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闇の力⑤

今回の話は戦闘が主ですね。

それと、今回の話にリコはでていません。

その一方で、グリムは凍てつく雹が降りしきる中、頭から尾まで約10メートル程の体長をした黒狼と対峙していた。


「思ってた以上の魔力だな・・・」


グリムと対峙する黒狼は、先程まで見てきた魔物よりも体中に血管が浮きでており段違いに太い脚と腕をしていた。

そして、何より黒い煙が駄々漏れ状態。いや煙に侵食されていると言った方が分かりやすいかもしれない。


グリムのぼやきも束の間、黒狼は強靭な脚力をバネにグリムへと勢いよく飛び掛る。


それに対しグリムは寸前で体を左に逸らせ黒狼の脇腹へと長剣による斬撃を放つ。

しかし、グリムの一撃は黒狼の皮膚に届くこともなく、黒い煙がクッションの役割をするかの様に受け止めた。


「くっ・・・」


手応えを感じられないや否やグリムはすぐに剣を引き抜き後退した。

同時に自分のスピードに妙な違和感を体に感じていた。

(・・・僅かだが・・魔力を吸い取られた・・・?)


黒狼は考える時間を与えないかの様に間合いを開けるグリムへと牙をむき出しすぐに追走を始める。


それに対し、グリムは素早く木の枝へと跳躍し長剣を背に仕舞うと腰から短剣を引き抜き構えた。


「早いな・・・」


グリムは追走してくる黒狼の動きを読みながら、間合いを計る為黒狼を背に木々を渡り飛んでいく。


(奴が食った宝玉の欠片は最低3個・・・。魔力、パワー、スピード・・・共に俺より上か・・・それに・・・)


黒狼の速さはグリムよりも数段早い。

それ故に、すぐに追いつかれ黒狼の牙や爪がグリムを捕らえ襲う。


「くっ・・・」

(弱点が見えない・・・)


それでもグリムは黒狼の攻撃を一度もまともに受ける事は無かった。


アギトとの戦いと違い黒狼は貪欲に攻撃をしかけてくる。それはリズムなる音となりグリムの体中を過敏に動かしたからだ。


短剣をうまくつかい、黒狼の攻撃を最小限で退け森の中を立ち回るグリム。


だが、これでは埒が明かない事もグリムは承知していた。むしろ体力面では圧倒的に黒狼の方がグリムを上回りいつか殺られてしまう事も。


この戦況下に置いて、グリムの頭にはもう一つ不安要素があった。

それはケイトの参入。



そもそもグリムは此処へ来る前にユン婆からケイトの状況を聞いていた。

こんな状況になって良い気味だと考えていたグリムにとって、思いも寄らぬユン婆直々の依頼。


「里の窮地・・・力を貸してくれぬか?」


里にもう関わらないと決めていたグリムにとってはすぐには首を縦に振らなかった。

しかし、”アギトと会えるかもしれぬ”と言う言葉にグリムは結局の所動かされた。


同時に、この件が片付いた暁には水の里を出る事を許すという交換条件もあり、グリムは渋々了承した。


それでも話を聞いていく過程でケイトが未来から来た事など信じられなかったグリムだが、

魔剣の力とアギトが死ぬ前に残した言葉が”もしかしたら”という可能性に変えた。


アギトに結局の所会えたものの、グリムにとって誤算だったのはケイトの力。

自分と同じ貴重な闇の精霊を纏っていながら、闇の力を使いこなせていなかったからだ。


戦士でも精霊を纏う者は多い。

多くの精霊を纏う事はまずないが、精霊との契約の元に魔力へと換えられた力をコントロールしてこそ有能な戦士と言える。


どの精霊を纏い使いこなすかがポイントとなるが、ケイトは闇雲に変換し体内へ留める事もできていなかったのだ。


そこから言える事は一つ。


精霊の力と魔剣の力によって生きながらえているケイトは力を使いすぎても消滅し、殺られても消滅する。それに加え使える力は暴走を含め未知数。


それをどのタイミングで投入するかが全ての戦況を左右する事は明らかだった。

反対に言えば、投入しなければ戦況は大きく変わる事はないのだ。


(こいつを此処で倒さなければ不利になる。ケイトに此処で力を使わせても不利になる・・・。

どうする・・・)


最小限の動きで戦うグリムは苦渋の表情を見せていたが、何かを閃いたかの様に腰に括りつけてあった袋から透き通る輝きを放つ宝玉の欠片を一つ取り出した。


「・・・賭けてみるか・・・って!?」


手の平に乗った宝玉の欠片を見ていたグリムははっとして顔を上げると、ケイトとルーリが黒狼の後方にて追ってきている事を感知した。

その姿は肩で息をし、何処かの枝で擦り剥いたのか服が所々破れている。


(そうか・・・魔物の傷跡を追ってきたのか)


