第5話 模擬戦
私の前にはメカニカルワルキューレとして鎧を纏ったアリア……ヘルが居た。
さっきまで笑い合っていたアリアの筈なのに、まるで別人の様な威圧感を放っていた。
「アリア……貴女は、また勝手に……」ハカセは呆れた様なため息を零す。つまり模擬戦相手としてアリアはイレギュラーだと言う事だ。
「良いじゃんかよハカセ、どうせ動く的を攻撃するとかしょっぱい訓練考えてたんだろ?そんなのよか、強い相手と戦う方が強くなれる……だろ?」
私はハカセの方を見るが諦めたという雰囲気を出している。いやいや、諦めないでくださいよ!
「はぁ……リリィ。スーツを装着なさい。もうあれは聞かないわ」
「……わかり、ました」
私は震える手で、胸元に手を当てる。
アリアのあのクローが、音速で自分を裂くイメージが脳裏をよぎる。
怖い。逃げ出したい。
でも、ハカセが教えてくれた"プロメテウス"の火が、今もどこかで誰かの明日を奪っているかもしれない。
それを止められるのは、女神の欠片に選ばれた私達……私だけなんだ。
私はゆっくりと目を開いた。
──ちなみに装着ってどうやるの
装着自体は専用デバイスを介してスーツの方から自動で身体に装着される事が分かった。
私は腕に装着したデバイスに認証を求められる。
「うん……怖いけど、やってみる!」
私の意思が定まった瞬間全身を鉄の鎧が包んでいく。全てのパーツがまるで最初からそこに合ったかのように違和感が無かった。
これが…メカニカルワルキューレ……ヴァルキリー
真っ赤なアリアのとは対照的な青と翡翠の鎧を、私は纏った。
「はー、こう改めて見ると本当にヴァルキリーに選ばれたんだなぁ。全然動かないから絶対故障してると思ってたぜ」
アリアはマジマジと稼働状態のヴァルキリーを見る。
「……故障なんか私がさせないわよ。その子が、リリィを待っていただけよ」
ハカセは腕を組んで二人のワルキューレを見つめている。
「…まあいいや!リリィ!言い残した事はあるか?」
「え……私死ぬの!?」
「ははっ! 死なせやしないけどさ……
死ぬ気で来なきゃ――置いてくよ!!」
言い終わるが早いか、アリアの姿が私の視界から消えた。
私は何が起こったのかすら分からず空中に吹き飛んでいた。物理的ダメージこそ無いが吹き飛んだ際に視界がブレる。私は立ち上がるまもなく落下地点で再び吹き飛ばされた。
吹き飛んだ先で体勢を立て直す。私はマジマジと自身の手を見た。あれだけの衝撃を受けたのに私自身へのダメージが無いのだ。
「凄い…メカニカルワルキューレ」
私は改めてハカセの造ったスーツの性能に驚いていた。
アリアがまた凄まじい速度で肉薄して来るが私はそれを何とか躱した。
「おっ!早速避けやがったな!じゃあギア上げてくぜっ!!」
そう言うとアリアの速度が更に速くなり動くだけで衝撃波に襲われる。
全然ダメだ!回避すらまともに出来ないよ!どうすれば良いの!?
「リリィ!スーツは脳波制御で様々な機能が使えるわ!念じなさい!」
ハカセは戦いの中でもちゃんと聞こえるように叫んでくれた。
ね、念じるって急に言われても…!!じ、じゃあ…私は………"アリアに追いつきたい"!!
そう、思った瞬間だった。私の身体は
──音速を超えた。
「──ッ!!」
世界から音が消えた。
鼓膜を震わせていた衝撃波の轟音が、一瞬で背後へと置き去りにされる。
脳波制御による機体各所のブースターの強制点火。翡翠色の光が翼のように広がり、私の身体を次元の違う加速へと誘った。
景色が、流れる線に変わる。
「……あ」
見える。
さっきまで微かな残像ですら追えなかった赤い影――アリアの背中が、今は目の前ではっきりと捉えられている。
「うっそ、マジかよ!?」
通信越しに聞こえるアリアの驚愕の声。
私は、音速で並走しながら、自分でも信じられないような軽やかさで空間を蹴った。
これが、メカニカルワルキューレ…ヴァルキリーの力。
身体が熱い。女神の欠片が、私の意志に応えてくれたみたい。
「ハカセ……私、飛んでます! 飛べてます!」
「当たり前よ。私のスーツだもの」
私は音速の世界でアリアを見つめる。アリアは心の底から嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
「よっしゃあ!!このままアタシに付いてこいよ!!相棒!!」
私は彼女の明るさに救われている。そんなアリアがこんな私を相棒と言ってくれた。
それがただ嬉しくて…私は……
模擬戦は私の敗北で幕を閉じた。
模擬戦を終えて
「あはは! 最後のは惜しかったな! でもリリィ、アンタ最高だよ!」とアリアが肩を組んでくる。
「初回でこんだけ動ける奴観たことないぜ!」
「……おまけに操作説明もまだだったのよ。」
ハカセは呆れた様な口調で零す。
「えっ!?ハカセが教えてたんじゃ…」
アリアはハカセの発言に目を丸くする。
「教えようとした所に貴女が来たのよ……」
頭を振りやれやれと言う表情のハカセ
「えっ、えっ、えぇー!!!!マジかよ本当ごめん!!てっきり説明受けてるとばっかり……」
アリアが本当に申し訳無さそうにしていたからなんだか可笑しくて、私は思わず笑ってしまった。
それを見たアリアも笑い出した。
「……まあ、結果として、何事も無くて良かったわ。アリア、貴女は後で始末書ね」
そう言うとハカセは模擬戦場から出て行ってしまった。
「ええっ!? ハカセ、そりゃないぜー!」
二人のやり取りを見て、私は更に笑った。
身体は鉛のように重くて、心臓はまだバクバク言っている。
でも、さっきまであった「恐怖」は、不思議と消えていた。
「……アリア」
「ん? なんだよリリィ」
「私を『相棒』って言ってくれて、ありがとう」
私の言葉に、アリアは一瞬だけきょとんとしてから、乱暴に私の頭を撫でた。
「おう! 改めてよろしくな、相棒!」
故郷を失い、家族を失い、一人ぼっちだと思っていた。
けれど、私の隣には今、確かに新しい「居場所」がある。
そこにディアナさんとメガイラちゃんも来てくれた。
「お疲れ様リリィ。シャワー浴びたら皆でご飯にしましょう。せっかくだしメガイラも一緒に来る?」
「…………はい」
ディアナさんの提案にメガイラちゃんも小さく頷いてくれていた。
──あ──そう言えば……私、久しぶりに笑えてる
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