言葉の真意2
読んでくださりありがとうございます。
ではリコ達の世界へいってらっしゃいませ!
「死んでください?ギルダ!誰に物を言ってるか分かってるの?!」
「分かってますよ。だって死にに行くんでしょ?
死ににいく人に何と声をかけようが俺の自由だと思いますが?」
怒りを露にするフィレーネに対し挑発めいた言動を取るギルダ。
このやり取りにジンは口を挟めないでいた。
「ジェネスは死んだ」
ギルダはフィレーネに向けて淡々と告げた。
フィレーネは馬を降り早足でギルダに向けて歩いていく。
そして、胸倉を掴みあげた。
「次その言葉を口にしたら本当に殺す!」
「ジェネスは死んだんだ」
「きさまああああああ!」
フィレーネはギルダの顔面に向けて右拳を出したが空を切った。
ギルダはフィレーネの攻撃を避けると素早くバックステップした。
「この先にいる者はジェネスを殺すほどの人物だ。
フィレーネは何も出来ず死ぬだけだ」
「貴様に何がわかる!ジェネス様は私にとって親も同然だ!
あの人がいなければ・・・」
「だからなんだ?爺さんが死ねばお前も死ななければいけない理由でもあるのか?
この先にいる者は恐らく俺より強いぞ」
「ふっ。お前は私より強いとでも言いたいのか?」
「そのつもりだが?」
無表情なギルダにフィレーネは不快を覚えた。
しかし、何かを思いついたのかフィレーネは口元に笑みを浮かべた。
「そう言えば真剣にやりあった事は無かったな。丁度良い。
その減らず口を叩ききってやる」
「こっちこそ望む展開なんで、願ったり適ったりだけどね」
フィレーネはいらっとした表情で腰から剣を抜いた。
ギルダも背中から剣をゆっくりと取り出す。
二人の光景にジンは止めようにも止めれなかった。
先程の自分を見ている光景だったからだ。
ジンはギルダと戦ってみて分かった。ギルダはとても強い。
同時にフィレーネの強さも知っていた。
騎士として、ジンは二人の戦いを見てみたかったのだ。
フィレーネは26歳の時に最年少で12番隊隊長に抜擢された。
それには理由がある。
一つは数千人いる聖騎士団の中で上位に入る程の腕だった。
剣術において柔軟な動きができ太刀筋も早い。これは聖騎士団に所属する者なら誰でも知っている。
いや、それほどの実力がなければまず隊長クラスには選ばれない。
もう一つは、いくつもの戦果を上げていく内に、フィレーネの元へと聖騎士団を志願する人が増えたからだ。
実力もあり人の信用も厚かったフィレーネは、聖騎士団に所属して数年で12番隊隊長となった。
ギルダとフィレーネは真剣を交えた。
これはお互いにとって一歩も譲らない事を意味している。
剣と剣が交じり合いお互いの目を見つめる。
「私はお前を殺してでも此処を通るぞ」
「へいへい。それじゃ俺も隊長を殺す気でいきます」
フィレーネとギルダがお互いに覚悟を口にする。
先に動いたのはフィレーネだった。
素早く身を小さくしギルダの背後へと体を滑り込ませた。
そして逆立ち状態で後方から蹴りをギルダの背中へ放った。
ギルダも体を捻りフィレーネの蹴りに蹴りを重ね合わせ止めた。
フィレーネは更に連続攻撃を続ける。
反対側の足をギルダの顔に向け放つ。
それをギルダは紙一重で避けフィレーネの胸へ蹴りを放った。
フィレーネは地面に両手をバネの様に突き、下半身の重心を後方へ逸らせ間一髪でギルダの蹴りを避けた。
そのまま身軽な動きで回転しながらギルダとの間合いを開けた。
フィレーネは悉く攻撃を避けられ内心動揺していた。
「やっぱりね・・・。貴方つよいわ。でも・・・私はまだ本気じゃない!」
それだけ言うと、フィレーネは剣をギルダに向けるように真っ直ぐ前に出し片足を前に体勢を低く構えた。
「隊長の必殺、『桜花乱舞』か。一度受けてみたいと思ってたんだぜ!」
ギルダは好奇心旺盛な目でフィレーネを見つめると剣を横に構えた。
「ほざくな!」
フィレーネは掛け声と共に地面を蹴った。
フィレーネの持つ剣は単調にギルダの体に真っ直ぐ伸びてくる。
その剣先をギルダは剣ではじいた。
その僅かな時間にフィレーネは右へ跳ね、右足を軸とした回し蹴りをギルダの持つ剣柄に叩き込んだ。
