


いかにもソフィアを知った風な素振りを見せるガーネットに周囲は再度ざわめき立つ中、

セルベルトはおどおどした様子で口を挟んだ。


「ガーネットさん、ソフィア副隊長からちゃんと育成命令もでているので、それは承知で動くしかないですよ?」


「まあ、そうだろうな。にしてもこれだけ大変な時期にギルダが抜けて、入ってきたのが見習い一人か・・・。

これ以上本体の人数減らす事も出来ないだろうから、しょうがないけど・・・。

あ、セルベルト悪いな、話割り込んじゃって」


「いえ・・・。時間もないんで他の方は後で個人的に自己紹介なりしてください。

くれぐれも私欲で動かないようにお願いしますね」


”先に釘を刺された”と言わんばかりの表情で動揺を見せる数名の男性陣。


「では、新メンバーも入ったので、再度諜報部隊でのルールというか、掟の確認だけしておきますね。

スバルさんもちゃんと聞いててくださいね」


「あ、はい!」


「えっと。まず一つは、今まで通り各々の名前は必ず職名を付けずに名前で呼び合う事。

二つ目は基本3人一組で行動する事。最低でも2人で。

3つ目は慎重且つ完璧な仕事をする事。


よろしくお願いしますね」


「了解」「オーケーボス!」「わかったぜ船長!」「グッドラック!」「へい!慎重!」「死亡フラグ」


セルベルトを囲む各々が自由気ままに返事をしていくこの光景にスバルは唖然としたまま返事に困り、

それを見つけるやガンズが口を開いた。


「スバルとやら、今何か食いたい物とかあるか?何でもいいんだが」


ガンズが問いかけると周囲の視線はスバルへと注がれ、

恥ずかしさからか表情を赤らめたまま振り絞る様な声で「オムライス」と呟いた。


その言葉に反応するかの様にまたまた周囲はざわめきだった。


(あ・・・ありじゃね?)


(あり・・・かな?)


(可愛いからありだ!)


(そもそもお前は何でもありだろうが!)


その空気を吹き飛ばす様に「お前ら黙れ。飯抜きにするぞ!」とガーネットは一喝し、

周囲は静けさを取り戻していく。


((それはなしで・・・))


