第50話 真実
私は突然、過去に引きずり戻された。
視界が歪み、耳鳴りがして、
次の瞬間には足から力が抜け、その場に膝をついていた。
息が吸えない。
胸が締め付けられ、空気だけが喉を擦り抜けていく。
「……っ、は……っ」
その時、背中に、温かい感触を感じる。
司令席にいたハカセがいつの間にか傍に来て、
無言のまま、私の背をゆっくりと擦っていた。
「……ごめんなさい」
落ち着いた声だった。
「今の言い方は、配慮に欠けていたかもしれないわね。
ソフィア……貴女は、お父さんが何をしていたのか……知らなかった」
ハカセは私の肩を支え、椅子に座らせる。
呼吸が、少しずつ整ってくる。
それでも胸の奥に溜まったものは、消えてくれなかった。
私は俯いたまま、掠れた声で言葉を探す。
「……お願いします」
ハカセがこちらを見る。
「お父さん……ダルクの資料を……
ハカセ達が知っている、彼の“全部”を…ください」
一度、言葉を切って、続けた。
「私は……理由が知りたいんです。
何も知らなかったまま、あの光景だけを抱えて生きるのは……」
喉が詰まる。
「……耐えられない」
沈黙。
そして、ハカセはゆっくりと息を吐いた。
「……。」
「お願い……します…。」
ソフィアは崩れそうになりながらもハカセに懇願する。
「私は見た……父の資料の中にハカセ……貴女の名を、父とはどんな……!」
───ソフィアは、父ダルクが非道を働いた理由を他所に置きたかった。もはや覆せぬのならば、せめて…あの優しかった父が外道に落ちた原因を他者に挿げ替えたかったのだ。……しかし
「ダルクは……」
ハカセは静かに言った。
「私と親友、サイサが開発したデータを
ハッキングして盗んだ。
……後に調べたら、彼が私のサーバーに侵入した痕跡も見つけたわ」
「そん……なっ」
ハカセはそう言うとソフィアのデバイスのロックを全て解除した。
すると見えなくなっていた本来のデータ、修正されていた文章が次々に真実の形になっていく。
文章が書き換わっていく画面を、
ソフィアはただ、瞬きもせず見つめていた。
「……せめて…貴女の思い出を壊す形にはしたくなかった…真実を知らないと言うのなら、それも良いのかも知れないと、そう…思ったのよ。」
ソフィアを擦るハカセの右手が、震えていた。
プロメテウスの非道な実験記録。それは今までもソフィアは見て来た。しかし、新たにそれらの指揮を取った主導者の名がホログラムに現れる。
ホログラムに表示されたその文字を見て、
ソフィアは、理解する前に否定しようとした。しかし真実は変わらない。
……ダルク・グリード
ソフィアは顔を伏せ、震える指先でデータをスクロールしていく。次々に映し出される父のドス黒い中身。
「…違うっ」
「……違う違う違う違う違う違うっ!!!!」
ソフィアは金切り声を上げ叫ぶと、そのまま這いずるように司令室を飛び出してしまった。
ハカセはソフィアに弱々しく手を伸ばすが、空を掴む。
司令室には、ソフィアの荒い呼吸の残響だけが残っていた。
「……私は……また……間違えたのね……」
ハカセは虚ろな目で自身の握り締めた右手を見つめた。
───
メガイラはいつまで経っても戻ってこない自身のバディを食堂で待っていた。
「ソフィー……まだかな……オムライス、冷めちゃいましたよ」
そう呟いて、メガイラは食堂の時計を見上げた。
ここから彼女らを幸せにする方法があるんですか!?




