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闇の力⑥

過去編は次回で終了予定です。では本編へどうぞ。


そして、時間はケイトがリコを探しに飛び出した時間まで遡る。


リコは月明かりに照らされた氷でできた芸術と言うべき銀世界の中を懸命に走っていた。

地面には霜が張り森全体が樹氷と化している。


そこへ時折森を吹き抜ける風が小さな氷の結晶を胞子の如く舞い上がらせる。


「う・・・視界が悪くてまともに走れない・・・。それに酸素が薄く感じる・・・」


白い吐息を荒く漏らしながら進むリコの脚は時々止まり、走る事が困難な状態に陥っていた。


「でも・・・急がなきゃ・・・」


そんな時、ふと意識が遠のいたリコは脚を木の根っこに躓き地面へと転んだ。

すぐに起き上がろうとしたが自分の手足ではない様に動かなかった。


(・・・体が動かない・・?)


普段から多くの精霊を纏っているリコにとって凍傷は無縁の産物。

しかし、今のリコを取り巻く状況は違っていた。


ケイトへ精霊を分け与えた上にサキ達にはシールド魔法をかけた。

更に、この零度なる環境下を甘く見ていた結果がこの有様だった。


(精霊の力が持たない・・・。眠い・・・)


体の感覚がほぼ無に等しいリコは、自身の思いとは裏腹に段々と意識が遠のきはじめていた。


そこへおぼろげな声が幻聴の様に耳へと入ってきた。


「・・・しろ!しっかりしろ!」


薄っすらと目を開けたリコの視界に入ってきたものは、自分を心配そうに見つめるケイトとルーリの姿だった。


「ケンタ・・・。それに・・・」


「無茶しやがって・・・。それに、体が冷え切ってるじゃねえか。

巫女は精霊の加護があるんじゃねえのかよ」


ケイトはリコの体が凍りつく程の冷たさに驚き、すぐさま抱き上げ自身の手でリコの腕を摩り始めた。


「ケイト様、リコ様についていた精霊にほとんど力が残っていないようでし」


「じゃあ、どうすればいい?ルーリならなんとかできるだろ?」


「え、あ、はい・・・」


当たり前の様に問いてきたケイトに、ルーリが不安そうな表情を一瞬見せたのをケイトは見逃さなかった。


恐る恐るリコの傍らへと近寄って行くルーリ。


「どうした?いつもらしくないな。リコと何かあったのか?いや・・もし何かあったとしてもそんな事は今理由にならねえ。

リコの命を救えるのはお前しかいないんだぜ?」


リコの傍へ近寄り青い光を放ち始めたルーリへとケイトは少しだけ荒っぽく話しかけた。

しかし、ルーリは表情を濁したまま中々返事を返さない。


「・・・悪かった・・・。何か事情がありそうだな」


「ううん。違うんです・・・。ただ・・・少し怖かっただけです・・・」


「怖かった?どういう事だ?」


ケイトは冷え切った体のリコを抱きかかえながら、ルーリとリコの間であった事実を聞いた。


「俺も殆ど同じみたいなもんだよ。リコに冷たくあしらわれれば辛いさ。

でも、理由が無ければリコはそんな事しねえ。あんがい理由ははっきりしてるもんだしな。

小さい頃から見てるから分かる」


「私は・・・わからないです」


「まあ、過ごした時間は関係ないけどな。大事なのは今だと思うぜ?」


「今?・・・ですか?」


「ああ。知らなかった事はしょうがない。でも、知った今、その瞬間からできる事があるって事だよ。

俺は知らない事を知る為に此処へ来た。

ルーリは、今知った事がこれからの糧になるんじゃねえか?」


「・・・あは。あははは」


