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リコとセーラとケイトパート2

1月中旬にアップ予定でしたが早めにアップできました。

今回は戦闘シーンが多分に含まれます。

では本編へいってらっしゃいませ。

その日以来セーラとリコは時間が合えば一緒に鍛錬したり話をする時間を作り、

近くに魔物が出れば守護人と共に退治へ出向く日々を過ごした。


そんなある日の事、水の里の中央にある古びた木造の建物、

水巫女の社でアーシャとセーラは掃除をしていた。

社の中は大きな和紙に字が書かれた物がそこら中に張られている。


「セーラ、あの日以来リコと一緒に行動する時間増えたよね。何かあった?」


「いえ、何もないですよ。ただ・・・」


照れてるのか恥ずかしそうにするセーラが手をもじもじさせていた。


「ただ?どうしたの?」


「ただ・・・友達に・・なったんです」


「友達!?」


セーラの言葉にアーシャは目を丸くした。


「凄〜い!私でさえ友達いないのに!」


「う・・うん。私自身びっくりしてます。」


「でも・・・あの子変わったわ。前は目を尖らせていたもの。セーラのおかげかな」


「そんな・・・そんなことないです・・・」


照れるセーラを他所に、いつの間にかアーシャは木でできた網戸から外を真剣な表情で見つめていた。


「アーシャ様?どうされたんですか?」


セーラはアーシャの視線を追うと一人の少年が社の前で下を向いていた。


「あの子がどうかしたんですか?」


「あの子は例の少年よ。セーラは関わらない方が良い」


「例のって・・・グリムさんの子供?」


「ええ。名前は確か・・・ケイト」


セーラとアーシャがじっと社の中から見つめていると、ケイトは何か小声で呟くと帰って行った。


「あの少年はね毎日の様に此処へ来るわ。そして、願いと恨みを此処で吐いていく」


「願いと恨み・・・。助ける事は・・・」


「わからない。でも私には無理だった。あの子は此処へ来るけど水巫女に頼りたくて此処へ来るわけじゃない。

もっと極自然な・・・当たり前な何かを求めて来るんだと思う・・・。

それに、あの少年がこの里へ着てから何年も経つ。調べたけれど里の人達から避けられているわ。

それに加えてあの事件もあるのよね」


「私が・・・」


「止めときなさい。あの少年は作為的なものに対してとても敏感。

あの子に対してセーラが何かをしたいと思った時点でもう無理よ」


「それではあの子は救われません」


「なんとなく・・・なんだけど、うちの娘リコとあの子は何処かで知り合う。

理屈じゃないんだけど、出会う気がするの」


「リコちゃんとですか・・・。なんか・・・そう言われるとそんな気がしてきました」


「おっと、掃除掃除っと!」


二人は掃除の手が止まっている事に気付き作業を再開する。


「リコは自分の嫌な事に対してお構いなしだわ。

もともとリコは巫女っぽくないし」


「あはは・・・。アーシャ様に言われると身も蓋もないですよ?」


「まあ、なんとかなるわ。それよりも・・・感知範囲を何処まで広げれた?

早くて今年、遅くて再来年って私は思ってるけど」


「えっと・・・、ネバルゲ村までとは言えませんが、南の森付近の荒原60%程は押さえました。

後残り40%ってところですね」


「ありがとう。予定より大分早い。私が御礼の儀に出向く日までに完成してくれればそれでいいの」


「それは大丈夫です。あの・・・話は変わるんですが・・・」


セーラは手を止め改まった様子で言葉を紡ぐ。


「リコちゃん自身にも”月の彼方つきのみこ”の事を秘密にするつもりなんですか?」


「ん?そのつもりだけど?前にも言ったと思うけど、月の彼方に関しては神話の話よ。

だからこそ、神話で終わらせる。私が今話してる事も根拠はないよ。

でもそれ以外の説明がつかないだけ。

リコは何でも首を突っ込む。知らないに越した事はないでしょうしね。

それに、サーニャの面倒をちゃんと見るように言ってあるから。

おおっぴらに行動はしないはずよ」


「確かに・・・。傍から見れば魔力の大きさはリコちゃんよりもサーニャちゃんの方が上ですからね。

敵が狙う対象としてはリコちゃんは除外される」


「まあ、リコもサーニャも大事な娘には変わりはないけどね。絶対守ってみせるわ」


アーシャは力強く、それでいて頼もしくセーラに微笑んだ。


「それよりも、セーラは怖くない?敵は相当強いよ?」


「怖い・・・って言うよりも、早く倒したいですね。ぱぱっと倒して私とリコちゃんライフを充実したいです!

