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セーラの思い

今回のお話は若干百合属性が・・・。

良いのかこれで・・・orz

では本編スタート

時はパルシスとセーラが戦いを始めた頃に遡る。


水の里に謎の黒い輪があちこちに突如として出現し、

その輪からは無数の魔物が飛び出した。

里の人々の悲鳴に気付き守護人とユン婆はすぐに現場へと急行する。


「一体なんだ!?何で魔物が突然現れた!?」


「俺に聞くな!とにかく魔物に応戦しろ!手が空いてる奴は北の森へ里の人達を誘導に向かえ!」


守護人達数名は手分けして現れた魔物へとすぐに応戦を始めた。

しかし、守護人の人数よりも圧倒的に魔物の方が数は多かった。


「くそ!誰か空いてる奴いないのか!?リコ様を探せ!」


「手が空いてる奴なんか・・・この状況でいるわけないだろ!」


戦いながら愚痴を漏らす守護人達。

その戦いを見ながらユン婆は辺り一帯に目を向けていた。


「これは・・やはり闇の力・・・。じゃが・・・こんな力聞いた事がない・・・」


「ユンミレシアータ様!衛女隊えいじょたいに連絡を!

それと、サーニャ様の事を頼みます!」


「分かっておる!此処はまかせたぞ!」


「合点承知の助!」


ユン婆は守護人達にその場を任せると、早歩きで里長の家へと足を向けながらできる限りの声で叫んだ。


「チータ!チータ!」


「主しゃま!お呼びでちゅか?」


「チータ、すぐに衛女隊と連絡を取るのじゃ。もう動いておればそれでよい。

それが終わったらリコ様と合流するんじゃ。良いな?」


「はいでちゅ!」


ユン婆のただ事ではない表情に驚きながらもチータは的確に指示を聞き動き出した。


「敵の狙いが正確に読みとれん・・・。アーシャ様とセーラ様の話では次の巫女候補者・・・。

つまりセーラ様だと言っておったが・・・。やはり里を襲う気なのか・・・?

