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闇の力④

今回は前回に引き続きケイトのお話です。

では本編をご覧あれ。

グリムは不機嫌そうな表情で一人森の中で佇んでいた。


「やはり来たか・・・アギト」


グリムがそう呟いた瞬間、突如として大気の空間に長丸い穴が開き強い風が吹き荒れる。


その穴からケイトを抱きかかえた男性が歩き出てきた。


「お前なあ・・・精霊水まで使って強引に俺を引き出しやがって・・・。

俺の事が好きとか言わんだろうな?俺にそっちの趣味はねえぞ。

って・・はいはい。本題ね、本題。そう睨むな」


アギトと呼ばれた男は自分を睨みつけるグリムの視線を背中に浴びながら、

ゆっくりと落ち着いた雰囲気で傍らにある木の根元へ気絶しているケイトを寄り添わせた。


そして、グリムの前へと歩み出て行く。


「改めて聞く。何故この子を不幸に陥れるような真似をする?

当初は命さえも奪おうとした。だが、徐々に改善されていった様に見えたが?」


「事態はアギトが思うよりも深刻だ。それは俺が一番良く知っている」


「だったら、その話を聞かせろよ」


「話した所で真偽を確認する術は無い」


グリムはそう言い放った瞬間消えるようにいなくなった。

それを見てアギトも周囲へと警戒の目を向ける。


「本気か・・・。まさか、こんな形でやりあう事になるとはな!」


アギトも言い放った瞬間動いた。


アギトの持つ魔剣とグリムの持つ長剣がケイトのすぐ傍でぶつかり合う。


「真っ先にこの子を狙うとは、基本がなっちゃいねーな!自分より腕がたつ者とやりあう場合、そっちに集中すべきだろうがよ!」


アギトはグリムの長剣をはじき返す。


「・・・」


それに対し、グリムは無表情のまま後方の闇へと紛れる様に消えた。


ケイトを守る様に立つアギトは森を包み込む暗闇全体へと気を集中させていく。

そんな中、森に潜む暗闇が話す様にグリムが口を開いた。


「里で俺は、英雄アギトと同等の腕を持つと言われた」


「・・・」


「だが、違う・・・。俺とアギトの実力は違いすぎる」


グリムは突然森の暗闇からケイトの寄り添う木の背後へと長剣片手に飛び出した。


その瞬間アギトの体が青く光り、グリムの頭上へと高速移動し圧し掛かった。


うつ伏せに押し倒され唇を噛み締めるグリム。


「くそ・・!くそ!くそ!」


「・・・」


「どうして死んだんだ!お前程の実力がありながら!どうして!」


感情をほとんど出さなかったグリムが涙を流して泣いた。

その表情を何も言わずじっと上から見つめるアギト。


「お前は希望だった。俺はお前に賭けていたんだ。あの世界を元に戻す事ができるのがお前だけだと!

そのお前が死んで、次に打つ手はそいつを殺すしかないんだ!」


グリムは木に寄り添い眠るケイトの方角へと顔を向けた。

目が見えないグリムには気配で特定の人物の位置や動きが読めるのだろう。


「俺はこいつを見てきた」


アギトはグリムを押さえつけたままケイトへと顔を向けていた。


「こいつは俺より強くなる。間違いねえ。言い方がおかしいかも知れないが、

死ぬ前も死んだ後も俺はケイトを見てきた。

そして、この里へ俺が連れて来たのは二人だけ。

それはお前とケイトだ。言っておくが俺の目に狂いはねえよ。

里の英雄が言うんだからな」


アギトは自信満々の表情で言い放った。


同時に、その言葉はグリムの胸に閊えていた何かを取っ払った。


「・・・どうして・・・どうしてお前はその時その言葉を口にしなかった!」


「その言葉?」


「お前の口癖は”間違いねえ”だ!あの戦いの時、お前はその言葉を口にしなかった!