「しかし・・・。いや・・・魔剣ならもしかして・・・。だが・・・どうする・・・」


グリムは何かを思いつくや否や反撃開始とばかりに向かってくる黒狼へと突っ込んでいった。

もちろん、真っ向勝負で黒狼へダメージを与える事はできなかった。しかし、黒狼の脚は止まった。


グリムは黒狼の更なる反撃によって後方へジリジリと押されながらも、

自分の方へ注意を引く様に隙あれば攻撃を繰り返した。


しかし、それはグリムの体力を大幅に削る行為でもあった。


そんな黒狼とグリムの戦いを見入りながらケイトは体を震わせていた。

どっちかと言うと、黒狼の大きさと嫌でも伝わる膨大な魔力に体が否が応でも反応すると言った方が正しいかもしれないが。


「何だよ・・・あれ・・・」


「あの魔物は危険です!危険です!」


ケイトの頭を警鐘代わりとばかりにポカポカ叩くルーリ。

しかし、それすら感じられない程ケイトは目の前の現実に目が釘付けだった。


「と・・・父さん・・・」


「い・・・一回隠れましょう!ええ!そうしましょう!」


「だめだ」


ルーリからの提案に真っ向から反対意見を繰り出したケイト。

その様子を伺うかの様にルーリが頭上からケイトの表情を見下ろすと、ケイトは二人の戦いに吸い込まれるかの様にじっと見つめていた。


その表情は歯を食いしばり自分を奮い立たせている様だった。


「俺はやる・・・。俺達はセーラ様を助けに来たんだ。此処で引けばリコと一緒に並ぶ資格がない気がする。それに・・・」


「え?」


「それじゃ、行くぜ!ルーリ力を貸してくれよ!」


魔剣を構えて黒狼の背後へと突っ込んでいくケイト達。(ルーリはもちろんパニックに陥っているが・・・)


それを確認したグリムは黒狼の黒い煙に飲み込まれる程近くまで眼前へと飛び出した。


「こっちだ!」


グリムは今までの様にカウンターから一撃を狙う攻撃から、近距離からの短剣による素早い多段突きによる連続攻撃へとスタイルを変えた。


しかし、黒狼の纏う黒い煙が素早くグリムの持つ剣先へと集まり勢いを次々に殺していく。


「・・・」


グリムは手応えがない事を感じるや否や短剣を黒狼の右頬すれすれに向かって投げた。

すると、短剣の勢いを殺そうと黒い煙がそこへと集まっていく。


この時黒狼を包む黒い煙のバランスが乱れた。即ちグリムから見て黒狼の左側面に集まる黒い煙の密度が若干薄くなったのだ。


それを確認したグリムは、長剣を背中から取り出すと黒狼の左横っ面を叩くように薙ぎ払う。


しかし、それすらも黒狼の下半身を覆っていた黒い煙が移動してきて受け止めた。


「・・・」


黒い煙は勢いが無くなった長剣の刃を段々と飲み込んでいく。


それを見た途端、グリムは長剣をも手放し両手を眼前で何度も折り合わせる様に重ね何かを唱え始めた。


「闇式:重力 丸力 鎖結!」(やみしき じゅうりょく がんりき ちぇむ)


