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僕の異世界生活はどうにも波瀾万丈なようです。  作者: 有木苫占


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6 似非占い師

「おや、似非占い師!本当に上客をつれてきたのか!」


 女が示した角を曲がった先で屋台の店主と思われる男が僕達を見て驚きの声を上げた。


「ああ、味の違いが判る、お坊ちゃん達をお連れしたぞ!ちゃんと精米したての米を使ったんだろうな!」


 屋台の親爺に返答した女の声は、酒焼けしたかのようなガラガラなおっさんの声になっていた。


 目を細めたトニーが女の魔法を見破ったのか、変装の魔法、と声を出さずに口だけ動かした。


 僕もトニーの真似して目を細めた。


 仕草を真似るだけでできるとは思わなかったが、あらためて女を見ると、女の周囲が少しだけ明るいモヤがかかって見えた。

 さらに目を凝らすと僕にも若い女が細身の中年の男に見えた。

 年を重ねて精悍な顔立ちに渋みが増したようなイケおじに変装した女は手練れの魔法使いのようだ。


 似非占い師、という屋台の親爺の表現がしっくりとくる軽い言動さえ、不思議と魅力的に見える風貌だった。


「今朝は高級食材を使用した朝食を出せと言われたから、他の食い物の屋台と反対側に店を構えて、(ふところ)がしけている客を避けたんだ。ばっちり、美味しい物を用意したから、たんと召し上がれ」


 屋台の親爺の言葉通り、木箱に板を載せただけの客用のテーブルに客は誰もいなかったが、辺りには美味しそうな匂いが立ち込めていた。


 ぼくが鼻を引くつかせると、ハハハ、とトニーは笑った。


「確かに俺達は上客になりそうだ。なにせ料理をそのまま収納できる魔術具を持っている。美味ければ屋台のすべてを買い取ることもあるかもしれないな」


 そいつはいい、と満面の笑みになった屋台の親爺は、屋台の奥から椅子を出し、僕達に席に着くように勧めた。


「昨日、この似非占い師が一攫千金のチャンスが到来するから、ありったけの食材を集めて美味い物をつくれ、と言ったが、あんまり信じちゃいなかった。だけど、この占い師ときたら人の動作をよく観察してハッタリをかましてくるから、乗ってみることにしたんだ。俺は東海からいい食材を仕入れてこの町に来たんだが、みんな財布の紐が固すぎて、雑穀の安い粥しか頼まない。今朝は思う存分腕を振るったから、間違いなく満足できるはずさ!」


 屋台の親爺は僕とトニーに粥をよそった。

 ほんのりと昆布の匂いのするお粥を前にした僕は、あまりの懐かしさに大きく息を吸いこんで、うんうん、と頷いた。


「この匂いは何だ?」

「干した海藻を水で戻して弱火でじっくり出汁を取ったお粥の匂いだよ」


 トニーの疑問に屋台の親爺より先に僕が答えた。


「いやぁ、たまげたね。海藻出汁を知っているのかい!」

「育ちがいいので、色々食べさせてもらいました」


 いいとこのお坊ちゃんの小芝居をする僕にあわせて、そうだ、とトニーが頷いた。

 お坊ちゃん付きの従者の役回りなら素のトニーなので問題ない。


 茶碗を両手で持ち上げてうっとりと昆布の匂いを堪能する僕を横目に、トニーは一匙すくって味見をした。


「ああ、ほんのりとした塩加減で米の甘みを引き立てている。この旨味が海藻の出汁なのか!」


 毒見を兼ねた味見だったが、あまりの美味しさにトニーは僕に合図を出さずに次々と匙を掬って口に運んだ。


「そうだよ。味のわかるいい客人だ。東海北部の荒波で成長した立派な海藻に、粘り気のある高級米を使用しているから、粥の味付けは海藻の塩味だけさ。付け合わせのおかずを載せて濃い目の味に変えてもいい」


 トニーの食いつきに気をよくした屋台の親爺は次々とテーブルに総菜を並べ始めた。


「見てくれが悪いが、おっと……匂いもきついが、海の魚の塩漬けだよ。こいつを食べると食が進む。昨日仕込んだ糠漬けもいい塩加減に漬かっている。こっちの鳥肉の餡掛けは……」

「干し鮑の出汁を使用しているね。匂いでわかるよ」


 ぼくの発言に屋台の親爺は、いいねぇ、と頷いた。


「高級食材を知っている最上の客だ」


 全ての総菜の味見を終えたトニーが頷くと、猫舌の僕はすくったお粥にフーフーと息をかけて冷ましてから口に入れた。


 昆布の出汁が口の中でゆっくりと広がり米粒がはっきりと残っているお粥の食感を存分に味わった。


 懐かしい。


 米を口にするのも久しぶりだし、昆布に至ってはアルフレッドとして転生してから初体験だ。


 食が細く年の割に体が小さかったことを気にしていた母がいろいろと食材を取り寄せてくれた中に米があった。

 前世の記憶を思い出す前に米を食べた記憶はあるが、パサパサとした細長い米で脂っこいお肉の付け合わせだったから好んで食べた記憶がない。

 ……いや。

 アルは賢かった。

 珍しい食材で料理人がよく理解していない物は異物混入で味が変わっても料理人も毒見役も気が付きにくい。

 父の面会日の前日の夕食に僕の食事に下剤を混入させて、体調不良で父との面会を取りやめにさせようと企む人物が離宮にいたのだ。

 アルが極端な偏食だったのは本能的に安心して食べられる味にこだわっていたんだ。


 怪しい女が案内した屋台の食事だが、美味しいものを提供することに誇りを持っていそうな屋台の親爺の作った料理なら信頼してできる。


 そもそも、こんなに丁寧に取った出汁と米の甘みだけのシンプルなお粥に混ぜ物を入れるとすぐにわかるだろう。

 ……そうか。女は僕達の警戒心を弱めるために屋台の親爺にお粥を出すようにあらかじめ指定していたのか!