それとも・・・リコ様の秘密に気付いたか・・・。

とにかく今はサーニャ様じゃの」


ユン婆は出来る限りの急ぎ足で里長の家へと歩を進めた。


その頃里長の家の前では、里長とその奥方であるシジリアがサーニャを連れ右往左往していた。


「お爺さんどうしましょう。衛女隊によれば里に魔物が出たみたいですよ」


「わかっている。シジリアはサーニャ様を連れて北の森へ行くのじゃ。

私は里長として指示を出さねばならん。良いな?サーニャ様は必ず守るのじゃぞ?」


「分かっています。お爺さんも・・・ご武運を・・・」


「うむ。全ての避難が終わったらすぐにわしも向かう。それまで頼む」


「はい!」


里長が状況を読みきれないサーニャの手を引きながら歩いていくシジリアの背を見送る一方、

サーニャ達とすれ違う形で若い女性が一人里長の下へ走ってきた。


「里長様」


衛女長えいじょちょうか、皆の避難状況はどうなっておる?」


「現在避難を西の森と東の森に別れて北の森へ行くよう促しております。

森の中に隠れて移動した方がよろしいかと判断したもので」


「ああ。良い判断じゃ。現在の避難率はどれくらいじゃ?」


「60%程です」


「ふむふむ。引き続き守護人と協力して避難誘導を頼む」


「はい」


里長が衛女長と話していると険しい表情でこちらへ向かってくるユン婆が視界に入った。


「ユンミレシアータ様!?」


「はぁはぁ・・・。大丈夫じゃ・・・この年にこの運動は応えるわい・・・」


「少し休んでくだされ」


「うむ。ところでサーニャ様の避難はどうなっておる?」


「もう避難されましたぞ?」


「ならば良い。里長よ、悪いが水を一杯くれんか?」


「は、はい。すぐに」


ユン婆は自宅に入って行く里長を見送ってから衛女長に目を向けた。


「衛女長か、大きくなったのう」


「はい、ところでユンミレシアータ様、魔物が妙なんです」


「妙とな?」


「はい。魔物は一切人に手を出さないのです。普通魔物は人を食う為に襲うもの。

この里に現れたのも人を食う為と思っていたのですが・・・」


「わしの違和感もそれじゃ。建物を破壊し人を襲うような素振りを見せるが、

それ以上の事はせん」


「それでは・・・」


「目的は里の人達ではないという事じゃな・・・」


衛女長とユン婆が考え込んでいると、水をカップに入れた里長が自宅から出てきた。


「里長、すまんな」


「いえいえ。何かお分かりになりましたか?」


「いや・・・。そもそも敵の狙いが次の巫女というのがわからないのじゃ。

巫女候補を潰していけば世界の理が崩壊する可能性がある・・・。

そんな事をして何の意味がある・・・」


「ユンミレシアータ様、失礼ながら今は人命優先でどうでしょう?

人々あっての水の里ですじゃ」


「そうじゃな。北の森に避難した人達の事も心配じゃ。すぐに移動しよう」


ユン婆に付き添う様に衛女長はすぐに近くへと歩み寄った。

その次の瞬間、里のあちこちから爆音が鳴り響く。


「ユンミレシアータ様、私めはアーシャ様からの頼まれごとをしてから向かいたいと思います」


「頼み事?それは何じゃ?」


「宝玉の欠片と魔剣の回収ですじゃ」


「水巫女の社か。確かに、あそこには穢れきった宝玉の欠片と清められた宝玉の欠片が安置されておる。

それに魔剣もか・・・。しかし、あそこは巫女しか入れないはずじゃが?」


「大丈夫ですじゃ。裏道がありますので」


「そういえば、そんな道があったのぅ。じゃが、お主一人で大丈夫か?誰か護衛をつけた方が良いのではないか?」


「年老いても元は守護人。無事に持って戻りますじゃ。それに、人数が増えれば増える程目立ちますからなぁ」


里長は懐から短剣をちらりと見せながら自信の笑みをユン婆と衛女長へと見せると、

足早に西の方角へと行ってしまった。


「ユンミレシアータ様、誰か里長の後をつけさせましょうか?」


「ん?不安が顔に出ておったか?」


「はい。ユンミレシアータ様の不安は親身に受け止めよとアーシャ様の口癖ですから」


「ふっ。そうか。しかし、衛女隊にもそこまでの余力はあるまい?」


「どんな状況化であってもなんとかする気がなければ、前へは進めません。ユンミレシアータ様の思う指示を」


「・・・二人、二人だけ回しておくれ。あくまで保険じゃからの。頼む」


「承知致しました。西の森から向かいましょう。そこに衛女隊もいます」


「うむ」


ユン婆は南の空を神妙な面持ちでじっと見つめ、衛女長と共にこの場を後にした。




水の里に魔物が現れた頃、ケイトはセーラの分身と知らず共に森の中を水の里に向かって走っていた。


「セーラ様そろそろ事情をちゃんと話して下さいませんか?