ルーリは何故か突然泣きながら小さく笑った。


「どうした?変な事でも言ったか?」


「い・・・いえ・・・。ごめんなさいです。ただ・・・」


「ただ?」


「いつもリコ様から”バカ”って言われてるのに・・・全然”バカ”じゃないなと思って・・・あはは」


「バカに決まってるぜ?だって・・・いや・・・だからこそ、この時代に来ちゃったんだからな」


「・・・。それじゃ・・・私も・・・バカ・・・ですね。あは」


「ああ。バカ二人組みだな。まあ俺のカンじゃあ、リコの頭の中で信じられるものは自分だけ。

それと、守るべき者達のバランスが悪いんだ。つまり大切=信用できるっていうのは違うって事だな」


「え?どういう事かわからないです。大切なものは信用できるではないのですか?」


「それは本の中の話って事だ。さて・・・」


ケイトは自分の腕の中でまだ体が冷たく、意識が朦朧としている様子のリコを抱きかかえながら立ち上がった。


「時間はあまりない。リコには申し訳ないが一緒に来てもらうしかないな。

此処に放置するわけにもいかないし」


「はいです!リコ様に魔力が戻るまでもう少し時間はかかるとおもいしゅが、体温の低下はこれ以上悪化はしないはずです!」


「うし。それじゃ、セーラ様を助けに参ろうぜ!」


「了解でし!」


ケイトはリコを抱きかかえルーリはその横をふわふわと浮かびながら、3人は更に南下を目指し走り始めた。


「ケイト様、一つだけ聞いてもいいでしか?」


「何だ?」


「さっき”小さい頃”って言った時、何か・・・遠くを見てるような・・・そんな風でした。

小さい頃、私と似たような経験した事があるんでしか?」


「うーん・・・。似たようなって訳じゃねえけど。

俺とリコがまともに話しをする様になるまで時間掛かったなって思ってな。

1年位か?」


「1年!?」


「う・・うん。まあ。色々あったんだ。俺にも、リコにもな」


「そう・・・ですか」


ケイトは少し複雑な表情を見せたルーリへと再度口を開いた。


「何しょげた顔してんだ。言ったろ?今が大事だってな。

そんなに俺、不幸そうな顔してるか?」


「いえ、そんな事ないです!」


「だろ?って・・・ん?」


急にケイト達の行き先を阻んでいた木々が消え白い氷の霧も晴れた。

同時に、広がる氷の荒野。


荒野だった地面は全て凍り、所々に氷柱が月の照らす空へと伸びている。

地面に張り巡らされた氷が鏡の役割をし、自分自身が宙を飛んでいる様な感覚さえ覚える。


「何だこれ!?本当に此処は荒野か?」


驚愕するケイトの足元に張られた氷の奥深くには確かに土が見えた。同時に、土の上に張り巡らされた氷の厚さも確認できる。


「私もこんな世界初めてみたですよ・・・」


ケイトとルーリが周囲に視線を奪われていると、リコがケイトの腕の中で身じろぎした。


「ん・・・お父さん・・・、・・・あっ!」


リコを覗きこむ格好を取っていたケイトは、急に体を起したリコと頭をぶつけた。


「痛っ・・・」「痛ったーい・・・。ってケンタ!」


「お、おう。目が覚めたようだな」


ぶつけた自分のおでこを抑えるリコと片目を瞑って応えるケイト。


「此処は?!って・・・」


リコはケイトの顔から体へ視線を移すと、自分がケイトに抱かれている事に気付き赤面した。


「あ・・・ありがとう。・・・助けてくれて・・。もう大丈夫」


「お・・おう」


少し照れた様子のリコはケイトの腕から降りると周囲を見渡すと同時に、ケイトの横に当たり前の様に並び立つ妖精を見つけた。