グリムの手と手の間から真っ黒な丸形をした物が段々と大きくなっていく。

その丸型は中央に稲妻の様な物を迸しらせ、見る見る間にグリムの体を包む程の大きさになった。


「むー・・・これが・・・俺の限界か・・・」


突然目の前に黒い丸型の物体が現れると、黒狼はすぐさまその場を離れようと後方へ跳躍しようとした。

しかし、鎖が張った様な音と共に黒狼は動きをぴたりと止める。


「逃がすと思うか?」


見れば先程投げた短剣と手放した長剣の柄と柄、それにグリム自身の体を結びつけるように黒い鎖が繋がれていた。

その鎖を辿るかの様に黒い稲妻が行き来する。


黒狼は雄叫びをあげながら涎を垂らし体を捻らせるが鎖を引き千切る事はできない。

むしろ、暴れた事により、鎖は複雑に絡み合い食い込んでいく。


「潰れろ」


そんな最中、グリムは手の平に集まった黒く丸い塊を掛け声と共に黒狼の眼前へとぶち込んだ。


黒く丸い塊が解き放たれた瞬間、黒狼の体を包み込む程大きく膨張する様に広がり包み込む。

同時に黒狼とグリム自身を繋いでいた鎖も断ち切れた。


突風による風圧でグリムは後方へと吹き飛ばされ、その直後に黒狼がいた場所の地面が丸く抉れ始める。


「くっ・・。ケイト!聞こえるか!」


目の前で起こる突然の出来事と突風にケイトは飛ばされた後、地面へ爪を立てる様にしがみついていた。そこへ前方からグリムの叫び声が響き渡る。


「父さん!?」


「よく聞け!黒い塊が段々と小さくなってく!そこを一気に魔剣で貫け!」


「は・・・はい!」


グリムの意気込みが伝わるかの様に、ケイトの表情も次第に引き締まっていく。


ケイトの眼前では既に黒い塊が収縮を始めていた。

その間も塊内部から黒狼の雄叫びは鳴り止まない。


そして収縮は途中で止まった。


それを合図とばかりにケイトは突っ込んでいく。


しかし、次の瞬間収縮から膨張へと黒い塊は動きを変えた。


「「え」」


ケイトもグリムもこの事態に動きを止めた。


ケイトは困惑し、グリムの背筋には「まさか・・・」と言う言葉と共に冷たい汗が流れ落ちる。


そして、事態は急展開を見せた。


黒い塊が爆発したからだ。

爆風による風圧は地面の泥や土、雹さえも巻上げ周囲の視界を奪っていく。


そんな中、グリムの体を鞭打つ様に突然黒狼の尾が襲った。


「ぐっ・・・」


なんとか腕を前に回し防御をする事が出来たものの、その衝撃からは逃れられず吹き飛ばされていく。


ケイトは自身の腕で風圧と土埃から視界を守るが、嵐の様な周囲の光景に現状を把握する事はできない。

ルーリに至ってはケイトの髪の毛に掴まり飛ばされない様にする事でそれ処ではない。


「何が起きてるんだ・・・」「ケ・・・ケイト様〜!?」


突如として黒狼の咆哮がケイトの眼前から鳴り響く。

その瞬間更なる大きな爆風が土埃も嵐をも掻き消し、視界の広がった先でケイトが見たものは眼前で大口をこちらに向け今にも食ってかかろうとする黒狼の姿だった。


「・・・」「あわわ・・・」


ケイトは唖然とした表情で開いた大きな黒狼の口を見上げ、ルーリは怯えた表情のまま体を硬直させていた。

この場を離脱しなければいけないという事だけはケイトもルーリも頭で理解はできていた。


だが、体が動かなかった。


例えるならばヘビに睨まれたカエルがしっくり来るだろう。


グリムと黒狼が戦っている姿を見ていたケイトならば、この状況からの離脱は不可能だと体がそう瞬時に判断する。


(飲み込まれる!)


ケイトは恐怖と小さな抵抗を胸に秘め目を閉じた。



自分の体を抱えてくれる腕がケイトを生きていると実感させた。

その腕は小さかった時に感じた温もりと同じ。

必ず守るという絶対の意思の元に。


「父さん!?」


高鳴る胸の鼓動を感じつつ驚きの表情を浮かべるケイトは自分を抱き上げる父の名前を呼んだ。

しかし、グリムはそれに対して何も応えずゆっくり深呼吸をする。


相変わらずグリムの目は黒い布で封じられうまく表情を読み取る事はできない。

だが、ケイトは根拠もなくこう思った。


”父さんはやっぱり誰よりも強い”


ケイトはさっきまで恐怖で体が動かなかった。

しかし、状況は良くなっていないにも関わらず”絶対的安心””大丈夫”という安堵感が心を満たしていくのを感じた。


「お前は、すぐにこの先へ走れ。そこにリコがいる」


「え?・・・え?!」


突然グリムが言葉にした”リコ”という単語にわけがわからず困惑するケイト。


その傍ら、不機嫌そうに吐息を漏らしグリムの背中を睨みつける黒狼。


「リコは北の森に戻ったはず・・・。どう言う事?」


「あのお転婆がそもそも素直に戻ると思うか?それはお前ならわかるだろ」


ケイト自身思い返せばリコの素直さに不安はあった。しかし、どんどん悪化していく状況に忘れていたのだが。


「た・・・確かに・・・。でも他の人達は?」


「何かして振り切ったんだろう。足音は一つ。まっすぐセーラと災いの元・・・いや・・・奴らの下へ向かってる」


「奴ら?父さんは何か知ってるの?」


「・・・。とにかくリコの後を追え。コイツは俺が引き受ける」


「でも、父さん一人じゃ無理だ!」


「お前が此処に来た目的を思い出せ。それに、未来の俺は生きていたのだろ?」


この時、気のせいかもしれないが、ケイトにはグリムが笑った様に見えた。

どうしてか?と問われれば応えようもないが、唯々そう思ったのだった。


目を回しているルーリを頭に乗せたままケイトはグリムの腕から起き立ち上がると、グリムの方へと振り返った。

ケイトの表情はとてもすっきりした様な、吹っ切れた様な清清しい顔をしていた。


「わかった。行くよ。父さんも必ず追ってきて」


ケイトの言葉に対しグリムは何も言わないが、軽くポンポンとケイトとルーリの頭に手を置いた。


父であるグリムの表情はとても分かりづらい。だが、頭に手を乗せる意味をケイトだけは知っている。


ケイトはグリムが教えてくれたリコのいる方向へとすぐに走り出した。

任されたのだ。お互いがお互いを。



「いつからそんな父親らしい事を言う様な方になったんですか?

