第58話 チーム・モイライ
───チーム・モイライ
それはメカニカルワルキューレ第2世代の3人で新設された対ティターニアの新戦力である。
血の繋がった三姉妹で構成された彼女達は、
ハカセから"血縁者故の統率の取れた連携"を期待されていた。
……しかしハカセのその期待は、現実の前に打ち砕かれることになる。
"家族であること"そのものが枷になるという可能性を研究者であるハカセは、見落としていた。
長女の"ルキア"はプロメテウスの起こしたテロにより両親を同時に失ってしまう。
その時の絶望は計り知れなかった。目の前で粉々になる両親、
そして次女の“ノア”が、咄嗟に姉妹を庇い、その代償として左半身を失った。
メカニカルワルキューレの介入が無ければ、三姉妹は共々この世を去っていただろう。
幼かった三女の"フィレア"は、あまりの事態に精神が付いて行けなかったのか、
この事件以降、他者との関わりを避ける様になってしまった。
心から愛している筈の姉妹達でさえ……
ルキアは自身に与えられた自室で目を覚ます。
寝ても覚めても、思い浮かんで来るのは血だらけの幼い姉妹達と、目の前で両親を失った、あの光景……
ルキアは短く息を吐いた。
──また、あの夢だ。
ルキアはゆっくりとベッドから起き上がると、
じっとりと汗で張り付いたタンクトップを脱ぎ捨て、支給された衣服に袖を通す。
長い訓練の末、遂にハカセより任務を言い渡されたのだ。
───
「スリーマンセル……で、ありますか…?」
長女のルキアにのみハカセの構成案、チーム・モイライについて事前説明が合った。
……血の繋がった家族故の統率の取れた連携を可能にした新チーム。
ハカセの発言にルキアは思わず顔を顰めてしまう。
「何か、不満があるのかしら?ルキア。」
ハカセも表情から何かを感じ取ったのだろう、ルキアに聞く。
「いえ、このルキア。チーム・モイライのリーダーとして、"MV-07クロート"の装着者として、任務を完遂してみせます。」
MV-07クロート───
ルキア用に設計されたパワードスーツで、当初はディアナのMV-03アレクトの後継機として狙撃能力を高めた設計だったが、装着者であるルキアが狙撃より飽和攻撃を激しく望んだ為、武装の見直しや放熱能力が向上する様に装甲を再設計し、
戦場をビームで埋め尽くす機体として完成した。
ルキアは姉妹達を呼び出すとハカセから自身らに与えられた初めての実戦任務の概要を説明する。
「皆そろったな……では作戦の内容を説明する。
作戦内容はティターニアの新型多脚型移動砲台の破壊だ。」
ルキアがデバイスを操作し二人に見える様にホログラムを展開する。
それを情報を一読した次女のノアは左手の義手を挙手する。
「ラキシス。」
ルキアは、妹の名ノアではなくスーツの識別名
MV-08ラキシスの名で呼んだ。
MV-08ラキシスのパワードスーツはノア自身の
"それでも戦いたい"と言う強い意志からハカセが開発した特殊な機体。爆撃から姉妹を庇った際に失われた左半身を補う為、ラクシャシー達の技術を流用し開発された。
それ故、人間の関節可動範囲に囚われないトリッキーな戦闘が可能になっている。
次女──ノアはルキアの識別名呼びに対し、一瞬だけ眉を動かすが、すぐに表情を引き締める。
「質問があります。
……この多脚型砲台、主砲の有効射程は?」
「主砲は5キロ程しか届かないが、問題は……」ルキアが言いかけた時。
「あのさぁ…」
三女のフィレアは頭の後ろで腕を組みつまらなさそうにルキアの発言を遮る。
「アンタら弱っちい姉妹が居なくても、
この"最強"の私、"アトロポス"だけ居ればこんな任務、簡単に片付くんですけどー?」
MV-09アトロポス
クロートとラキシスとの連携と、本人の"前に出たがる"気質から接近戦特化の設計になっている。
蛇腹剣と尻尾で新体操のリボンを彷彿とさせるアクロバティックな戦闘を行う機体として仕上がっていた。
メカニカルワルキューレとしてはアリアのMV-02ヘルの後継機にあたる機体だった。
フィレアの発言に、空気が一瞬で張り詰めた。
「……フィレア。」
ノアの声は普段より低く、明らかに苛立ちを含んでいた。
「私語は慎んで。これは作戦会議。おふざけは…」
「はぁ?おふざけ? 本気だけど?
