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メカニカルワルキューレ ─未来を取り戻す物語─  作者: ハムスターマン
第三章 ティターニア編
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第117話 目覚めの代償


リリィが目覚めた。


それは本当に喜ばしい事だ。


しかし───博士達はリリィの異常な回復に理解が追いついていなかった。


ハカセが保護フィルターを外した後、アリア達が見舞いに来た。


アリア達にはリリィが危険な状態だと言う事を伝え、誰も触れないようにしていた。


そして皆が見ている目の前でその現象は起きた。


───光輝いていた魔力結晶は突然その光を失い──ピシッ、と乾いた音を鳴らしてヒビが入る。



それと同時にリリィが目を覚ましたのだ。



これはもはや科学では解明出来ない領域の事象なのではないか……と二人の博士は思考の海に彷徨う。


「リリィ……もう大丈夫なのか?」

アリアは目覚めた相棒に震える手を伸ばす。


「うん……心配かけちゃったんだよね……ごめんアリア。あと、ローレンツさんも」

リリィはアリアを迎えいれると彼女をあやしながら後ろで佇んでいたローレンツにも声をかけた。


ここはヴァルハラだろう。そこにローレンツが居るという事は少なくとも彼にも心配をかけた事は理解できた。


「……ローレンツで構わない。さっきの戦闘の時、ローレンツって呼んでただろ?」


ローレンツの言葉を受け、自身が無意識にローレンツの事を呼び捨てにしていた事に今更気付いた。


「ありがとう……ローレンツ」


リリィとローレンツが笑い合う。


アリアはそんな二人の顔をキョロキョロと交互に見る。

「むっ……お前にはリリィは渡さんからな!!」

アリアはリリィを抱くとローレンツを睨んだ。


「……別に要らん。」

ローレンツはそうため息混じりに零すも表情は柔らかなものだった。


そんな二人の会話をリリィは笑顔で見つめていたが、不意に自身のデバイスに目をやる。


真っ暗な画面には何も映されていない。


デバイスは魔力結晶の膨大なエネルギーによってエネルギー切れを起こさない設計のはずだった


リリィが不安気にデバイスを眺めているとハカセが声をかけてきた。


「リリィ、貴女のデバイス……少し調べさせてちょうだい。」


ハカセのその言葉を受けリリィはデバイスを託すも、デバイスを手放したリリィの指先は本人が気付けぬほど微かに震えていた。



リリィにもハカセにもデバイスに何が起きたのか、何となく理解できていた。



原因こそ未だ分からないが、光を失った魔力結晶を見ればそれは一目瞭然だった。



───コアユニットである魔力結晶の破損。



それはリリィがメカニカルワルキューレになる事が出来なくなった事を表していた。


これまでの適合率の低下だけなら復帰の可能性は十分にあった。


しかし物理的に破損したとなれば話は別だ。



魔力結晶の材質は鉱物に限りなく近い。


そして一度砕けた鉱石が再生する事は無い。


───すなわち、物理的に破損した場合の修復は現時点では不可能に等しかった。


「私……もうメカニカルワルキューレには……なれないのかな」


リリィの零した言葉にアリアの肩がピクリと震える。

ハカセもまた、思わず目を伏せる。



『おやおやぁ、リリィさん……愛されてるんですねぇ〜』


その空気を遮ったのはローレンツの妹……ネガ・メガミドライヴのロゼッタだった。


「えっと……誰に?」

リリィはローレンツの肩に乗ったロゼッタに返す。

 

