第3話 それは決意と言うにはか細くて
アリアはこれから任務が有るからと、
あっという間に去っていき、私はまた一人ぼっちになってしまった。
アリアは「まあ1日もらったんだからゆっくり考えれば良いじゃん」
と言っていたけれど、私は家族の事でそれどころでは無かった。
私は通路に置かれていたベンチに腰掛けると小さくなり俯いていた。
もしかしたら、偶然が重なって、奇跡が起きて、そんな事をずっと考えていた。
──その度にあの黒い焦げた跡がノイズの様に頭をよぎる。
そんな時、突然声をかけられた。
「貴女は…リリィ。」
ゆっくりと顔を上げるとそこにはまだ幼い少女が居た。何処となくキュベレさんを思わせる無機質な表情の子供
「……貴女……は?」
「…メガイラ」
メガイラ…女の子なのに強そうな名前だなとぼんやり考えて。そしてふと思った
──ハカセさんに似てる
「君は、ハカセさんの娘さん?」
「……?」
…なんだか、メガイラちゃんは表情が読めない不思議な子だと思った。
「……隣に座っても、いいですか?」
メガイラちゃんは別にそんな事、聞かなくても良いのに、いちいち許可を求めて来る。
「う、うん、全然いいけど…」
「……ありがとうございます」
メガイラちゃんは私の隣にちょこんと座った。背筋がピシっと伸びていて、親子さんの教育が行き届いているんだなと漠然と思っていたら、メガイラちゃんはいきなり質問して来た。
「リリィ。……貴女は、どうやって初見のメガミドライヴの性能をあそこまで引き出せたのですか?」
「え…めがみ…どらいぶ?」
「メカニカルワルキューレのエネルギー機関です。安定した出力を出すためには訓練が必要な筈です。」
「えと…メカニカルワルキューレ…あの鎧の事…だよね。」
「はい。ハカセが設計した世界の抑止力たり得る力です。」
「……メガイラちゃんも、その、メカニカルワルキューレ……なの?」
「………私は……」そう言うとメガイラちゃんは俯いてしまった。何か聞いてはいけない地雷原だったのだろうか、私は話題を切り替えることにした。
「あ、あの……ごめんね?私、その時の記憶が曖昧で……それにあの鎧の事も、貴女達の事も、何も分からなくて……その、もし、良かったら、色々教えてもらえる……かな?」
そう言うとメガイラちゃんはぱっと顔を上げたかと思うと真っ直ぐこちらを見据えてきた。
その後のメガイラちゃんは日頃よほど話し足りなかったのか、ここぞとばかりに、私の想定よりかなり饒舌に説明してくれた。ラボの人達の事や専門用語、一気に詰め込みすぎて私はちょっとパンクしちゃったけど、そんなこんなで彼女が解説を始めてから、気が付けば時刻は夕方になっていた。
流石に喋り疲れたのか、最初より大分トーンダウンしたメガイラちゃんに時間も遅いしそろそろ帰らないのと告げる。すると
「……また明日も………聞いて、くれますか?」とメガイラちゃんはほんの少しだけ、眠そうな顔で聞いてきた。
明日──明日は決断の日──私は──
「そう……だね。また、明日」
私は無責任にも、思わず答えてしまった。まだ、残ると決めてすら、居ないのに……
彼女のほんのり嬉しそうな表情に、私は罪悪感と申し訳無さを覚えた。
その後キュベレさんにまたあの病室みたいな部屋に案内された私は、一人になった途端、改めて家族と故郷を失った喪失感がどっと押し寄せてきて、結局一睡も出来なかった。
翌朝、ハカセの部屋を訪れたリリィ。
家族を失った悲しみで目は腫れ、睡眠不足も相まって足取りは重い。
「……それで、決断は出来たかしら」
ハカセの冷徹な問いに、リリィは俯きながらも、絞り出すように答える。
「……戦うとか、抑止とか……そんな大きなことは……ごめんなさい、まだ……よく……分からなくて……」
ハカセが失望の吐息を漏らそうとした瞬間、リリィは顔を上げ、メガイラの横顔を思い出しながら続けた。
「でも……メガイラちゃんと、また明日って……約束、しちゃったから。だから、ここに、居させてください」
それは決意と言うにはあまりにか細い、消えてしまいそうな言葉だったけれど。
ハカセは、苦虫を噛み潰したような顔のまま、少しだけ視線を逸らし小さくため息を漏らした。
「……ここに残ると言う事はつまり戦うと言う事、必要最低限の戦闘訓練は、受けてもらうわよ。」
「……はい。」
──私は結局どうしたいんだろう……まだ本当に、何も分からなくて、でも、ここは、すべてを失った私に残された、唯一の明日で……こんな空虚な私でも、メガイラちゃんとの約束だけは、守る事が出来た。
本当は訓練まで進めようかと思いましたが、流石に家族失った直後は可哀想だよなと思って。
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