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リコとセーラとケイト

大変おそくなりました。

年末にアップが今頃に・・・。

今回はセーラという水巫女のお話です。

では本編へどうぞ。

リコとユン婆が里長の家で話をしている頃、ケイトとチェイは並びながらセーラを追って森の中を走っていた。


「セーラ様がいる所までまだか?」


「もうまもなくです」


「くっそ・・木や葉が邪魔すぎて、ろくに走れねえよ!」


ケイトは立ち塞がる枝や葉を手で押しのけながらぼやいていた。


「もうすぐそこですよ」


淡々と応えるチェイをケイトがちらりと見ると、チェイは少し高い位置から何かを見つけた様にじっと前を見つめていた。


「この・・・先・・・か・・てーの!」


この先に行く事を拒むような木々の密集地帯をケイトが掻き分け抜けると、目の前に大きな滝と小さな湖があった。

周りを見渡せば密林に囲まれており、異質的な雰囲気さえ漂わせる空間。


「何だ此処は・・・、南の森にこんな所があったのか・・・」


ケイトは密林に囲まれるこの場所を見渡しながらゆっくりと湖に近づいていく。

すると、滝から出る霧の中に人影を見つけた。


影には凹凸があり、どことなく女性の影がちらつく。

それを見たケイトは足を止め、今度は逆に足がゆっくりと後退していった。


「ま・・・まさか・・・」


ケイトの不安は見事に適中する事となった。


霧の中からセーラが白い布を一枚羽織っただけの姿で出てきたのだ。


白い布は濡れていて透けており、裸と言っても過言ではなく、

何より濡れたセーラは女神と言っても誤りでは無いほど美しかった。


目の前のセーラに目を奪われていたケイトは、言葉も出ずただ呆然とセーラを見つめた。


そんなケイトにセーラは気がつかず、金色の髪を手で梳かしながら砂浜へとゆっくり上がると目を細めた。


「ん?・・・あれ・・・男の子・・・?」


セーラは自身の姿をすっかり忘れ、幻を見たかの様に目をこすりながらケイトへと歩みを進める。

そして、ケイトの目の前で手を左右に振った。


「ねぇ、君、大丈夫?」


ケイトは掛け声で我に返ると共に、セーラの姿を身近で見て目を見開いた。


「は・・はい!?ご・・ごめんなさい!」


「ほえ?あ・・・」


セーラはケイトの視線を追って初めて自分の格好を自覚すると共に体を丸めてその場にしゃがみんだ。

それに連動するかの様にケイトもセーラへすぐに背を向けた。


「ごめん!」


真っ赤な顔で謝るケイトを他所にセーラは慌てながら自分の洋服を置いた場所へと目を向けすぐに取りに走った。



しばらくして、セーラが服を着て木陰から歩いて戻ってきた。


「ごめんね。まさか人がいるとは思わなくて」


「いえ、俺の方こそ突然すみません!」


セーラは申し訳なさそうにするケイトの頭上にチェイが浮いている事に気がついた。


「あら、チェイ。どうしたの?元気してた?」


「はい。セーラ様もお元気そうで何よりでございます」


気軽に笑顔で話しかけるセーラにチェイは堅苦しく応えるが、いつもの事なのかセーラは気にせずケイトへ視線を戻す。


「自己紹介まだだったよね。私はセーラ。貴方は?」


「俺はケイトです」


「ケイト君か、良い名前ね。ってあれ・・・どっかで聞いた事があるような・・・」


セーラは明後日の方向を向きながら考え込んだ。

そんなセーラにケイトは単刀直入に話を切り出した。


「あの、セーラ様。突然なんですが、災いの元へは一人で行かないでください。

せめて俺も連れて行ってください!」


「え?どういうこと?何でそれを貴方が知ってるの?」」


「それは・・・ユン婆から聞いたんです」


ケイトの言葉にセーラは唖然とした後、何も存ぜぬという表情で浮かぶチェイを見つめた。


「ユン婆様の懐刀であるチェイと一緒にいるって事は、何かわけありなのかな?」


「懐刀?チェイが?」