フィレーネはそのまま遠心力を使いギルダの顔へ回し蹴りを放つが空を切った。
「うそ・・」
フィレーネが驚愕の声を漏らした時にはギルダは既に背後にいた。
空中で動揺したままのフィレーネは振り返る事すらできなかった。
「隊長、さよならです」
ギルダは剣をフィレーネの背中へ大きく振り下ろした。
フィレーネの着ていた鎖帷子は砕け、赤い布で巻かれた下着姿だけになった背中には×印の様に鮮血が流れた。
そして、止めとばかりにフィレーネの背中を拳で強打する。
フィレーネは数メートル吹き飛ぶと、口から血を流し荒野へ倒れこむ。
そんなフィレーネにギルダは剣を持ちゆっくりと近づいていく。
ジンは傍らで二人の戦いの見ていたがギルダの強さは圧倒的だった。
スピード、剣術、柔軟性、全てにおいてフィレーネよりも勝っていた。
勝っていたというよりも、圧倒的に・・・。
それよりも、まだ何かを隠していそうな予感さえしていた。
呻き声をあげるフィレーネを見てジンは声をあげた。
「ギルダ!まて!もうフィレーネ様は戦えない!」
「だから?本当の戦場は死ぬまで終わらない。そうだろ?」
ギルダの言葉と表情は先程と打って変って冷酷だった。
ジンは自身の体へムチを打つ様に立ち上がり、近くに落ちている剣を手に取った。
一方遅れながらフィレーネの後を追っていたリコ達は荒野を馬で駆けていた。
「さすがに二人も乗ってるとスピードでないな」
「ケイトが降りてくれればきっとすぐにでもフィレーネさんに追いつけるわ。
私を助けてくれる?」
「断固拒否する!」
リコとケイトが口論している姿を見て、ルーリはリコの頭上で指を銜えて困惑していた。
「リコ様、ケイト様、け・・・喧嘩だ・・だめですよ〜・・」
ルーリの言葉にリコは前方を見ながら応えた。
「ルーリは私の心配だけしてればいいのよ?ケイトはほっといていいよ」
「はわわわ・・・・」
ルーリはリコの言葉に対しどう応えれば良いのか混乱した。
そんなやり取りをしていると双眼鏡片手にケイトが口を開いた。
「前方に誰かいるぞ!・・・3人いる!」
「3人?誰よ」
「一人は知らない人。後はフィレーネさんと・・・ギルダさんだ!セリスもいる!」
「えー!セリス!?」
リコはセリスと聞いた途端馬にムチ打った。
「でも何かおかしい・・・」
双眼鏡を覗いたままケイトは呟いた。
「おかしいって何が?」
「知らない人とフィレーネさんは倒れこみ、ギルダさんは剣を持ってる・・・」
「はあ!?どう言う事!?」
リコが困惑する中ケイトが急に体を前屈みにして馬の手綱に触れてきた。
「ちょ・・ちょっと!?」
ケイトの突然の行動に困惑するリコ。
ケイトは手綱を強く引き馬を止めると耳を澄ますように目を細めた。
「微かだけどギルダさんの声が聞こえる・・・」
「声?私は何も聞こえないわよ?」
訝しげな表情を見せたリコにルーリも頭上で口を開く。
「リコ様、ギルダさんの声はっきり聞こえます。『今は近くに来るな』と申しておられます。はい」
リコはルーリとケイトが聞こえるギルダの声を聞く為再度耳を澄ました。
しかし、リコには一切聞こえてこなかった。
(どう言う事・・・?いえ・・・。まさか・・・)
リコは薄々感じていた違和感に辿りついた。
精霊の力をほとんど失った自分に対し、ケイトは精霊の力が宿りつつあるのではと。
リコはあの時の事を思い返すと寂しげな表情を見せた。
思いに耽るリコに対し、ケイトは馬から降り顔を覗きこむ様に見つめていた。
「おい、リコ!どうした!?」
「え?あ・・ん?」
「ん?じゃねえよ。何か村で起きた事件以降何か変だぞ?たまにぼーっとする事あるし」
「な・・・何でもないわ。それよりもギルダさんはどうしてそんな事を?」
「わからん。ただ『これ以上今は近くに来るな』とだけだ」
それだけ言うとケイトは馬の手綱を持ち、近くの岩場へと歩いていく。
馬上からケイトの背中をじっと見つめるリコに対し、ルーリはリコの肩へと飛んで移動し心配そうな表情を見せた。
「リコ様、ギルダさんは私とリコ様を結びつけて下さいました。
何か来てはいけない理由があるのかもしれませんです。はい。だから・・・」
