凶報
いつも読んでいただきありがとうございます!
今回はギルダがメインになっています。
ではメイアスの世界へどうぞ!
私は頭上に座るルーリと共に、ケイトとの待ち合わせの民家へ向かって大通りを歩いていた。
「リコ様?」
ルーリは私に声をかける。
「ん?どうしたの?」
「いえ・・、リコ様元気なさそう・・」
「え?あ・・・、そうかな・・?」
私はルーリに言われ、自分が難しそうな表情をしていた事に気付く。
正直なところ、ギルダと共にフィレーネの所へ向かったレアラの事が気になっていた。
慌てて表情を元に戻すが、ルーリは心配そうに私を見つめてくる。
「リコ様・・・・」
「ごめんね、ルーリ。私は大丈夫だよ。少し疲れが出ちゃったのかな」
私は笑顔を無理やり作って見せた。
そんな時、前方から声が掛かる。
「リコ〜!」
私はそれがケイトの声だと気づく。
「あ、ケイト」
ケイトは私の前まで走ってきた。
「リコ、何処行ってたんだ?いつまで経っても来ないから心配したぜ?」
ケイトは私を見つめていたが、何かに気付き視線を私の頭上に向ける。
「あ、ルーリ!」
「ケイト様!」
ルーリは私の頭の後ろに隠れていたが、走ってきたのがケイトだとわかると前へ飛び出した。
そして、そのままケイトの肩へと降り立つ。
「ルーリ、無事だったんだな」
「はい!ケイト様のおかげでリコ様に会うことができました。
さすが、リコ様の旦那様です!」
「お・・おう!・・・。」
ケイトは冷たい目線に気付き、動揺しつつ私をちらちら見る。
「ルーリ、ケイトは別に旦那じゃないわよ?
何でも信じちゃだめよ?」
「え?そうなんですか?でも・・」
ルーリは、私とケイトの顔を交互に見やる。
「とにかく、夜も遅いし私達も寝床へ向かいましょ」
「そうだな」
「はい!」
私の言葉にルーリとケイトは同意した。
ルーリが私の頭上に戻ると同時に、村外れのフィレーネさんに教えてもらった民家へと歩き出した。
「ところで、どうして遅くなったんだ?フィレーネさんと話すだけだろ?」
私はレアラと会った事を話そうか迷った。
「レアラと会ったのよ」
ケイトは、私の少ない言葉から何かを感じ取ったのか窺うように見つめてきた。
「此処にレアラがいないって事は、俺達とは来ないのか?」
ケイトの質問に対して私は言葉を詰まらせる。
レアラと直接話をした私でさえ返答に難しい。
沈黙する私に対してケイトは淡々と言葉を放つ。
「何があったかわからねえが、レアラなら俺達と来るだろ」
全てを知ったような口調で軽々しく言うケイトに、私は苛立ちを覚え立ち止まり後方にいるケイトに振り返る。
「何を知ってそんな事が言えるの?!何も話してないのに!」
私の怒声に対して、ケイトは困ったような表情をした。
「いや、ほら、俺達仲間だろ?少なくとも俺はそう思ってるぜ?」
ケイトの言葉に対して私は返す言葉を失った。
「それに、もし此処で俺達と別行動を取る事を選択したとしても、
レアラはまた俺達の所へ戻ってくる気がする。なんとなくだけどな」
私はケイトの言葉に体を振るわせた。
自分自身に怒りを覚えたからだ。
「そうだね・・。ケイトありがとう」
私はそれだけ言うとルーリを頭上に乗せたまま歩き始める。
そんな私に対して、後ろをついてくるケイトは短く言葉を返してくれた。
「おう」
ルーリは頭上から私の表情を覗き込んだ後、
私の気持ちを汲むかのように笑顔を向けてくれた。
私も釣られて笑顔になる。
ルーリは羽を広げて飛ぶと、私の頭上から肩へと移動した。
そして、私の耳元へ小声で呟く。
「ケイト様はリコ様が好きなんですよ」
私は歩きながら小さな声で応えた。
「わかってる」
そう言うと、私はルーリの頭を優しく撫でた。
時を同じくしてギルダとレアラは二人で裏通りを歩いていた。
「一つ聞いてもよいか?」
「ん?何だ?」
「お主何者じゃ?」
レアラは真剣な表情でギルダを見上げる。
「精霊との再契約は童達王族にすらできない芸当じゃぞ?