数人の男性が内心気持ちを共有しているところへガンズが再び口を開いた。


「うちら諜報部隊の返事は好き好きに返事していいんだ。

これはうちらの伝統って奴だな。それで了承してもらえるか?」


「・・・あ・・はい!わかりました!じゃなかった・・・オムライス!」


顔を赤らめて一生懸命返事をするスバルに、

数人の男性はもう既にハートを奪われていたのは火を見るより明らかだった。


「大分話がずれてしまいましたが、本題に入りますね。単刀直入に言います。

ギルダさんの件がソフィアさんにばれました。」


「「・・・」」


「言っておきますが、皆さん一蓮托生ですよ?こんな芸当自分一人ではできない事も明白なので・・・」


セルベルトの一言が追い討ちをかける様に悲観する言葉が周囲から漏れ始めたが、

そこへ割って入る様に怒り浸透と言った表情でガーネットは口を開いた。


「あの野郎・・・”絶対大丈夫だ。ばれる事はない”って言っておいて・・・」


「やめておけ。旦那のやる事だ。今に始まったこったないだろ?」


ガンズに言われガーネットは渋々と言った表情で押し黙った。

そして、その光景を見ていたスバルは隣に並び立つ男性へと小声で質問した。


「あの、何の話なんですか?ちょっとわからなくて」


「あ、スバルちゃんは知らない方が・・・って言っても無理か。これから諜報部隊に配属されるんだもんな・・・。

えーっと、先日ギルダ小隊長がこの隊を首になったのは知ってる?」


「えっと・・・、どなたか正確には知りませんでしたけど、首になった事は知ってました。

この隊に属してた方だったんですね」


「うん。で、ネバルゲ村を出発する前日の話なんだけど、

諜報の為外出している人を除いて全員がある小屋に集められたんだ」



―――― ネバルゲ村出発前夜、とある小屋にて ―――――


イスや机だけが置かれた簡素な小屋の室内にはギルダやセルベルトを含めた数名が集まり、

壁に寄りかかる様に立ちながら話をしていた。


「ギルダの旦那はつまり解雇処分で・・・、俺達に情報の流出を手伝えって事を言いたいんですかい?」


「言い方が悪いな。かっこ良く情報共有と言ってくれ」


「意味は至って同じでしょう・・・。にしても・・・今回もまた派手にやりやしたね・・・。

傍から見て解雇処分で済むはずがない」


「まあ、俺が逆の立場ならぶち殺してるだろうしな。ありえないけど」


ギルダとガンズが悠々と話をしていると、ガーネットも口を挟んできた。


「私はあんたに返しきれない程の恩がある。だが、いきなり単刀直入に言われて”はい、わかりました”と頷ける程バカでもない。

それに加えてあんたが私達の事を思って事情を話さない奴だっていうのも知ってる。

だから言わせてくれ。


この世界で何が起きようとしてる?あんたならわかってるんだろ?」


「・・・これ話したらお前等引くぞ?」


ギルダの言葉に全員が目配せをし頷く中、、

セルベルトだけはもう何か知っているのか俯いたまま誰とも目を合わせなかった。


「じゃあ、話すな。世界が終わる(・・・・・)」


ギルダの途方もない話に全員が唖然とした表情を浮かべる中、

ガンズが先に口を開いた。


「この世界がか?!」


「ああ。お前達も見ただろ?空飛ぶ船」


「しかし、あんな船一つで世界が・・・」


「一つじゃない・・・最低でも2つ。多くて数十の船だな」


ギルダの話で小屋の中が少しだけ暗転した空気へと変わると、

それをぶち壊すかの様にガーネットが口を開いた。


「あんたの事だ。私達を納得させるだけの物も既に用意してるんだろ?」


「ガーネットは鋭いな。さすが俺の見込んだ女だ」


ギルダの言葉にガーネットは照れ隠しなのかツンとした表情でそっぽを向き、

その光景を見ていた緑色の髪をした男性と青色の髪をした男性二人が小声で話しこみ始めた。


(あのガーネットがデレた!?)


(まじかよ・・・本当に世界が終わるかもしれんぞ!?)


その瞬間に2人へ向かって突然ナイフが飛び、

顔面すれすれを通過すると木材でできている壁へ突き刺さった。


何が起きたのか分からない男性二人は、自分の顔の横にあるナイフを見た途端全てを把握すると共に顔面蒼白した。


「・・・ったく・・・今のはお前達が悪いぞ?」


ガンズがその男性二人を叱咤するとガーネットは言う口実が無くなってしまったのか拗ねた表情でそっぽを向いた。

それを見ていたギルダもまたやれやれと言わんばかりに口を開く。


「ガイアとライア、お前等の剣術は買ってるんだ。身内のナイフで死ぬなよー」


「「はい・・・すみません・・・」」


ギルダからの叱咤が効いたのかガイアとライアは急に力なく壁伝いに腰を落とし、

それを見るや否や、ギルダは仕切りなおしと言わんばかりに机の上へと一枚の紙を置いた。


「ギルダの旦那、それは?」


「聖騎士団第一番隊総隊長ジェネスの文面」


「「は?!」」


ギルダの淡々と放った言葉にこの小屋にいる全員が驚愕し目を見開く中、

ガーネットはすぐさま噛み付く様に言葉を返した。


「どういう事だい?ジンの話では亡くなったはずでしょ?

それとも生きているのかい?!」


「いいや、ジェネスは死んだだろう。ジンが嘘をつく理由もないしな。

まあ、それはいいとして、この文面は・・・」


((いいのかよ!?))


「ん?皆何俺を”悪魔か?!”みたいな目で見てるんだ?死んじゃったもんは諦めるしかないだろう?

