旅立ち
ついに主人公登場です。
では本編スタートです!
突然コズの里、通称水の里に火の里から連絡が届き、
私は里長に急遽呼ばれ里長の家に来ていた。
「なんですって!」
私は椅子から飛び上がり木でできた机を叩いた。
「リコ様落ち着いてくだされ。まだ水生の宝玉は奪われておりません」
白髭を長く生やし目が細い里長は、両手を上げてリコと呼ぶ少女を宥めようとした。
「まだって、炎勇の宝玉は既に誰かに奪われたんでしょ?
これが落ち着いていられますか!?」
大きな声を出す私に困惑気味な大人たち。
私は里長を含めた周りに集まる大人達を掻き分けるようにして外に出た。
それに伴って里長と大人達も慌てて外に出てくる。
私は振り返り自分の胸に手を当てて言った。
「良い?私達は水の里に生まれ、水生の宝玉に生かされてる!
もう私達にとって宝玉は無くてはならない物なのよ!?
水生の宝玉を守っていく義務がある!そうよね?里長!」
「そうじゃが・・水の巫女であるお主に危険があったら・・・」
私の質問に白髭を弄りながら視線を下に向け弱気に応える里長。
「私なんてどうでもいいのよ。水の巫女は妹でもやれるでしょ!
でも水生の宝玉に代わりはないのよ!」
私はそれだけ言うと自分の家に向けて走り出した。
私は十五歳で名前はリコ。
特に取り柄はないんですけど、しいて言うなら巫女をやっています。
家は代々巫女の家系で、母が引退した現在私が巫女当主をやっています。
私は坂道を走りながら、長い黒髪を腕に何時もつけてある輪ゴムで左右で二つに結ぶ。
そして、ハート柄のピンをポケットから出し前髪を左右に止めた。
坂道で一旦止まり大きく息を吸い叫んだ。
「ケイト!至急来なさい!」
私の高い声は小さな里に響き渡る。
そして私はまた坂道を走り出す。
塀が見えてきたのでそれを走って飛び越えると家の屋根に乗った。
屋根が軋む音がし、屋根から飛び降りると母が私の頭に拳をくれた。
「いったーい!」
大声を出し涙目で後ろを振り返ると、怒った表情の母がいた。
「また屋根を壊す気かい!?巫女らしくしなさいって何時もいってるでしょ!?」
私は痛みを堪えながら抗議の声をあげる。
「お母さん大変なのよ!水生の宝玉が危険なの!」
母は面倒そうに私の言葉を聞いている。
そんな母に里長の話を聞かせると、母の表情は真剣なものとなった。
「なんですって!?里長ものんきな・・・。
宝玉が奪われたら世界の人々が困る事になるって言うのに・・・」
母は呆れたような表情で文句を言った後私を見た。
「行くんでしょ?水の里の巫女として」
母の真剣な顔つきに私も真剣に応える。
「当たり前よ。えーっとなんだっけ、
私達人間は水と共に生きる!水無くして人は無し!だっけ?」
私の言葉に笑った後「正解!」と言うと私の背中を叩き、母は急いで家の中に入って行った。
母が家に入った後、私は馬小屋に行き愛馬を外に出した。
「セリス。長旅になるからよろしくね」
セリスと呼ぶ馬に私は撫でながら話し掛けた。
近くの井戸に走り水を汲むとセリスに水を飲ませる。
私も水筒を用意し、乾した魚を大きな葉っぱで包んで鞄にしまった。
巫女装束を着たままだった事を思い出し、家の中に入ると母が何やら忙しなく動いている。
そんな母を尻目に私は動きやすい民族衣装に着替えた。
再度外に出て旅の準備をしていると、短剣を腰につけた少年が馬に乗ってやって来た。
「リコ、いきなり何だよ、今から父さんと狩りにでるんだ」
頭に紐を巻き短い髪を逆立てた少年が不機嫌そうに応える。
「ケイト、私今から旅に出るから里の事頼むね」
私の急な言葉に馬の上で唖然とするケイト。
「待て待て。一体どういうことだ。話が読めん」
「ついさっき火の里から使者が来たのよ。
炎勇の宝玉が奪われた、注意されたしってね」
私は馬の世話をしながら質問に淡々と応える。
「それとこれとどういう関係があるんだよ」
「あんたほんとバカね。
炎勇の宝玉が盗まれたら次は水生の宝玉が盗まれる可能性が高いって事わからないわけ?!」
私は不機嫌に応えるとケイトは「そうか!」と一人で納得していた。
「そういう事だから、この里の事頼んだからね。
水の里は若い人少ないんだから。」
私は投げるように言い放つ。
「ちょっと待て、水生の宝玉がある場所まで一人で行く気か!?」
「当たり前でしょ。今の時期は里にとっても大事な時期。