だから、死んだんだ!」


「そんな事今言われてもな・・・」


アギトは顎の下辺りを指で摩りながら困惑気味な表情を見せた。


元々アギトの言葉には根拠なんてものは無かった。


アギトへケイトの剣武に才はあるか?と問われれば言葉を濁すだろう。

精霊力が強いのかと問われれば、それまた言葉を濁すだろう。


アギトが言いたかったのは、ケイトの人柄とその周囲を取り巻く環境化から来るものだからだ。


この世界において、母親の御腹から産まれでた瞬間からその者の価値は測られる。

それは即ちどれだけ精霊の加護を受けられるかどうかである。


母親自身が多くの精霊に見初められていれば、その御腹から産まれてくる子供も多くの精霊に見初められる可能性が高い。

高いという言い回しは、離反する精霊もいると言う事でもある。


その逆もまたしかりである。


つまり、周囲の影響次第では精霊の力が増幅するという事も考えられるのである。


リコがいて里の人々がいる。そして、グリムという人物がケイトの親である事。


アギトにはこの環境下こそがケイトの成長を促すのだろうと判断したのだ。


人と人との関わりはどんな形になるにせよ、悪くも良くも影響を受ける。

それをアギトは知っていた。


けして、個人の努力や潜在能力だけがその人物の底上げになる事ではない事を。


「信じてもいいのか・・・俺は英雄アギトの言葉を信じて良いのか!?」


「・・・ああ。信じてくれて良い」


アギトの言葉にグリムは気が抜けたのか小さく呼吸をおいた。


「もうケイトを狙わん。どいてくれていい」


「ん?ああ」


アギトは重い腰を浮かす様に立ち上がると、続いてグリムも長剣片手に立ち上がった。

そのグリムの目には既に涙の後は無く、冷静沈着のグリムに戻っていた。


「一つ気にかかった事があるんだが」


服の乱れを直しつつ埃を落とすグリムへ背を向けたまま、アギトは何かを思い出したかの様に口を開いた。


「どうした?」


「グリムがケイトに放ったあの魔法、あれは一体何だ?」


「・・・『闇式:深暗 信滅』(やみしき しんあん しんめつ)。それがどうかしたのか?」


「あの暗闇の中に立っていた子供は誰だ?」


「?悪いが俺にはわからん。この魔法は受けた者の深層心理に働きかける魔法。精神崩壊を目的とした闇精霊をまとう者だけが使える魔法。

ケイトが何を目にしていたのかまではわからない」


「・・・そうか。悪い。変な事聞いたな」


「いや、それより、その魔法は呪術転生か?」


グリムの質問にアギトは何かを思い出すかの用に口を大きく広げた。


「ん?ああ。ってやっば・・・、こんな所で魔力を消費してる場合じゃなかった。

悪い!俺魔剣に戻るわ!じゃあな!」


「え、おい!・・・」


アギトは何かを言おうとしたグリムに構う事なく、青い光に包まれ自身が握っていた魔剣の中へと消えた。

魔剣は草むらへと落ち、辺りには森を囲む闇と静けさと時折見せる月の光が木々の間から顔を出した。


「変わっていないな・・・あいつは・・・」


グリムは草むらへ落ちた魔剣を拾い上げると、木に寄り添うケイトの傍へと近づき腰を降ろした。

そして、何か思うところがあるのかケイトの寝顔をじっと見つめる。