「うん。ちょっと見ててごらん」


セーラはケイトに背を向け滝の方へ向くと叫んだ。


「リュー君〜!ちょっと来て〜!」


セーラの掛け声に反応する様に、滝の中から黒髪で眼帯をした小さな妖精が飛び出した。


「セーラ様どうされました!?」


リュー君と呼ばれた妖精はセーラの元まで飛んでくると、訝しげな表情でセーラの前に立つケイトを睨みつけた。


「何者ぞ!小僧!セーラ様と対等に並ぼうなどと100万年早いわ!ひれ伏すがよい!」


「リュー君、上見て上」


セーラに促されリューはケイトの頭上へと視線を移した。


「チェイ!?」


リューはチェイを見るや否や、セーラの背に隠れながら威嚇の雄叫びをあげた。


「妖精殺しのチェイ!俺を殺しにでも来たか!セーラ様が相手するぞ!このやろう!」


セーラは自分の背に隠れて吼えるリューを横目で見ながら愛想笑いを浮かべた。


「ね?懐刀でしょ?ちなみにリューが弱いわけじゃないのよ?チェイが強すぎるの」


笑顔で妖精の説明をするセーラにケイトはどう反応していいのか分からず曖昧に頷いた。


「そ・・そうなんだ。で話を戻すけど、俺も連れていってください」


「・・・」


ケイトの真剣な眼差しに対しセーラは沈黙後口を開いた。


「わかったわ。でも理由をちゃんと話してね?」


「セーラ様!?こやつは・・・」


セーラの承諾に対しリューが口を挟もうとしたがセーラ自身の腕によって止められた。


「セーラ様?」


不安げな声を漏らしつつセーラを見つめるリューに対して、セーラはケイトをじっと見つめていた。


「私はケイト君と話をしたいの。ケイト君は私が知らない何かを知ってる。そうでしょ?」


「・・・はい」


ケイトの返事を聞くとセーラは一呼吸置き砂浜に落ちていた座るのに丁度良い石の上にリューと共に移動した。


「ケイト君もこっちおいで。座ってお話しよ」


「え、あ、はい」


セーラの屈託の無い笑顔にどぎまぎしながらケイトも促されるままに移動し、

チェイも無関心といった表情を崩さぬままついていく。


そして、ケイトがセーラの隣へ緊張気味に座ると、セーラはケイトの顔を覗き込む様に見て口を開いた。


「単刀直入に聞くね。ケイト君は人じゃないでしょ?それに妖精とも言えない。とても曖昧な存在。

で、良いのかな?そもそもこの水神の滝は巫女と妖精以外入れない場所なの」


「え?そうなんですか?」


「うんうん。だから初め此処へ来たのがリコちゃんかと思ったの。だからびっくりしちゃった」


「す・・・すみません」


「ううん。気にしないで。それよりも・・・」


セーラは興味津々という目でケイトの腕をじっと見つめ、恐々突っついた。


「とても人間としか思えない・・・。皮膚もあるし、でも妖精としての魔力も秘めている。

・・・ん?」


セーラはケイトの懐から見え隠れする魔剣に目が行った。


「それは・・・」


「これ?これは魔剣みたいです。魔剣セル・・・なんとかっていう」


「え?え!?魔剣セルシアス!?」


「うん。確かそういう名前だったとおもいます」


ケイトの言葉にセーラは驚愕したまま無言で魔剣を見つめた。


「少し見ても良い?」


「良いですよ」


ケイトは懐から青く光を放つ魔剣を取り出しセーラに手渡すと、何故か光と刃が消え柄だけが残った。

それを見てリューは目を丸くし、セーラは訝しげな表情で柄に触れた。


「お・・おかしいですね。どうしちゃったのかな」


ケイトは首を傾げながらセーラの掌にある柄だけになった魔剣へと手を近づけた。

すると、魔剣は再度光を放ち刃も生成された。

そんな魔剣をじっと見つめた後、セーラはケイトへと返した。


「この魔剣はケイト君に使ってもらいたいのかな。見せてくれてありがとうね」


「いえ」


セーラに笑顔でお礼を言われケイトは恥ずかしそうに魔剣を懐へともどした。


「なんか、大分話それちゃったけど、私を一人で行かせたくない理由を聞いても良い?