それで・・はぁはぁ・・・」


「ちょっと、息が荒くなってるけど?なんだか違う心配が・・・。まあ、早く片付けて帰ろ?

リコがお昼ご飯作ってくれるみたいだったし」


「え!?リコちゃんが!?私の為に・・・急ぎましょう!」


「・・・誰もセーラの為とは一言も・・・それにまだセーラを誘ってもいな・・・。

まあいいか・・。」


アーシャの言葉を聞くよりもお昼ご飯の方が優先順位が上なのか、セーラは慌しく片付けを始めた。

そんな姿を呆れた表情で見つめるアーシャ。


「数年後、今と何も変わらなければ・・・いいな・・・。ね?アギト」


アーシャは晴れ晴れとした空を網戸から見つめた。




時は戻り、ケイトはいつの間にかセーラの目元に涙が浮かび上がっていた事に気がついた。


「あ、ごめんなさい。少しぼーっとしてしまいましたね。

そっか・・・。リコちゃんの隣には貴方がいるのね。それは・・・とても嬉しい事だわ」


「セーラ様・・・?」


吹っ切れた表情を見せるセーラにケイトは何故か惹きつけられる様に見つめる。


「偉そうで自分に真っ直ぐで破天荒で・・・。

その全てに誰かを思いやる心がある。

でもね、リコちゃんは誰かを信じる事が素直にできない。

誰かを信じる前に相手を傷つけてしまう。


ケイト君、貴方もそうだったでしょ?」


「・・・はい」


「それなら、リコの刃ですら貫けない意志と強さを見せ付けてやりなさい。

って・・偉そうな事言っちゃったかな・・・てへ」


場の張り詰めた空気を紛らすかの様にセーラは取り繕うが、ケイトはお構いなしに言葉を紡ぐ。


「俺は俺自身ダメなのは良く分かってます。剣術も中途半端、だからって武術が得意ってわけでもない。

でも、打たれ強さだけは鍛えてきたつもりです!」


ケイトの真剣な眼差しを見たセーラは腰を上げリューと共に湖へと足を向ける。


「さてっと・・・。それじゃ見せてもらっちゃおうかな。その強さ」


言葉の意味が分からないケイトも腰を上げセーラの後をついていく。


「一体何を・・・」


「私が開けたリコちゃんの心は未来では閉じている。それを開けるのはケイト君よ。

だから、今から起きる全てを記憶して未来へ帰りなさい」


「だから、意味が・・・!?」


ケイトはいつの間にか足元に絡みつく水に目を奪われた。


「足が・・・動かない・・・」


水は滝が逆流するかの様にケイトの体を蔓の様に這い上がってくる。

そんなケイトをお構いなしにセーラは湖へと入って行く。


「やっときたね・・・諸悪の根源」


セーラの目つきは先程とは打って変ってそこにいない誰かを睨みつけている様だった。




一方でネバルゲ村から水の里へ北上する黒髪の少女が一人荒原を歩いていた。

その少女は赤黒い色をした背丈の倍程もある大剣を悠々と肩に担ぎ、真っ赤な赤いコートの様な物で体を覆っていた。


「ほっんと!しょうもない部下を持つと苦労するわ・・・。早く有能な部下がほしいよぉ!

ったく!何が”有能な部下がほしければ自分で調達しろ”だ!ブーブー!

そもそもの原因は私にしょぼい部下を持たせたあんたが悪いっつーの!

まあ、そんな事絶対に言えないけどさ・・・。」


少女が深い溜息をついていると、少女を取り囲むかのように20匹程の魔物の群れが現れた。

群れは数十メートル程の大きな恐竜に似たものやら、狼に似た生き物、サルに似た生き物がいた。

魔物達は目の前の少女エサを見て興奮しているのか涎が垂れている。


「あー・・・やっぱりこの世界にも魔物っているのね。えっと・・・物足りない!

こんな数じゃ私の不機嫌直らない!