「・・・お前にも心から大切なものができたのか?」


「う・・・う・・・。・・・父さん?」


グリムはケイトが気が付くと同時に立ち上がり後ろめたさを隠すかの様に背を向けた。

その背がケイトには怒ってる様に感じられ慌てて立ち上がる。


「す・・・すみません。なんか寝ちゃったみたいで・・・」


「・・・覚えていないのか?」


「え?」


「・・・今度は記憶消去か・・アギト・・・」


聞き返してくるケイトにグリムは誰にも聞こえない声で不満そうに呟く。


「時間が押してる。急ぐぞ」


グリムは振り向きざまにそう言うと、魔剣セルシアスをケイトの懐へ放った。


「お・・おっと・・・」


急に放られた魔剣をケイトは落とさずに慌てて受け止めると、”どうして父さんが?”と言いたそうな表情ででグリムを見つめた。

しかし、グリムがその質問に応答する事はなく、すぐさま長剣を背中に戻し里の方向へと足を向ける。


「里までもうすぐだ」


走り出したグリムの後を追っていくのに必死で、ケイトの疑問はすぐに消えた。





月明かりが照らす中、里へ到着したケイトは息を呑んだ。

人の気配は微塵も無く凍りつく家々や小川、

それに月明かりと冷気が相まって光と闇のコラボレーションと言うべき幻想的な雰囲気を醸し出していたからだ。


「・・・」


言葉無く里の幻想的雰囲気に引き込まれるケイトに対し、グリムは周囲を簡単に見渡した後一つの民家へ入って行った。


その背中を見送った後、ケイトは改めて今置かれている状況を確認する為再度周囲へと視線を送る。


「それにしても・・・凄いな・・・。あらゆるものが凍ってる・・・さぶっ・・・。・・・ん?」


ケイトは里の中央にあたる部分で目を止めた。

そこには中から外に向けて強引に引き裂かれた様な大きな建物があった。


それはケイトが知るこの里において一つしかなかった。

赤く塗られたいくつもの結界柱に囲まれた水巫女の社。


ケイトが物心ついた時から足を運び続けた場所。

同時に、自然とケイトの足は水巫女の社へと向かっていく。


より近くで見た水巫女の社はズタズタに引き裂かれ結界柱は全て倒されていた。

そして、結界柱の大きさが大きさなだけに、近隣の家々はそれに押しつぶされているものもあった。


ケイトは吸い寄せられるように倒されている結界柱の一本へ近寄ると、自然と手が伸び触れていた。


「・・・」


ケイトは自分の辛かった思い出を呼び覚まされる様に、それでいて惜しむ様に辛そうな表情を見せた。


そんな時、ケイトは破壊されている水巫女の社の片隅で一瞬だが青い光を見た。


「あ・・・」


その見覚えのある光へと歩みだそうとした時、結界柱の傍らで仰向けに倒れた何処かで見た老人男性を見つけた。


それを見て息を呑むケイト。


老人男性は胸から腹部にかけて大きな爪で抉られた様な痕と共に、先程リコを殺そうとした男性の腹部で見られた黒い斑点があった。

それに加え瞳孔が開き、もう息が無いという事が傍から見てもわかる。


「・・・」


ケイトは老人男性の死体から中々目が離せなかった。


魔物にやられた死体を見るのは初めてではない。


