表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金魚の足には靴を履かせて  作者: 宝や。なんしい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/10

第1話

じりじりとグラスの縁にとどまっていた水滴がようやく剝がれ、筋を残しながら素早く滑り落ちていった。


まずそうな水。


飲むべきか悩んでいるうちに、店長がせわしなくやってきて私の前の席に座った。


店内には洋食っぽい匂いがまだ残っている。

朝11時くらいにアルバイトの申し込みに来ましたとウェイトレスに声をかけたら、3時過ぎてからもう一度来てくださいと言われたので、一旦家に帰ってから出直してきた。


店内には買い物帰りと思われる、老夫婦一組だけが座っていた。

終始無言の老夫婦はテレパシーで会話しているような、不思議な安心感に包まれていた。


「ええと、高校生?」

「はい、そうです」


 店長はてっぷりとした身体を、いちいち窮屈そうに動かして「ふうん」と言いながらじろじろ見た。


「このカフェはスーパーの中にあるし、結構忙しいよ。女の子でも、おんなじようにやってもらわなあかんけど、大丈夫?」


 私が小さい頃から存在するこの古い喫茶店を、店長はあえてカフェと呼んだ。


「はい」


ちなみにおばあちゃんと冴子(さえこ)姉ちゃんは、この店のことを定食屋と呼んでいる。


「急に来てもらわなあかんこともあるかも知れへんし、厨房に入ってもらうこともあるよ」


私はちょっと考えて「はい」と言った。

店長は「それから」と言いながら、断る理由を探しているみたいだった。


「メニューはすぐ覚えてもらわなあかんしね」


差し出されたメニューを見た。小さな文字で商品がずらずらと書かれている。


眼鏡をかけていなかったので、目を細めて近づいて見ていると、

「あれ、もしかして目、悪いの?」と張りのある声で言った。


「はい」


店長はあちゃあと真ん中の三本の指だけを額にのせて、「目、悪いのはちょっと」と言った。

世間知らずの私は、それが断り文句であるということに、しばらく気がつかないでいた。


「うち、眼鏡も禁止やしね」と言いながら、ばたばたと立ち上がり「うん」と言う。


つられて思わず「うん」と繰り返すと、不思議そうな顔をして、今度はしっかりと私の目を見た。


そして自信たっぷりに「ということで、うん」と言った。


それが面接の終わりを告げているのだということにようやく気がついて、慌てて立ち上がり「すみません」と頭を下げて店を出た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