守護人④
一週間ぶりの投稿です。
さて、ケイトはどうなってしまうんでしょうかね。
では本編へ。
鳥の囀りが耳に付き目を覚ましたケイトは、覚醒しきっていない頭と眼で周囲を見渡していく。
「此処何処・・・って!?」
ケイトは突然前のめりになりバランスを崩したが、
なんとか近くに伸びていた枝に掴まる事ができ落下という難を逃れた。
「何で俺こんな所に・・・」
薄暗く霧が立ち込め下が見えない現状を見つめつつ、ケイトの脳裏へ落下死という最悪のイメージが頭と背筋を急激に冷やしていく。
それと同時に、昨晩の事が脳裏へと蘇ってきていた。
「リコを迎えに来て・・・か・・・」
なんとか体勢を整えたケイトは先程まで眠っていた場所まで戻るとまだ薄暗い周囲へと目を向けた。
そこには昨晩の様な精霊樹を包み込む様な生命溢れた光は無く、
所々に霧がかかっているもののぼんやりと月夜が照らす薄暗い森が広がっていた。
「でかいな・・・。ん?・・あれ里かな・・・」
森が犇く中、木々が無く建造物の屋根が少しだけ見え隠れしていた。
良く見れば白い煙の様な物も出ている。
「朝印の煙か・・・」
朝印とは日の出が登る前に里の一角で焚き火をし、その火を使って湯を沸かす作業の事。
小川が多いこの地域は常日頃から水が豊富にある為保存用としてとっておく事は無い。
しかし、雨が降った時だけは別で、小川自体が濁ってしまう為に雨水を前日から溜めておくのだ。
その水を雨が降った次の日に一度沸かして綺麗にし、小川の濁り水が収まりを見せるまでの繋ぎとして使っているのである。
「時間的に4時前だな。まだ今からなら里へばれずに戻れるけど・・・リコは何処だよ・・・」
リコが昨晩「もっと上」と言っていた事を思い返しつつ、
ケイトは細かく枝分かれしている頭上へと視線を向け足を踏み出した。
「俺も精霊の力を使う事ができればな・・・さくさくっと上がれると思うのに・・・はぁ・・・。
ぼやいててもしゃあねえし・・・行くか」
それからケイトが黙々と上り続ける事30分程。
「葉越しに空らしいのが見えてるのに・・・一向に到着しねーじゃねえか!?
俺・・・本当に上がってるよな・・・?」
下を見れば確かに高度を上げている事はわかるものの、
リコがこの先にいるのかどうかもわからないと思ったケイトは一瞬足を止めた。
「うーん・・・、もー!とことん上ってやんよ!」
それから30分程上がり続けたケイトは、
体中が葉っぱ塗れになりながらも枝々の間から上半身を乗り出すと同時にまだ薄暗い夜空を見る事ができた。
西へと顔を向ければ、日の出が近いのか薄っすらと日の光が滲み出ている。
「うー・・・。此処まで高いと風つええな・・・」
吹き抜ける突風に煽られつつも、
日の光が序々に地面を照らしていく様がまるでケイトにはこの地に命を吹き込んでいくかの様にさえ映った。
「って・・こんな事してる場合じゃねえ・・・リコは何処行ったよ・・・」
ケイトは本来の目的に戻ると共に、周囲を見渡すがリコの姿おろか人の気配させ感じられない。
「まさか・・・、俺置いて帰ったって事ねえよな!?どうすんだよ・・・俺・・・ん?」
ケイトは自分の立つ位置から少し離れた場所に、
不自然ではないのだが枝や葉っぱが妙に盛り上がっている場所を見つけた。
「うーん?」
じっと見つめれば人の子一人寝れる様なサイズになっていると言えなくもない。
考えた末にケイトはそこにリコがいる気がしていく事に決めた。が、
「どうやってあっちまで移動するんだよ・・・」