あれ程あの子を殺そうとしていた人が・・・」


「・・・」


いつからそこにいたのかわからないが、青白い光を纏う小さな妖精がグリムと同じくケイトが走って行った方角を向きながら浮いていた。


「テリアス、力を貸してほしい」


「その様ですね。後ろには私達を睨んでる魔物さんもいる事ですし。

それと、分かっていると思いますが、里の皆さんや私は貴方を許してはいませんよ?

それでも私に助力を乞うのですか?」


「・・・ああ」


グリムの目は黒い布で覆い隠されており表情は読み取り辛いが、小さな子袋を持つ手だけは強く握られていた。


「・・・致し方ありませんね。もし次信用を失う事があれば私が貴方を殺します。

と、言いましても此処に召喚された時点で私に拒否権はありませんが・・・」


テリアスはやれやれと言わんばかりに手を広げ黒狼の方へと向き直った。


「それと、私の体が本体の一部である以上魔力もそれ相応が限界です。

故にグリム様の体内へ入ったら、その無茶してズタズタになった脚の筋肉と背中の爪傷も一時的ですが治ります。

ですがって、あまり長々と話もしていられないみたいですね・・・」


テリアスと呼ばれた妖精が言う様に、グリムの背中には大きな爪痕があり、

右脚の筋肉はプルプルと揺れ明らかに尋常ではない動きをしていた。


にも関わらず、グリムはなんともない様子で体を動かしている。


「まだ動けますか?」


「人間の体は多くの筋肉と骨でできてる。一つや二つ切れても問題ない」


テリアスの言葉に平然と応えるグリム。


グリムと黒狼を結ぶ見えない導火線にいつ火がついてもおかしくない一触即発の雰囲気を感じ取ったテリアスは、

言いたい事だけ言うとグリムの脚元へ入って行くようにすっと消えた。

それと同時に青白い光がグリムを包み込んでいく。


「ふぅ・・・。さっき襲われたら危なかったな」


グリムは脚の感覚を確かめる様に地面へと足を二、三度トントンと突く。


(強がりは時に毒ですよ)


グリムの言葉に対してテリアスは嫌味ぽく直接グリムの脳内へ話しかけるように言葉を返す。


「傷の治癒に魔力を回して後残りは?」


(50%って所ですね。それと、無茶はしないでください。治癒と言っても一時的なものですので。

魔法は種類にもよりますが、1、2発分の魔力しか私は残っていません)


会話をしているグリムとテリアスの元へ先に動いたのは黒狼だった。


大口から涎を垂らし突っ込んでくる黒狼の爪による攻撃を冷静に避けたグリムは、

するりと黒狼の背後へそのまま回り込み地面に刺さっていた長剣と短剣を拾い鞘へ戻した。


(勝算はどうなんですか?)


「勝算は・・・あるにはある・・だが・・・」


グリムは自分を憎々そうに睨み追って来る黒狼へと向き直ると、

周囲を見渡し太くて丈夫そうな木々の根元へと素早く移動した。


それに対し、先程まで自身の力を過信した様に突っ込み攻撃してきていた黒狼が、

何かを警戒するかの様に間合いを見計らいながら回り込んでくる攻撃スタイルへと変わっていた。


「・・・」


(突発的とはいえ、脚の筋肉がズタズタになる程魔力強化を施したんです。

それ相応の警戒を相手が持つのも当然だと思いますが?)


木々を黒狼との間に挟みこみ様子を見ているグリムと、致命傷を与えられず苛立ちを募らせる黒狼という臨戦状態が続いていく。


直線上のスピードなら完全に黒狼はグリムの上を行っていた。だが、此処は森。

障害物が多い上に小回りの効くグリムを捕らえる事は容易ではない事もまた事実。


「・・・無理か・・・」


一向に落ちない黒狼の体力に対しグリムも苛立ちを募らせつつ弱音を漏らした。


(グリム様の考えている事を教えていただけますか?地の利を生かす戦いでしたら力になれるかもしれませんよ?)


「・・・敵の動きを一定時間・・・10秒でいい・・・止めたい・・・」


体力も少しずつ落ち、単調な動きをする様になってきたグリムへ、黒狼は段々と先回りするかの様に動きを合わせてきていた。


「くっ・・・」


(・・・でしたら、沼はいかがでしょう?体も重さも大きい分、脚は沼に取られると思われます)


「・・・そうか・・それがあったな・・・」


先の見えない戦いにテリアスの助言はグリムに冷静さと士気を取り戻させる大きなきっかけになった。


水の里を取り囲む森には大きいもので200メートル程の沼が無数に存在する。

これは里に住むほとんどの人々が知っている事だが、

毎年の雨季によって出来る場所が多少違い正確に把握する事はできない。


しかし、水の妖精からしてみれば話は別。

森自体が自分の庭みたいなものなのだから。


「案内してくれ」


(わかりました。此処から北東500メートル程行った所に直径50メートル程の沼地がございます)