それでも、老人男性が何故死んだのか。老人男性は何をしたかったのか。老人男性に悔いはなかったのか。

ケイトの頭に色々な事が浮かんでは消えた。


そんな事を考えていると、ケイトの肩に誰かが触れた。


「大丈夫か?」


「あ・・はい」


いつの間にか現れたグリムは、ケイトの顔色を窺いつつ毛皮の上着を被せると水巫女の社へ向けて淡々と歩き出す。


そんなグリムに、”このまま放置しておいていいの?”とばかりに視線を送りつつ右往左往するケイト。


「へたげに手を触れるなよ。人は死んだら精霊となり神の使いとなる。神がいるのかいないのかわからないがそう伝えられている。

同時に、人の供養に失敗すればそれは魔物となるんだ。そうならない為に巫女がいる。

言わば巫女は人と精霊を繋ぐもの。へたげに巫女でない者が供養をすれば邪気が伝わり魔物と化す事がある。覚えておけ」


「・・・」


グリムの言葉にケイトは納得半分、困惑半分と言った複雑な表情を示した。


「もし・・・巫女がいなくなっちゃたらどうなっちゃうんですか?」


「魔物の繁殖と巫女のバランスが崩れ世界は混沌と化す」


「・・・」


「だが、心配するな。巫女の素質を持つ者はお前が思うよりも沢山いる。・・・を除いてな」


「え?」


ケイトはグリムが最後に言った言葉の後半をうまく聞き取る事ができなかった。


スタスタと歩いていくグリムの背中をじっと見つめた後、

ケイトは老人男性の死体に複雑な思いを抱えたまま少しだけ頭を下げグリムの後を追っていった。


ケイトが崩壊した水巫女の社に辿り着くと、遠くから見たときよりもずっと酷い状況だという事が見て取れた。


水巫女の社真正面から内部が丸見えと言える程、建物は強い力で左右に引き去れた感じが見て取れる。

そして、魔物が何かを探したかの様に漁られた形跡さえ窺える。


そんな中、グリムも何かを探しているのか小箱らしいものを一つ一つ手に取り何かを探していた。


「もういいのか?」


グリムはケイトが来た事を気配で感じたのか、瓦礫を物色しながら口を開く。


「え?あ・・・うん・・・」


「そうか」


ケイトはグリムに返事を返したものの、表情やしぐさは納得しきれてはいなかった。


「人の多くは死ぬ前に後悔の念を抱く。

こうしておけばよかった。ああしておけばよかった。とな。

それは良い事か?悪い事か?」


「え、・・・わからないです・・・」


「人一人が精々生きて60歳から70歳。戦もあるから平均はもっと下回るだろう。

そんな世の中で後悔しなずに死ぬ奴なんて極まれだ」


「・・・」


「それ以上は自分で考えろ」


ケイトはグリムが自分の事を察して言ってくれているのはわかった。

なんとなく助言をしてくれているのもわかった。

わからない事が一つだけあった。


森でリコ達と話をしていた時と今のグリムが少し違うように見えた。

はっきりとは言えないけれど、ただ、時折小さい頃に見た父親と似たような雰囲気を感じたのだ。


「はい」


ただ、その時はグリムの気持ちに応えたくてケイトははっきりと返事を返した。


何かを探し拾い集めるグリムと会話していると、ケイトは瓦礫の奥から微かだが再度青く光る何かが目に飛び込んできた。


(まただ、あの光・・・どこかで・・・)