逆に中途半端すぎて・・・余計腹立ってきちゃったよ・・・」


少女の愚痴とは裏腹に魔物が一斉に襲い掛かった。


それを見て少女は口元に笑みを浮かべ大剣を素早く横薙ぎした。


「うわ〜きったない!?」


少女の赤いコートに黒い魔物の肉片がこびりつく。


「これだから魔物って嫌なのよね・・・。黒い血肉って何!?グロイんですけど!」


少女は自分の服を見るなり、怒りを露にすると共に残りの魔物達を睨みつける。

魔物達にも意思があるのか、視線を少女に向けたままゆっくりと足を引いていく。


「ねえ?まさかとは思うけど、逃げようとしてない?

私をこんなに汚しておいて、それはなくない?

そう・・・だよね?」


少女は魔物の目に止まらぬ速さで、一番少女から離れていた群れの頭であろう魔物の首を切り落とした。


「ふー。良かった綺麗に首だけ切り落とせて。他の皆はどうする?逃げる?それとも死ぬ?

ごめん、逃げても死ぬか・・・あははは!」


一人不気味に笑う少女の背後を数匹の魔物が急に襲い掛かった。

しかし、次の瞬間には胴を真っ二つにされるもの、首がないもの、腸が飛び出しているものがそこにはあった。


「あー楽しかった!でも案外隙を作るのって大変なのね・・・。洋服も汚れちゃったし早く人間の血で染め直さなきゃ・・・」


少女は自分の服を見ながら少しだけ残念そうな表情を見せた。


そんな少女に向かって誰かが話しかける。


「お前なぁ・・、一応魔物は俺達”黒霊こくれい”の子孫なんだぞ?

少しは加減位しろよ・・・」


「しょうがないじゃない。私を襲った天罰なんだから」


「天罰じゃねえ、ただの八つ当たりだろ・・・」


少女の周りには誰もいない。だが、少女は確かに誰かと話をしている。


「言っておくけどね!サーガ様以外はどうなってもいいのよ?わかる?

ヤミネでも容赦しないわよ?誰があんたの面倒見てやってると思ってるの」


「誰も面倒みてとは一言も・・・」


「はぁ?何か言った?死にたいの?死にたいんだ?あは♪」


少女は突然しゃがみこみ自分の影が写る地面へと手首を突っ込み、

黒い何かを引きずり出した。


黒いどろどろとした物体には原型が無いものの丸く大きな目がついている。


「もう一回同じ事言ってみて?それとも一生私の下僕がいい?選ばせてあげる。優しいでしょ?

選択権なんて滅多にあげないんだから」


黒い物体は少女の手の中でどろどろと暴れる。


「こんなきつく絞められたら返事もできないって?そうよね。もうちょっと絞めたら貴方死んじゃうもんね」


少女は好きな玩具が壊れていく事を楽しむかの様に狂った笑みを口元に浮かべていた。

しかし、少女は突如として黒い物体を自身の手から開放する。


「危なかった〜!ほんとに殺すところだった。自分の手で掴んだ物を見るとつい衝動が抑えられなくなっちゃうのよね・・・」


黒い物体は地面にてどろどろと揺れている。


「ねえ、ヤミネ大丈夫?」


「大丈夫なわけあるか!ほんとに死ぬところだったぞ!」


「だってほんとに殺すところだったし?まあ、いいじゃん?生きてたんだから」


少女はいつの間にか無邪気な笑顔に戻っていた。


「何で俺がパルシスみたいな殺しマニアと組まないといけないんだ・・・」


「ん?ヤミネ何か言った?」


「いや?天気も良好!目指すは水の里!って言っただけ」


ヤミネと呼ばれた黒い物体はゆっくりと動きながら少女の影へと戻り姿を消す。


「ところでヤミネ、この魔物の死体食べる?」


「うーん・・、食べたいけど再利用しようぜ?」


「再利用?どういう事?」


「まあ、見てな」


突然少女の影が大きく広がり辺り一面を覆うと、

その影に溶け込むかの様に魔物の死体はゆっくり沈んでいく。


「ああ、蘇生かー。でも何に使うの?」


「俺の身代わ・・・えっと、パシリとか何でもあるだろ?」


「ああ!そうか!それはいいわね。でも魔力半分は残しておいてよね?私ステネイラに戻れなくなっちゃうから」


「わかってるよ」


パルシスと呼ばれた少女とヤミネが話をしているうちに、先程まで肉片だった魔物の死体達は殺される前の姿に戻りその場に立ち尽くした。


「こいつらの意思はないんだよね?」


「ああ。中身は完全に真っ白だからな。それと単純な命令しか聞けないからそこんとこ頭使えよ?」


パルシスは20体程の魔物達の前で深く考え込んだ。


「使い道か・・・ない!」


「おいおい!良く考えろよ!魔力の使い損じゃねえか!」


「そんなわがまま言われてもねぇ・・・うーん」


「わがままって・・・。そういやサーガの為にお土産の魔剣を見つけて来るとか言ってなかったか?