『うーん。なんて言うんでしょうねぇ……私、魔力結晶と直接繋がっているので、ある程度彼女達の"声"?が聞こえるんですねー。』


そう言うとロゼッタはローレンツの肩から飛び降りアリアの頭に飛び乗った。


「んにゃ!?」

アリアは突然の衝撃にリリィの胸に顔を埋める。


リリィの顔の目の前でロゼッタの電子音が発せられた。


『貴女を守ったんですよ。彼女。』


そう言うとロゼッタに存在するモニター部分に笑顔のマークが浮かび上がる。


『そのデバイス。大切にしてあげてくださいね。』


それだけ言うとロゼッタは床に飛び降り、突然攻撃されたアリアは彼女を追いかけ回す。


思いの外俊敏なロゼッタにアリアは翻弄されながらも部屋を出ていった。


ローレンツとナギサも存外元気そうなリリィの姿を見て安心したのだろう、胸を撫で下ろして去っていった。


───部屋を後にしたその誰もが、リリィの発した言葉には顔を伏せたまま。



「魔力結晶が……守ってくれた……?」

リリィがロゼッタの言葉を復唱した時、突然視界が霞む。




───そしてノイズの向こう側



後光により顔こそよく見えなかったが……


たしかに少女の笑顔が見えた。




「っ…!!」

リリィは突然痛んだ胸を押さえるとハカセが手にしたデバイスを凝視する。


「ハカセっ……!!」


痛んだ胸を押さえながら

咄嗟にハカセを呼びとめる。



「っ───その"娘"を……お願いします……ハカセ……その娘は……っ」


リリィ自身、何故……娘と定義したのかは分からなかった。自分の言葉の後に何を言いたかったのか、それすらリリィは理解出来なかった。


───しかし魔力結晶を個人として定義したリリィを見てハカセはリリィが魔力結晶と何かしらのコンタクトを取った事を悟る。


「……安心なさい……あくまで解析するだけだから。


───貴女が貴女のままで良かったわ……リリィ」



そう言って部屋を去っていくハカセの後ろ姿を、リリィはじっと見つめていた。





そして部屋にはリリィとリーナの二人だけが残された。



「リリィ……よろしいかしら?」


突然声をかけられた事でリリィは少し驚きながらもリーナの方を向く。


するとリーナはゆっくりと車椅子でベッドに近づくとそのままリリィの手を取った。


「まずはおかえりなさい……で良いのかしら……リリィ、貴女には科学を志す者として聞きたい事が沢山あるのですが……」


リーナは一呼吸置くと更に続ける


「まだ……出会って間もない私達ですが、貴女の性格は理解したつもりでしてよ。


───たとえメカニカルワルキューレになれないとしても、貴女は戦場に出ようとする……違いますか?」


リーナにそう問いかけられ、リリィは一度下を向く。


「……はい。たとえ、メカニカルワルキューレじゃ無くなったとしても、私は戦います。そう……決めたんです。」


リリィが放った言葉にリーナはそっと目を閉じ、ため息混じりに零す。


「そうですわよね……貴女の様な目を、私は散々見てきました。


怪我を負いながらも戦地に赴いた兵士……

敗れると理解しながらも武器を取った者……


形は違えど確かな覚悟を宿した目……


今の貴女の目は、そんな彼らを想起させますもの……


でも───」


そこまで言ってリーナは目を開きリリィの目をじっと見つめる。


「私も科学者である前に人の子。


貴女をむざむざ死地に見送るような感性は持ち合わせてはおりませんわ。」


───やはり……止められるかとリリィは顔を伏せる。


今の自分にはその覚悟を示す為の力が無いのだ。

止められても無理ないだろう。


しかし───


「……ふふっ。話は最期まで聞くものでしてよ?


私が……貴女を死なせないための力を造る……と言っているのです。


───もちろんベル博士にも全面的に強力を仰ぎますわ。私だけの力では難しいでしょうから」




「えっ……?」



「で・す・か・ら!

貴女専用のパワードスーツを造る……と言っているのです。リリィ。」


リーナはリリィの手をギュッと握る

そして顔を近づけると高らかに宣言した。



「名付けて、エクゾスケレート・リリィ計画!ですわ!」


そう言ったリーナの顔は興奮半分、自信に満ちあふれた表情を浮かべていた。



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