それに、再契約の時に浮き出た文字・・・あれは間違いなく・・」
ギルダはレアラに問い詰められ、難しそうな表情で頭を掻く。
「良く分からんが、まあ、いいじゃねえか。結果オーライだったんだろ?」
「それはそうじゃが・・・」
「なら、良かったじゃねえか。
そう気にするな。悩みすぎると可愛い顔に皺が寄るぜ?」
「ちょ!?失礼な奴ね!」
レアラの反応にギルダは楽しそうに笑った。
そんなギルダにレアラは再度真剣に見つめる。
「童は・・・そなたに感謝しなければならない・・。
理由はどうであれ、リコとルーリの関係を取り持ってくれたのだからな・・」
レアラの真剣な眼差しに対して、ギルダは緩く見据えレアラの頭に大きな手の平を置く。
「譲ちゃん、感謝はいらねえ。
その代わりと言っちゃなんだが、一つだけ頼みを聞いてくれないか?」
「な・・なんじゃ?」
レアラはギルダからの突然な提案に動揺する。
「今は言えん。その時が来たらだな。」
「そ・・そうか・・」
レアラは頼みごとの内容が気になったけれど、今はそれ以上何も聞かなかった。
聖騎士団の宿舎では、フィレーネやソフィアを筆頭に聖騎士団員達が集まっていた。
そして、フィレーネの前に膝を突き、所々破けた聖騎士団の服を着た男性が一人。
男性は唇を噛み締め拳を強く握っていた。
「ジン、報告を受ける。顔を上げなさい」
フィレーネの言葉に、ジンと呼ばれた二十歳前半程の若い男が顔を上げる。
「第一聖騎士団隊員ジンです・・。伝令を申し上げます!」
ジンは喉に何かを詰まらせた様に苦痛の表情で言葉を止める。
「第一聖騎士団と第二聖騎士団は・・・全滅しました・・・」
ジンの報告に宿舎の中が静まり返る。
ある者は大きく唾を飲み込む。
ある者は驚きの表情をしたまま固まった。
そんな中フィレーネがゆっくりと口を開く。
「言ってる意味が・・・わからない・・・」
「全滅・・・です。自分以外・・・生存者は・・・ありません・・」
ジンの言葉にフィレーネは再度固まった。
宿舎の中でソフィアだけは冷静にフィレーネを見つめる。
そんな中ジンはゆっくりとフィレーネに向けて手の平を出す。
そこには誰もが知る聖騎士団総隊長の証である、ライオンの絵が書かれた指輪があった。
「聖騎士団総隊長ジェレス様から・・・フィレーネ様へと・・」
フィレーネは無理やり口から言葉を紡ぎ出す。
「ふ・・・ざけるな!でたらめ抜かすな!」
フィレーネは苦渋の表情で見つめてくるジンを睨み叫ぶ。
「ジェレスお爺様は聖騎士団最強の剣士だ!死ぬわけが無い!出て行け!!」
フィレーネは大声で叫び息を荒くする。
それでもフィレーネをじっと見つめるジン。
ジンの真剣な眼差しがフィレーネを苦しませる。
見かねたソフィアがジンの前に立つ。
「ジンさん申し訳ありませんが、今は少し別の宿舎で体を休めてください。
後程もう一度伺いますので」
それだけ言うと、壁際に立つ数名の聖騎士団員達に目で促す。
2人の聖騎士団はジンの両脇に立ちジンの体を支える。
ジンは懐から血で染まった布を出し地面に敷き、指輪をその上に乗せた。
ジンは、それから2人の聖騎士団に体を支えられながら立ち上がり出口へ向かう。
ジンは数回フィレーネの方を振り返ったが、フィレーネは地面に置かれた指輪に釘付けだった。
ジンが宿舎から出て行った後、ソフィアは他の聖騎士団員達にも後で出直すように申し付けた。
部屋の中には呆然と指輪を見つめるフィレーネとそれを見つめるソフィア。
しばらくしてフィレーネは小さな声を紡ぎだす。
