第51話 亀裂
ソフィアは司令室から飛び出し行く当てもなくラボの中を彷徨い、やがて地下の訓練場に来ていた。
ただ何となく、一人になりたかったのかもしれない。
再びデバイスを開き、調べれば調べるほど、父…ダルク・グリードの異常性だけが、否応なく目に焼き付いていく。
「お父さん……なんで……」
スクロールしていた指がプロメテウスの実験記録の中の1つで止まる。
実験記録抜粋──人為的適合:遺伝子配列の特定により、適合率の底上げは可能……
──私は"偶然"にも高い魔力結晶との適合率を持っていた為、ハカセの秘書であるキュベレに見初められ、候補者として選ばれた事で、メカニカルワルキューレに潜入が出来た。
でも、もし……もしも、私の適合率が偶然じゃ無かったとしたら……?
私にお父さんから実験を受けた記憶は無い……でも、もしかしたら……
……もし、最初から──
「……うわあぁあぁ……!あぁぁあぁ!!」
私は誰にも届かない……誰にも届けたくない、悲痛のうめき声を上げた。
私は息を荒げながら乱暴にデバイスを握るとメカニカルワルキューレを装着。
そして武器スロットから剣を取り出すと一心不乱に振り回した。
父を憎むべきだ。ハカセを恨むべきだ。リリィに復讐をすべきだ……
感情がグチャグチャになって自身でも理解出来なくなっていく。
「ソフィー……?」
──1番聞きたくない声が、背後から聞こえた。
私がゆっくり振り返るといつもに増して心配気なメガイラが立っていた。
そして、こちらに向かい歩いてくる。
「もう、探しましたよ……ハカセの呼び出しを受けてそのまま食堂に帰って来ないか……」
「来るな!!!!」
私は反射的に剣を構え、叫んでいた。
「えっ……」
メガイラは困惑した表情を浮かべる
「えっと……な、何かあったんですか?もしハカセに何か……怒られでもしたなら、一緒に気分転換…」
「煩いんだよ!!いつもいつも…!!アンタのそう言うところ…」
───止めろ
「ずっと前から!!」
───止めて
「大嫌いだったんだよ!!!!」
──あぁ……言ってしまった。
私の拒絶を聞いて、メガイラが今まで見せた事の無い、絶望の表情を浮かべている。
ジワジワと目に涙が溜まっていくのが見える。
私が……させた。
「…剣を取れ…メカニカルワルキューレ、メガイラ。」
私はメガイラを睨みつけながら吐き捨てる。
「え…」
「……私の名前はソフィア・グリード。お前達が殺した、プロメテウスの総合責任者、ダルク・グリードの、娘だ。」
私が放ったその言葉に、メガイラの肩が小さく跳ねた。
剣を取れと言われたのに、敵の娘だと告げたのに、
メガイラは、動かなかった。
デバイスに手を伸ばすことも、
構えることも、しない。
ただ、震える声で言った。
「……それでも」
一瞬、言葉に詰まる。
「それでも……私は、ソフィーのバディ……です」
「っ…!」
その一言が、
剣よりも、何よりも、私を深く抉った。
涙を浮かべながら、それでも無理やりに笑顔を作る私の"バディ"を見て、私は思わず唇を噛んだ。
「バディで……いたいよ……ソフィー」
メガイラは袖で涙を拭いながらポツリポツリと願いを零す。
私は……顔を歪め、その場から逃げだした。
自分が作り出した惨状に耐えられなかった。
そして私は……ラボからも、逃げた。




