第63話 葛藤
時は数刻前……第二世代ワルキューレをハカセが選抜している時に遡る。
「待ってナギサさん……私もワルキューレにっ」
「……またその話か。お前には無理だと、散々言って来ただろう!」
ナギサはミレイナの発言を切り捨てる。
声は強く、突き放すようになってしまう。
分かっている。ミレイナを傷つける言い方だと。
それでも、止めなければならなかった。
──ワルキューレになれば、死ぬかもしれないのだから。
ラボから少し離れた竹林の中に、
極東の装いをした古風な家が建てられており、
ナギサとミレイナは、そこで──静かに暮らしていた。
当初はラクシャシーとアスラの孤児院に引き取られたミレイナだったが、ナギサがハカセに懇願した事と、ミレイナ自身がナギサの元に行く事を希望したため、特別処置として叶った形だった。
ミレイナに正式にナギサの苗字である、
"ムラクモ"を与えたのも、もう三年前になる。
──この三年間、実質親であり、姉として
ナギサはずっとミレイナを見て来た。
ミレイナもそんなナギサの背中をずっと見て育った。
ナギサ……ワルキューレに憧れるのは必然的であった。
───しかし……ナギサは、もう“家族”を失いたくなかった。
ナギサ本来の親は生粋のろくでなしであり、そんな家族しか知らなかった故、もうそんな存在は要らないと思っていた。
しかし、日々ミレイナの成長を間近で見ていたナギサは、ここで初めて家族の温かさと、尊さ、そして……
"大切なものを失う恐怖"を理解してしまったのだ。
それが、どれほど脆く、そして守りたいものなのかを。
「ハカセにも、貴女なら優秀なワルキューレに成れるって言って貰えたし、この前テスト運用だって……」
ミレイナがそこまで話した時、
ナギサの中で何かを決定的に切り裂いた。
ナギサは机を激しく叩いた。
「黙れっ!」
ナギサは自身が思っていた以上に大きな声と、
想定より強く机を叩いてしまい、
発したナギサ自身ですら驚いていた。
「っ……黙りなさい…」
「……」
ミレイナは無言になると、顔を伏せ、部屋を出て行ってしまった。
ナギサは崩れるように座り直すと、机に肘を置き、手で顔を覆った。
──分かってくれなんて都合のいい事は言わない。
──でも、分かって欲しかった。
──ミレイナが、自分に憧れを抱いてくれているのは、側にいたナギサ自身が、一番強く感じていたし、それ自体は純粋に誇れる事で、嬉しかった。
それに、ミレイナがワルキューレになりたい動機も、ただの憧れだけでなく、大切なナギサを支えたいと言うものだと、ラボで偶然居合わせたアリアから聞いた時は、柄にもなく嬉し泣きしたものだ。
あの時は茶化されたな……
ナギサは定まらない思考を他所に置こうと必死に藻掻いていた。
──一人で生きていた時は感じることもない、感じる必要すらなかった苦悩、
だけど一度手に入れたら二度と手離したくない苦労。
「……全く、厄介な物だな……家族と言うのは……」
ナギサは思わず苦笑いを浮かべ、吐き出すように漏らした。