災いの元は荒野の方角にいるのではありませんか?」


「ケイト君、もう少し早く走って」


「何故です?理由を教えてください!」


「来る!」


セーラの言葉と共に大きな地響きが南の森の方角から聞こえてきた。


「何だ?!何が起きたんだ?!」


ケイトは事態を把握しようと周辺を見渡す。


「だ・・大丈夫そうだな・・・ってセーラ様!?」


「はぁはぁ・・・くっ・・・」


ケイトが気付いた時にはセーラは苦しそうに息を荒くし膝を突いていた。


「此処まで・・・ね・・・」


次の瞬間、セーラは音を立てて地面に倒れた。


「セーラ様!?大丈夫ですか!?」


「え・・・ええ。大丈夫・・」


「大丈夫じゃないですよ!?脚と左腕が無くなってます!」


「そう・・」


「しっかりしてください!」


動揺を隠せず、しかし何をして良いのかわからないケイトは辺りを見渡す。

そんなケイトに、いつの間にか現れたチェイが呟く。


「セーラ様はもう間もなく死にますよ」


「どういう事だ!?意味がわからない!」


「今、目の前で倒れているセーラ様は本体の分身。

本物のセーラ様はとっくに災いの元、つまり敵と戦っています。

そして、この状況・・・」


「分身!?何故それを言ってくれなかった!?俺の意思はわかってたはずだろ!?」


「助けるとは一言も言っておりません。勝手な思い違いをなさらないでください」


「ああ!そうかよ!」


ケイトは悔しそうな表情でセーラの前に膝を突き抱き起こした。


「セーラ様しっかりしてください!」


「申し訳ないのだけれど・・・これ・・リコちゃんに届けてほしい」


セーラは言葉と共に懐から小袋を二つ唐突に取り出しケイトの前に差し出した。


「これは?」


「水巫女に伝わるお守り。一つはアーシャ様の、もう一つは私から」


「今にも消えそうな貴方からお守りなんて受け取れるわけないでしょう!?」


「それもそうね・・・ふふ」


「それに、自分で渡してくださいよ。こんな役目まっぴらです」


ケイトは急にセーラを抱き上げて走り始めた。


「里までもう少しです!絶対に自分で渡して下さい!」


「う・・・ん・・・」


ぐったりしながらもセーラはケイトの腕の中で小さく頷くが、

無情にもセーラの右腕からは水滴が溢れ体が透けはじめていた。

同時に力なく握られていたセーラの右手から小袋は零れ落ちる。


「くっそ!」


ケイトは地面に落ちた小袋をなんとか拾い上げ再度走り出す。


「私・・・ケイト君に嫉妬していい?」


「いきなり何ですか?」


「リコちゃんの隣にいるのは私でありたかった。この先もずっと・・・。

死にたくない・・・。死にたくない・・・」


セーラは泣きながらケイトの胸に頭を押し付けた。


「リコちゃんを守って!」


ケイトはセーラの言葉に対して何も応えなかった。


「どうして何も言ってくれないの?ケイト君」


「・・・」


ケイトは段々透明になっていくセーラの姿を見てさらに走るのを加速させた。


「リコを守るのは俺だけじゃ役不足なんですよ!

事足りてたら俺は此処にいないと思います。

この先にリコはいるんでしょ?

だったら・・・・!消えるな!」


「・・・・うん・・・」


ケイトはそれから里に着くまで胸に抱くセーラを見ずに走り続けた。

胸の中にある温もりを目でなく、手でしっかりと抱きしめるように。



里に魔物が出現した頃、リコは里から立ち上る不審な煙と激しい物音を南の森へと続く小道から聞いていた。


「一体何・・・?何が起こったの?」


呆然と見つめるリコの元へ突如としてチータが血相を変えて飛んできた。


「リコ様みちゅけた!」


「どうしたの?チータ」


「どうしたの?ではないでちゅ!里が大変なんでちゅ!」


「大変って?何かあったの?」


「えっとえっと・・・里に魔物が出たんでちゅ!」


「え?」


「”え?”じゃないでちゅ!里は混乱してまちゅ!早く里に戻ってほしいでちゅ!」


「で・・・でも・・・」


「”でも”も何もないでちゅよ!里を守るのは巫女の役目でちゅよ!」


「私は・・・」


リコは目を瞑り歯を食いしばると震える声を漏らした。


「私はセーラ様を助けたい・・・助けに行きたい・・・友達だから・・・。

今助けられるのは・・・私しかいない・・・だから・・・ごめん・・・」


「ばかやろうが!」


リコが歩を進めようとした瞬間、南の森の方角から大きな声が飛んだ。

そこには何かを抱えるような格好をした男の人が一人立っていた。


「聞きたくなかったけど、聞こえちまったよ!