「ど・・どう・・思う・・?これは・・・真実か・・?」
フィレーネは誰に問うでもなく、ただ呆然と指輪に向かって問いた。
もちろんだが指輪は返答しない。
しばらくしてソフィアが代弁するように言葉を紡ぐ。
「恐らく・・・」
ソフィアがそれだけ言うと、フィレーネは唇を噛み締めて宿舎を出て行った。
ギルダとレアラはフィレーネの指定する宿舎前に辿りついた。
しかし、聖騎士団が中にいる時に感じられるいつもの活気が感じられなかった。
「やけに静かだな・・。まあ、中に入ればわかるか」
ギルダを先頭に中へ踏み入るとソフィアが一人佇んでいた。
ソフィアは布に包まれた指輪をじっと見つめている。
「おい、ソフィア。フィレーネはどうした?それに他の奴らもいねえし」
ソフィアは指輪を布に包んで懐に仕舞うと、ギルダとレアラに目を向ける。
「今は一旦休憩ですわ」
ソフィアはそれだけ言うと、片隅に置かれた椅子を引っ張り出し机に添える。
「レアラ様とギルダさん、とりあえず座って頂いても?立ってられると気になりますの」
「ん?ああ。譲ちゃんも座んな。ソフィアが水でも出してくれるかもしれんぞ。」
レアラもギルダに促され椅子に腰掛ける。
ソフィアは棚からカップを取り出し水を入れ、レアラとギルダの前に差し出す。
レアラは喉が渇いていたのか一気に飲み干した。
ソフィアはレアラの背後に立ち、ギルダに手で外へ出るように促す。
ギルダはそれに気付き立ち上がる。
「譲ちゃん、俺の水も飲んでいいぞ。ちょっと休んでてくれ」
「う・・・うむ。了解した」
レアラはギルダの行動が気になったのか首を傾げる。
そんなレアラを他所にギルダはソフィアに続いて外へ行ってしまった。
「ふむ。急にどうしたんじゃろ・・・。まあいっか」
レアラは一人机の上に突っ伏した。
「う〜む。どうしたものか・・・」
レアラは呟くと同時に疲れが出たのか寝息を立て始めた。
ギルダはソフィアについて行くと聖騎士団宿舎の裏手で足を止めた。
「此処なら人目は無いでしょう」
そう言うと、ソフィアはギルダの方へ振り返る。
「単刀直入に言いますね。第一聖騎士団と第二聖騎士団は全滅したとの一報が入りました」
ソフィアの言葉に、ギルダは微かだが驚きの表情を見せる。
「それでこの有様か」
納得したかのようにギルダは一人頷く。
「フィレーネはどうした?」
「飛び出したきり戻ってきていませんわ」
ソフィアの言葉を聞きギルダは考え込む。
「報告者の名前は?」
「ジンさんです」
「あいつか・・・」
「知ってるんですね」
「まあな。爺さんの所で厄介になってたときにちょっとな」
ギルダは何かを思い出す素振りをしていたが、
改めてソフィアを見る。
「フィレーネなら今からどういう行動を取るか予想できてるはずだ。そうだろ?」
「ええ。ですが、私の力では拮抗が限界です。
だから貴方を此処に呼んだのですわ。」
「だろうな」
そう言うとギルダはソフィアに背を向ける。
「時間がなさそうだ。そろそろ行く。
最後にジンの場所を教えてくれ」
「この宿舎の向かい側にある民家にいるはずですわ」
「はず・・か。何処まで仕事させる気だよ。副隊長」
それだけ言うとギルダは走り出した。
ソフィアはその背中を見つめ、ギルダが見えなくなると呟いた。
「貴方が此処にいて良かった。そう思えますわ。頼みます」
ソフィアは自分がその役割ができなかった事に対して、悔しさと感謝を籠めて軽く頭を下げた。
読んでいただきありがとうございます!
では次回19章で会いましょう!