第124話 エクゾスケレート
リリィがエクゾスケレートの前に立つと全身の装甲が展開し装着可能状態になる。
リリィは振り返るとゆっくりと装甲に身を委ねていく。
自身を優しく包む感覚はやはりメカニカルワルキューレに近い。
相変わらずハカセの丁寧な作業を感じさせてくれる。
全ての装甲が音を鳴らしながら閉じ、自身の身体が固定されたのが分かった。
これまでには無かった頭部の開閉可能なバイザーユニットの存在だけがエクゾスケレートとメカニカルワルキューレとの最大の差異の様に感じられるほど、装着時の違和感が無かった。
───ハカセの優しさが全身で感じられて、この装着シーケンスが実は、ワルキューレ全員好きだったりする。
「本当に……ベル博士はメカニカルワルキューレ……それを纏う彼女達を愛してらっしゃいますのね。」
リーナはそう言いながらクスクスと笑った。
「……何を言ってるのかしら?愛だとかなんだとか、そんな感情は持ち込まない主義なの。」
ハカセは端末を見ながらリーナの発言を軽くあしらう。
「そんな事よりリリィ。装着時の違和感なんかは無い?まぁある筈は無いのだけど。」
ハカセの言葉にリリィも思わず笑ってしまう。
ハカセの不器用すぎる愛は、多分全ワルキューレが感じている。それを悟られていないと思って居るのは、きっとハカセ本人だけだろう。
「はい。最高の着心地ですハカセ!リーナ博士!……ちょっとテストしても良いですか?」
リリィはとにかくハカセ達が話したメカニカルワルキューレの半分程の性能という力を試してみたかった。
バイザーにエクゾスケレートの細かい情報は表現こそされてはいるが、とにかく肌身で感じてみたかったのだ。
実際に感じられる旋回性は?機動力は?防御力は?
戦いに身を置く者としてリリィは知りたい事だらけだった。
「もちろんですわリリィ。そのために貴女をお呼びしたのですもの。」
リーナの返答を受け、リリィはヴァルハラのカタパルトデッキに向かった。
───
カタパルトデッキにリリィが到着するとハカセとリーナの顔がUIに表示された。
『ではリリィ。早速機動試験を開始してちょうだい。
貴女の思った通りに動いてもらって構わないわ。
コトネ、発進指示を』
ハカセの言葉で管制室のコトネが発進シークエンスを行う。
『はい、こちら管制室。
リリィちゃん。テストと言っても病み上がりだからあまり無茶はしないでね?
……エクゾスケレート側へ射出タイミングを譲渡。
リリィちゃん。いつでもいけるよ!』
コトネからの通信にリリィは頷くと前を向く。
「ありがとうございます、でも大丈夫ですよコトネさん。
あくまで試験ですし……
エクゾスケレート・リリィ───出ます!」
カタパルトに脚部を固定しスラスターをいつも通りに吹かせる。
そしてリリィの声に呼応するようにカタパルトは火花を散らしリリィを外へと弾き出す。
リリィの身体は一瞬自由落下を始めるもスラスター出力を上げることで飛行してみせた。
───やはり今までとは明らかに重く感じる。旋回性も、明らかに下がっている……
メカニカルワルキューレに比べて推力が下がっているのに機体重量は増加しているのだから無理も無い。
リリィは身体を捻り空中を縦横無尽に飛行する事でエクゾスケレートの機体としての癖を見極めていく。
『飛行試験としてはまず及第点……ね。
不満は有るでしょうけど、今後も調整していく予定よ。
リリィ、次は武器スロットからエクゾスケレート用の武装を呼び出してちょうだい』
ハカセの声を聞いてリリィは一度地面に着地し武器スロットを展開する。
そこに自身の相棒、コンバットメイデンが無いことに気付いた。
「あれ……コンバットメイデンが……無い?」
リリィの独り言を聞いてハカセはため息混じりに返す。
『……コンバットメイデンは本来、メカニカルワルキューレの強力な性能を持ってして始めて振れる剣……前回の貴女の怪我の根本的原因もそこなのだから、しばらく使用禁止よ』
ハカセの言葉を聞いてリリィは顔を伏せる。
───自分が無茶をしなければハカセ達がエクゾスケレートを開発する必要すら無かったかも知れないのだ。
魔力結晶の破損こそ原因は未だ不明のままだが、少なからず因果関係はあるだろう。
リリィが一人落ち込んでいるとリーナがハカセの横から顔を覗かせた。
『ですからリリィ!私から貴女へ新たな剣を授けますわ!名付けてデルズキー超高周波ブレイド!』
リーナの発言を受けリリィは武器スロットの一番最後に追加されている新たな名前に目を通す。
「デルズキー超高周波ブレイド……とエレクトロ突撃銃?」
リリィは聞き慣れない二つの名前に目を向けつつもひとまず武器スロットからデルズキー超高周波ブレイドを呼び出す。
刀身はナギサやミレイナのサムライソードを連想する様な細身だが、握り手が手を覆う形になっていた。
『その剣は名前の通り超高周波により刀身が超振動します。
AIによる自動制御により物質の硬度を計測、硬度に合わせ周波数を変え……』
リリィはその話を聞きながらブレイドを使って演舞を行う。
振り心地と機体の追尾性もひとまず問題は無い。
そして周囲にある岩に刃を振り抜いた。
───すると岩はまるでバターの様に綺麗な断面を残し滑る様に切れる。
『───高周波で分子を断つ……理論上、この世に切れぬ物質は有りませんわ。』
「凄い……」
リリィは自身の握る刀身を見つめる。
大きな岩だったが刃毀れすら無く、自身の腕に抵抗すら感じなかった。
『………エネルギー消費が激しいビーム兵器は、今のエクゾスケレートには不向きなの。
弱点として魔力結晶由来のエネルギーフィールドは突破出来ないから気を付けなさい。
エレクトロ突撃銃も、あくまで電磁力で限界まで速度を上げた実弾銃よ。』
リリィは次にそのエレクトロ突撃銃を取り出すと他の岩に向けて弾丸を放った。
弾丸は近くの岩を貫通しそのまま岸壁にめり込んでいた。
銃の衝撃が腕に伝わるより前に、それを機械的に軽減したのだろう事が分かった。
威力に対して腕に伝わる振動が少なかったのだ。
───機体の性能こそ明らかにメカニカルワルキューレより下がった……けど、この新しい武器があれば……
「これなら──いける。」
リリィが、そう確信した時だった。
「───それが、新しいお前の力か、リリィ……」
リリィが声の方向に振り返ると、そこにはヴァルハラの周囲を警戒していたナギサが立っていた。
「えっと、エクゾスケレートって言って……って
ナギサさん……?」
リリィは質問に答えようとして直ぐ、
ナギサの鋭い表情から彼女がただ談笑をしに来たわけではないのが分かった。
「お前が再び私達と共に戦えるのか、今ここで示してもらうぞ、リリィ!」
言うが早いか、二振りのサムライソードを構えたナギサがリリィの眼前に迫っていた。