「えっと・・・。ケンタ・・・の妖精?」


「初めましてリコ様!私はリコ様の妖精でございます!」


「え?」


緊張し強張った様子のルーリはリコにハキハキと応えるが、リコは困惑気味に言葉を詰まらせた。


「私の妖精?・・・え?どう言う事?どう言う事?」


「え?あ?え?!」


リコに詰め寄られ困惑するルーリの傍らではケイトが罰が悪そうな表情を見せていた。


「ルーリはリコの妖精にいつかなりたいって言いたかったんじゃないか?」


「え、あ・・・はい!そうなんです!リコ様の妖精にいつか!」


「そう・・よね。私まだ巫女候補ですらないし。

ってちょっとまって!そもそも何でケンタと妖精が一緒に行動してるの!?」


「そりゃ・・・、話せばとても長くなる話だな?」


「え、あ・・・そうなりますです・・・はい・・・」


ケイトの引きつった笑顔から空気を読んだのか、ルーリはたどたどしい表情と言葉ながらもケイトと話を合わせていく。


「んー・・何か隠してない?」


「何も?」「何も!?」


リコの言葉にケイトは淡々と応えるが、ルーリはやはり表情が引きつっている。


「それより、先を急ごうぜ?セーラ様を助けなくちゃだろ?」


「あ、うんうん!あ、それと、遅くなっちゃったけど、ルーリちゃんだよね?えっと・・・私の精霊に魔力を分け与えてくれてありがとう」


「い・・いえいえです。こちらこそです!」


リコとルーリは顔を見合わせ極自然な笑顔を照らし合わせる。

そんな二人の頭へケイトは手を軽く触れた。


「さて、行こうぜ。時間は待ってはくれないからな」


「そうね。行きましょ。嫌な予感が凄くするし」


走り出した3人は聳え立つ氷の支柱を避けながら進んでいく。


「嫌な予感って、何か感じるのか?」


「ううん。そういうわけじゃないけど。ただ・・・不安が胸を締め付けてくるの」


リコは何かを思い出したかの様に表情を落とした。


リコと共に行動してきたケイトにもなんとなく気持ちは伝わってきた。


多くの家々が焼かれ、そして、自分の為に死んでいった者。

それは責任感が強いリコの心をきつく縛り付けたのだろうと。


ケイトは自分が同じ立場なら平静を保てるだろうか?と疑問が頭を過ぎる。


不安に苛まれながらも懸命にすべき事へ脚を踏み出す幼き少女リコに、

ケイトはうまく言葉を返す事ができなかった。


「そうか。ルーリはどうだ?」


「私もまだ感じないです。広感知系能力タイプではないので・・・」


「しょぼくれるなって。今はそんな場合じゃないぞ?」


「す、すみません!」


ケイトとルーリが話をしている姿をリコは横目でじっと見つめている。


「どうした?」


「妖精ってとても臆病で馴れ合うことを好まないのに。やっぱりケンタは不思議な人ね」


「そうかな・・・」(まあ、確かに今この状態が人と言えるか微妙だが・・・・)


しばらく歩くと、リコがケイトの服を掴み喉の奥から搾り出した様な声で突然叫んだ。


「待って!」


「どうした?」


ケイトは服を掴んできたリコへと振り向くと強張った表情で拳を強く握っていた。

それに続くかのようにルーリも怯えた表情を見せていた。


「ルーリもどうした?」


「いるの・・・。この先に・・」


「・・・」


リコの言う意味がケイトにはすぐに理解できた。

理解できたと言うよりも、来るべき時が来たという覚悟がケイトの頭を過ぎり表情も強張っていく。


”この先には水の里を襲った者がいる”