ケイトは結局精霊樹の中へ戻っては枝々を再度渡りなおして移動していく。
そんな中で精霊樹の内から横たわるリコを見上げたケイトは虚を突かれた様に唖然とするしかなかった。
精霊樹がまるでリコを護る様に枝と葉っぱが隙間無く支えている様に見えたからだ。
一通り驚き尽くしたケイトはそれでもリコを呼びに行くしか選択肢が残っておらず、
リコの横たわっているすぐ横へと枝と葉っぱを掻き分けて顔を出した。
「おい、リ・・・」
リコを呼び起こそうとしたケイトは言葉を途中で無くした。
それは、リコが眠りながら涙を流していたから。同時にケイトが初めて見たリコの表情だったからだ。
ケイトの中のリコは水の里における真の長であり剣技におけるケイトの師。
それに加えて里の皆へ優しく時に厳しい言葉をかける負けず嫌いの努力家でもある。
ケイト自身は優しくされた見に覚えはないのだが。
故にケイトはリコを口の悪い水巫女としてしか見ていなかった。
そのイメージがリコの涙を見た瞬間に崩れていくのをケイトは感じた。
「お父さん・・・お母さん・・・サーニャ・・・」
体を丸めて涙を零す水巫女・・・いや・・・女の子だ。
ケイトはリコの姿を意識した事はなかった。
なのに、自然とリコの手へと視線が泳ぐ。
そこには剣の鍛錬から来る肉刺や擦り傷、何より小さな手があり、
初めてケイトはリコの存在が小さい(おんなのこ)と思った。
自然と高まるケイトの鼓動。
(どうしちまったんだ・・・俺・・・?)
ケイトは自分の気持ちに驚きつつもリコの手首が妙に腫れている事に気が付いた。
同時に、先程ケイトが精霊樹から落下しそうになった時の事が頭を過ぎる。
(あの時か!?こいつ平気な顔して・・・何で痛いとか言わないんだ・・・)
ケイトにはその答えが分かっていた。
(水巫女だからか・・・くそっ・・・)
何故か無性に腹が立ったケイトは顔をリコが寝ている枝と葉っぱの中から引っ込め、
その下に位置する枝へ寄りかかると眉に皺を寄せ考え込み始めた。
(怪我の治療は俺にできねぇ・・・。ちっせぇ、ちっせぇ!俺の考えてる事やってる事ちっせぇ!
情けねぇ!もう・・・意味わかんね・・・)
ケイトの苛立つ様に握っていた拳も、時が流れるに連れて脱力するかのように解けていった。
それからしばらくして日の光が上り、リコは目を覚ましたのか上半身を起して背伸びをした。
「うーん!っいつつ・・・って・・・ケイト・・・どうしたっけ・・・」
リコは痛む手首をじっと見つめつつもケイトの名前を漏らすと、
何処からかそれに応える声が返ってきた。
「俺なら此処だよ。リコの尻の下だ」
言われるがままに声の主であるケイトの方へと葉越しに顔を覗かせるリコ。
「元気そうね。てっきり高すぎて怖気づいてたと思ったのに」
「なわけあるか。それより・・・リコはどうなんだよ・・・」
「どうって?あ・・・これ気付いてたの?」
「ん・・まあ・・・それで大丈夫なのかよ・・・」
「大したことないよ。これくらい唾つけとけば治る程度だし。
それより上がってきなさいよ」
ケイトの胸中は先程の一件以来穏やかじゃなかった。
簡単に言えば初恋の目栄えと言うべき心境だったからだ。
故にリコの言葉に対して妙に素っ気無く応えてしまう。
「何で?」
「何でって・・・何でもよ。早く!」
中々上がってくる気配がないケイトを見かねてかリコは葉越しから痛まない腕の方をケイトへ伸ばす。
ケイトはそれに対して迷った挙句にその手を掴むと強引に引っ張り上げられた。
「待てってぶ・・・ぶは」