「わかってる。少し様子をみましょ」
リコは難しい表情のまま淡々とルーリに応えた。
「リコ様・・・」
ルーリはいつものリコらしくない表情に不安を覚えると同時に胸に痛みを覚えた。
一方ギルダはこの現場にケイト達が来ている事に内心驚いていた。
(まさか、あいつらが・・・。こりゃ、完全に悪役だな。まあ、なんとかなるか)
ギルダが倒れこむフィレーネを見下ろすように立つと剣を振りかざした。
「やめろお!!」
ジンはぼろぼろの体で剣を構えギルダに向け叫んだ。
そんなジンにギルダは顔だけを向けた。
「俺は・・・まだギルダには適わない・・・。
でも、フィレーネ様を守りたい!」
「まだ・・・か」
ジンの言葉にギルダは小さく呟いた。
「それは爺さんの意思か?」
「いいや・・・。俺の意思だ!」
ジンはギルダの問いに力強く応えると剣を片手に走り出した。
剣先はもちろんギルダに向かっている。
だが、ジンの攻撃は簡単に避けられた。
ギルダは素早くジンの左横へ移動すると強蹴を腹部へ叩き込んだ。
ジンは物凄い音と共に吹き飛ばされ動かなくなった。
「ジンに・・・手を出すな・・・」
ギルダが声のする方に顔を向けるとフィレーネはゆっくりと立ち上がろうとしていた。
そんなフィレーネの胸倉を掴むとギルダは高く持ち上げる。
「お前の守るべき人の名前を言え!」
ギルダがフィレーネの真を問いただす様に言葉を浴びせた。
フィレーネはこの時気付いた。今自分が守ろうとした者。それがジンだったから。
そんなフィレーネにギルダは再度問いただす。
「お前の今守るべき者は誰か言え!」
フィレーネは唇を震わせ涙を溢れさせた。
「・・・ジン・・・」
体中の力を言葉に代えるようにフィレーネは震える唇を開けた。
フィレーネの頭の中にネバルゲ村にいる仲間達の顔が過ぎった。
「どうしたら・・・いいの・・・。
私はお爺様も助けたい・・・。でも皆も守りたい・・・。
力もない・・・」
フィレーネの目元から止め処なく涙が零れた。
そんなフィレーネにギルダはぶっきらぼうに口を開いた。
「お前にできる事は自分の手の平分しかできねえよ。
だが、仲間がいればできる事は増えるんじゃねえの?
それに、今のお前達には力が足りない。そこんところ自分で考えろ」
「それじゃ・・・お爺様はどうなるの・・・?」
フィレーネの問いにギルダは躊躇うような素振りを見せた後口を開いた。
「甘ったれるな!爺さんはお前よりも何倍も強えよ!
そんな事はお前が一番知ってるじゃねえかよ!
そんな暇があれば一人でも多く他の奴らを救って見せろ!バカ野郎が!」
ギルダがフィレーネに話しかけていると遠くから青い閃光が飛んできた。
ギルダは舌打ちをした後、フィレーネの胸倉から手を放すと閃光目掛けて走り出した。
そのまま落ちていた剣を拾い上げ口を開いた。
「光の精霊よ、我に力を分け与えろ!」
ギルダが喋ると同時に剣が光だし、その剣で青い閃光を真っ二つにした。
「ったく。待てと言うに」
ギルダが見据える先にはケイトとリコ、ルーリが立っていた。
「ギルダさん、どういうつもりですか?この現状の理由を聞きたいんですが。
事と次第では私は貴方と戦います」
リコは真剣な表情でギルダを見つめた。
「理由・・・ねえ」
ギルダはそれだけ言うと、倒れているフィレーネとジンに目を向けた。
「リコ、ちょっと待てって。そう熱くなるなって」
「ケイトは黙ってて。此処は私がやるからフィレーネさんともう一人の方を見てきて」
リコに言われケイトは困った表情を見せた後ギルダに視線を移した。
ギルダもケイトに視線を移しじっとみつめた。
ケイトはしばらくして一呼吸入れた後困った顔で口を開いた。
「わかった。ギルダさんの事はリコに任せるよ。でも無茶するなよ」
リコはケイトの掛け声に反応せずギルダに向けて走り出した。
リコは走りながら肩の上に乗るルーリに話しかけた。
「ルーリ、もう一度だけ力を貸して」
「あ・・はい。です」
ルーリは返事をするも、リコとギルダが戦う事に戸惑いを隠せないでいた。
ケイトもルーリと同じ思いでリコの背中を見つめた。
ありがとうございました!
次は23話でお会いしましょう!