ケイト達は目と目を合わせた後、固唾を飲みつつ歩を進めた。

すると、荒野には大剣を背負った一人の少女とその傍らに仰向けで倒れているセーラの姿があった。


そのセーラの姿にケイト達一行は息を呑む。


ガラスの様に砕けた片腕と両脚。それに加え凍傷のせいか体が黒く変色し始めていた。


「セーラ様!?」


リコだけが大声でセーラの名を呼ぶものの、この時ケイト達はすぐに駆け寄る事ができなかった。

できなかったと言うよりも、人間の危機的本能が脚を止めさせたと言った方が良いのかもしれない。

それ程に、セーラの傍らに立つこの少女に不気味さを感じぜずにはいられなかったのだ。


「あ、あんた!セーラ様に何をした!」


「ん?誰?」


リコは強張った表情のまま上ずった声をひねり出した。

それに対し、振り返った少女は少し不機嫌そうな表情をしていた。


「あれ、魔剣持ってくるのって魔物じゃ・・・えっ?・・・。

サーガ・・・様?!」


少女が驚きの声をあげ立ち竦んだ瞬間、

僅かだが、少女の体から放たれていた殺気の様な物が薄れたのをリコは見逃さなかった。


「お、おい!?」


リコはケイトの呼び声を無視して真っ直ぐセーラと少女の方へと走り出した。

同時に、走りながら魔法で詠唱したのかリコの右手には氷剣が生成しつつあった。


「え?」


少女はケイトに視線が釘付けだったのか、真横に突然現れたリコにひょんな声をあげた。


そんな少女にリコは威嚇をするかの様に当たるか当たらないかスレスレの所を氷剣で薙いだつもりが、

思ったよりも少女が動かなくて服の一部を切った。


すると、リコは急に血相を変え言葉無く地面へ崩れ落ちる様に腰を落とした。


「リコ!?」


尋常ではないリコの様子にケイトは少女からリコへと視線を移した。

しかし、それとは裏腹によろめいた少女は苛立った様子で先程よりも更に大きな殺気を体から放ち始めた。


「お前!」


そんな少女は血相を変え、腰を落とし動けないリコに向かって背中から大剣を抜き出すと思い切り一閃した。


”ガキィーーン!”という剣と剣がぶつかり合う激しい音が周囲へと響き渡る。


「やめろ!」


少女は自分とリコの間に割り込んだケイトを見上げて更に驚愕の表情を見せた。


「サーガ様!?何故です!?」


真剣に訴えかける少女と困惑しながらも少女を止めに入るケイト。


両者は間に剣を交え、どちらも譲ろうとしない臨戦態勢のまましばし膠着状態が続く。


そんな中、少女は興奮気味だった表情から冷静さを取り戻す様に力を抜くと後方へくるりと回転しながら下がった。


「サーガ様・・・」


少女が自分の事を知り合いみたいに言う意味がわからないケイトは、戸惑いながらも自分の背後で少女を困惑した表情で見つめるリコへと視線を移した。


「リコ、大丈夫か?・・・リコ?」


「あ・・うん・・・」


「セーラ様の具合は?」


リコはケイトに促されるまで少女から中々目を離さなかった。

同時に、リコが少女を見る目に妙な違和感をケイトは感じていた。


リコは後ろ髪引かれる思いでセーラの方へと向き直ると、

セーラの状況を目の当たりにし再度息を飲んだ。


「っ!?」


セーラの姿はあまりにも酷かった。


水巫女の衣装である白を基調とした水色の斑模様をした服は所々赤く染まり、

対魔法に強い衣装でありながら所々破けていた。


何より腕と脚が無く、これで生きていられるものなのか?と問いたくなる様な光景が目の前に広がっていた。


そんな最中、リコはまず嫌が否でも生死を確認する為動脈が流れる首へと恐々手を伸ばした。


「っ!?生きてる!」


セーラの脈は弱くも動いていた。それを確認したリコはすぐにセーラの口元へと手を伸ばす。

僅かだが呼吸も確認できる。


リコの高揚する声を聞きケイトも目の前に立つ少女を警戒しつつセーラの顔を覗き込んだ。


治療について母から色々な事を教わってきたとはいえ、目の前で倒れているセーラの状態にリコは生唾を飲み込んだ。


いざ治療を始めようとリコがセーラの胸元へと手を持っていくと、自身の手とは思えない程振るえていた。


「・・・」


じっと震える自身の腕を見つめながらもリコは目を瞑り大きく深呼吸をすると、やるべき事が見えた様に真剣な眼差しへと目つきが変わった。


「セーラ様。セーラ様。」


リコは血で汚れたセーラの肩へと優しく触れるように手を置き、体に支障がない様に耳元で名前を呼びながら祈る思いで揺すった。


同時に頭の中で母の言葉が反復していた。


「いい?此処は一番大事な事。人は大怪我による出血が激しいと痛みを感じなくなるわ。

感覚がやられ意識の混濁。そして、意識を完全に失い眠り、やがて死にいざなわれる。


怪我と出血、そしてそれにかかる時間に対し、治療士と患者のシンクロが生死を大きく決める。

故に、怪我を治療すれば生き返るという安易な考えは治療士にとって最も犯してはいけないタブーなのよ。


わかった?リコ?」


「うん。でも、呼びかける時間があったら治療始めた方がいいんじゃないの?」


「良い質問ね。じゃあ、反対に聞くけど、リコが大怪我してそのまま死んでしまいそうだったらどうしてほしい?