ユン婆様に止めてきてほしいと言われたわけじゃないんでしょ?」


セーラはケイトと話ながらもちらりとチェイに視線を移すが、関わりたくないとばかりにチェイは顔を背けた。


「はい。逆にお前は行くなと言われました」


「それじゃ・・・何故来たの?」


「信じてもらえるかわかりませんが・・・俺は未来から来たっぽいんです。未来から来たというよりも、今いるこの世界が夢なのかも・・・」


ケイトの話にセーラは理解できないとばかりに首を傾げた。


「えーっと・・・言ってる意味がよくわからない・・・。ごめんなさいね。理解不足で」


「いえ、俺自身曖昧ですから、セーラ様にすぐ理解してもらうことは難しいのかもしれません」


どう話せばいいか悩むケイトを察するようにセーラは口を開いた。


「この話はユン婆様にはお話したの?」


「はい」


ケイトの返事を聞きセーラは地面を見つつ考え込んだ。


「二度手間になるかもしれないけれど、私にもお話聞かせてもらってもいい?

一緒に邪悪なる者と対峙するのに貴方を知らないままじゃ困るし。いいかな?」


「もちろんです。でも説明下手だったらすみません」


「ううん。気にせず話して」


ケイトは自分達の世界で宝玉が狙われている事や見知らぬ人達にメイアスが攻撃されている事、

リコと一緒に旅に出た事、そして何故かリコは一人で水の神殿に行こうとしているという事。


「俺はリコを一人で行かせる気はありません。宝玉を狙ってる奴らがいる場所に一人で行かせられるはずがない!」


ケイトは初めてセーラの前で怒りを露にするも、セーラが目を丸くしているのを見て恥ずかしそうに頬を赤くした。


「す・・すみません。でリコと喧嘩というか・・・決闘で決めようって事に・・・。

で、そうこうしてる間に俺は何故かこの世界に来てしまったというわけです」


ケイトの説明に対しセーラはどう返して良いのかわからず言葉を詰まらせた。


「ユン婆様はその話を聞いてなんて言ってたの?」


「えーっと、”過去に飛ばされた理由を知れ”って言ってたかな」


ケイトはユン婆の言葉を思い出すかのように空を見上げ、セーラはその横顔をみて何かに思い当たった。


「そういう事・・・」


「ん?何か分かったんですか?」


「ううん。こっちの話。で、未来から来たケイト君!未来の私はどうなの?誰かと結婚してたりするの?」


興味津々でケイトの顔に顔を近づけてくるセーラ。


「ちょ、おわ!?セーラ様落ち着いてください。その事についても今から話ますので」


興奮気味なセーラの肩をケイトは両手で押し戻し、一呼吸した後真剣な眼差しでセーラを見つめた。


「・・・セーラ様は生きてはいません」


ケイトの言葉を聞いてセーラはわかっていたかの様に笑った。


「そう。わかったわ。ありがとう」


セーラは少し遠くを見つめると深呼吸をした。


「きっとこの戦いで死ぬのね?だからケイト君は私を死なせない為に一緒に行きたいって事でいいのかな?」


「そうです。俺は巫女だからセーラ様を救いたいのもあるけど、リコの為でもあるんです。

リコは俺にセーラ様の話をよくしてくれました。”本当のお姉ちゃん”みたいだったって」


「リコちゃんが!?私を!?ほんとかな・・・怪しいなあ」


「本当ですよ」


「だとしたら・・・うれしいかも・・・」


セーラは嬉しそうにな表情を見せた。


「私もね、リコちゃんから一度だけ本気で挑まれた事あるよ?。

もちろん私が圧勝したけど。あそこまで水巫女の座に執着する人は見たことも聞いたこともなかったな。

知ってるかもしれないけれど、大抵は巫女の子供が精霊の力を半分親から受け継ぐの。

だから、必然的に魔力が半減以下になったアーシャ様からリコちゃんへ巫女の座は自動的に移動する。

でも私は、偶然にも精霊と妖精にとても愛された。これはとても嬉しい事なのだけどね。


それで、アーシャ様は次の水巫女候補として、幼い自分の娘よりも私を次の水巫女に選んだ。

理由はそれだけじゃないんだけどね。


候補が私に決まったのが半年程前で、それからリコちゃんは私に巫女候補を降りるように迫ってきたの」


セーラは懐かしむ様に空を見上げた。




時は今から半年程前に遡る。


水神の滝で体を清める為、湖の中を泳いでいたセーラは砂浜に幼きリコが血相を変え仁王立ちしているのを見つけた。


「リコちゃんどうしたの?」


「どうしたのじゃないわ!水巫女になるのは私よ!お母さんに水巫女になる事を辞退してきて!」


セーラは湖から上がり赤と白の服を着ると自分を睨みつけるリコへと歩み寄った。


「いくらリコちゃんの頼みでもそれは無理よ?水巫女様の言葉は絶対だし、私自身もアーシャ様に選ばれて嬉しいもの。

どうして水巫女にそこまで拘るの?」


「セーラ様には関係ない!私が宝玉と里を守るの!」


リコの目は何かに囚われ、焦っている様な気配が漂っていた。


「リコちゃん、今自分がどんな目をしているかわかる?水巫女とは縁遠い目をしてるよ?

