第21話 最強の敵
あの後、結局ティシポネはラボに戻らなかった。
ハカセに作戦地点が既に無人であり、
なおかつハウンドによる待ち伏せをされていた事、そしてティシポネの零した言葉を報告した。
「やはり、プロメテウスはこちらの動きを読んでいるという事か……済まなかったわねリリィ
……それで、ナギサの件、だけど……」
ハカセが言おうとした時だった。
「おーす。任務終了したぜハカセー。」
とアリアが指令室に入って来た。
「また貴女は……勝手に」ハカセがため息を零す。
アリアは私の顔を見るなり笑顔になるとまたヘッドロックをかまして、髪をワシャワシャしてきた。最近のアリアのスキンシップはなんか激しい。
私を散々ぐしゃぐしゃにしてからアリアが
「あれ、今日リリィはティシポネと合同任務じゃ無かったか?」ときょとんとしながら言って来た。
任務終了時に1人で何処かへ行ってしまった事を伝えたら
「ちっ!アイツ……多少強いからって調子に乗って……」
と、アリアがティシポネの事を批難しようとした時、ハカセが改めて言いそびれたナギサ…ティシポネの件を話し始めた。
「……アリア……貴女も聞きなさい。彼女は……」
「彼女は……プロメテウスの実験場唯一の生存者よ。
実の家族に売られ、更に逃げた先では
プロメテウスに捕縛され、同じくプロメテウスに捕まっていた他の少女達が最年少の彼女だけを逃がした。
彼女を逃がす過程で少女たちが肉壁になり、一人ずつ解体されていった……そうよ。
その時の記憶から彼女は、自身が弱いから彼女達を助けられなかった。自身が最強になる事で。もう他の、誰の血も流させない……と私に誓った。そんな彼女に私はティシポネを託したのよ。」
ハカセは改めてティシポネ……ナギサさんの生い立ちを説明してくれた。
ナギサさんはもうこれ以上何も失わない為に1人で居るんだと改めて分かった。でも、そんなの……
アリアが、拳を握りしめて黙り込む。
「……アイツ、そんなもん背負って戦ってたのかよ。一人で、全部……」アリアは彼女に捻られた方の腕を掴む。
「ハカセ……ティシポネ……ナギサさんは今、どこにいるんですか? 彼女の『力』は、復讐のためだけにあるんじゃないはずです。」
私達がナギサさんを探しに行きたいと伝えようとした時だった。
ラボ全体にコトネさんの緊急放送が走る。
『ハカセ!!ラボの西側100メートルの地点にハウンド5機の反応を確認!』
「たった5機? ラボを襲うには少なすぎるわ……何が……目的かしら……」ハカセは考え込むように手で口を抑える。
「とにかく私とアリアで出ます!行こうアリア!」
私はラボの目前に現れた敵を早く倒したくて仕方が無かった。
私達の大切な家……ラボだけは絶対に壊させない。
「おう!ぶちかまそうぜ相棒!!」
アリアも 歯を見せて笑い一緒に出現した敵に向かう。
迎撃にアリアと私が出た時だった、
ハウンド達は突然後退していく。
それを私達は追従するが、何か嫌な予感が膨れていく。
まるで私達を何処かへ誘導しているかの様な……
でも、ラボの周囲に敵影は無し。私達とラボの分断が目的でないなら、目的はいったい何なの?
私達はそのままラボから何キロも離れた場所
──私の故郷のあった場所に来ていた。
あの時、プロメテウスに焼き尽くされ時間が止まったそこは、まさにこの世の地獄に来てしまったみたいだった。
そこまで来てハウンド達は急にこちらに振り返り攻撃して来た。私とアリアは左右に分散し回避するとそのまま戦闘に入る。
しかし、攻撃を仕掛けてきたかと思えば、今度はこちらの攻撃を避けるばかりでまるで時間稼ぎをしている様で、決定打を与えられずに居た。
状況が停滞し、それに痺れを切らしたアリアが1人突貫してしまった
「待ってアリア……!?」
──そこに新たな機影が現れる。数は1機。
黒を基調としているそれを見て私とアリアは驚く。
──黒い……メカニカルワルキューレ……?