テリアスの助言を聞き、グリムはすぐさま追走してくる黒狼を背負いながらその沼地がある方へと脚を向けた。


疲弊しきった体に追われる心理状況、

それに加え蛇行しながらでなければ進めないという焦りがグリムを襲う。


「くっ・・・」


いくらグリムが集中していても体力の衰えは本人の知らない所でぼろがでる。

そう、些細なミスが。


黒狼の爪は木陰から一瞬逃げ遅れたグリムの肩や脚に傷を負わせていく。


更に息が上がり、苦しそうな表情を隠しきれないグリム。


「まだか?」


(もう少しです)


「俺の体も落ちたら沈むのか?」


(いえ、私の保護下にある場合は沈みません。私が消えたら沈みます。

それと、人間ではまず埋まったら生きては這い上がれません)


(・・・)


テリアスは淡々とグリムの質問に応えていく。


次第にテリアスとグリムの間に会話はほとんどなくなっていた。

ただ、この一瞬一瞬を切り抜ける事こそが今の自分達にとって必要な事だからだと察していたからだ。


そして、決死の思いで沼に辿り着いたグリムの体は木の枝が刺さった跡や擦り剥いた跡、

それに黒狼の爪によりつけられた深手から流れる流血が多数見られた。


「此処か・・・」


(はい)


月夜に照らされた澄んだ凍える森の中、グリム達の眼前に広がる森に囲まれた沼地。

同時に後方から目を光らせ追ってくる黒狼。


追ってきているそれを確認したグリムは躊躇うことなく沼地へと飛び込んだ。、


背後からは黒狼が沼地にズボズボと入ってくる音。


この時既にグリムの体力は限界に来ていた。

呼吸は乱れ腕へ思うように力が入らないのかだらりと構えている。


それでも背後を振り返り困惑気味に沼の中でもがく黒狼を見た瞬間、

好機とばかりにグリムは意を決した表情で腰に蔓下げておいた小袋に手を突っ込み何かを取り出した。


(それは・・・宝玉の欠片・・・何をする気です?)


ずっと冷静だったテリアスも宝玉の欠片をグリムが持っていた事に驚きと動揺の声音を出した。


「こうするんだ」


グリムは宝玉の欠片を握り締めた左手を前に出し力を籠めた。


「闇式:黒魔円封印やみしき こくまえんふういん!」


すると、グリムの体内から黒い煙がもやもやと出始め泥沼の周囲には嵐の様な風が吹き荒れる


(闇の封印!?そんな事をすればグリム様は丸裸も同然・・・。まさか・・)


テリアスは瞬時に黒狼へと視線を移すと、

そこには怒り狂った表情で沼の中を暴れ回る黒狼がいた。

その黒狼の体内外から溢れんばかりに黒い煙が出ており、グリムの周囲に出来たいくつもの竜巻へと吸い込まれていく。


(むちゃです!闇の力が大きすぎます!宝玉の欠片が耐え切れませんよ!それに・・・もし宝玉の欠片が耐え切れずに割れたら・・・)


「大丈夫・・・」


グリムが大丈夫と言って取り出し見せた小さな子袋。そこには”封精”と小さく書かれていた。


(それは私が封印されていた水巫女の袋・・・。水巫女の魔力が残るその袋なら確かに一時的に力をコントロールできます。ですが・・・)


グリムは必死な表情で黒い煙を左手に持った宝玉の欠片へとどんどん吸収し封印していく。

自分と黒狼が持つ全ての黒煙を3個の欠片に封印し終わると、グリムは黒く染まった宝玉の欠片を小袋の中へ入れ紐で縛った。


「くっ・・。これで・・・対等だな」


封印を終えた黒狼は通常の魔物と変わらない尾も含めた2メートル程の魔物に成り下がっていた。


グリムは苦しそうな表情で元の大きさに戻った黒狼を見やると長剣を背中から抜き取り駆け出した。


泥沼に手足が埋もれ身動きが思う様に取れない黒狼の胴体へと長剣を振り下ろすグリム。

しかし、長剣は少し皮膚に傷をつける程度で致命傷には全く至らなかった。


「!?」


(先程も言ったはずです。精霊の力を纏わないグリム様はただの人と変わりません。

魔物相手に人が敵わないのはそれ故なのです)


テリアスに今の状態を説明されてもグリムは認めないかの様に黒狼の胴体へと剣を何度も振り下ろす。

それでも、致命的な傷を負わせる事はできない。


そんなグリムへ黒狼は泥沼の中で体を捻らせ牙を剥き出し威嚇反撃に出始める。


「くそっ・・・」


(そろそろ私の魔力が尽きます。早く沼から脱出してください)


グリムはテリアスの言葉を無視し黒狼への攻撃を緩めない。


(はや・・・だ・・・)