貴方では宝玉を守るどころか水の里すら守れない」


「守れない・・・ですって?これでも同じ事言える?」


リコは両手を広げ精霊達との共鳴を始めた。

同時にリコの体を青い膜が包み込む。


「精霊達とのシンクロの早さ・・・やっぱりアーシャ様の娘ね。才能に満ちてる。

でも・・・私にはアーシャ様との約束があるから。ごめんね。リコちゃん」


セーラはリコの様子を観察しながら湖へと走りこみ水面上で両手を合わせた。


「リュー君!出てきて!」


セーラの少し手前にある水面に小さな魔方陣が浮かび上がると、そこから水妖精リューが飛び出した。


「セーラ様に呼ばれ参上したでごじゃる。今日は何用でございましょう?ん?」


リューは丁寧に膝を突きお辞儀をするがセーラの視線はもっと後方を凝視しており、

そこには魔力を体内に溜め込んだリコが準備万端とばかりに構えていた。


「どういう状況でござる!?セーラ様!?」


「ん?こういう状況よ?」


「ちょ・・え!?」


可愛らしく説明するセーラと慌てるリューを無視するかの様にリコは魔法を放った。


水流装甲牢すいりゅうそうこうろう!」



湖が大きく荒れ激しく波立つ。その上空でセーラの周りを囲む様に大きなキューブ状の水牢が浮かび上がった。

それは次第に小さくなりセーラの体にあったサイズへと形を変えていく。


「これでセーラ様は身動きがとれないわ。どう?動ける?」


自慢げに話すリコに対しセーラはどこか寂しそうな表情を見せた。


「今のリコちゃんでは水巫女にはなれない・・・。

この魔法・・・泣いてるもの・・・」


「魔法が泣く?意味がわからないわ。私の魔法は完璧よ!お母さんに習った魔法だもん!」


リコは”水流装甲牢”をセーラに向かって連発で叫ぶと、

キューブ状の魔法は何度も重ねられ、セーラを覆い隠すほどの大量の水が厚みを増した。


「セーラ様!水巫女を辞退して!私には守るべきものがあるの!」


「私にも守りたいものがあるの。だから・・ごめんね」


「え?」


リコはセーラを覆い隠した水牢に叫ぶが、何故か自分の背後からセーラの声が返ってきてすぐに振り向いた。


「どうして・・・」


リコの背後には確かにセーラが存在していた。同時に、水流装甲牢を解いた魔法の中にもセーラがいた。

セーラは自分の目の前で戸惑うリコの首筋に申し訳なさそうな表情で手刀を入れた。


気絶したリコを抱きとめたセーラの目には一滴の涙があった。


「あの時の私にそっくり・・・」


セーラは腕の中で眠る幼い少女と自分を重ね合わせていた。



日が暮れ気絶したリコをセーラはリコの自宅まで運んだ。


リコの家はそこまで大きくなく、少し大声を出せば家中に聞こえる程だった。

気絶したリコは居間の奥にあるベッドに寝かされ、

アーシャはサーニャを背負いながら晩御飯の仕度をしているのか台所に立っていた。


「そう・・・。リコが・・・。迷惑かけたわね」


「いえ・・・。リコちゃんは・・・アギト様の事をどう思ってるんでしょうか・・・」


セーラは机に視線を落としながらアーシャへと呟いた。


「例の事件の真相を知るものはいない。だからリコ自身が自分で納得するまで待つしかないわね。

まだリコは幼い。どちらにしてもあの子には時間が必要よ」


「そうですね・・・」


晩御飯の準備が終わったのか、アーシャはいつの間にかセーラの横に笑顔で立っていた。


「セーラ、晩御飯食べていってよね。お詫びもかねて」


「いえ、結構ですよ。それにリコちゃんが起きた時に私が此処にいたらきっと怒りますよ?」


「それもいいじゃない?セーラ自身リコと仲良くなりたかったんでしょ?」


「それは・・そうですけど・・・」


アーシャは半ば強引にセーラを引きとめ、机に料理を運んでいく。