里よりセーラ様が大事だぁ!?ふざけんじゃねえぞ!てめえ!」


ケイトはリコの前まで来ると右手を差し出した。


「な・・・何よ!?誰よ!あんた!」


「手ぇ出せよ!」


ケイトの凄みに押されリコが右手を差し出すと、ケイトは手を重ねる様に小袋を置いた。


「これは・・・水巫女のお守り・・・。どうしてあんたが・・・」


リコが顔を上げると、そこには怒りながらも涙を溢れさせたケイトがいた。


「さっきまでいたんだよ・・・、この腕の中にセーラ様がな・・・」



ケイトがリコと遭遇する少し前の事。



ケイトは半透明化するセーラを抱きながら里目指して走っていた。

セーラはぼんやりとした表情で力なくケイトに抱かれ、その体からは多くの水滴が溢れ出してきている。


「リコちゃんはね・・・自分のお父さんの事が嫌いなの。

里の英雄と呼ばれながら死んでしまったお父さんが嫌い・・・。

サーニャちゃんの顔を見ずに死んでしまったお父さんが嫌い・・・。

そして、お母さんを悲しませたお父さんが嫌い・・・。

リコちゃんにとって死は憎むべき敵なの。


だから、誰よりも守る事に関して固執する」


「今は何も話さなくて良いです。何か・・・聞いてしまうと、セーラ様が死んでしまう気がしてならないです」


ケイトの言葉にセーラは一瞬寂しそうな表情を見せるが、すぐにいつもの優しそうな表情に戻る。


「守る為に人と距離を置く。そしてどんどん孤独になっていく。

本当の所は失うのが怖くて逃げてるだけなのかもしれない。それでも、リコちゃんと向き合っていける人が存在してほしいと・・ケホケホ・・・。


「無茶しないで下さい!里までもう少し!静かに寝ていてください!」


「ケイト君ごめん。やっぱり過去は変えられないみたい。

だから、ケイト君に私から最後の助言するね」


「言わなくて良いです!静かに抱かれていてください!」


「それでも言うよ。・・・絶対に負けない、死なない男になりなさい。

絶対は世の中に存在しないけど・・・それでも・・・リコちゃんの前ではそうあり続けると信じなさい。

リコちゃんの心を少しでも・・・」


「・・・・」


何も返事をしないケイトの表情は悔しそうに歯を食いしばっていた。


「俺とセーラ様は!リコと共にある!永遠にだ!

それで良いよな!だから喋るな!って・・・・え・・・」


ケイトが次に視線を下に移した時そこにはセーラの姿は無く、

セーラから渡された小袋だけが虚しくケイトの右手に残っていた。



時はケイトがリコに小袋を渡した時に戻る。


「セーラ様に言ったんだろ?水巫女になるのは自分だって。

だったらその力を見せるのは今じゃないのか?」


「それとこれは話が別よ!里には守護人や衛女隊がいる!だから大丈夫よ!

セーラ様の援護には誰も向かわない!だから私が行くの!もう止めないで!」


「そうかよ!じゃあ勝手に行けよ!俺はお前に似た人をもう一人知ってる。

そいつはなぁ!セーラ様を助けるとか里の人を助けるとかそんな事考えねえ!

すぐ近くに危ない奴がいれば飛び込んでいくぜ?

簡単な事だ。助けたらすぐ次に行けば良い。ましてや、セーラ様の下には相当ヤバイのがいると俺は思う。

一人でどうこうできるとは思えねえぜ?」


「だったらどうしろって言うのよ!」


「俺が力を貸してやる!俺もセーラ様を助けたいんだ!

だが、その前に里へ現れた魔物を一掃する必要がある!

このまま里をほったらかしにしてセーラ様の所へ行ってもセーラ様は喜ばないだろうしな」


「・・・・」


リコは目の前の男を信じて良いのか、半信半疑な表情でじっと見つめた。


「・・・わかった。すぐに里へ戻るわ。チータもそれでいいのよね?」


「え、あ、はいでちゅ!」


ケイトとリコのやり取りを唖然とした表情で見つめていたチータはいきなり話を振られ動揺した。


「私はまだ貴方を信用しない。それに、セーラ様を助けられなかったら、私は貴方を一生許さない」


「お、おう」


とても10歳前後とは思えない貫禄を見せるリコにケイトは動揺を隠せなかった。


「それじゃ、すぐに里へ戻るわよ!」


「おう!」


「はいでちゅ!」


3人は里へ向かって走り出した。


「貴方名前は?一応聞いてあげる。里の人でしょ?」


「名前は・・・えっと・・・ケ・・・ケンタ!ケンタだ」


「ケンタか、変な名前ね。私はリコ、よろしくね」


「お、おう・・・」


ケイトは内心、偽名を使って良かったのかと複雑だった。


「ところでチータ、里の状況はどうなってるの?私には時間がないの。出来るだけの情報を細かくお願い」


「了解でちゅ!現在守護人さん達と衛女隊が魔物と応戦しておりまちゅ!