テリアスの言葉が途切れ始めた途端、グリムの足はゆっくりと沼に飲み込まれ始めた。


「!?」


グリムは脚を沼に取られ体勢を崩した直後、暴れ狂う黒狼の頭突きを思い切り受け沼の上へと倒れこんだ。

同時に、テリアスの治癒魔法によって一時的に回復していた背中と脚の傷口が開き始め血がじんわりと浮きで始める。


「うわああああああああああああ!」


沼の上で叫びのた打ち回るグリム。


しかし、すぐにグリムの動きはぴたりと止まった。


(か・・体が動かない・・・それに背中の痛みも感覚も消えた・・・。

そうか・・・、凍傷が始まったのか・・・)


動きを止めたせいかグリムの体が沈む速度は少し遅くなった。


そんなグリムへ、黒狼は沼の中でゆっくりと体勢を整え近づいていく。


(・・・。俺が死ねばケイトの未来も変わる。

未来を変えたのは俺になるのか・・・。

あいつとの約束も・・・。

死に場所を探してた俺が・・・後悔とは・・・。最悪な結末だな)


グリムの体は8割方沼に沈み、凍傷状態に入ったのか何も感じられなくなっていた。


その時、誰かがグリムの片腕をしっかりと掴んだ。

同時に、魔物らしき雄叫びが森中に響き渡る。


(誰だ・・・?暖かい・・・。アーシャ・・?)


「グリムさん!しっかりしてください!」


(何処かで・・・)


「サリナ副長、ラン副長、もう魔物は死んだのでしょう?こちらを手伝ってください!」


「おうよ!」「わかりました!」


倒した黒狼の死体が浄化されていくのを見つめていたサリナとランは、

返事と共に沈みゆくグリムとサキの元へと駆け寄っていく。


真剣な眼差しでグリムが沈まない様にと腕を引っ張り上げるサキ。

その横顔を時折見つめながら泥を掻き分けていくサリナとラン。


「何を見ているのです。手を動かしてください!

今のグリムさんは精霊の守護下にありません!