「今日初めてだったんじゃない?リコとまともに話をしたのって」


「そういえば・・・そうですね」


「じゃあ、そのお祝いも兼ねて」


アーシャは楽しそうにセーラへとウインクし、セーラは少し引きつった笑顔で頷いた。


「わかりました。じゃあ、お言葉に甘えて」


アーシャとセーラが話をしていると、背負われていたサーニャが目を覚ました。


「お母さん・・・どうしたの・・?」


「セーラが遊びに来てくれたのよ。一緒にご飯食べていくって」


「セーラ?」


サーニャはアーシャの背中から降りると、椅子に座るセーラをじっと見つめた。


「こんばんわ、サーニャちゃん。はじめまして」


「こ・・ばんわ・・」


サーニャはたどたどしく挨拶した後、アーシャのスカートへ恥ずかしそうに隠れた。


「ささ、隠れてないでご飯の時間よ。自分の椅子に座ってね」


アーシャに促されサーニャは自分の小さな椅子に座り呆然と周りを見渡した。


「お母さん、お姉ちゃんは?」


「お姉ちゃんは今眠ってるから後でね」


まさか自分が気絶させたとは言えないセーラは苦笑いをするしかなかった。



3人で食事をしていると、居間の隣にある部屋からリコが起きてきた。


「お母さん・・・って何で此処にセーラ様が・・・」


リコは食事をしているセーラを見て顔を引きつらせた。


「リコちゃん、晩御飯お呼ばれされちゃいました。お世話になってます」


「リコ、セーラが貴方を此処まで背負って着てくれたのよ?まずはお礼を言いなさい」


リコは少し怒った表情の母を見た後、ぎこちない表情でお礼を述べた。


「あ・・・ありがとうございました・・・」


「い・・いえいえ。どういたしまして」


リコは少し体を曲げ表情を隠しながら母とセーラの表情を観察するが、

少しトーンが下がった母の言葉に体をビクリとさせた。


「リコ、・・・お母さん少し話しがあるけどいいわよね・・・?」


「・・・うん・・・」


アーシャはリコに外へ出るように告げると、セーラにサーニャをお願いし席を立った。


「サーニャ、セーラお姉ちゃんと一緒にご飯食べててね」


アーシャは笑顔でサーニャに話しかけると、セーラの肩を二度叩き強張った表情のリコと共に外へ出て行った。


「アーシャ様・・・」


セーラは二人が出て行ったドアを不安げな表情で見つめていた。


「セーラお姉ちゃんどうしたの?」


「ううん。何でもないよ。ご飯たべよっか」


時が過ぎ、セーラ達が食事を終えても二人は帰って来ず、サーニャは奥の部屋へ行き人形を持ち出してきた。


「セーラお姉ちゃん一緒に遊ぼ?」


「う、うん。何して遊ぼうか?」


二人が返ってくるまで此処を離れる事もできないと観念したのかセーラはサーニャと一緒に遊ぶ事にした。

すると、しばらくしてアーシャだけが返ってきた。


「セーラ待たせちゃったわね。ごめんね。そっちは大丈夫だった?」


「はい。サーニャちゃんは大人しく遊んでましたし、こちらは問題ないですよ。

ところで、リコちゃんの方はどうでした?」


「大人は酷い生き物だって大人でありながら良く分かるわ。大人と子供では生きてきた年月が違いすぎる。

だから子供には分からない事が多い。それを正す為に大人は子供を叱る。

私も親に叱られた事の意味を大人になってから意味が分かったりする事があるくらいだし。

ほんとに・・・子供を叱った後の虚しさは切なくなるわ」


「私に子供はいないですけど、なんとなくわかります。できれば叱りたくないですよね・・・」


セーラはアーシャの気持ちを汲んでいるのか少し寂しそうに応えた。

そんな姿をアーシャはカップ片手に見つめる。


「リコを叱ったばかりの私が言うのも変かもしれないけれど、行ってあげてくれないかしら?