今の時期に収穫が失敗したら大変な事になるわ」
「いや・・でもな・・・」
ケイトは何か悩んでる表情だった。
「いつ行くんだ?」
「今からよ。一刻を争う問題だしね」
「俺も行くぜ!リコを一人で行かせるわけにはいかない!」
ケイトは真剣な表情で私を見つめてくる。
「ケイトがいたって役にたたないじゃない。
剣術だって私のほうが強いし、何も出来ないじゃない」
私の言葉にケイトは悔しそうに押し黙る。
馬の手入れを済ませると、後片付けをし馬に跨った。
そして旅の相棒である水生の欠片とナイフを懐から出し、刃が欠けてないか確認した。
何か考え込むケイトに振り返ると真剣に見つめた。
「ケイト、里の事頼んだわよ」
そう言うと、私は里長に今から出る事を報告に馬を走らせた。
坂道を上がり里長の家に着くと馬を下りた。
扉をノックすると里長が顔を出した。
「もう行くのかね?」
「はい。一刻を争いますし、万が一宝玉に何かあれば大惨事です」
私の言葉に難しい表情をする里長。
「リコ様なら剣術、巫女術、身体能力全てにおいて里一だから心配ないとは思うが、
くれぐれも無事に帰ってきてくだされ」
「わかっています。何かあれば水鳥を飛ばして伝えます」
私はそれだけ言うとお辞儀をして馬に跨った。
再度お辞儀をした後、私は妹のサーニャに会う為里の外れにある川に向かった。
川の辺に行くと妹は友達と水遊びをしていた。
「サーニャ!」
丘の上から大きな声で叫ぶとサーニャは気付いた。
「あ!お姉ちゃん!」
私はゆっくりと丘を降りてサーニャの元へ馬を歩かせる。
サーニャは友達の輪から外れこっちに走ってきた。
髪を後ろで一つに括った色黒の妹が声をかけてくる。
「お姉ちゃん馬に乗って何処か行くの?」
「少し旅に出る。しばらく会えないかもしれないけど、巫女の修行はちゃんと行うようにね」
サーニャは羨ましそうに私を見上げる。
そんな妹の頭を軽く撫でると、サーニャは気持ち良さそうに目を細めた。
「時間が無いからもう行くよ。時間があれば水鳥出すから。
サーニャも水鳥出せるように修行してね」
私の言葉にサーニャは元気良く返事をした。
「後これ渡しておくね」
サーニャの手を持ち上げ、手の平に「水巫女」と書かれた小袋を置いた。
その袋は青い糸で刺繍されており、不思議な事に水の幕で覆われていた。
「お姉ちゃんこれ!?」
サーニャは目を大きくさせ私を見つめる。
「何があってもこれが貴方を守るわ。絶対に体から離さないでね」
私は軽くウインクするとサーニャは嬉しそうに微笑んだ。
再度サーニャの頭を撫でた後、手を振って別れた。
再度馬の上から振り返ると、サーニャはまだ手元の小袋を嬉しそうに見つめていた。
母に挨拶して行こうと里外れの自宅に向かうと、家の前で母は鞄を持って待っていた。
「お母さんそろそろ行くから妹の修行ちゃんと見てね」
「大丈夫よ。ほら、これお弁当。長旅になるだろうから、体に気をつけてね」
母は馬の横に鞄を括りつけてくれた。
「私を誰だと思ってるの?お母さんの娘で水巫女よ?ちゃんと宝玉を守ってくるわ」
私は胸を張って応えると母は笑った。
それにつられて私も笑みを零す。
「亡くなったお父さんも貴方を見守ってるわ」
母の言葉に私は笑顔で頷いた。
そして馬の上から母と別れの抱擁を交わした。
「それじゃ行ってくるね」
「いってらっしゃい」
母に手を振りながら里を出た。
私は馬に揺られながら用意した鞄の中身を確認していた。
「地図持ったし、方位磁針も持ったし大丈夫ね。
一人で行くのは初めてだから、近くの里に寄って行こうかな」
私は地図を広げ現在地を再度確認する。
「今が最南端の水の里だからとにかく北の方角ね。
砂漠も通るからネバルゲ村で補給したほうが良さそうね」
周りを見ると水の里だけあって木が鬱蒼と生え、その合間を川が沢山流れている。
「しばらくはこの風景ともお別れなのね」
私は名残惜しそうに風景を見渡す。
すると後ろから馬の足音が追いかけてきた。
「リコー!待てよ!」
私は馬を止めて振り返るとケイトが走ってきた。
「どうしたの?」
ケイトは猛スピードの馬を私の前で止めた。
「どうしたじゃないよ。俺も行くって」
「ケイトじゃ足手まといだって言ったでしょ?」
ケイトは少し考えた後口を開いた。
「俺・・リコが好きだから!一緒に行く!
