第66話 危機
ナギサは電磁波を遮断する特殊なマントを羽織り、ティターニアの武装製造拠点の一つに潜入していた。
この作戦はあくまで隠密任務であり、メカニカルワルキューレとティターニアの機体の性能差が縮まってしまった現状を考えると
戦闘は避けたい。
こんな敵の胃袋の中で囲まれでもすれば、
それこそ一瞬で死を迎えることになる……。
以前であれば死を恐れるなど、それこそ自ら死を選ぶに値する軟弱な考え、と嘲笑っていただろう。
しかしナギサはミレイナの顔を思い出しマントを握る。
───死を恐れているのでは無い。
ミレイナが自身の死に心を痛め、涙するのが何より怖かったのだ。
ナギサは敵拠点の端末に、ハカセより渡されたデータハッキング用端末を装着する。
そこから敵の新兵器の情報を吸い出し、さらにジャミングをかけていく。
それは数ヶ月に渡り、継続的に行われてきた作戦だった。
ナギサが奪取した設計資料の全てを敵端末から破壊し、
ティターニアの兵器製造ラインをズタズタにしていくという作戦だった。
───この作戦がうまく行けば、あるいは、ミレイナがワルキューレになる事無く、
ただ笑って幸せに暮らせる世界になるかもしれない。
そう思うともう一度、前に進める気がした
今日もナギサはラボにトレーニングに行くミレイナを、悲しげな目で見送ると、
再び死と隣り合わせの作戦を遂行していく。
───ただ、今日潜入する拠点を前に、
ナギサは、得も言えぬ胸騒ぎを覚えていた。
今日も電磁波を遮断するマントを羽織り、
敵拠点最深部に設置された端末に手を伸ばした時だった。
全てのシャッターが凄まじい速度で降り、
耳障りな警報が鳴り響く。
───ティターニアも黙って破壊をされ続ける程馬鹿では無かった。
メカニカルワルキューレが単機で潜入している事。
索敵範囲に僚機や護衛が存在しない事。
そして、いくらワルキューレと言えど、現行の無人機で数を揃えれば制圧可能である事。
それらが確認できるまで、ただ泳がされていたに過ぎなかった。
電磁波を遮断するマント……つまりそこだけピンポイントで電磁波が途切れる。
逆にそれを逆手に突かれたのだった。
黒い影が突如ナギサの四方に現れる。
ナギサはラプター四機に一瞬で囲まれてしまっていた。
───一機でも厄介な相手が四機同時。
場所は遮蔽物の多い閉鎖空間
そして、ラプターの速度はメカニカルワルキューレ以上───
ナギサの頬を嫌な汗が伝う。
「っ……!」
自身が敵の罠にかかったと一瞬で理解すると戦闘の邪魔にしかならないマントを脱ぎ捨て、二本のサムライソードを構える。
「貴様らなんぞに…くれてやる命など……無い!」
無人機相手に啖呵を切る。
ナギサはスラスターを最大出力で吹かせ、ラプター達に斬り掛かった。
────
先ほどまで金属同士がぶつかり合う様な、
激しい戦いの音が鳴り響いていたが、今は静寂が支配していた。
静まった拠点の中心には…
各所装甲がズタズタに引き裂かれ、意識を手放したナギサがワイヤーに固定され、吊るされていた。
───今回のティターニアの真の目的は……
潜入して来たメカニカルワルキューレの鹵獲、そして解析であった。
しかし…ナギサは意識を手放す寸前、ハカセにただ一言。
"任務失敗"
と言うメッセージを送っていた。