リコの元へ。あの子は私に何も言わない。きっと言えない何かがあるのよね。」


「わかりました。でも私でいいんですか?」


「セーラだからお願いするのよ。巫女同士でしか分かり合えない事もあるし、

それに、あの事が無ければこんなに早く次の巫女を決める事もなかった・・・」


アーシャは何かを思い出したのか悔しそうな表情を見せた。


「そんな表情しないでください。今の私がいるのはアーシャ様のおかげなんですから。

あの事件が無ければ私はアーシャ様やリコちゃん、サーニャちゃんとこうして身近で話をする事も無かったと思います。

リコちゃんが産まれた時、アーシャ様の言葉は今でも胸に残ってます。私の宝なんです」


セーラは絨毯の上で遊ぶサーニャの頭を軽く撫でると立ち上がった。


「アーシャ様それじゃ、大役をこなせるかわかりませんが行ってきます。それと晩御飯美味しかったです」


「お粗末様。それじゃ、お願いね」


セーラは軽くお辞儀するとすぐに家を出て行った。


「何も無ければそれでいい。でも、彼の証言は・・・。

平和な世界が一番良いのに。アギト・・・里の英雄なんでしょ?しっかり仕事しなさいよね」


アーシャは一人で遊ぶサーニャを見ながら寂しそうな目で呟いた。




セーラはアーシャの家を出てから水の里の東にある森の中をリューと共に月夜に照らされながら歩いていた。


「リコちゃんはやっぱり精霊樹かな・・・。いつも嫌な事がある時あそこにいるし」


「恐らくそうですな。水神の滝には来てござらん」


セーラ達が精霊樹に着くと大きな大木を下から眺めた。


「いつ見ても大きいね。さて肝心のリコちゃんは・・・っと・・・いた。

リュー君は此処で待ってて」


「了解した」


セーラは軽く助走をつけると足が吸い付くように精霊樹を垂直に走りぬけ、

一つの太い枝まで登りきった。


「リコちゃんはもうちょっと上か・・・。気付かれて逃げなければいいけど・・・」


セーラは伸びた枝々に飛び移りながら登りリコの近くにまで辿り着くと、

リコは三角座りの様な格好で膝に頭を包み込むように座っていた。


「何こっそり来てるの?気付いてないと思ってる?」


リコが急に口を開いた。

その場には誰かがいるわけでもなく、セーラに向けた言葉なのは一目瞭然だった。


「やっぱり気付いてる・・よね」


セーラは諦めたのか、リコのすぐ傍にある枝に飛び移ると空を見上げた。


「今日は月が綺麗ね。森も穏やかで、此処はとても落ち着くね」


「世間話でもしにきたの?」


棘のあるリコの言葉に臆する事なくセーラは言葉を続ける。


「リコちゃんと話がしたくて来たの。だめかな?」


「・・・私は・・・セーラ様が嫌い」


リコの言葉にセーラは苦笑いするしかなく、同時に次の言葉に困った。


「って言ったら?帰ってくれる?」


「うーん・・泣いちゃって帰れなくなっちゃうかな」


リコは相変わらず体を小さく丸め、あんまり喋りたくないのか口数少なく声も小さい。


「私ね、ある男の子と約束したの。水の里を守ろうって。でも彼は5年前の事件で死んじゃった。

守護人に選ばれたばかりだったんだけどね。だから、私は彼の分までこの里を守る存在でいたいって思うようになったの。

初めは腹がたった。約束を果たせずして死んでしまった彼に私は憤りを感じた。

後悔先に立たずってほんと・・・だね。あらゆるものに八つ当たりした覚えがあるよ」


セーラは苦笑いを浮かべながら、話を聞いてるとも分からないリコへと語り続ける。


「どうしても自分の中で整理がつかなくて、この里に眠る精霊を荒らした事もあるのよ?凄いでしょ。

そうしたら、アーシャ様が私を思いっきり叩いたの。そして何て言ったと思う?