魔物の数は知る限りで約10匹程でちゅ。

里の人達の避難率は70%を超えまちた。死人は現在でていまちぇん。怪我人は数人でていまちゅ」


「わかったわ。ありがとう。これならすぐ片付くわね」


「でちゅが・・・」


リコのやる気に対して、チータはどこかすっきりしない表情をした。


「どうしたの?」


「えっと・・・妙なんでちゅ」


「妙?」


「はいでちゅ。魔物が人間を積極的に襲わないんでちゅ。

家々を壊し、里の人達に怪我は負わせまちゅが、それ以上の事はせじゅにすぐに逃げるというか・・・移動するんでちゅ」


「なるほど・・・」


チータの助言にリコは深く頷くが、そこへケイトが口を挟んだ。


「俺のカンだけどな、災いの根源、つまりセーラ様と戦ってる奴の手下で、人を襲う以外の目的があるって事だと筋が通らないか?

魔物が出現するタイミングと数だけ見れば偶然とは思えないだろ?」


「目的ね・・・、目的は何であれ、守るべきものは里の人達よ。それ以上のものはないわ」


「ああ。そうだな。じゃあどうする?」


「衛女隊と守護人を組ませて、まだ避難していない、もしくは怪我をしている里の人達の誘導にまわすわ。

それで、里と里の人々をしっかりと分ける。そうすれば、魔物の狙いが里の中にあるのか、里の人達なのかはっきりするわ」


「よし、わかった!」


「了解でちゅ!」


リコの提案にチータとケイトは力強く頷いた。


「チータは先に里へ!ユン婆に連絡後ユン婆に指示を仰ぎなさい。

それと、サーニャから離れないで!絶対に!」


「了解でちゅ!」


チータはリコに元気よく返事すると共に姿を消した。


「さて、俺達も急ぐぜ」


「な、何を・・・!?」


ケイトは後ろからリコを掬い上げるように抱き上げると、走る速度を更に上げた。


「一刻を争う。早いに越した事はないだろ?しっかり捕まってろよ」


「・・・ああ・・」


リコはケイトの洋服をしっかりと掴みケンタと名乗る男の顔を見つめた。

この時リコは不思議な感覚と共に亡くなった父を思い出した。

小さい頃に抱きしめられた事のある感覚、匂い、そして、力強い言葉。


「・・・お父さん・・・」


「ん?何か言ったか?」


「いいや、何も・・・。

それよりも、急ごう」


「おう!」


リコ達が里に着いた時、あちこちから黒い煙があがると共に、魔物と剣を交える人達の姿が見て取れた。


「サタケ!」


リコはケイトの腕から降りるとサタケと呼んだ20歳前後の青年へと駆け寄る。

サタケは魔物と対峙しながらも驚きの表情でリコを横目で見た。


「リコ様!?」


狼の姿で体中に黒い膜を張り巡らせた魔物は、リコの姿を見るなりあっさりと引き下がるように後退し逃げ出した。


「待て!この!」


「サタケ!追わなくて良い!」


「し、しかし!」


「奴らの目的は人ではない。だから大丈夫。それと、今すぐに守護長と連絡を取り里の人達の避難を最優先に動くように指示を出してもらって。

避難が完了すれば全てが分かると思うわ。時間がないから急いで」


「わ、わかりました!」


サタケは胸の前に腕を持ってくると一礼し、リコの後ろに立つケイトをちらりと見るとすぐに走り去った。


「あれがサタケさん!?」


「どうした?そんなに驚いたような顔をして。私達も里を回るよ。

怪我をしてる人がいるかもしれないから」


「あ、ああ。急ごう」


ケイトはサタケが去った方向に後ろ髪引かれる思いでその場を後にした。


「家々の崩れが真新しい・・・。近くに魔物がいるかもしれない・・・。ケンタ、気をつけて」


「ああ。分かってる。っていたぞ!?」


半壊している家の壁に隠れ辺りを観察している魔物を見つけるとケイトは叫んだ。


「私がやる!離れて!」


リコはケイトを押し退け走り出すと両手を目の前で合わせた。


「精霊よ、私に力を貸して!流水衝撃波!」


呪文と共にリコの右手から青い閃光が放たれるが、着弾寸前に黒い煙の様な物が魔物を守るかの様に立ちはだかり魔法を吸収した。


「何故?!魔法が効かない?!」


動揺するリコを庇うようにケイトは前へでるが、魔物は自分達を一瞬睨むと辺りを見渡しすぐにその場を立ち去った。