容赦なく引き上げられたせいか、ケイトの顔面に思いっきり枝や葉がこびり付いていく。
「あはは。変な顔」
「お前な・・・ってあれ・・・」
先程までリコを包み込む様に葉や枝が上全体を囲んでいたはずなのに、
今は日が射す青い空が一面に見る事ができる。
ケイトは不思議に思いつつもリコの横へと座り込むと、
先程は気付かなかったが葉や枝を掻き分け顔を覗かせた部分の穴が何事も無かったかの様に修復されていた。
それに加えて、今も又自分が抜けてきた穴さえも自然に葉や枝がまるで自分の意思で修復している様にさえ目に映る。
「不思議に思う?私も初めは驚いたから無理ないと思うけど。
全てのものは呼吸し生きてる。精霊樹もまた生きている。ただ、精霊樹はどんなものよりも成長速度が早く、より多くの命を宿してるってだけ。
ケイトだって成長するでしょ?それが人の主観か、ものからの主観かってだけよ」
「は・・はぁ・・・」
何言ってるんだこいつは?と言いたそうな目つきで自分を見つめるケイトに妙な腹立たしさを覚えつつも、
リコは溜息一つでそれを抑えると割り切った表情で一つの木の実を差し出した。
「まぁ、いいわ。はい、これ。此処まで一人で上ってきたご褒美」
リコがケイトに差し出したのは白黄色をした丸い木の実。
「何だこれ、初めて見るな」
「これはリグレっていう精霊樹のみに成る木の実だよ。甘酸っぱくて美味しいから食べてみて」
むしろ、食べなさいと言わんばかりの表情でケイトをじっと見つめるリコに対して、
ケイトは戸惑いつつも口へ運んだ。
「あ・・うまい」
「でしょ?程よい甘さがねー」
口いっぱいに広がる甘酸っぱい果実と果汁に酔いしれながら、二人はしばし無言で頬張っていく。
「なあ、こんな時に聞いていいのかわからないけど・・・。
どうして守護人を認めようとしないんだ?
リコが水巫女になった日に父さんの所へ来て剣術を教わり始めて、
里で一番強くなったリコに誰も認めさせる事が出来なくなった。
むしろ、リコに認める意思が無い様に見える。違うか?」
ケイトの質問に対して、リコはどう返事をしたらいいのか迷う素振りを見せつつも口を開く。
「半分正解ね。実力があれば認める意思はあるわよ?
でも心当たりがある人物は一人しかいない。
っていっても・・・一向に姿を現さないんだけどね」
リコの言葉に対してケイトはそれが誰なのかとても気になったが、
聞いてしまえば自分とリコの間に妙な溝が出来てしまうかもしれないという恐怖心が言葉を躊躇わせる。
「それに巫女って守護人の誰かとは大抵結婚しちゃうんだよね。まあ、精霊の加護を我が子に多く残す為にはしょうがない事なんだけどさ。
つまらないよね。普通に好きな人でいいじゃん?とか思うし」
「ま、まあ、しょうがないんじゃないか?巫女って立場もあるし」
この時ケイトの口元は小刻みに震えていた。
まるで心と言葉が噛み合っていないかの様に。
「立場ね・・・全く持って厄介よ。水巫女っていうのは。
水巫女である前に一人の女なんだからさ。もうちょっと気軽に扱ってほしいわね」
「そんな女から毎日気軽にぶっとばされてる俺の身にもなれって」
「あれ、里の皆を見返すんでしょ?がんばりなさい、男の子」
目の前のリコを見れば先程の光景が嘘だったのではないか?と思える程大きな存在感を醸し出していた。
にも関わらず、ケイトは自分で考えるよりも簡単に口が開いた。
「なあ、俺強くなってリコの守護人になっていいか?」
(突然何言ってんだ!俺ぇぇ!?さっきの話聞いてたのか!?馬鹿野郎!)
