第8話
まず、お母さんがいなくなった。
しばらくしてお母さんがまこちゃんを迎えに来て、最後にお父さんもいなくなった。
それから私はずっと、おばあちゃんと二人で暮らしている。
おばあちゃんはお父さんのずっと前に死んだお母さんのお母さんなので、
私からするとひいおばあちゃんにあたる。
ジェネレーションギャップが激しくて、
だいたいのコミュニケーションにはズレを感じるが、
最近はなんとなく通じるようになってきた。
おばあちゃんは横暴だが、嫌いじゃない。
朝から苦手なそうめんを食べていると、冴子姉ちゃんがやってきた。
「金魚、猫に食べられてもうたんやって?」
ずかずかと家に上がり込んできて、勝手に冷蔵庫の中から麦茶を出してグラスについだ。
「食べられてへんよ」
「え? どういうこと?」
「盗まれただけやし、どっかで生きてると思ってるから」
「誰が盗むん」
「猫」
冴子姉ちゃんは、喉を鳴らして一気に麦茶を飲んでから、ふうんと言った。
「ま、どっちでもいいけど」
冴子姉ちゃんはお父さんの妹だけど、お父さんとは歳が離れているので、どちらかというと私と近いくらいで、結婚もしてないからいつまでも若い。
「それよりさ、あんた、魚臭くない?」
指先が痛い。
昨日バイトで鰺の背骨のぎざぎざが指先に刺さって、その傷に塩が入り込んで、ずきずきと疼く。
もしかしてここから菌が入り込んで、私の身体を魚臭くしているのかも知れない。
悲しくなった。
「茜、いつまでもだらだら食べてんと早うしいや。バイト行く時間ちゃうんかいな」
おばあちゃんはいつもだいたい怒っている。
いつも怒っているから眉間の皺が寝ている時でさえ消えない。
時計を見ると、確かにバイトに行く時間が迫っていた。
「今日は給料日やろ」
「そうなん? 給料日なん? 初任給やんな。おばあちゃんになんぼ渡すん?」
嬉々としている冴子姉ちゃん。
おばあちゃんが淡々と「半分でええわ」と言った。
半分。
いくらか家に入れるつもりではいたけど。
「ははは。半分やてえ、よかったなあ、茜。
私なんか全部渡した内から四万円だけしかもらえへんかったで」そして卑屈な感じの変な引き笑いをした。
私は、黙って家を出た。