この場所にいるだけで体力は落ちていくんですよ!」


「あ、ああ。わるい」


サキのいつにも増して厳しい声にサリナは咄嗟に謝り、ランは頬を膨らませながらサリナをムッと睨んだ。


ようやく泥沼からグリムを引きづり出したサキ達は、すぐに沼辺へと運び出し体の状態を確認していく。


「これはひでぇ。背中を抉る様な爪の傷・・・生きてるのが不思議なくらいだ・・・。

とりあえず里まで運ぶか?」


サリナはグリムの傷に息を飲みつつサキへと判断を委ねるが、

それを気に食わないのかランはサリナへと突っかかっていく。


「何でサリナはまた勝手な事を!それは衛女長が判断する事だろう!」


「うるせえな、ったく。で、どうすんだ?リコ様が施してくれたシールド魔法ももうじき切れる」


「だから!・・・」


サリナに不満を漏らすランを尻目にサキは急に立ち上がり周囲を見渡し始めた。


「どうされました?」


ランがサキの視線を辿ったその先には何の変哲も無い泥沼があるだけ。しかし、突如温泉が泥沼から湧き出るかの様に天高く青い閃光が走った。


「今度は何だ!?」


「魔剣セルシアス・・・」


「は!?」「え?」


サキの言葉に驚きつつ沼から発する青い閃光を見つめるサキ達。


「何でこんなとこに魔剣があるんだよ!魔剣は奴らの手に落ちたはずだよな?!」


「先程倒した魔物が持っていたのでしょう・・・」


サキの言葉にサリナとランは道中で破壊されていた巫女の社が頭を過ぎる。


そうこうしている間に青い閃光は収まりを見せ、魔剣が光の中から顔を出した。

そして、まるで意思を持っているかの様に魔剣はサキ達の方へ近づいていく。


「魔剣ってのは・・・生きてるのか!?」


「半分正解です、サリナ副長」


「はぁ!?」


「魔剣は生きています。元々魔剣は精霊石から作られるのですから」


サリナとランは浮遊する魔剣を見つめたまま、サキの始めて聞く言葉に耳を傾けた。


「元々精霊石は精霊や妖精の残霊、つまり人で言う亡骸が永命石えいめいせきへと取り込まれた物。

精霊や妖精は産まれた瞬間に人や物にとりつきます。例外を除いてその人や物が朽ちるまで。

そして、行き場を失った残霊は自然界へと帰る。

しかし、極まれに永命石へ取り込まれる霊達もいる。


それが何百年、いえ、何千年という歳月をかけ出来上がった物が精霊石なのです」


「つまり・・・魔剣が持ち手を選ぶのは精霊の意思ってやつか・・・?」


「そうなりますね」


魔剣はサキ達の視線に晒されながらもゆっくりと進み、仰向けになっているグリムの手元へと収まった。


「これはあれか?・・・魔剣がグリムさんを選んだということなのか?」


「・・・」


サリナの問いにサキは真剣な表情で魔剣を見つめたまま沈黙を通す。


魔剣は序々に青光りをおびグリムの体を発光と共に一瞬包み込んだ。

すると、魔剣を握るグリムの腕と表情が僅かに動いた。


「うっ・・・ケホッケホッ」


突然意識を取り戻したグリム自体を警戒しているのか、サリナとランはじっ見つめ、、

サキはすぐに気が付いたグリムへと近寄り腰を落とした。


「グリムさん、大丈夫ですか?」


サキは地面へと咽る様に堰をするグリムへ駆け寄ると心配そうな表情で背中を摩ろうと手を伸ばす。

しかし、背中に大きな傷跡があった事を思い出し手を止めるが、傷跡は綺麗に亡くなっていた。


「・・・」


眉を少しだけ動かし驚きの表情を見せるサキ。


そんな最中、グリムは近寄り難い距離で自分を見ているサリナとランを一瞥すると、一番傍にいるサキへと顔を向けた。


「・・・魔物は・・・お前達が倒したのか・・・?」


「はい」


「そうか。世話をかけたな」


グリムが人に礼を述べる光景を見た事がなかったサキは、妙な違和感を感じつつも話をすぐに再開させた。


「背中の傷・・・」


サキがグリムの背中傷について触れようとすると、

グリムは魔剣を握ったまま何ともない様子で体を起し立ち上がった。


サキの視線に釣られサリナ達もグリムの背中へと視線を移動させる。


「おいおい・・・。まじかよ・・・」「あれ程の傷を一瞬で・・・。本当に人間・・・?!」


驚愕するサリナ達の視線に晒されながらも、グリムは全く気にせず自身の体調を確認するかの様に手や腕、それに脚を軽く動かし始めた。


「・・・」


そして、じっと自身の手を疑う様な素振りを見せた後、グリムは足元に落ちていた長剣と短剣を拾い上げ鞘へと収めた。


「私達・・・」「後は俺がやる」


「・・・お前達のおかげで命拾いをした。しかし、もう戻った方が良い」


グリムはサキの言葉を遮ると、南方の荒野上空へと視線を傾け魔剣を強く縦に振り下ろした。


すると、魔剣は青白く発光すると共にバチバチと稲妻の様な音と光を周囲へと走らせる。


魔剣セルシアスは先程までと剣形が変わり、元々短剣だった魔剣は長剣へと変貌していた。

まるで、魔剣がグリムに組するかの様に。


「助けられておきながら言う台詞ではないな」


グリムの言葉に対し、サキは立ち上がると真剣な眼差しで口を開いた。


「・・・リコ様とあの少年を無傷で連れて戻ってください。よろしいですね?」


「無傷・・・手厳しいな」


「何故私達がリコ様の後を追わず貴方を助けに来たと思うのです?」


サキの言葉にグリムは薄っすらと口元に笑みを浮かべると、魔剣を握り締め南方の森へと走って行った。


グリムの姿が見えなくなると、サリナが不機嫌そうな表情で口を開いた。


「グリムさんに遭遇したわけじゃなくて、グリムさんを初めから探していたのか?」


「リコ様を追い、万が一にでも追いついてしまえばリコ様の思いを踏みにじる事になります」


「だがよ!私達衛女隊の使命はどうなる?守護人がいない以上巫女を守るのは私達だ!」


サリナとサキの間で張り詰めた空気が漂っていく。

しかし、それをランが止める事はなかった。

サリナが言う事も一理あったからだ。


そして、同時にサキの応えにも興味があった。


「私達が守るべき一番大事なもの。それは水巫女様の意思そのものです。

確かに、水巫女様を守るのも大事です。ですが、同時に水巫女の意思を次の水巫女へと伝える役割をするのも又、私達なんです」


「お前言ってる事むちゃくちゃだぞ!水巫女様あっての水の里だ!ふざけるんじゃねえ!そんなものは水巫女本人が伝えれば良い!」


サリナは怒りを露にサキの胸倉を掴みあげた。


「サリナ止めろ!」


ランはなんとかサリナをサキから引き剥がすと、サリナの両腕を掴み上げ押さえた。


「お前はいつもそうだ!冷静に物事を判断し、頭も良い!そんな事はわかってる!たぶん今回文句言ってる私の方が間違ってるんだろうよ!

だがな・・・、何故!私達をもっと信用し話してくれない!?私達に隠している事あるんだろ!?