無言で治療だけしてくれれば良い。って思う?」


「・・・嫌」


リコはアーシャの言葉に対して、少しだけ辛そうな表情で応えた。




しばらくするとリコの声が聞こえたのかセーラは薄っすらと目を開けた。

しかし、出血多量等の意識混濁からか視点が定まっていない。



「セーラ様!?今助けます!意識をしっかり持ってください!」


セーラは目の前で大きく口を開けて何かを言っているリコの様子が見て取れた。

しかし、それだけ。


この時セーラは耳の聴覚神経もやられ音を聞き取れなくなっていた。

同時にもう間もなく訪れる死をも予感していた。


そんな状態でも、セーラには今やらないといけない事が一つだけあった。


「・・・」


「え?」


セーラは自分の体を診てくれているリコへ、今にも生気を失ってしまいそうな表情で弱弱しく口を開いた。

しかし、喉から逆流する血溜まりが口の中に広がり言葉を奪う。


「セーラ様もう喋らないで!無理をすれば内蔵系に傷がつくかもしれないわ!」


セーラは一生懸命自分の心配をしてくれるリコに向かって少しだけ笑った。

そして、リコに説得されるままセーラは体の力を抜き上空に浮かぶ月へと視線を移した。


「ルーリちゃんいる?」


リコは自分の背中側に立つケイトの方へと振り向くと、ルーリの名を呼んだ。


「あ、はい!ここにおりますしゅ!」


ルーリはケイトの体内に隠れていたのか、すっと飛び出しリコの隣へと並んだ。


「ルーリちゃん、お願いがあるの。セーラ様の血液と私の血液の相性を調べてもらえる?」


「え、あ、はいです!」


ルーリはリコの有無を言わせないと言った表情に慌てて返事をすると、

セーラの胸元へと降り立ち服部に染み付いた血を小さな手で撫でた。


すると、ルーリはじっとしたまま機械的に視線だけを右往左往させた。


「リコ様」


「うん。はいこれ。私の血よ」


ルーリはリコが差し出した小指についた血液をサッと手で撫でる様に触れ、

また機械的に視線を右往左往させた。


「相性は80%です。どうなさるんでし?」


「血連結心をやってみる」


「けつれんけつしん?」


リコがセーラの首元にかかる服を大きく広げると、胸元は血流が悪くなっているせいか青白く変色し始めていた。


「・・・」


リコは血が出ている自分の小指をセーラの大動脈が流れる首筋から胸部へと撫で降ろし手を止めた。


「水流:血連結心!」


リコは魔法を唱えると同時にゆっくりと手を上へと引いていく。

すると、リコの小指を赤い鎖が絡みつくと同時にセーラの胸部から細い赤い鎖が引き出されてきた。


「おぉ!?」


初めて見る魔法にルーリは驚きの表情を隠せない。


ゆっくりと慎重にその赤い鎖を引き出していくリコ。

しかし、途中で赤い鎖はぷつりと切れ氷の床へと散らばった。


「う・・・」


千切れた鎖はリコの悔しそうな表情とは裏腹に、氷の地面へ吸い込まれる様に儚く消えて無くなった。


「もう一回・・・」


リコは再度同じ行為を試みるが赤い鎖は無情にも途中で千切れた。


「どうして!何が足りないの!?魔力?方法!?・・・一体何!・・・!?」


「リコ・・・様・・・?」