そこには私達と近しい見た目……だけどハウンドの様に全身を黒く塗りつぶされた、背中に4本の、翼かブースターと思わしきパーツの付いた少女が居た。
そこにノイズ混じりにハカセから通信。
ハカセが驚愕し怒りを露わにしているのが分かった。
『あのデザイン……あれはサイサの…!』
コトネは思わずハカセに聞く。
「ハカセ……その、サイサのデザイン……とは」
ハカセは少し冷静さを取り戻すとコトネの質問に答えた。
「……あれは……色こそ全く異なるけど……サイサの、私の親友が開発したプロトタイプ・メカニカルワルキューレとデザインがあまりにも酷似しているの……くっ!……ダルクっ!!」
それはハカセへのダルクからの宣戦布告で有り、亡きサイサの尊厳を踏みにじる蛮行。
本来のサイサが造ったスーツは白を基調とした、彼女の美学が反映されたデザインだった。それをより醜悪に、邪悪に染め上げたそれは死者への冒涜に他ならなかった。
ハカセは震える右手をぎゅっと握りしめモニターに映る黒いワルキューレを睨みつけていた。
「くそっ!なんだよっ!偽物のワルキューレが来た所で!!」
アリアはハウンドに比べて小型な謎の黒いワルキューレにめがけ、スラスターを吹かせると空中から突進した。
私は5機のハウンド達に阻まれアリアの援護に行けないでいた。
「アリア!!ダメっ!!アリア!!」
私は現れた黒いワルキューレに今まで感じたことの無い底知れない恐怖を抱いていた。
あれは根本的に私達とは違う……そうヴァルキリーの魔力結晶が告げている気がした。
アリアが両腕のクローを同時に繰り出すも、その両腕を掴まれてしまう。互いに睨み合い膠着した……かに見えたが、
黒いワルキューレは背中の4本のスラスターの様な物を"変形"させ、そこに巨大な4本の腕が現れる。アリアは自身の両腕が掴まれた状態で4本の腕による凄まじい連撃を受ける。
「がっ!!」
アリアの身を守るエネルギーフィールドが一瞬で弾けると今まで最強を誇っていた装甲すら、いとも容易く弾き飛ばされた。
遂には血すら吹き出しアリアが今までに見せた事の無いダメージを負った事を視覚的に告げていた。
黒いワルキューレは気を失ったアリアの頭を掴むと、そのまま廃墟に投げ飛ばし廃墟が倒壊する。
「っ!!アリアーーーーー!!」
目の前で吹き飛ばされた大切な家族の姿に、リリィの理性が弾ける。
周囲のハウンド5機を、コンバットメイデンを変形させ、エネルギーを最大出力で放出すると凄まじい斬撃で一瞬にして敵を塵に変えた。
「……一機撃墜。次は………あなた。ヴァルキリー」
黒いワルキューレの真っ黒な瞳がゆっくりと私を捕らえた。
私はそのまま黒いワルキューレめがけコンバットメイデンを真上から振り下ろすも、それは彼女の6本の腕で防がれてしまった。
私は咄嗟に空中で反転するとそのままタックルで相手の体勢を崩し追撃を試みる。
しかし彼女は4本の腕を脚のように使い、まるで蜘蛛の様な不規則な挙動で、瞬時にこちらに反撃して来る。
私はすかさずコンバットメイデンでガードするも、剣が上へ弾かれ、胴体がガラ空きになってしまう。
「……これで……おしまい。ヴァルキリー」
黒いワルキューレの"腕たち"が高速回転しだし、悲鳴にも似たモーター音を鳴らしながらこちらに繰り出される。
視界がスローモーションになる。
(ダメ……!間に合わない!!)
私が回避は不可能だと、"死"を感じた時だった。私と黒いワルキューレの間を紫色のビームが貫く。
黒いワルキューレはそれをノールックで後退して回避する。
私が視線をビームが放たれた方向へ向けると、そこには別任務から帰って来たディアナさんと、ラボから私達を助けに来てくれたメガイラちゃんが居た。
「2人ともっ!!」
私は強力な助っ人に思わず笑みが溢れる。
「リリィ、貴女はアリアを! コイツは私たちが引き受けるわ!」
ディアナさんとメガイラちゃんは同時に遠隔武器を展開し敵の行動を抑制し、更にそこにビームを連続放射する事で、黒いワルキューレに攻撃の隙を与えなかった。
「む……3対1……卑怯。」
黒いワルキューレが反撃では無く回避を選び後退を始めた時、
──それは現れた。
ガシャッガシャッガシャッ……っと重々しい足音。
──現れたそれは、黒いワルキューレと同等か、それ以上の、強力な魔力結晶の反応を示した。
「面白そうな事してるじゃないアスラ……
へぇ………アンタ達がダルクの言ってたメカニカルワルキューレって奴?
……あたしの名前はラクシャシー、アンタ達の……『天敵』さ」
……6本腕と近しいデザインのもう1人の黒いワルキューレ、
自身をラクシャシーと名乗る、金髪ツインテールの少女が現れる。
こちらは無表情の6本腕とは違い、鋭い眼光に、邪悪な笑みを浮かべていた。
口調は軽薄そうなのに、身から放たれる威圧感は6本腕以上だった。
「ラクシャシー、無駄話は……控えて。」
「はぁー、はいはい、分かったよアスラ」
ラクシャシーと名乗る少女はやれやれと言うポーズを取る。
6本腕は……アスラというのか。
1機でもキツイのに2機……その場のメカニカルワルキューレ達に悪寒が走る。
その時ハカセから無線が走る。
『全機アリアを連れて撤退なさい!!その化け物達は今の貴女達では勝てないわ!!』
無線が入ると同時にキュベレさんが操縦するステルス輸送機から無数のミサイルがラクシャシーとアスラに目掛け放たれた。しかし彼女達は避ける事もせず、不気味な笑みを浮かべたまま、その場に立ち尽くしていた。
私達は粉塵が巻き上がったその隙にアリアを回収すると後方を確認しながら撤退を始める。
必死に逃げる私達の姿を見てラクシャシーは嘲笑う様な醜悪な笑みを浮かべ、
アスラは無機質な瞳で攻撃することも無くただじっと私達を見送っていた。
ラクシャシーの嘲笑う様な表情は
お前達なんていつでも簡単に殺せると告げている様だった。
でも……今はただ、腕の中でか細く呼吸をするアリアの事で、頭がいっぱいだった。