そっちの仕事はどうだ?たぶん水の里にも一本や二本あるだろ?」


「それだ!私頭いい!じゃあ、早速瞬間転送いっちゃおうかね!」


「まてまて、これ以上お前に頭使われたら計画が崩れる!俺に任せといてくれ」


「まあ、天才の私が出るまでもないか・・・じゃあ、ヤミネに任せるよ」


「はいよ」


パルシスは大勢の魔物を従え歩き始めた。


「ヤミネ、一つ良い?」


「何だ?」


「何で一気に水の里へ転送してくれなかったの?」


「何でって・・・転送原理理解してないのか?」


「天才の私にそんな原理必要ないし」


「さいですか。まあ簡単に言えば、強大な魔力を持つ者程転送するのに膨大な魔力を必要とするんだよ。

パルシスを転送するのに複製と言えど黒霊を数人蒸発させたからな?」


「ほほう。私の魔力に黒霊が死んだか・・・ククク・・・さすが天才」


「言っておくが、褒めてねーぞ?」


ヤミネの言葉は既に耳に入っていないのかパルシスはニヤニヤしながら自分の世界に入ってしまっていた。


「まあ、また複製すればいいだけだからいいけど・・・。ってそろそろか。

おい、パルシス。こっちの世界へ戻ってこい?」


「何だ?今良いところなんだ」


「自分の世界で俺でも殺したのか?」


「おお。良くわかったな。褒めてしんぜよう!」


「褒められる義理はねえよ。それよりも、お出迎えがきたようだぜ?」


パルシスの前に現れたのは睨むようにパルシスを見つめ、どこか不思議めいた長い杖を持ったセーラだった。


「やっぱり実物で見ると可愛いわね。魔物や闇の力を持っていなければ大歓迎したかったのに。とっても残念。

申し訳ないけど此処から立ち去ってくれる?それとも私に御仕置きされたい?」


セーラの言葉に対し怖気づく事もなく、パルシスはじっと観察するようにセーラを見つめる。


「ねえ、さっきから私達に張り付くように見てたのは貴方でいいの?」


「ええ、そうよ。だったら?」


「名前はセーラ。次の水巫女候補であってる?」


自分の名前を言う前にパルシスに言われセーラは訝しげな表情を見せた。


「その顔は当たりね。よかった水の里まで足を運びたくなかったし」


「何故名前を知ってる?貴方の目的は何?」


「うーんとね・・・え?」


パルシスは何かに気付きセーラに背を向けると小声でブツブツと呟き始めた。

そして、セーラの方へ再度向き直った。


「どっちも言う必要ないよね。って言うかもう良い?手がうずうずしてきちゃった。

私の右手が寂しいって言ってるの」


次の瞬間セーラと対峙していたパルシスは消え、セーラの首を右手で絞めていた。


「あー。これこれ。この感覚・・・気持ち良い?どう?答えてよ。ね?気持ち良いでしょ?」


セーラの前には狂った様に歪み切った表情のパルシスがいた。

首を絞められ暴れるセーラを他所に楽しそうにするパルシス。


「後何秒で逝くのかな。ううん。後数分締めていたいな・・・わくわくする!」


そんなパルシスとは対照的にセーラは杖を落とし、段々意識が遠のいてきたのか暴れる力が弱くなってきていた。


次の瞬間セーラは水風船の様にはじけた。


「あらら・・・壊れちゃった・・・。体も水でびしょびしょだし・・・」


「そんな事よりも、本体探そうぜ?距離的にそれ程離れてないだろうし。

おい?聞いてるか?っておい!何でパンツ一丁になってる!?」


「いや・・・だってびしょびしょだし。風邪引いたら責任取ってくれるの?」