リコは悲痛に訴えていたにも関わらず急に黙り込み、空をじっと見つめるセーラの表情を見つめた。


「もしかして・・・嫌だ・・・許さない!許さないー!」


リコは顔を地面へと向けながらうずくまる様に悲痛な声を漏らした。


そんな最中、少女は大剣片手に困惑気味な表情でケイトをじっと見つめていた。


「ヤミネ、どういう事!?何でサーガ様が此処にいるの!?」


少女の問いに呼応するかの様に少女の影は生き物の様に揺れ動く。


「・・・あれはサーガじゃない・・・」


「どう言う事!?」


「知らん。だがサーガじゃない事は確かだ。良く観察してみればわかる。

本質的な器が違う。うまく言えないけどな。

それよりも、そろそろあの女が死ぬぞ?俺達は俺達の仕事をするべきだ」


「そんな事わかってる!でも・・・」


「いつまでも女の腐った様な台詞を抜かすな。

良い子ぶるのはサーガの前だけにしとけ」


ヤミネの言った何かがカンに触ったのか、少女は急に普段通りの仏頂面を取り戻すとケイト達へと視線を戻す。

それでも何か踏ん切りがつかないのか、一歩を踏み出せない少女にヤミネは背中を押す一言をかけた。


「もう一人のお前をまた使うか?」


「・・・嫌。あの子が出てくると気分が悪いの」


少女は小さな声でそう言うと大剣を背中の鞘へと戻し目を閉じた。

そして、目を開けた瞬間動いた。


「!?」


どうにも自分の背中で起きている状況に後ろ髪を引かれるケイトは、集中と言う言葉からは皆無だった。

その為か、突然動いた少女に目が追いついていかず、むしろ消えた様に見えた程だった。


それは動揺、焦りとなりケイトの体を縛る。


少女の居場所を把握できないケイトはとりあえず背後にいるリコへ注意を促そうと振り向いた。


「リコ!」


すると、そこにはリコの首を締め上げる少女の姿と、困惑気味に後ずさりするルーリの姿があった。

リコは抗う様子も無く、ただ遠くを見つめた瞳からは涙が溢れていた。


「やめ!?」


ケイトは咄嗟に少女の腕へと手を伸ばそうとしたが、何か強い力がケイトの腕を押し留める。


「何だ!?」


ケイトは動かない自分の腕へと視線を移すと、何か黒い影の様な物が巻かれていた。


「何だこれは・・・まあ、いいや。とにかくやめろ・・・・!?」


今度は少女へと歩み寄ろうと脚を踏み出すが、見えない力で体中を羽交い絞めにされているかの様にピクリとも動かなかった。


「え!?」


ケイトは動く目だけを頼りに自分が置かれている状況を把握する為視線を上下させる。

すると、先程まで腕だけだった黒い影の様な物は脚からから胴体へと絡みつく様に模様を描いていた。


「くっそぉぉ・・・」


ケイトは無我夢中で強引に少女の腕へと手を伸ばす。

だが、状況は変わらない。

一つだけあるとすれば、リコの首に手を回している少女の表情が少しだけ俯いた事だった。

読んでいただきありがとうございます。

次回36章でお会いしましょう。

もし、お時間がある方は感想等書いてくれると励みになります。

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