だいたいさぁ…ノア。
アンタの継ぎ接ぎだらけの身体、見てて気分悪くなるのよね。」
フィレアは肩をすくめ、ルキアから視線を逸らしたまま続ける。
「て言うかさ、見たでしょ? 今までの訓練。 私が一番スコア高かったじゃん。
なら無駄な心配も、無駄な連携も要らなくない?ハカセもわざわざこんな雑魚共とって……」
「……これは訓練じゃないわ。アトロポス」
ルキアがフィレアを睨み付ける。
ルキアの声は低く、硬かった。
視線は真っ直ぐ、フィレアだけを射抜いている。
「あなたが今ラキシスに言った言葉、撤回しなさい。」
「は?」
フィレアは鼻で笑った。
「なにそれ。図星突かれてキレてる? 事実でしょ。だいたいノアはもう──」
「──黙って。」
短く、鋭い声だった。
ノアだ。
フィレアの発言に思わず、俯いていたノアが顔を上げる。
その瞳には、怒りよりも深い、冷え切った何かが宿っていた。
「……私の身体のことは、任務に関係ない。」
左の義手が、静かに音を立てる。
「っ………関係……あるでしょうがよ…」
フィレアはノアとルキアを睨み返すとブリーフィングルームを後にした。
自動ドアが閉まる音が、やけに大きく響いた。
ブリーフィングルームには、ルキアとノアだけが残される。
しばらくの間、二人とも口を開かなかった。
ホログラムに映し出された多脚型砲台のデータだけが、淡々と回転を続けた。
ノアは、ただ無言でハカセの造ってくれた
左の義手を見つめていた。
指先を僅かに動かすと、機械的な駆動音が小さく鳴る。
「……ごめん姉さん。」
ぽつりと、ノアが言った。
「私が、もっとちゃんとしていれば……」
その言葉に、ルキアは僅かに目を見開いた。
「ノアっ!」
咄嗟に、強い声で妹の名を呼ぶ。
思わずメカニカルワルキューレとしてでは無く、妹の名前を出していた。
「…謝る必要は無いわ」
ルキアはノアの前に立ち、視線を合わせる。
「……あなたは何も間違っていない。
さっきのフィレアの発言は、完全に越えてはいけない一線だった。」
ルキアの発言にノアは、小さく首を振る。
「……分かってる。 でも……ああ言われると、どうしても思い出す。」
義手を、そっと胸元へ引き寄せる。
「あの時、私がもっと上手く動けてたら……
お父さんも、お母さんも……」
「ノア…それ以上……言わないで。」
ルキアの声が、ほんの僅かに震えた。
「誰の責任でもない……ましてや貴女の責任の筈が……無い」
妹に言い聞かせるように、そして自分自身に言い聞かせるように、ルキアは続ける。
──長女として…自分がこうなるべきだったのに…
ルキアは歯を食いしばる。
「……今は、今回の任務に集中しましょう。 感情を持ち込めば、きっと全員が死ぬ。」
ノアは、しばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。
「……了解。 ワルキューレとして前衛、完璧にこなしてみせる。」
その言葉は、覚悟の色を帯びていた。
ルキアは一瞬、言葉に詰まる。
(……本当は、姉妹を戦場に出させたくない)
だが、それを口にすることは出来なかった。
「……頼むわ、ラキシス。」
スーツ名で呼ぶことで、辛うじてルキアは感情を押し殺す。
ノアは、微かに笑った。
「指揮、任せます。クロート。」
───
ブリーフィングルームを飛び出したフィレアは、廊下の壁に背を預け、乱暴に息を吐いていた。
「……くそが。」
拳を握り締める。
(なんで……なんで、あんな顔するんだよ……)
頭の中に浮かぶのは、ノアの義手でも、ルキアの冷たい目でもない。
──瓦礫の下で、動かなくなった両親。
──血に塗れた姉達。
思わず歯を食いしばって苦しそうな表情を浮かべる。
「……嫌なんだよ……分かれよ、バカ姉共……」
誰に向けたとも知れない独り言が溢れる。
「また……誰かが目の前で壊れるの、見るのは……」
だが、その本音は、決して口には出せない。
だからフィレアは、メカニカルワルキューレとして、戦場で“最強”を演じると決めた。
戦場で誰よりも強くなれば、
自分以外の誰も傷付かなくて済むと、信じて。
──こうして、
新たに結成されたチーム・モイライは、
それぞれが別々の想いを抱えたまま、出撃の時を迎える。
家族であるが故に、
誰一人として“同じ方向”を向けないまま。
ここから外伝です!時系列はソフィアがメガイラとバディを組む少し前になります!
ちょっと説明過剰かな?