親の許可も得てきた!頼む連れて行ってくれ!
リコより強くなってリコを守りたいんだ!」
私はなんて返事すれば良いか分からなくて戸惑ってしまった。
ケイトは真剣な表情で私の言葉を待っている。
「ま・・まあ、そこまで言うなら勝手にすれば?面倒は見ないわよ?」
「やった!これでリコと結婚できる!」
手を上げて喜ぶケイトの頭を引っぱたいた。
「誰も結婚するなんて言ってないわよ!?
勝手な妄想やめなさいよ!」
ケイトは馬から落ちそうになっていた。
そんなケイトをほっといて私は馬を進ませた。
私とケイトは馬を並ばせて歩く。
「ケイト、このまま行って荒原に出たら馬を走らせるから、それまで歩かせてね。
此処ら辺は沼地もあるから落ちたら馬が大変な事になるわ」
話しながら横を見ると、ケイトは後方で馬の足を止めていた。
「あんた何やってんの?歩きなさいよ」
私が言うとケイトは引きつった顔を向けてきた。
「沼地に落ちたみたい・・・」
私は唖然とした後顔に手を当てた。
「前途多難すぎる・・・」
ケイトと一緒に馬を沼から引っ張りあげた後、
こってりお説教をしながら進んだ。
五時間程歩いた後荒原が見えてきた。
「リコ!荒原までもうすぐだぞ?!」
はしゃぐケイトを他所に私は地図を確認する。
「このまま真っ直ぐ行くわよ」
私の言葉を聞いてるのかわからないけれど、
ケイトは周りを珍しそうに見渡している。
はしゃぐのも無理もなかった。
実際に水の里から出れるのは限られた大人と巫女だけだからだ。
1年に1回、各里の巫女が宝玉に御礼の儀をする事が義務付けられている。
この時に守護人と称して限られた大人の男性が数人ついて行くだけだからだ。
実際数百年前に一度、水巫女が大病で御礼の儀を行う日が遅れてしまった時、
各地で水難が多かったらしい。
これは水の里で一番物知り婆さんことユン婆の言い伝え。
荒野に向けて歩いているとケイトが突然話を振ってきた。
「なあリコ、水生の宝玉に毎年御礼の儀をやりに行ってるけど、
どんな事をするんだ?」
私はがっくりと肩を落とした。
「あんた学校で何を聞いてるのよ!?
ほんとに・・・どうしようもないわね」
私は一呼吸終えた後面倒そうに説明した。
「世界にはね、水生の宝玉、炎勇の宝玉、土命の宝玉、雷怒の宝玉、風気の宝玉、闇憎の宝玉、光導の宝玉
って言う七つの宝玉があるのは知ってるわよね?」
ケイトは私の横で頷く。
「各宝玉に付き、一つの里が守護里として付くの。つまりこの場合巫女が付くって事ね。
巫女は与えられた宝玉を浄化と守護の二役を担うの。
その役割のもう一つが宝玉の浄化。
宝玉には一年を通して悪い物が蓄積するの。それを浄化するのが巫女の役割。
そして宝玉の欠片、宝玉の抜け殻とも言われるけど、それを回収し命を吹き込むのも巫女の役割なのよ。
結果御礼の儀をやらないと、不吉な事が起きると言われているのよ」
私がケイトの方を見ると目を瞑り腕を組んで一人で唸っていた。
私は溜息を付いて今後の旅に思いを馳せた。
荒野に出ると見晴らしが良く、大きな岩が至る所に点在するのが見てわかった。
方位磁針で方角を確かめ、ネバルゲ村を目指し馬を走らせる。
「リコは此処通った事あるの?」
「あるわよ。でも今回はいつもとルートが違うからなんとも言えないわ。
今から行くネバルゲ村も今回が初めてだもの」
私の返答に、ケイトは「そうなんだ」と分かってなさそうに返事をした。
「一旦あの岩陰で休んでいきましょ」
ケイトは私の言葉に了承した。
岩陰で私は大きな声をあげた。
「身支度何もしないで出てきた?!