「美味いだろう!」


 一口味わって黙り込んだ僕を屋台の親爺は真剣な眼差しで見た。


「人生で最高のお粥です」


 僕の言葉に満面の笑みを見せた屋台の親爺は、坊ちゃんの年で人生を語られても、とゲラゲラと笑った。

 いやいや。

 前世の僕は長患いをしていたから、お粥といえば入院食で、茶碗によそったお粥の米の粒の多さで自分の回復具合を確認したものだった。

 入院中のお粥は格別に美味しいものだと思ったことはなかったが、このお粥は米の旨味をしっかり感じることができて、涙が滲みそうになるほど美味しい。


 体に染みる味だよ、と屋台の親爺に声をかけると、そうだろそうだろ、と屋台の親爺と女が頷いた。


 女の変装の魔法の秘密や、僕達の事情を知っていそうな事を探らなければいけない。

 でも、まずは懐かしい味でお腹と心を満たそう。


 イカの塩辛、瓜の糠漬け、ザーサイ、青菜の胡麻和え、鳥肉の海鮮餡掛けは絶品だった。

 ああ、梅干しが恋しい。


 茶碗が空になるたびにおかわりをよそう屋台の親爺は、僕の食べっぷりに満足そうに頷いた。


「大陸中央の大国の王都で香辛料は売り切れたのに、米や海の幸がさばき切れなくて、帰路の道中、屋台料理で売り切ろうと考えていたんだよ。いやはや、内陸では潮の香りのする食品は受け入れられなかったんだ。あるだけ買い取ってくれたら助かるよ」


「ああ、ありったけの食材を全部買い取ろう」


 即決したトニーの言葉に僕と屋台の親爺はにんまりした。


 サッサと食事を終えたトニーが屋台の親爺と具体的な交渉するために席を立つと、トニーの座っていた椅子に女が腰かけて僕に囁いた。


「そんなに米が好きなら、やっぱり私に(まじな)いを払わせなさいよ。今の立場ではいずれ路銀がつきるよ」


 鍋を引き寄せて最後のお粥を自分でよそった僕は首を横に振った。


「残念ながら、そんなに簡単に路銀が底をつくことはないよ」


 僕の言葉に女はチッと舌打ちをした。


「用心深い妃殿下は、君が成人するまで資金が尽きないように色々と細工していたわけか」


 女の言葉を聴力強化で耳に挟んだトニーが振り返って眉を顰めた。


「お代は現金より商業ギルドのポイントでほしいんだが、いいかな」


 僕と女のやり取りが聞こえていない屋台の親爺はトニーに声をかけた。

 女の詳細を探る席にトニーがいてほしい僕は支払いを先に済ませることにした。


「おじさん。支払いは僕がするよ。品代の名目をお食事代と食料品購入でよろしく」


 揉み手をしながらぼくの隣に来た屋台の親爺は、ありがとうございます、と言って自分の市民カードをかざした。

 ぼくは首から下げていた小さなプレートを屋台の親爺のカードに接触させると、魔法で決済が終わった。


「はあぁ!二重国籍の仮市民カードなんて初めて見たよ!ラウンドール王国とシャオ王国なんて、大陸の端と端じゃないか!」


 自分のカードに記載された決算報告の表示を見た屋台の親爺は素っ頓狂な声を上げた。


「まだ仮市民カードだから二重国籍で登録できるんだ。国際結婚で誕生したの子は洗礼式前の仮登録の時は二つの教会に登録できる。どちらの国でも選べるように両方に登録をしたんだ」


 トニーの説明に、子どもの国籍を両親だけで簡単に決められない立場ということは僕達が貴族階級だと気付いた屋台の親爺が姿勢を正した。


「まあ、訳アリだから、身分を気にしなくていい。ここにいるのは洗礼式前の子どもを親族に預ける最中の大店の旦那だとでも思ってくれたらいい」


 明らかに嘘くさい説明をするトニーに、他言いたしません、と屋台の親爺は頭を下げた。


「その市民カードは目立つだろう。普段使いのカードを作ってやろうか?」


 偽造市民カードの製作は大罪なのに、女はこともなげに僕の耳元で囁いた。


「そんな顔するなよ。私が冒険者ギルドに登録し冒険者カードを入手するんだよ。正式に君が私を雇用して私の報酬に上乗せすれば、私のギルドカードで品目の制限なく何でも購入できるようになるだろう?」


 結局金目当てか!と胡散臭そうに女を一瞥した僕の肩を女はゲラゲラ笑いながらバシバシ叩いた。


「がちがちの堅物の護衛と城の奥に幽閉されていた王子様じゃあ、世間を渡り歩くには知恵が足りない。君が王太子妃殿下の呪いを解かないことを選ぶのなら、私が君達を安全に目的地まで送り届けてあげよう」

 

 何なんだ!

 この展開は!

 似非占い師の女が、なかまに なりたそうに こっちをみている、っていうシチュエーションだったのか!

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