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れすとあ ─モンキーガール、風になる─  作者: 海凪ととかる@沈没ライフ


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4.姉弟道中(佑樹)

 姉貴が悪ノリして作りすぎた重箱二段の弁当は僕の普通サイズのいつもの弁当箱と妹用の小さな弁当箱に詰め直され、入りきらなかった分はそのまま朝食になった。


 姉弟3人で朝食を取り、僕と姉貴は一緒に家を出た。高一の僕は片道30kmの公立高校へ、四つ年上の姉貴は高卒二年目の社会人として勤務先のベーカリーカフェへ向かう為、それぞれのモンキーをガレージから外に押し出す。

挿絵(By みてみん)

 うちは以前、両親が喫茶店をやっていて、二階が母屋で一階が店舗になっている。廃業後、ボックス席のテーブルと椅子は撤去したものの、カウンター席とスツール、カウンターの内側のキッチンはそのままの所謂居抜(いぬ)き状態で残してある。

 母屋の方にもキッチンやトイレはあるので家族は基本的に店舗の方は使わないが、この店舗スペースをバイクのガレージ兼整備場所にしているので、僕がここで作業をしている時はキッチンやトイレがそのまま使えるのは助かる。

 

 二階の母屋の方にも自室はあるが、そっちは主に寝に行くだけで、僕はだいたいこの場所に入り浸っているので、現状この店舗スペースが僕の自室のようになっている。



 店舗の出入り口から外に出れば、車が8台停められる駐車場になっていて、駐車場の出入り口は地元民の生活道路である県道22号(伊勢南島線)に面している。

 今となっては無駄に広い駐車場で僕らは出発の準備を整える。



 僕と姉貴のモンキーは両方とも形式的には同型のBA-AB27だが、色も見た目もかなり違う。製造された年式によって様々なカラーバリエーションを楽しめ、さらに自分好みにパーツを交換してカスタムできるのもモンキーの魅力の一つだ。


 姉貴が[もんちー]と名付けて愛用しているモンキーは赤いフレーム、白の燃料タンク、黒のシートのコントラストが可愛らしい2005年モデル。

 姉貴の要望により、公道で妹を乗せて二人乗りができるようにカスタムしてある。具体的にはエンジンを50ccから90ccに換え、シートを二人乗り用のタンデムシートに換え、後ろに乗った人間の足を乗せるためのステップを増設し、熱くなる排気マフラーで後席の人間が太ももを火傷しないようマフラーをシートのすぐ下に収まっていた純正からエンジンの下までの長さのベリーショートマフラーに変更してある。


 対して姉貴が[しるばー]と名付けた僕の愛車は黒のフレームとシート、シルバーメタリックの燃料タンクと全体的に落ち着いたカラーリングの2002年モデル。ノーマルの50ccの原付1種のままだと30km/hの速度制限があるので、エンジンだけは90ccに換えて法定速度まで出せる原付2種として再登録してあるが、それ以外は外見はほぼノーマルのまま。……カスタムパーツって高いから最近バイトを始めたばかりの僕ではまだなかなか手が出せない。

挿絵(By みてみん)

 僕の通っている高校は片道10km以上の生徒は125cc以下の小型二輪限定ではあるが、バイク通学が認められているので、16歳になって二輪免許を取ってすぐに電車通学からバイク通学に切り替えた。

 

 ハーフヘルメット──通称半ヘルを被り、ハンズフリーキットも兼ねるワイヤレスイヤホンを装着してスマホとBluetooth(ブルートゥース)で接続してから、自分のモンキーにまたがってエンジンをかける。 


──ドルンッ! ドッドッドッドッド……


 毎日使っている[しるばー]はキック一発で機嫌よくエンジンを始動させ、心地よい振動がシート越しに伝わってくる。

 姉貴が自分のスマホを操作してワイヤレスイヤホン越しに通話アプリで話しかけてくる。


『ユウ君、聞こえる?』


「おう。おけおけ」


 バイク乗り同士の会話は肉声ではやりづらいのでハンズフリーで通話を繋げるのが一番だ。

 

 バリッと化粧をした姉貴がお気に入りの半ヘルを被り、手馴れたしぐさであご紐をパチッと留める。破れジーンズにMA-1ボマージャケットというワイルドな格好がやけに似合っている。

 姉貴の職場と僕の学校への通学路は途中までは一緒だからそこまで一緒に走るのがいつものルーティン。


『じゃ、行こっかユウ君。じゃあね、さくにゃん』


「うむ。姉上、留守はワタシがしっかり守るのだ」


──バルンッ バルルルル……

 

 ベリーショートマフラー独特の甲高いエンジン音を響かせながら[もんちー]のエンジンを始動させてシートにまたがる姉貴。


「よし。ほんじゃ俺も行くな。サク、家事は根を詰めすぎないようにほどほどにな。ちゃんと息抜きもするんやに?」


「うむ。兄上も道中気をつけるのだぞ」


 僕もアイドリング中の[しるばー]のシートに座りなおした。

 左手でクラッチバーを握り、左足のつま先でチェンジペダルを踏み込む。

 カシュッと小気味良い音と共にギアがニュートラルから一速に切り替わったのを確認して、左手のクラッチバーを緩めて半クラッチにする、と同時に右手のアクセルをゆっくりとひねりながら発進する。


──ドルルルル……


 姉貴の後ろについて駐車場を半クラッチの徐行で通り抜け、右折で県道22号に出る。県道に出たらすぐにクラッチバーから手を離して半クラッチを解除。

 スピードが上がってきたらその都度クラッチバーを握り、左足のつま先でチェンジペダルを跳ね上げ、一速から二速、三速、四速と順番にギアチェンジしながら速度を上げていく。

 だいたい四速で40km/hぐらいには達している。

 この県道22号の法定速度は50km/hだし、小さな車体に90ccのエンジンはかなり余力があるからもっと速く走っても問題ないが、僕らはだらだらと通話アプリで駄弁りながらのんびり走る。


「沙羅姉、[もんちー]の調子はどない?」


『うふふ。めっちゃええに! 通勤だけで使うんが勿体ないぐらいやね』


「そんなら、週末にサクも連れてどっかにツーリングでも行かん? もう来週は天気崩れるらしいし」


『おー、ええやん。さくにゃんもたまには外に気晴らしに連れ出したいもんなー』


「ならあとでサクの希望も聞いて計画立てよっか」


『うんうん。そうしよに』


 住宅が密集する市街地を抜け、右手に松井孫右衛門社、左手に徳川山を見ながら県道22号を宮川の堤防沿いに走っていくと、次第に道の周囲に緑が増えアップダウンが増えてくる。伊勢の郊外は丘陵地なので、高台である丘に住宅地が密集し、谷筋である低地に畑や田んぼや林がある田園地帯になっているのだ。


 やがて、姉貴の職場であるベーカリーカフェに分岐するT字路の交差点に到着し、赤信号で止まった姉貴の[もんちー]がパカパカと左折のウインカーを点滅させる。僕はこのまま直進するので姉貴の隣に並んで停車する。


『じゃあねユウ君』


「おー。沙羅姉も仕事頑張ってな」


 姉貴が右の拳を伸ばしてきたので左の拳をコツンと軽く合わせてから僕らは別れた。















【作者コメント】


 伊勢は……マジで坂が多いです。そもそも、元々平地が少なく拡張の余地があまりない土地だったのに、江戸時代のお伊勢参りブームでキャパを超える人間が来るようになった結果、丘陵地や山の斜面を開発して住宅地となって今に至ります。この辺りの背景は黒船来航後に急発展した横浜なんかとも通じる部分ですね。

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