第4話
次の日、
言われたとおり通用口の警備員に「うおさかのアルバイトにきました」と声をかけると「今日からか、がんばりや」と、笑顔ですぐに通してくれた。
スーパーの食料品売り場はごちゃごちゃとしていて迷路みたいで、昨日の店ってどこだったっけ。
朝の準備で忙しそうにしている店内をうろうろしているうちに本格的に迷ってしまった。
そういえば、あの店のおじさんは私の名前すら聞かなかった。
人を雇うのにそんなことってあるだろうか。
不安でたまらなくなって足が止まりそうになったときだった。
「そっちちゃうで。こっちやで」
振り向くと、
細くて背の低い女性が立っていた。
「昨日、うちにバイト申し込んでくれた子やろ。こっちおいで」
女性はそう言ってスタスタと歩きだした。
髪をまとめて頭の上できっちりととめている。
かなりのボリュームだから、おろすと結構な長さなのだろうと思った。透きとおるような白い肌をしていて華奢に見えるのに、内側からにじみ出るエネルギーは強烈な強引さがある。
見た目は全然違うけど、昨日のおじさんと雰囲気が少し似ている。
女性の立ち止まったところは、確かに昨日の店だった。
天井から釣り下がっていた求人広告はもうなくなっていた。
「ええと、エプロン、持って来てへんよね。とりあえず私の貸したげるから、今日はそれしといてくれる? できたら次からは自分の持ってきてな。どんなんでもかまへんから」
忙しなくそう言ってから「この店の裏に休憩するスペースがあるから、そのリュック、適当に置いてきて」とつけ加えた。
言われた通りに店の裏へと入ると、両側に段ボールの箱が積み上げられた細長い小さなスペースができていた。
無理やり拵えた物置兼安息所といったところか。
一番奥にはベビーベッドが置かれてあって、その手前に小さな丸椅子がひとつ。床はタイル張りになっていて、あちこちに汚れがこびりついている。
巨大な鯨のお腹の中に入ってしまったような、じめじめとした薄暗い場所だった。
生臭い海の匂いが、べったりと皮膚にまとわりついてくる。
私はどこに荷物を置いたらいいのか迷って、とりあえず一番清潔そうなベビーベッドの上に置いた。
店先に戻るとおじさんもいて、さっきの女性と喋っていた。女性は大きな赤ちゃんを抱いている。
「おはよう。よろしゅう頼むな。この人はうちの嫁はん。だいたい嫁はんに聞いてくれたらええから。ただ売るだけやし難しいことないし、ぼちぼち覚えてくれたらええよ」
おじさんは上を向いて、がははと笑った。
何が面白いのかわからなかったが、つられて私も笑った。
「このおっさんのことは、大将って呼んだって」
奥さんがそう言うと、すかさず大将が「誰がおっさんやねん」と言ってまた笑った。
赤ちゃんが急に奇声を発して、ぷっくりとした腕や足をぶんぶん振り回しだしたので、奥さんは身体を揺すりながら裏へと入っていった。
ああ、あのベッドは、あの赤ちゃんのためだったのか。




