第2話 戸惑い
リリィが目を覚ますとそこは真っ白な病室の様だった。
記憶が混濁している。あれ、私はなんでこんな所にいるんだろう……
ゆっくりと起き上がろうとするも起き上がれない。自身の腕が拘束されているのが分かった。腕だけでは無い。足、首、胴全てが拘束されていた。
もがいてみるがびくともせず、そのうち諦めた。
しばらく天井を眺めていると自動ドアが音を鳴らして開き1人の女性が入って来た。銀色の髪。鮮やかな真紅の瞳。人間離れした美しさの女性に思わず息を飲む。
「お目覚めですかリリィ。」
銀髪の女性はこれまた透き通る様な声で私の名前を呼んだ。
「えと……ここは……私はどうして」
私が言い終えるよりも早く女性は続けた。
「私の名前はキュベレ。貴女の身の世話をハカセより任されました。」
「あっ…ご丁寧に……はかせ?」
「はい。ハカセは私の創造主にして、貴女が装着したパワードスーツ、ヴァルキリーの開発者です。」
そう言いながらキュベレと言う女性は私の拘束を腕以外外してくれた。
「ありがとうございます………あの、腕は……」
リリィはお礼を述べつつ残された拘束具の処遇を聞いた。
「ハカセより腕は拘束したままにしろと命令を承っております。」
「は、はぁ……」
「お食事を取られますか?」
「だ、大丈夫です…」
「排便を済ませますか?」
「大丈夫です!!」
リリィはなんて事言うんだこの人と言う顔でキュベレを見るがキュベレは少し首をかしげるだけだった。
キュベレさんに促され私は病室?から通路に出る。
そこも真っ白で何かの研究施設みたいだった。……なんで私、こんな所に居るんだっけ……
キュベレさんが自動扉の前で止まった。
「ハカセ。被検体リリィをお連れいたしました。」
私がキュベレさんの後に部屋に入るとそこにはまた、とても綺麗な……だけどどこか寂しげな女性がいた。長い金髪の大人の女性。
「改めてリリィ。はじめまして。私は……このラボの総合責任者。皆からは"ハカセ"と呼ばれている。」
「は、博士…」
「確認だが、君は先の件、何処まで覚えている?」
金髪の女性はよく分からない事を聞いてくる
「えっと…あの…」
私が困っているとキュベレさんが
「リリィはどうやら一時的な記憶の混濁にある様子です。」
「……なるほど……ではリリィ。心して聞きなさい。」
「貴女の家族は皆、先の戦闘で死んだ。」
私は思考が停止する
呼吸の仕方を忘れる。立ち方が分からなくなる。
視界にはあの時の記憶。
──黒い焦げ跡
「あぁあああぁあぁあぁあぁあぁぁぁ!!!!!!」
私は膝をついて悲鳴とも怒号ともつかない叫びを上げる。
「…キュベレ」
「はい。ハカセ」
キュベレはハカセの指示でリリィの呼吸を落ち着かせる。
「大丈夫です。ゆっくりと息を吸いゆっくりと吐き出してください。大丈夫です。」
呼吸は確かに落ち着いたが思考はグチャグチャにミキサーされた状態だ。
「更に…君の住んでいた街は、既に無い。」
そう言うと金髪の女性、ハカセはホログラムを展開し現在の私の街を見せた。
─高いビルがあったはずだ ─ショッピングモールが ─学校が ─家が
──そのすべてが白黒の灰になっていた。
「貴女に選択肢は2つしか無いわ。魔力結晶が今までに無いほどの反応を示した少女、リリィ。」
「メカニカルワルキューレとして戦争を止めるための抑止力になるか。此処を出て身売りにでもなるか、野垂れ死ぬか。」
ハカセがさぁ、選びなさい。と言ったタイミングで自動ドアが開き部屋にドカドカと少女が入って来た。
「まーたそんな言い方してんのかハカセー。素直に平和の為に力を貸してって言えば良いのによ。」
リリィが見上げるとそこに居たのは街で機動兵器から救ってくれた少女だった。
「おう、こないだはありがとな!」
目が合うなり少女は爽やかな笑みを浮かべた。
「……アリア。勝手に入って良いと言った覚えは無いわよ」ハカセは眉間にシワを寄せて金髪の少女、アリアを睨む。
「入っちゃダメとも言われて無いんでな!」
「ところでさ、その子の拘束、いい加減解いてやれよ。流石に不愉快だろ。」
先ほどまでにこやかにしていたのにアリアは鋭い眼光を見せた。
「第一よー、色々調べてもリリィには何の異常も見つかんなかったんだろ?良いじゃん、奇跡が起きて助かったでさー」
「……奇跡が起きちゃ、困るのよ」
ハカセは苦虫を噛み潰したような顔で零す。
ハカセはため息をつくとキュベレにリリィの拘束を解くように指示を出した。
「猶予を与えるわ。メカニカルワルキューレとなるか、此処を出て行くか、明日までに決めなさい」
そう言うとハカセは私とアリアを追い出した。
しばらく立ち尽くしていたが、アリアが
「あはっ、追い出されちゃったな!」
と笑顔を浮かべる。
そしてせっかくだから施設を案内するよと様々な場所に私を連れて行った。私は足が重くて歩きたくないのに……
不意にアリアが零す
「ハカセは…ああ見えてさ、めちゃくちゃ優しいんだよ」
俯いていた私が思わずあれが!?と顔を上げる
「ははっ!マジマジ、こないだもさー、私とディアナ……あー、同僚?仲間?がさ、戦場から帰って来た時、明らかに安心したーって顔してんの。……しかもさ、ここであの2択迫られたやつさ、誰も不幸になってないんだぜ?」
そう言うとアリアはこちらに振り返った。
「最初は私も、戦争無くすために戦うとか頭おかしいって思ったんだけどさ。」
そこまで言ってアリアの雰囲気が変わった。
「戦場でリリィみたいなのを助けられるメカニカルワルキューレっての、私は好きなんだ。戦争無くすためとか、抑止力とかじゃなくて、アタシらみたいな戦争孤児を、これ以上増やさないためにも、命を守るためにも、私は戦うって決めたんだ。アンタはどうする。リリィ。」
「……分かんないよ……」
私が俯くとアリアはニカッと笑った
「だよな」
彼女の、アリアの笑顔が私には眩しかった。
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