ケイトはさも当然の様にリコの口から「馬鹿じゃないの?話聞いてた?」とか言われるとすぐさま思った。
しかし、そうではなく、リコは何か思い悩む表情を見せた後少し笑ってこう言葉にした。
「そうね・・・。いつかそんな日が来るといいわね」
冗談で言ったのかそれとも本気で言ったのか定かではないが、
ケイトにはリコがその時本当の意味で笑ったような気がした。
その光景を最後にケイトは白い煙に視界を奪われ、途端に目を覚ました。
日の光が差し込む室内には人の気配は無く静寂だけが満ちている。
「また夢・・・」
ケイトは印象深かった事柄だったせいか寝起きの頭でも今見た夢をはっきりと覚えていた。
同時に、寝てしまう前にギルダから言われた言葉をも思い出すと拳が必然的に強く握られていく。
「心当たりがある人物って誰だよ・・・。そんな奴待ってたって傍にいなきゃリコを護る事なんて・・・」
長い事眠っていたのか、上半身を起そうとした瞬間に体が錆び付いてしまっていたかの様に体が軋む。
それでもゆっくりとだが体を起したケイトは大分体中の痛みが治まっている事に気が付いた。
「どれだけ眠ってたんだ・・・」
ベッドの傍に備え付けられている四角形をした簡素な窓から外を眺めれば、
路地にはギルダが言う通り人っ子一人見当たる気配は無い。
そんな中でケイトは怪我を治療してくれたであろうリコの事を思い浮かべながら、
自分の体中に巻かれている包帯一つ一つに手を触れた。
まるでリコの温もりを感じ取るかの様に。
「里へ・・・帰るか・・・」
ケイトは未だぎこちない体を労わる様にゆっくりとベッドから立ち上がると、
棚に置かれた魔剣と自分の服である水色を基調とした民族衣装へと手を伸ばす。
すると、服の間からケイトが”護”と彫ってリコへと渡した石が床へと転がった。
「・・・」
一瞬悔しそうな表情を浮かべるとケイトは黙したまま魔剣と共に懐へと仕舞った。
「魔剣も里へ返さないと・・・。妖精の言葉を真に受けて英雄気取り・・・。
笑うしかないな。いや・・・ただのバカか・・・」
ケイトの言葉に対してまるで部屋のドアが怒り出したかの様に突然勢いよく開き、
偉そうで見下した言葉と共に力強い言葉が部屋の中へと響き渡る。
「あんまり私の守護人(見習い)をバカにしてほしくないわね。
バカにするのは水巫女である私よ。それ以外は誰一人として許さない。それが例え本人でもね」
ケイトはすぐその声主がリコだと分かると共に、
体中へ電流が流れたのではないかと思う程に旋律した。
振り向けばやはり(・・・)少し怒っていて、強気なリコがそこにいた。
「リコ・・・おまえ・・・」
「私をお前呼ばわりとは聞き捨てならないわね」
「いや・・・だって・・・ギルダさんはもう水の神殿に向かったって・・・」
「またギルダさんか・・・誤解を招く様な事言わないでください!そこの人!」
そこの人と言われてそーっとドアの影から顔を覗かせるギルダ。
「俺はちゃんと”此処を出た”って説明したぞ。なあ、譲ちゃん」
「童は知らん!リコと一緒に食料の確保に出ておったのじゃからな!それを知ってて話を振るでないわ!」
ギルダの体に隠れていて見えなかったものの、
レアラもまたその後ろでリコ達の様子を見ていた。
あれ?そうだっけ?と惚けた表情を見せるギルダとレアラの会話に、
呆れた表情を見せつつもリコは再度口を開く。
「まあ、そういう事だから、もう旅支度ができてるわ。
5日も寝ていたケイトのおかげでね」
(それは嫌味に聞こえるぞ・・・)(それは嫌味と捕らえられてもおかしくなかろうか・・・)
リコの言葉にギルダとレアラは表情を引きつらせながら同じ事を考えていたが、
この時ケイトがリコに対する特別な思いを抱いている事を確認させられる羽目になるだけだった。
「俺・・・ごめん・・・俺・・・ごめん・・・」
ケイトは胸を高鳴らせながら俯き、泣いている事を隠すかの様に目元へ手を当てた。
それでも溢れ出る涙は床へとポタポタと落ちていく。
「リコやみん・・皆に迷惑かけて・・・。すぐ里へ・・・帰るよ」
「何言ってるのよ。さっき言ったでしょ。あんまり私の守護人をバカにしないでほしいって」
「え?」
「もー!鈍いわね・・・貴方を私の守護人として認めます。見習いだけどね」
リコとケイトの間で沈黙が流れると共に、
背後でその光景を見つめているギルダはレアラに呟いた。
「リコも割りと遠まわしな言い方だと思うんだが・・・気のせいか?」
「ほんと・・お主は空気を読まんぬのな!?黙ってこの状況を見守らぬか!」
「へいへーい」
(あんた達の声聞こえてるんですけどね!?)
ギルダ達の会話を引きつった表情で聞いているリコの元へ、
ケイトは目元を赤らめながら真剣な表情で口を開いた。
「でも・・・リコには心当たりのある人がいるんだよな・・・?
