1 彷徨う魂の転生先
全身がどうしようもなく痛むけれど、意識のない時間が増えていく。
家族が病室に呼ばれているのに呼吸が辛く、何も言えない。
頑張れ、と言われても、この苦しみが終わるのなら意識のない時間がずっと続けばいい、と思うことを、どうか許してほしい。
……いや、まだ諦めるな!
サブスクの解約もネットの閲覧履歴の消去も、まだしていない。
この世に未練がありまくる。
俺はできた人間なんかじゃない。
煩悩こそが生きる力だ。
「タケシ。アツシ君が、大丈夫だ、後は任せておけ、と言っていたよ」
バイタルサインの低下を警告する電子音と病院関係者が医者を呼びに行くせわしない足音がする中、俺の強張った体を擦る母さんの言葉に、ああ、と息が漏れ、全身の緊張が解けた。
闘病生活が続きなかなか学校に行けず、友人の少なかった俺と趣味があい、高校中退後も心を許せる友人として付き合ってくれていたアツシが、万が一の際に俺のPCを初期化する約束を覚えていてくれたのだ、と思うと、安堵してすべての思考を放棄しそうになった。
「……ア、リ、ガ、ト……」
何とか口にした俺の言葉で母さんの瞳に涙が滲んだ。
ありがとう。
生んでくれて。
迷惑ばかりかけたけれど、慈しんで育ててくれた。
父さんが何か言っている。
だけど、もう目を開けていられない。
何も見えない、何も聞こえない段階に突入した俺は、すべての苦痛から解放された。
……長い眠りについていた。
その後、苦痛はないが、喜びもない、ただ、本能のまま生きる何かの生物になった。
何度か何かの生き物になったような気がするが、思考がまとまらないと記憶は長くとどまらない。
だけど、俺は間違いなく何かとして生を受け、程なくして死を迎えた。
生まれ変わりはこうして魂に何かを刻みつけているのに言葉にできない経験を経て、崇高な魂へと変化していくのだろうか?
ああ、また思考が働かなくなっていく……。
……次は何に生まれ変わるのだろうか……。
俺が僕だと気付いた時は、突然、全身の痛みに襲われ己の死を強く意識し前世の記憶を思い出した異世界の王子アルフィーになっていた。
なんてこった!
やっと人間に生まれ変わったのに、激痛にのたうち回る六歳児だなんて、いったい何ができるんだ!
アルフィーが王太子の第一子だから、王位継承権を巡って毒でも盛られたのだろうか?
前世の記憶で痛みに慣れているといっても、対処方法なんてわからない。
今の僕にできることは、ただただ、激痛に耐えるだけだ。