それより、セルベルト」


ギルダは全員の困惑している姿すら無視し、読めと言わんばかりに手紙をトントンと人差し指で叩くとセルベルトの名前を呼んだ。

セルベルトもまた無言で机に置かれた手紙を手に取ると表情一つ変えずに真剣な眼差しで口を開く。


「この手紙は筆跡から間違いなくジェネス総隊長が書いた物です。

内容は・・・”ギルダに全面協力せよ”・・・との事です」


セルベルトの話した内容に各々困惑した表情で静まり返る中、

ギルダが口を開いた。


「まあ、そんなわけで時間もないし、拒否する奴は明朝までに俺かセルベルトの所まで来てくれ。

じゃあ、俺は用事があるんでこれで。適当にわからない事あったらセルベルトに聞いてくれ。

たぶん適当に応えてくれるはずだ。ほいじゃな」


ギルダは場の重苦しい雰囲気とは裏腹に、

まるで友達の家へ遊びに行く様な軽い挨拶と共に小屋を出て行った。


ギルダの足音が聞こえなくなると、先に口火を切ったのはガンズだった。


「セルベルト、ギルダの旦那は何処行ったんだ?」


「さあ、僕にギルダさんの行動を聞かないでくださいよ。

監禁されたって勝手に抜け出し村の中を徘徊する人ですよ?」


「う・・うむ・・・」


ガンズが妙な納得感を覚える中、ガイアとライアは立ち上がり真剣な表情で口を開いた


「俺とライアはギルダさんについていくぜ。

あの人が命令してくれるんならどんな仕事だってしてやる。

今こうして兄弟二人生きていられるのはギルダさんのおかげだしな」


「兄さんに同意。どうせ世界がやばい状況にあるんなら、やばい賭けに乗るのも面白い」


「そんな安易に考えてもいいのか?お前等」というガンズの言葉に青い髪をした兄ガイアがさも当然の様に口を開く。


「そもそもあの人の言葉に信憑性を求める方が可笑しい気がする位だな。

俺達には俺達の聖騎士団としての正義はあるが、

あの人個人がやってきた事に全く悪意が感じられねえ。それだけで俺達はあの人と一緒に歩むだけの価値がある」


ガイアの言葉にライアも立て続けに口を開く。


「聖騎士団の他の隊にいた事がある奴いるか?いるなら分かるかもしれないけど、

命令する奴らは基本的に自分自身の為に命令する。今考えればアホくせえ」


ガイアとライアはそれだけ言うと小屋の出口へと足を運び、

セルベルトはその二人の背中に向かって口を開く。


「ガイアさんとライアさんの答えは受け取りました。

ついでですみませんが、今日この場で話を聞かなかった諜報部の面々と会ったら、僕の所へ来る様に言ってもらえませんか?」


「オーケーボス!」「合点」とその二言だけを残して二人は夜の村へと姿を消した。


ガイアとライアがいなくなった室内の面々を見渡したガンズは小さく溜息を漏らすと、

照れ臭いのか髪を触りながら口を開く。


「なんつうか・・・此処で留まってるのが馬鹿馬鹿しくなる様な台詞残しやがって・・・。

こりゃ・・・最後にこの小屋に残っているのが罰ゲームみたいじゃねえか・・・」


「そ・・そんな事ないですよ」と慌てて否定するセルベルトを他所に、

ガンズもまた何かを決意したかの様な表情と共に壁から背を離した。


「嫁さんに世界が終わるなんて告げたら家から追い出されちまう。

俺も仕事すっかな」


「ガンズさん結婚してるんですか!?」


「あれ、言わなかったか?まあ。そういう事で。お先」


ガンズが小屋を出た途端言うタイミングを待っていたかの様に、

数名の男女がセルベルトへギルダの案を了承し出て行った。


最後まで小屋に残っていたのはガーネットとセルベルトだけだった。


「私の心はもう決まってる」


「はい。一番初めに決まってましたよね」


「一番はセルベルト、あんただよ」


「そういえば・・・そうですね。世の中わからないもんですよ。ほんと」


ガーネットとセルベルトの会話はお互いの腹を探るかの様な、

時折静寂がこの場を支配する程単調に繰り返された。


「さっきの手紙偽物だろ?」


「どうしてそう思うんですか?」


「総隊長がどんな人か知らないけど、

聖騎士団の上役でギルダを好きな奴いるわけがない」


「ぷっ・・あはは・・・。すみません突然。

それは納得です。でも半分不正解ですよ?

一度だけ総隊長と会った事あるんですけど、ギルダさんを信頼した目で見てました」


「それはまた変わった奴もいたもんだ」


「そうですね」


「それで、今後はセルベルトが諜報部隊の小隊長か?」


「そうみたいです。さっき面と向かって言われました。

脅迫付きですけどね」


「どうしようもない奴だな」


ガーネットの言葉にセルベルトは「そうですね」と言いつつも先程までと打って変って、

シコリが取れた様なすっきりとした表情をしていた。


しばらくして小屋からセルベルト達がいなくなると、

床板がはずれ全身黒い服を着込んだ者が姿を現した事を誰一人気付く事は無かった。



―――― 時間軸は戻る ―――



「まあ、そんな訳で一蓮托生なんだよね・・・。この諜報部隊・・・・」


「だ・・大丈夫なんですか?!」


「大丈夫じゃないから呼び集められたんだけどね・・・」


スバルと男が話をしていると不機嫌そうな表情をしていたガーネットが、

何かに気付いたのか表情を一変させ口を開いた。


「問題はばれた事じゃない・・・ばれた事に対するソフィアの反応だ。

腹黒いあいつの事だ。毒を持って毒を制しに来たんじゃないか?」


ガーネットの鋭い言葉にセルベルトは明らかに動揺した表情を見せると共に、

言葉を喉に詰まらせた。


「そんな・・・事な・・・ないですよ?」


「そうか。なら話は此処で終わりだな」


「え?えー!?ちょ・・・ちょっと待ってくださいよー!」


「毒を制しにきたんじゃないんだろ?ならセルベルト一人で対処できるはず。

そうだよな?」


有無を言わせぬガーネットの言葉に萎縮したのかセルベルトは小声で「はい」と応え、

ギルダの話はソフィアにばれたものの任務に支障はなしという事で処理され解散となった。


「良いのか?ガーネット。セルベルトの奴相当へこむぞ?あのソフィアに毒を盛られたんだからな」


「あいつは真面目で頭が良いのに、後ろ盾がいなくなるとすぐに弱音を漏らす癖がある。

ギルダがセルベルトを小隊長にした意味を考えればこれくらいしても良い」


「・・・素直じゃねえな。どいつもこいつも・・・」


「ふん!」


ガーネットとガンズが隊列に戻っていくその様子を、

スバルは隣で付き添い歩く男性の話そっちの気でじっと見つめていた。

読んでいただきありがとうございます。次回43章ですね。

ではまた。

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