「大丈夫か?リコ。どうした?」


「う・・ううん。何でもない」


リコは訝しげな表情で立ち去った魔物の方向を見つめる。


「って勝手に呼び捨てにしないでよ。馴れ馴れしい」


「しょうがないだろ。いつもの事なんだから」


「いつも?」


「いや・・・ハハハ。まあ気にするな。

それより、周囲の散策に入ろうぜ?無駄口喋ってる時間がもったいないし」


「あんたに言われたくないわよ」


ケイトとリコはお互いにぶつぶつ言いながらも周辺の家々を避難していない人を探す為別れて動き出した。


「さすがに、これだけの騒ぎになってれば避難もしてるよね。此処もいないし。

ケンタ!そっちはどう?」


「こっちもいない!後、すぐそこの一軒だけ見てくる!少し待っててくれ!」


「急いでよね!回る場所はまだあるんだから!」


「わかってるよ!」


ケイトが残りの一軒を見に行っている間、リコは所々で黒い煙があがる里の光景を見渡しながら歯を食いしばった。


「お母さんの大切な里をよくも・・・、絶対に許さないんだから!」


そんな一方で、ケイトは目の前に建つ屋根が破壊された家を見渡していた。


「この家何処かで・・・」


ケイトは正面の扉をゆっくり開け中へと踏みこむと家の中全体を見渡した。

そこは、屋根が崩れているものの必要最低限な生活はできるといった殺風景な内装だった。


「やっぱり何処かで見覚えがある・・・」


足元に気をつけながらケイトはゆっくりと歩を進めていく。


「誰もいないか?いたら反応してくれ」


ケイトの声に反応するものは何もなく、ただ踏まれるガラスの破片だけがバリバリと音を立てている。

そして、ケイトは奥の部屋へ踏み入ると同時に仰向けに倒れている一人の少年を発見する。


「おい!大丈夫か!・・・ってこれは・・・俺・・?」


ケイトは少年を凝視した後、部屋中を見渡した。


「そうだ・・・此処は俺の家だ・・・。

腕の中にいるこれは・・・俺だ・・・」


複雑な心境のまま腕の中にいる幼い少年を見つめるケイト。

そこへ、不機嫌そうな表情のリコが家の中へとやってきた。


「ケンタ、いつまでやってるの?時間ないのよ?って怪我人!?

見つけたならすぐに呼びなさいよ!ちょっと見せて!」


リコはすぐにしゃがみこみケイトが抱く少年を頭から足の先まで見渡した。


「大分酷いわね。それに・・・。とにかく外へ運びましょ。

此処じゃいつ家が崩れるかわからないわ」


「あ、ああ。そうだな。」


ケイトはリコに言われるまま抱き上げ外へと運んでいく。


「そこの草むらに寝かせて。それから薬草と水、それに布を見つけてきて」


「あ、ああ。わかった」


リコの指示通り草むらへと少年を寝かせるが、ケイトはどこか不安げな表情で少年をじっと見つめていた。


「あ、ああ。だが・・・」


「邪魔よ。どいて」


少年の傍を離れようとしないケイトを無理やり押し退けリコは少年の状態を診るべく洋服に手をかけた。


「・・・」


リコは何を見たのか手を止め歯を食いしばり、ケイトも同時に不安げな表情をした。


「これが・・・同じ人間がする事なの・・・?」


リコが苛立った様子で少年の上着をゆっくりと脱がすと、先程受けた真新しい傷と共に人為的につけられたような青痣がいくつもあった。

その痣の一つ一つにリコは優しく手を触れていく。


「ケンタ!見てないで急いで!」


「お、おう!」


ケイトは大きな声と共にその場を離れるが、その内心は複雑な気持ちだった。


「やっぱりあの時俺を助けてくれたのはお前か・・・リコ」


ケイトがいなくなった後、気絶している少年の前で大きく息を吸い集中すると青く優しい光がリコを覆う様に集まり始めた。


「絶対に・・・助けるから・・」


真剣な表情をするリコの言葉と共に青い光が少年の体内へとゆっくりと入って行った。

ご愛読ありがとうございました。

次回の更新は2月の10日までには出したいと思います。

では29章で会いましょう

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