「責任って・・・。わかったよ。好きにしろ。服乾いたらすぐ本体を探しに行くからな?」


「ふ、計画通り」


「何が計画通りだよ・・・予定外だっつーの・・・」


荒野と南の森の境界辺りでパルシス達が動きを止めた頃、

水神の滝で水に打たれていたセーラは突然苦笑いを浮かべた。


「まさかね・・・強いのは聞いてたけど、これ程?」


「セーラ様、荒野で何かあったんで?」


「うーん、どう応えればいいのかな・・・一瞬で私の分身は消された・・・かな」


「ど、どうするおつもりで?アーシャ様が不在の今助け舟は期待できませんぞ?」


「いたとしても元より出す気はないよ?それがアーシャ様との約束だからね。

さて、どうしようね」


セーラに話を振られ、困った表情をするリュー。


そんな時、砂浜で体を水の縄によって拘束されているケイトにセーラは目を向けた。


「そうか、そういう事・・・」


「どういう事なんで?」


セーラはケイトの方へ歩き出しながら口を開く。


「リュー君は私の本体へ合流して。話はそっちで」


「了解でござる」


リューは返事を早々に湖の中へ消えるようにいなくなった。


同時にケイトを拘束していた水の縄も消えた。


「ケイト君、すぐに移動するよ。さあ、立って」


「移動って何処へですか?ついに戦うんですか?」


「ううん。水の里へすぐに移動する」


「え?意味がわかりませんよ?セーラ様が行かなければ誰が敵と戦うんですか?」


「いいから早く!」


ケイトはセーラに手を引かれるまま水の里へ向けて走り出した。





一方水の里ではリコが守護舎の戸を叩いていた。


「ねえ!開けて!リコだよ!ねえ!ねえ!」


「どうされたんです?」


戸を叩いた甲斐があったのか、中から目を丸くした40歳程の男性が顔を出した。


「セーラ様をすぐに追って!早く!」


「一体何があったんです?落ち着いて下さい」


「いいえ!落ち着かない!落ち着いていられないよ!とにかくセーラ様を追いなさい!命令よ!」


リコの怒り口調に対して、男性は困惑気味な表情を見せた。


「リコ様すみません。追う事はできません」


「どうして!?守護人は何の為にいるの!?巫女を守る為でしょ!早く行きなさいよ!」


「それは、アーシャ様とセーラ様の命令に背くからです」


「どういう事!?お母さんは今不在でしょ?どうしてそんな命令が来てるわけ?

まさか・・・これは前々から分かってた事なの?」


リコの突っかかるような口調にさえ男性は沈黙した。何かに耐える様に。


「黙っていてはわからないでしょ!?」


「俺達は!・・・絶対に里を守り抜きます!リコ様と共に!」


「な・・・」


男性は歯を食いしばりながら大きな声で応え、リコは尻込みしそうになった。


男性の後ろからは数人の守護人であろう男の人達が顔を覗かせる。


「もういい!私が行く!皆は里の人達を守ってて!」


リコは投げ捨てるように言うと、守護舎を背に走り去った。

その背を神妙な面持ちで見つめる守護人達。


「ユンミレシアータ様・・・これで良かったんですか・・・?」


「うむ」


守護舎の近くにある木からユン婆が顔を出した。


「俺達はリコ様の意見と同じです。守護人である以上最後までセーラ様に仕えたい!

これは間違ってますか?」


「いいや。だが、セーラ様の気持ちも考えてやったらどうじゃ?

