第49話 赤い記憶
メガイラに連れられソフィアはラボの食堂に来ていた。そこではスタッフ達が交代で飲食物を提供している。
稀にであるがハカセの秘書であるキュベレが厨房に立った時に出されるオムライスもメガイラの好物の一つだと言う。
目の前でオムライスを頬張り目を輝かせるメガイラを頬杖を付きながらソフィアは見ていて、ふと考えていた。
(妹が居たら……こんな感じなんだろうか)
そしてハッとする。復讐対峙に抱くべき感情では無いだろうと
「ソフィーも食べてみてください!」
とメガイラがオムライスを乗せたスプーンをこちらに向かって来る。
チラリとメガイラの顔を見ると目をキラキラさせ、是非食べて感想を!と言うのが言葉にせずともひしひしと伝わってくる。
(いや、私も同じオムライス注文したんだけどね……)
私はおずおずと口を開く。メガイラは嬉しそうにオムライスを食べさせて来る。
……うん、ありきたりな、普通のオムライスだ。
だけどなんでだろう。ごくありふれた筈のその味が、いつも以上に美味しく感じるのは……いや、これは違う。空腹のせいだ。きっと。
スプーンを引っ込めるメガイラの指先が、少しだけ震えているのが見えた。
……きっと、こちらの反応を気にしているのだろう。
「……確かに、美味しいね」
私のその言葉を聞いてメガイラの顔がパッと明るくなる。
こんな簡単な言葉にすら一喜一憂する自身の"バディ"にやれやれと笑みを零し小さく息を吐く。
その時ソフィアのデバイスにのみメッセージが届く。ソフィアはそれを開いて目を見開く。
───ハカセより呼び出しがかかったのだ。
「どうしました?」
メガイラがオムライスを頬張りながら聞いてくる。
「いや……ちょっとハカセから呼び出しが来たから、そのまま食べてて」
「?……ふぁい」
呑気な返事に苦笑いが出る。
メガイラに背を向け鋭い眼光を瞳に宿す。
(さあ、色々聞かせてもらおうか……ハカセ……いや、ベル。)
ソフィアは白いラボの通路を一人歩いていく。
普段よりも自身の足音が大きく聞こえる気がする。
呼吸のリズムを意識しないと、胸の奥が騒がしくなりそうだった。
無意識に握り締めた拳が汗で湿り気を帯びる。
遂に司令室の前に立つ。
ソフィアが一歩踏み出すと自動ドアが音を立てて開く。
「お疲れ様。ソフィア……アリアから……貴女のお父さん……ダルクの事については、もう既に聞いたわね。」
ソフィアが司令室に入ると自動ドアが閉じた。
「感のいい貴女なら既に気付いていると思うけど、貴女のデバイスからダルクの情報を閲覧不可能にしたのは私の……個人的な判断よ。」
ハカセは真っ直ぐソフィアの瞳を見つめた。
「…………ダルク……私のお父さんがプロメテウスの責任者で、ネガ・メガミドライヴの開発者だと言うのは…」
「全て、覆すことの出来ない事実よ。
貴女のお父さん…ダルクは、個人的な思想の元、数多のに残虐な行いを繰り返した…」
「………」
───あの日……3年前のあの時、しばらく忙しくなると私の頭を撫で、慌ただしそうに出勤する父に隠れて、私は父の車に乗り込みそのまま職場について行った。
お父さんが開発者なのは知っていた。家には父の発明が溢れていたし、資料も沢山合った。
お父さんの仕事部屋には、いつも鍵が掛かっていなかった。
ただ、私は入らなかった。
忙しそうな背中を見て、邪魔をしたくなかったから。
お父さんは優しかった。
私が転べば抱き上げ、夜遅く帰ってきても必ず「ただいま」と言ってくれた。
だから──私は何も聞かなかった。
──でも、お父さんが"ベルとサイサ"の資料に異常な程のめり込んでいたのは知っていた。
小難しい文章は私には分からなかったけど、資料に描かれた色鮮やかな魔力結晶と、サイサと言う人が描いたらしいカッコいいパワードスーツのデザイン図に思わずときめいたのを今でも覚えている。
特に、ヴァルキリーと言うパワードスーツを纏う少女、リリィの写真はとても綺麗で、私は憧れにも似た感情を抱いていた。
私は車に隠れていて、そのまま寝てしまったらしく、起きた時には既にお父さんが居なくなっていた。
「あれ…お父さん…?何処?」
薄暗い駐車場から飛び出すと、止め処無く聞こえる激しい銃声、そして、あちらこちらで起こる炎と爆発が、真っ赤に私の視界を染め上げた
私はお父さんが心配で施設の中を走った。
何処に何が有るかも分からず、とにかくがむしゃらに走った。
よく分からないロボットが並ぶ倉庫や実験室の様な場所。
ただ、何処を見ても有るのは赤い鮮血と瓦礫の山だった。
私の鼓動が早くなる。早くお父さんを見つけてこんな地獄から一緒に逃げなければ……と。
そして、やっとの思いで見つけたのは…
───今まさに斬り伏せられたお父さんと、お父さんの返り血で真っ赤に塗り潰された白き機体…ヴァルキリー……リリィだった。