それは良いのかよ・・・」
「あの時の事覚えてたんだ・・・。そうね・・・あの人は今頃何してるのかしらね。
相当強くなっているでしょうね」
リコの言葉からその人への信頼感はとても強い事がケイトにも窺い知れると同時に、
嫉妬と自分の不甲斐なさが心の中で入り乱れ高まっていくのを感じた。
「でも、その人を超える自信があるんでしょ?」
「あ・・あるに決まってる!でも・・・俺は闇の精霊を持ってる・・・里から認められない」
「そんなの私が踏み倒してあげるわ。巫女を守る。それが守護人の役目なんだからね。
誰にも文句は言わせないわ」
「あ・・・ありがとう」
真正面きってお礼を言われるのが苦手なのか、
ケイトの言葉にリコはむず痒そうな仕草をすると共に言葉を詰まらせた。
「まぁ・・・とりあえず、その手の中にある守護玉を貸してくれる?
巫護の首飾りにするから」
「え、あ・・お・・おう。っていうか・・・本当にそんなんで良いのか?
父さんが持ってる巫護の首飾りは真珠の様に綺麗な玉してたけど・・・」
「しょうがないでしょ。巫護の首飾りは水の里へ行かないと作れないんだから。
今は即席で作るだけよ。それにどうせ巫護の首飾りなんて守護人を表す形だけの物よ?」
「それはそうだけど・・・。その証がほしくて・・・何人リコに打ちのめされたと・・・」
「ん?何か言った?」
「いえ・・・何も・・・」
ケイトから守護玉(現在はただの石)を受け取ったリコは、
背後に控えるギルダとレアラの方へと体を向け何かを探す仕草を見せた。
「あれ、ルーリいない?」
「そういえば見当たらんのう・・・」
リコの言葉を受けレアラも小屋を出て辺り一帯を見渡すが見つかる気配はない。
「どうせまた迷子にでもなってるんだろ」
「あのギルダさん、・・・さり気無くルーリをバカにしないでもらえます?」
リコはギルダに向かって怒りを押さえ込むかの様な低い声で反論するものの、
レアラが何かを見つけたのかリコの名前を呼んだ。
「リコー、ルーリなら今こっちに向かって・・・」
「助しゅけてくだしゃい〜〜〜!?うぁ〜ん!」
「あ・・・」
レアラの”しまった”と言わんばかりの渋った表情とは裏腹に、
その横をラリムに追われ叫びながら全速力で飛びぬけていくルーリの姿があった。
目の前で繰り広げられる光景に状況が飲み込めないリコは言葉を喉に詰まらせた。
「ちょ・・っと、何があったの?あれってラリム・・・よね?
追いかけられてるのはルーリに見えたけど・・・」
駆け抜け遠ざかっていくルーリ達の後を見つめながらレアラへと確認するリコに
レアラは沈黙したまま突然その後へ続くかの様に走り出した。
「ちょっと・・・レアラ!?」
「ラリムは大の妖精好きなんじゃ〜!止めてくる〜!」
「え・・・食べたりしないわよねー?!」
「保証しかねる〜!」
遠ざかって行くレアラの言葉にぎょっと表情を歪ませたリコもまたその後を追いかけていく。
その様子をやれやれと言わんばかりの表情で見送るギルダ。
「この調子でほんとに旅なんて出来るのかね〜?」
冗談めいた言葉を口にするギルダはふと、俯いたまま何かを呟いているケイトへと視線を向けた。
すると、ケイトは突然両腕を高く上げると共に叫んだ。
「よっしゃー!っしゃっしゃっしゃ!」
おどけた表情を見せるギルダを他所に、ケイトは部屋の中を歓喜の声をあげながら歩き出す。
「お・・・おい、大丈夫か?」
「俺・・・すっげーうれしい!嬉しすぎて・・・もうわけわかりません!
何が何だかわかりません!よっしゃー!」
仕舞いには床へ倒れこみ空へお祈りを始める始末だった。
そんなケイトを横目で見つつ、ギルダは頭を掻きながらやれやれと言わんばかりに呟いた。
「俺の方がわけわからねえよ」
読んでいただきありがとうございます。
42章であいましょう。