セーラ様は上級魔法を使う気じゃよ」


「上級魔法?!それ程の相手なのですか!?」


「うむ」


ユン婆の言葉に目を丸くした後困惑気味な表情を見せる守護人達。


「リコ様はどうするんです?セーラ様の後を追うかもしれませんよ?」


「リコ様にはわしの精霊をつけてある。大丈夫じゃ。それよりも」


ユン婆が何かを説明しようとした瞬間、里の何処かで女性の悲鳴があがった。




時間軸は少し遡り、セーラは木陰に身を寄せながら荒野で佇む魔物の群れとパルシスの様子を伺っていた。

そこへリューがふわりと宙に現れる。


「セーラ様、ケイトとチェイをどうするつもりでごじゃる?」


「二人は南の森から離れてもらうよ。上級魔法を使うからね」


「上級魔法ですと!?それはいくらなんでも・・・」


「本気よ?成功した試しないけど」


「いや・・・そもそもそれ程の魔力変換は我輩にもやったことがないでごじゃるよ?」


「大丈夫。足りない分は私の命を削る」


「え?・・・えー!?それは宝玉の欠片でごじゃるか?!」


「あの子の目的は私みたいよ?殺すつもりか生け捕りかはわからないけどね。

さっきの言葉で確信できた。それに、もし目的が私以外だとしても此処を通すわけにはいかないし」


「それはそうでごじゃるが・・・」


困惑気味な表情を隠せないリューにセーラは一つのお願いを口にした。


「ねえ、リュー君。身勝手かもしれないけど、もし私が死んだらリコを助けてあげてくれないかな?」


「それは無理でごじゃる。我輩もその時には消滅でごじゃる」


「そっか・・・。一心同体って奴なのね」


「それは我輩が生まれた当時から決まっていたこと。それよりも、セーラ様には死なれては困るでごじゃるよ」


「そっか。そうだね」


セーラは荒野に佇むパルシスをしばし静かに見つめていた。


「ねえ、リュー君。私リコちゃんと仲良くなれたかな?」


「それは・・・生きて戻れば分かるはずでごじゃる」


「うん。確かにね。それじゃ、そろそろ行こうか」


セーラの掛け声と共にパルシスを中心とした広範囲を濃霧が囲み始めた。


「何?周りが見えないよ?」


パルシスはパンツ姿で周りを見渡し、そんなパルシスを見かねたのかヤミネが口を挟む。


「パルシス、服着たほうがいいぞ?これは敵の攻撃みたいだ」


「でも、まだ服乾いてないよ?」


「裸で戦う気か?早くしろ」


「何だよ・・・偉そうに・・・ちめたい・・・」


パルシスは渋々服を着用し辺りを見渡す。


「敵どこよ?」


「わからん。だが油断するなよ?」


パルシス達が警戒していると、氷の矢が何本も霧に紛れて飛んできた。

それを悉く避け後方を見つめるパルシス。


「ねえ、ヤミネ。後ろの魔物早く飛ばした方がいいんじゃない?