”その力でこの里を守るか、この里を出て行くか決めなさい。今の貴方は里にとって百害あって一利なし”って言ったの。

あの時のアーシャ様の怒った顔・・・ううん、泣きながら怒った顔を今でも忘れられないよ。

今だから・・・少しだけアーシャ様の気持ちが分かるかな」


「お母さんの気持ち?」


「うん。巫女を長くやっているアーシャ様だからなのか、アーシャ様だからこそなのかわからないけれど、

あの方は亡くなった人達も含め、先人の思いを一心に受け止めてる。

誰よりも、里とそこに住む人々を大事に思っていらっしゃる。

だからアーシャ様がリコちゃんを怒った理由想像つくもの」


「言ってみて」


「”セーラも大切な家族!傷つける事は絶対に許さない!”こんな感じ・・かな?」


セーラがアーシャの言いそうな事をマネしていると、リコはいつの間にか顔を上げ口を尖らせた。


「お母さんもっと怖い・・・。それにヘタ・・・」


リコが顔を上げてくれた事にほっとしたのかセーラは頬を照れくさそうに掻いた。


「リコちゃん、急に話変わるんだけど・・・いい?」


「何?」


「リコちゃんって友達いる?」


「友達なんているわけないよ。巫女は学校も行かないし、話しかけてくる人もいないもん」


「そ・・・そうだよね・・・。良かったら私の友達になってくれないかな・・?」


セーラは緊張しているのか声が少し裏返っていた。


「どうして?巫女は友達ができなくて当たり前だよ?」


「どうしてって言われると困っちゃうんだけど・・・。ただ、里の人達が友達同士で楽しそうにお喋りしてる姿がとても・・・ね」


「私は毎日修行とサーニャの面倒を見ないといけないからそんな事思う時間ないよ」


「はうぅ」


リコに冷たくあしらわれ、セーラは涙目になっていた。


「でも・・・興味はあるかな・・・だから、友達になってあげても・・・いいけど・・・」


「ほんと!?ありがとう!わぁ・・・!初めての友達だ!」


「セーラ様子供みたい・・・」


「ご・・・ごめんなさい」


はしゃぎすぎた事を指摘されたセーラは赤面したまま体を縮こませるが、

すぐに立ち直りリコの傍へ近寄り体をしゃがませた。


「リコちゃんもお願い一つしていいよ?出来る限りの事するから」


「じゃあ、巫女の座を私に頂戴」


「え、それはちょっと・・・」


「嘘嘘、冗談だよ。お母さんの言うとおり、セーラ様で良い。私もっと色々な事学ぶ。

それで、お母さんに認められてからにする」


リコはいつの間にか少しだけ笑っていた。そんなリコを見てセーラは何故か深呼吸を始めた。


「どうしたのセーラ様?」


「え・・・っと・・・友達祝いで・・・抱きしめてもいいですか!?」


セーラの目は宝石を見るような輝いた目でリコを見つめた。


「え?う・・うん?」


リコはセーラの言う意味が分からず曖昧に返事をしたが、セーラはそれを了承と捉えたのかリコを抱きしめた。


「ありがとうございますう!やっぱりリコちゃん可愛い!」


セーラの豹変振りにリコは戸惑いながら苦笑いするしかなかった。


一通りリコを抱きしめて落ち着いたのか、セーラはリコから離れると輝いた目でリコを見つめた。


「また・・・今度抱きしめてもいいですか!」


「えっと・・拒否し・・」


リコが返事をする途中でセーラは既に涙目だった。


「えっと・・・また今度・・・ね?」


リコの返事が嬉しかったのかセーラはまた抱きしめようとするが、リコ自身の手で押し戻された。


「もう今日は終わりです。それと・・・セーラ様・・・ありがとう」


「・・・うん!」


リコが恥ずかしそうな表情でお礼を言うと、セーラは満面の笑みで返事をした。


「リコちゃん、そろそろ帰りましょうか。アーシャ様が帰りを待ってますよ?」


「うん。お母さんにちゃんと謝る」


「それと・・・今日リコちゃんの家泊まらせてくれないかな・・・」


「断固拒否する」


「え〜。友達になったのに〜。けち〜」


セーラとリコは話しながら下にいるリューと合流し里へ帰って行った。





















































次回27章は1月中旬にはアップしたいとおもいます。

よろしくお願いします。

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