気になったケイトは水巫女の社へ上がり、散乱している瓦礫をジャンプで避けながら奥へと進んだ。


「確か・・・この辺で・・・」


青い光を見た大凡おおよその位置を確認しながら、ケイトはその上に積もる瓦礫を少しずつ取り除いていく。

すると、頭を両手で押さえ体を丸めたルーリを発見した。


「あわわ・・・、お助け・・・お助けを〜ガクブル・・・」


「ルーリ?・・・何故此処に・・・?」


ルーリは聞き覚えのある声にすぐさま反応し顔を上げた。

その顔は恐怖で彩られ、今にも恐怖だけで死んでしまいそうな程体を震わせていた。


「・・・ケ・・・ケイト様!?ケイト様〜!」


ルーリはケイトを見るや否や大きな瞳に涙を浮かべ飛び出して来た。


「ごわかったです・・・ごわかったです・・・」


ケイトは突然の事に驚きつつもしっかりとルーリを抱き留めた。

泣き止まないルーリにどうしていいのかわからず、瓦礫に腰掛ルーリの頭を撫でながら周囲の状況を再度見渡すケイト。


「此処で何があったんだ・・・」


しばらくしてルーリは落ち着きを取り戻すと、涙はまだ目元に溜まっているもののケイトから離れパタパタと空を飛んだ。


「ず・・・ずびばせん・・・」


「落ち着いたか?って・・鼻水、鼻水・・・」


「あ・・・ずびばぜん・・・ずずず・・・」


妖精も鼻水を出すんだなと感心しながら、近くに落ちていた綺麗そうな布でルーリの鼻水をふき取ってあげるケイト。


「ルーリもこの世界に来てたんだな」


「この世界?えっと良く分かりませんが、気付いたら魔剣セルシアスの横にいましたです・・・。

でも、魔剣を封印する結界が張られているせいか木箱から外に出る事もできなくて・・・。

それで、途方に暮れていたら魔物が現れ、気付いた時にはこの有様に・・・」


「でも、ルーリは無事でよかった」


「え・・・”ルーリは”って事は・・・あの方達は・・・」


「あの方達?」


「はい。此処で魔物と戦ってくれていたんでしゅ!私はその方がいなければ死んでたです!」


ルーリの言葉からケイトの頭には先程亡くなっていた老人男性の事なのではと頭を過ぎる。


「魔物と戦ってくれていた人は何人いたんだ?」


「えっとですね・・・、全部で3人いましたです!でも・・・どこに行ってしまったんでしょうね・・・」


周囲を見渡すルーリを見ながら、ケイトにはなんとなくわかっていた。

死んでいる確率が非常に高い事を。


父、グリムがとても人の目を気にする方だという事はよく知っていた。


その父が何も言わず、何かを感じる気配も無くこの里を闊歩している。

それだけでこの里に人はいない、もしくはほとんどいないと言っても過言ではない程だ。


故に見つかる答えは一つだけだったのだ。


「そろそろ行くぞ。ってそこにいるのは妖精か?」


ケイトとルーリが話をしていると、探し物が終わったのかグリムが瓦礫の上を歩き顔を覗かせた。


「あ、父さん。この子はルーリ。リコがいずれ出会う妖精だよ」


ルーリは両目を黒い布で覆ったグリムに少し怯えた表情をするも、じっと我慢比べの様に見つめ返した。


「そうか・・・。そろそろ出発するぞ」


そんなルーリとは裏腹にグリムは興味があまり無いのか、目を逸らすとすぐに遠くへ歩いて行った。


「怖いです・・・あの人・・。ってお父様!?」


「うん?俺の父さんだよ」


「目が・・・無いです・・・はい・・・」


「そんなに怯えなくていいって。外見と性格はちょっと怖そうに見えるけどとても優しいんだ。

ってそろそろ行かないと」


「行くってどこへですか?」


「セーラ様を助けに行くんだ」


「セーラ様?うーん・・・知らない人です・・」


「セーラ様はリコの姉?みたいなものかな」


「なんと!?リコ様のお姉様・・・。私も行きますぅ!」


「そう言うと思ってたよ。それじゃ、行こうか。父さんも待ってる」


「了解です!」


ケイトはルーリを頭の上に乗せると、社前で”遅い!いつまで待たせるんだ”とばかりに腕組みしていたグリムと合流した。


「周囲を見ればわかるだろうが、これをやったのは宝玉の欠片を食った奴だ。魔物は相当強くなってる。それと魔物が奴らと合流したら厄介だ。

合流する前に叩く。いいな?」


「はい!」


「それじゃ、行こう」


グリムを筆頭にケイト達は南の森へと走っていく。


「ケイト様、そういえば、先ほど申しておりました”この世界”というのはどう言う事なんですか?

私も違和感は感じるのですが、良く分からないんです」


「この世界は現実より過去の世界みたいだ。実際に俺が子供の頃の自分を見たしな」


「えー!?そんな事ありえるんでしゅか!?聞いた事ないです!」


「そう言われてもな・・・。実際に見てしまったんだから疑いようもないわけで」


「そう・・・ですよね・・・。で、この世界に来てしまった理由は何なんでしょう?」


「恐らくだが、リコの事だろうな」


「リコ様・・・」


リコの名前をケイトが出した途端ルーリは表情を曇らせた。


「どうした?」


「う・・・ううん・・・」


ケイトはルーリの戸惑う様子に気が付いたが、あえて聞かない事にした。


ケイト自身リコとの問題があった。それはルーリも似たような事情があったのかもしれないと察したからだ。


「俺はこの世界に来て知った事は多い。その多くがリコに関係する。

普段のリコは強がりだから見えにくい部分が多いけど、縛っているものが多いんだ」


「縛っているもの・・・」


「ああ。俺達はそれを知り、リコにぶつかっていく必要がある。

今までの様に何も知らないまま気持ちを言葉にしてもだめなんだ。

もっと・・・そう、心に真っ向勝負で向き合わなくちゃいけない」


「・・・はい。私もリコ様の事知りたいです!ケイト様が見て聞いた事を少しでも教えてください!