この矢が魔物に向けられたら致命傷だと思うよ?」


「パルシスに言われるとは・・・。しょうがない転送するか」


ヤミネの言葉と共にパルシスの影は大きく広がり魔物達を包み込む。


「後は魔物達が魔剣をとってくればお土産はできたな」


「うん。さすが私ね」


「いや、俺の案だろ?」


「小さい事気にする奴ね。器の力量が知れるよ?」


「お前にだけは言われたくねえ・・・」


パルシスは氷の矢を避けながら飛んでくる先を見つめた。


「それじゃ、殺しに行こっか」


「生け捕りな?」


ヤミネの確認と共にパルシスが矢の飛んでくる先に向かって走り出そうとした瞬間、後方からも氷の矢が飛んできた。


「ん?こっち?どっち?」


「完全に先手を取られてるな。とりあえず一つずつ潰して行くか。好きな方行って良いぞ?」


「うーん・・・じゃあ、こっちから!」


パルシスは初めに氷の矢が飛んできた方へ走り出した。

そこには氷の矢でパルシスを狙うセーラの姿。


「遅いよ?」


パルシスが大剣片手に一瞬でセーラの背後へ移動し蹴りを放とうとした瞬間、セーラの背後を守るかの様に分厚い氷の壁が地面から現れた。


「うわぁ〜?!」


パルシスは勢いあまった蹴りをなんとか止めようとしてバランスを崩し尻餅をついた。


「痛ったぁ〜い」


「氷の矢がまた来るぞ。のんびり座ってる場合じゃないだろ!」


上空からは氷の矢が好機とばかりに降り注ぐ。


それに対し、ヤミネはパルシスを覆う様に黒い影で包み込んだ。


その光景を遠くから見つめているセーラとリュー。


「ねえ、あの黒い影何?矢が飲み込まれた様に消えたけど・・・。それに意思を持っているかの様にあの子を守ってる」


「あんなの見たの我輩も初めてでごじゃるよ」


セーラとリューは霧状の中で蠢く黒い影をじっと見つめた。


「私の魔力も無限じゃないから分身を保つにも時間がある。

そろそろ本番行くよ?」


「了解でごじゃる!」


「最後まで付き合ってくれてありがとうね」


「それは言いっこなしでごじゃるよ」


リューの力強い言葉にセーラは笑みを零した。


「それじゃ行くよ!氷流爆水湖ひょうりゅうばくすいこ!」


セーラは両手を目の前で重ね祈るように集中する。

リューは腰に刺してあった刀を前に出し目を瞑る。


二人の仕草に合わせ、荒野に立つセーラの分身も手を合わせた。


それに合わせ荒野の温度が一気に下がっていく。


暗い闇の中でパルシスは立ち上がり辺りを見渡していた。


「此処ヤミネの中?」


「ああ。尻大丈夫か?」


「うん。平気。それより外に出してよ」


「出してあげたいが、外は大変な事になってる」


「大変?ひゃ!?」


突然パルシスが自分の足を見て悲鳴を上げた。


「どうした?」


「右足が凍った」


「・・・さっきの水か!早く服脱げ!全身氷漬にされるぞ!」


ヤミネに言われパルシスは渋った表情のまま服をしかたなく脱いだ。

その直後にパルシスの服は一瞬で凍りつく。


「危機一髪ってやつだな。これを羽織ってな。パンツ姿じゃ色々と問題があるだろ」


「うん。さっきから少し寒いし」


「とりあえず、このままじゃまずいな。どうするかな」


「やるしかないじゃん。外に出してよ」


「外に出たら今のままじゃパルシスはすぐに凍死するぞ?

今俺の周りは氷河期と言っても過言じゃないからな」


「ほえー。じゃあどうするのよ?意見を出させてあげる」


「むやみに俺は動けんしな・・・。後で手間だがあれをやるか・・・」


すると、人の形をした可愛いぬいぐるみがポツンとパルシスの前に転がった。

それは、少しだけ首がもげ、若干不気味さを持ち合わせている。


「あ、これ私の人形。あは。首がもげてる。あはは」


パルシスは左手に大剣を持ちながら右手で人形の首を絞めた。


「ねえ、痛い?気持ち良いでしょ?何か言ってよ。ねえ。

私の全てを奪ったくせに・・・くせに!」


人形はパルシスの手によって目を引き千切られ、腕からは中の白い綿が漏れ出している。


「首は絶対取らないよ?簡単には殺さない」


狂ったように人形を手で弄るパルシスの体から赤黒い何かが漏れ始めた。


パルシスの手元から人形が消えパルシスは笑う。


「まだ足りないよ・・・。足りないよ。右手が寂しいよ」


パルシスの体から漏れ出した赤黒い何かは燃えるように広がっていく。


「もう俺の出番はなさそうか」


ヤミネの言葉と共にパルシスを包んでいた暗い闇は消え影に戻った。



そんなパルシスの上空ではセーラと共に氷でできた巨大な槍が出来ていた。


「もう魔力はほとんど残ってないし。これに全てを賭けるしかないね。

リュー君!行くよ!聖氷水神槍せいひょうすいしんそう!」


巨大な槍は風を切り水を纏いながら高速でパルシスがいるであろう黒い部分に向け落下していく。


そして、物凄い轟音と爆発と共に辺り一面の温度を更に低下させあらゆる大気中の水分を凍らせていく。


宙に浮いていたセーラも例外ではなくその爆風によって吹き飛ばされていく。


「う・・・。やっぱり・・・凍傷が始まってる・・・。もう体の感覚がない・・・」


セーラは頭をなんとか動かし凍傷が始まった自分の体を見つめた。

そんなセーラの横にリューが姿を現す。


「セーラ様!意識をしっかりするでごじゃる!眠ってはだめでごじゃるよ!」


「リュー君・・・。ごめん・・・少し疲れた・・・」


セーラは次の瞬間、荒野に思い切り落下し手足がガラスのように砕けた。



一方セーラの攻撃を受けたパルシスも同時に大剣とそれを持つ左手が凍りついていた。


「何これ。左手が動かない。あは。面白い!面白い!殺してあげる!」


歪んだ表情で笑うパルシスは左手以外は全く無傷だった。


「おい、動かない方がいいぞ?左手砕けるぞ?」


「動かない方が良い?関係ないよ。後で直せばいいし。

それよりも、私の右手があの女の首に触りたいって五月蝿いの。あは」


少女は黒い炎を纏いながら辺りを見渡す。


「いた!いた!見〜つけた!」


パルシスはセーラのいる方へ歩き出すが凍った左手によって動きを止められる。


「左手邪魔ね・・・うーんっしょっと!」


パルシスはいとも簡単に凍った左腕から先を強引に砕いた。


「よし!これで自由だ。さて、お楽しみの時間だ。あは」


パルシスは左腕がもげた状態で、お楽しみとばかりに笑みを作りながらセーラに向けて歩き始めた。


読んでいただきありがとうございます。

次は28章で会いましょう。

よろしくお願いいたします。

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