なあ!?ラン!お前だってそう思うだろ!?」


普段と違うサリナの怒りにランもどう返して良いのかわからなかった。

むしろ、サキにちゃんと理由話してもらいたいという気持ちの方が上回っていた。


「衛女長・・・お願いします。サリナの言葉に耳を傾けてあげてもらえませんでしょうか?」


未だかつてサリナの味方をした事がなかったランの言葉に、サキは沈黙の末ようやく口を開いた。


「・・・わかりました。話します。そろそろ話さないといけないと思っていました。

私達のシールド効果ももうじき切れますので、里へ戻りながらで」


「「・・・」」


サキは普段と変わらず冷静な表情で言葉を返すと北の森へと走り出した。

その後を、無言のまま真剣な表情でついていくサリナとラン。


「今回の事件は起きると予測されていたんです。前提として予測の範疇に留めますが。

それについて動いていたのはアーシャ様とセーラ様と私の三人のみです」


「は?予測?どういう事だ?」


「アギト様が亡くなられた事件は知ってますね?」


「ああ」


「あの事件に関わったのが闇の一族なんです」


「闇の一族って、闇の巫女に関わる人達・・・だよな?」


「いえ・・・詳しくはわかりかねますが、闇の力を使う者達と言い換えた方がわかりやすいかもしれませんね」


「闇の一族・・・それで?」


「その闇の一族が水巫女を狙っているという事をアーシャ様は何らかの形で知ったのです。どうやって知りえたのかはわかりかねますが。

それで、セーラ様が次期水巫女候補となったのです」


「え、・・・それって・・・」


「ええ。代わり身です。幸にもそれだけの力をセーラ様は持っていました」


「・・・」


サキの口から出る言葉にサリナは自身の耳を疑うかの様な唖然とした表情を見せた。


「そこまでするなら、何故里の協力を得ようとしない?

その方が守るのに都合がいいだろ?」


「里の誰もがアーシャ様、つまり水巫女様の子達を知っている。

それがどういう事かサリナ副長ならわかるはずです」


「誰かが口を割る・・・可能性か・・・」


サキは小さく頷くと更に話を続けた。


「もし、誰も口を割らなかったとしても、闇の力には謎の部分が多いです。

口を割らずして聞き出す力があったとしたら意味をなさないのです」


「・・・」


サリナと隣で話を聞いているランさえも顔を暗に落とした。


「それに、もし闇の力がアギト様の亡くなった事件に関係していると里に知れれば、

グリムさんやアギト様がつれてきたあの子はどういう扱いを受けるか予想はできるでしょう?」


「・・・なるほどな・・・。だが、リコ様を追ってはいけない理由にはならないぞ?」


「元々リコ様がああいう行動を取る事はアーシャ様自身わかっていらっしゃいました。

なので、その護衛にグリムさんを指名したんです。断られましたけどね」


「断った?断ったのに何故動いてる?」


「それについてはわかりません。ですが、元々闇の一族が動き出せば衛女隊や守護人でも止める手立てはないです。

なので、グリムさんにお願いしたんです」


「つまり、私達は元々グリムさんの支援という形か」


「簡単に言えばそうなります」


「くっ・・・」


サリナは拳を強く握り苛立った様子で悔しそうな表情を見せた。


「巫女によって選ばれる守護人と違って、任務の内容は似ていようとも衛女隊は一人の巫女に属しません。

次の世代の巫女と里を守るのが私達の本来の任務です。わかっていただけますか?」


「・・・」


サキの問いに対し完全に納得という答えが出せないサリナは険しい顔で沈黙した。

そんな最中サキは急に脚を止め、後方にいるサリナとランの方へと振り返り頭を下げた。


「サリナ副長、ラン副長、黙っていてごめんなさい」


サキの不意打ちな謝罪に唖然とするサリナとラン。


「今はこれで納得してもらう事はできないでしょうか?」


「顔を上げてください!」


ランはすぐに駆け寄ると自分より年下で身分は上のサキにどう触れて良いのか困った表情を見せた。

そこには、サキが幼少時に見せた時以来の泣き顔があった。


「サリナ、もういいでしょう?衛女長・・・いえ、サキ様が此処まで話してくれただけで私は十分信頼に値します。

それに、サキ様が誰よりもこの里の事を思っているという事もサリナはわかっている。そうでしょ?」


「・・・」


ランはサリナからサキを庇うように立ち、じっとサリナを見据える。


冷静沈着、そして殆ど感情を露にしないサキの涙からは、ただ事ではない何かがあったとサリナとランには窺い知る事ができた。

それでも、確かめたい事があるのか、サリナはゆっくりと口を開く。


「最後に一つだけ聞かせてくれ・・・。次の事を考えて動くという水巫女、アーシャ様の考えはわかる。

だが・・・、相手の力が強大だからこそ、いずれはそれを食い止めなくてはいけない。命を賭けてでも。

違うか?」


「・・・」


サキはサリナの言葉に何も言い返すことは無かった。


いや、言い返す事ができなかったのだ。


「今はサーニャ様の所へ戻ろう。今私達ができる事はそれしかないのだろう?」


「・・・はい」


サリナはサキとランの横を通り過ぎ走り出すと、その後をサキ達は追った。


読んでいただきありがとうございます。

では次回35章でお会いしましょう。

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