私も変わりたい!もっと傍にいたいです!」


「ああ。リコは自分の事を中々口にしない。俺達が少しでも支えになってやろうぜ。いいや・・・違うな。

もうリコだけの問題じゃない。俺自身の問題だ」


ケイトは今までの経緯や起きた事件、状況を走りながら事細かくルーリに説明していく。


「そんな事があったんですね・・・。だったらリコ様のお傍にいた方が良かったのではないのですか?」


「それも考えたが、リコだったら何て言うか想像できるだろ?」


「あ・・・確かに・・・です」


「この戦いで俺は未来を変えちまうかもしれねえ。変えられないかもしれない。

でも、どの時代だろうが何だろうがそんなもん知った事かよ。

あいつが笑ってくれればそれでいい。だろ?」


ケイトの問いかけにルーリは不思議そうな表情を示した後、笑顔を見せた。


「はい!そうです!」


仲が良さそうに話をするケイトとルーリの間へグリムは口を挟む。


「そろそろセーラ達の戦闘区域に近づく。気を抜くなよ」


グリムの言葉はケイトとルーリに戦闘が近い事と緊張感を与えた。


南下するに従いケイト達一向の行く手を吹雪と凍てつく氷の粒が襲う。

氷の粒は段々と大きくなり雹となった。


「何だこれ・・・。こんなの当たったら死んじまうぜ・・・」


”しゃれにならんぜ?!”とばかりにケイトの顔面すれすれを今まさに5センチ程の雹が通過した。


「ケイト様!また来ます!左へ!」


「くっ・・・」


ケイトが吹雪による視界の悪さで雹を肉眼でうまく捕らえる事ができないと判断するや否や、

水や氷に携わる妖精ルーリはある程度の範囲を感知する事ができるのかケイトへと助言を始めた。


吹雪や雹に苦戦するケイトとルーリに比べ、まったく怯む様子はなく淡々と避けて進むグリム。



ケイト達一向は吹雪に阻まれ進行速度を落としたものの確実に前へと進んでいく。

そんな中、グリムは突然走る速度を上げケイトの呼びかけに反応する事無く暗い森へと消えた。


「と・・父さん!?」


ケイト自身、この世界に来てから妙に体が軽く目に見えない力を肌が感じていた。

それにも関わらず、グリムのスピードは更に上を行く。


その様子にケイトは驚く他無い。


ケイトとルーリはとにかく無我夢中でグリムの後を追った。


「父さん・・・一体どうしたんだろ・・・」


「ケイト様!前方から何か禍々しい気配を感じますです!」


ルーリがいつにも増して真剣な表情でケイトへ注意を促すように述べた瞬間、魔物の咆哮が南の森中に響き渡る。


「ガルルルギャアアアアオ!」


「何だこれ!?魔物の声か!?」


「あわわわ・・・」


ケイトは表情を歪ませ耳を両手で押さえる。ルーリはケイトの頭にしがみつくと体を震わせた。


「ルーリ、大丈夫か?」


「・・・」


ケイトは返事がないルーリを頭上から手の平に戻すと、案の定トラウマのスイッチが入ったように目を丸くしていた。


そんな中、向かい来る雹は容赦なくケイトへと降り注ぐ。


「くっ・・・」


雹がケイトの足や腕に当たってもケイトは走るのを止めない。

実際には止められないと言ったほうが正しいのかもしれない。

足を止めたら押し戻されてしまう。それ程までに吹雪や雹の威力は絶大だった。


吹雪の中、月の明かりも殆ど遮断され闇がケイトを取り巻く。

同時に、前方から剣と何かがぶつかり合う激しい音が森に木霊する。


その一方で、グリムは凍てつく雹が降りしきる中10メートル程の体躯をした黒狼と対峙していた。

では次回34章でお会いしましょう。

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