第119話 微かな光
「という訳ですの、ベル博士」
「いや……という訳ですの。じゃないわよ。」
リーナが突如掲げたリリィのパワードスーツ開発計画。すなわち"エクゾスケレートリリィ計画"を早速ハカセに打診したのだった。
「……リーナ博士の言い分は理解できる。
確かに戦わせるための力では無く、これからの戦いをリリィが生き残る為の力が必要というのは私も賛同するわ。」
ハカセはリーナが短時間で纏めたエクゾスケレートリリィについての資料を確認しながら考え込んでしまう。
ハカセとしてはそもそもメカニカルワルキューレとして戦えないのであれば戦場に出て欲しくないというのが本当の所だった。
しかし───先の戦闘の様に装備もままならない状況で戦場に出られてしまったらそれこそ事だ。
「……リリィ、貴女はどうなの?
……リーナ博士の提示した新たな力を、貴女自身は欲するの?」
ハカセの問いにリリィは一度下を向く。
この確認は、おそらくハカセなりの歩み寄りなんだと思う。
ハカセは口ではこう言っているが、リリィ用の新たなパワードスーツの共同開発に対し、思いの外前のめりなのは長年共に過ごしてきたリリィには一目瞭然だった。
それでも尚リリィに最後の判断を仰いでくれていた。
───きっとオペレーターのコトネや他の整備班の仲間達の様に、裏でサポートをする事でアリアや他のワルキューレ達を支える戦い方もきっとある……
それは分かっている、ちゃんと分かっているが……
「はい。……私はやっぱり、根っからのメカニカルワルキューレだったみたいです。
アリア達と一緒に同じ場所で守る為、助ける為に戦いたい……そう、思ってます。」
リリィは真っ直ぐハカセを見つめるとそう宣言してみせた。
そのリリィの言葉を受け取ったハカセは一瞬目を伏せるとリリィの方に向き直った。
「……リリィ、分かったわ。
貴女を再び空に上げてみせる。少しだけ時間をちょうだい。」
「───それと、リリィは嫌がるでしょうけれど、エクゾスケレートのエネルギー機関はネガ・メガミドライヴを使用する事になりますわ。
相手がネガ・メガミドライヴ搭載機な以上、通常のエネルギー機関で対抗は不可能ですもの。」
リーナの発言を受けリリィの顔が強張る。
先の巨大兵器との戦闘では考えたり躊躇している暇が無かったからアトラスのパワードスーツを装着したが、やはりネガ・メガミドライヴを使うとなると躊躇してしまう。
「───それなら一つ、パワードスーツのエネルギー機関に関しては私に考えがあるわ」
ハカセが片手を小さく上げたのをリーナは目を輝かせながら見た。
ハカセは端末に高速でタイピングしていくとリリィが先ほどハカセに託したデバイスのデータを表示してくれた。
「えっ……これ……私のデバイス……?」
リリィは小さく声を零す。
ハカセは魔力結晶が破損してしまったデバイスのデータを表示してどうしたのだろうか。
リリィが首を傾げると隣のリーナは映されたデータからある情報を読み取った。
「リリィの魔力結晶は……死んではいない……?」
リーナの発言にリリィは思わず彼女の方を振り向く。
「死んでないって……本当ですかリーナ博士!?」
リリィの問いにハカセが答える。
「……えぇ。貴女の、ヴァルキリーの魔力結晶は微量ながらもエネルギーを放出し続けているの。これは言わば……」
「仮死状態……いいえ、これはまるで休眠状態……でも……まさか……」
リーナも顎に手を当て思考の中に潜ってしまう。
魔力結晶が自身を自らの"意思"で眠らせるという状態を今まで一度も観測した事が無かったのだ。
「……ベル博士。まさか、この微弱なエネルギーでパワードスーツを動かすおつもりですか?
たしかにこのエネルギー量であれば一般のパワードスーツを動かす事は容易でしょう……
けれど私が作りたいのはあくまでリリィの新たな翼……この不安定な魔力結晶をコアとするのはあまりにも……いいえ、何か考えがお有りなのですわね?」
リリィは二人の会話がよく分からない方向に向いてきたためハカセが表示したデータとにらめっこし始める。
「そう。これはメカニカルワルキューレの……次世代機開発段階で構想として存在していた機構なのだけど……
他の……例えば今までの戦いで砕けた魔力結晶を各装備に散りばめて配置。
そしてヴァルキリーの魔力結晶を制御核にして
各所魔力結晶の破片には蓄電池の役割を果たしてもらう……これが私が今考えた最善策よ。」
ハカセの最善策という言葉には可能性はこれしか無いという思いも含まれていた。
「なるほど……単一核でなく分散型……という訳ですわね。
……ただ一度死んだ他の魔力結晶が異なる魔力結晶の意思を受信するかが課題……ですわね
でも……流石ですわベル博士。
ふふっ……ごめんなさい、こんな時なのに私、楽しくなってきましたわ」
リーナもハカセの考えに可能性を見たのだろう。科学者として武者震いを覚えたとも言えた。
「……つまり、私……また戦えるって事ですか?」
リリィは二人の博士に問いかける。
別にリリィが戦闘狂だからでは無い。
一人でも多くの人の笑顔を守りたいから刃を取ると、誰かに誓った。
その誓いを受け入れてくれた"誰か"との約束を果たすための力が欲しかったのだ。
「……リリィ。えぇ改めて約束するわ、貴女をもう一度、あの空へ戻すと。」
ハカセの瞳には確かな、強い意思が宿っていた。
「……ベル博士。設計図の書き換え、ご協力お願いしますわ!
リリィの人並み外れた反射速度に合わせた"神経伝達バイパス"、私が一晩で組み上げてみせますわよ!」
「……ありがとう、二人とも。
……ヴァルキリー。もう一度、力を貸してちょうだい。」
ハカセの言葉に合わせたかの様に
ヴァルキリーの魔力結晶は微かな光を明滅させた気がした。