それじゃ、飲み物も食べ物も何もなし!?」
「だって急な事だったし、リコは先に行っちゃうしさ・・・」
私は祈るような気持ちで空を見上げた。
(神様助けて)
「ほら、これあげる」
私は水筒とお弁当を差し出した。
「え!?くれるの!?リコありがとう!」
怒ったって何の解決にもならない事と、怒るとそれだけ体力が消耗するから私は肩を落とすに留まった。
「分かってるけど、あえて聞かせて・・・お金も持ってきてないんでしょ?」
「持ってないよ」
躊躇わず答えるケイトを本気で殴りたいと思った私だった。
周りを見渡しているケイトは何かを見つけた。
「リコ、あれ何だ?」
私が荷物を整理しているとケイトが声をかけてきた。
私は荷物から双眼鏡を取り出し見てみると、
狼の形をした魔物三匹に追われた小さな子供二人が荒野を彷徨っていた。
私は走り出し馬にすぐ跨った。
「おい、どうした!?」
「小さな子が魔物に襲われてる。ケイト行くわよ!」
私は無我夢中で走り出した。
子供達の所へ近づくほど現場は鮮明となる。
(子供達は傷だらけだわ・・・このままじゃまずい!)
「ケイト!荷物持ってて!」
私は荷物を後方にいるケイトに放り投げた。
それを慌てて受け取るケイト。
私は懐から小さな宝玉の欠片を取り出し、
右手で握り締め高く手を上げた。
「宝玉の欠片に秘められし力我が此処に解放する!」
私の体を青白く透明な膜が包み込む。
そして、弓で矢を射るポーズを取ると右手が更に青白く輝く。
魔物に狙いを絞り力強く射た。
「当たれ!」
掛け声と共に青白い光が放たれた。
光は魔物三匹の腹部を捕らえ吹き飛ばす。
ケイトは後ろで驚愕していた。
「す・・・すげー!」
「まだ魔物は死んでないわ!すぐに子供達を回収する!」
私はふらついてる子供達に近寄ると足枷がついていて驚いた。
「何これ・・・」
ケイトは短剣を取り出し、馬上から魔物の様子を見ている。
魔物はふらつきながらも立ち上がり、涎を垂らしながら赤い眼光を子供達に向けた。
「ケイト!このままじゃ子供達を運べない!時間を稼いで!」
「おうよ!俺の出番ついにきたな!」
そう言うとケイトは馬から降り私の背中を守るように狼と対峙する。
私は短剣で足枷を切ろうとするが壊れない。
少し悩んだ挙句再度魔法を使うことにした。
虚ろな目で荒野の上を這ってでも歩こうとする子供達。
短剣で子供達の足に衝撃が加わらないように鎖を固定し魔法を解き放つ。
鎖は途中で切れ、子供達は足に鉄の輪は付いてるものの重さからは開放された。
意識が混濁する女の子と男の子を馬に乗せる。
背後では噛み付いてくる狼の牙と短剣がぶつかり合う音が聞こえる。
「ケイト子供達を乗せた馬を岩山へ誘導して!
此処は私が引き受けるから!」
私の言葉にケイトは何か言おうとしたが、押し黙り指示に従った。
ケイトは子供達の馬を連れて走り出す。
私は敵と目を合わせながらゆっくりと後退していく。
(やっぱりこの魔物毒持ってる・・かすり傷でも致命傷になる・・)
襲い来る一匹目の牙を回転して避けると頭上に短剣を突き刺した。
二匹目の牙を上段蹴りで打ち払い、三匹目の牙を再度回転して避けた後上から背中へ短剣を突き刺した。
二匹は絶命し、一匹は微かに動いていた。
私は息を切らしながら魔物を見つめる。
そんな私を岩山から戻ってきたケイトが回収してくれた。
読んでいただきありがとうございます!
更新がんばります!
クリスタル→宝玉と修正いたしました