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メカニカルワルキューレ ─未来を取り戻す物語─  作者: ハムスターマン
第三章 ティターニア編
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第115話 愛という名の枷


漆黒の暗闇の中、リリィの刃とヴァルキリーの刃が激しくぶつかり合う。


リリィはこれまでのどの敵にも感じた事のない早く重く鋭いヴァルキリーの剣戟に思わず顔を顰める。


そして何より、ヴァルキリーと向き合えば向き合うほど視界にノイズが入ってくる。


まるで何かがこの戦いを拒んでいるかのようにリリィの出力が不安定になる。


それを振り切る様に無理矢理スラスターを最大出力にして距離を取ろうとするが、ヴァルキリーは脚部に謎の光の円を描くとそのままリリィを追走してくる。


迫るヴァルキリーの目を眩ませるため、咄嗟にビームガンを放つがヴァルキリーは掌に謎の文字の刻まれた光の円を展開し、それが盾の役割を果たしているのか、速度を落とす事なくリリィに刃を放ってくる。


「リリィ!先ほど我に示すと言ったお前の意思はこの程度か!」



ヴァルキリーの問いにリリィは何も返す言葉が出てこない。



それは何よりリリィ自身が迷っているから。



───無我夢中でただ戦場を駆け抜け"敵"を倒す。


ヴァルキリーは戦士である以上、そこに迷いも慈悲も要らないと言っている。



……きっと、それは正しいんだと思う。


「っ……!」

纏まらない思考の中、二人の剣戟はただ激しさだけが増していく。


ヴァルキリーが空中から放つ光の玉を切りはらいながらビームガンで相殺する。




───ヴァルキリーは何も、ただ闇雲に破壊しろとは言っていない。


悪が有るのならただ切れ……と、至極真っ当な事を言っているのだ。



でも……そこには


守れなかった誰かの顔も、

名前すら知らないまま消えていった命の重さも───被害者の思いも欠けている……そんな気がしていた。



───



「私が……原因……?」


ハカセはリーナの方をじっと見つめる。


これまで考えもしていなかった唐突すぎるリーナの発言にハカセは困惑の色を隠せない。


「原因……と言うと言葉が強いかも知れませんわね。」

リーナはそう言うとデバイスをハカセに向ける。


──そこにはハカセがメカニカルワルキューレ達を守る為にメガミドライヴに備え付けた機構、魔力結晶の精神干渉を封じ込める為の保護フィルターが表示されていた。


「これが……なんだと言うの?」


───保護フィルターそれは


親友……サイサの心を蝕み彼女というハカセにとって唯一無二の存在を歪めた魔力結晶の最大の欠陥から少女達を守る為にハカセが一番最初に付けた機構……


それでも尚、魔力結晶の精神干渉を完全には除去出来ていないのが現状。


それが……今回の適合率低下の原因だと……?


ハカセはリーナの発言が理解出来ないでいた。


「……私は、ベル博士が言う魔力結晶の精神干渉を"魔力結晶との対話"と捉えています。」

そう言うとリーナは目を閉じる。


「ベル博士。貴女のそれは正しくは保護では無く……拒絶です」



その言葉にハカセは思わず声を荒げる。

「……何も知らない貴女がっ…!あの干渉の恐ろしさを貴女は知らないっ!あれのせいで私はっ…!サイサはっ!!」


ハカセの声が震える。


「ごめんなさい……ダルクが貴女から盗んだ資料で、貴女達に何があったのかはある程度……理解しています。


けれど──貴女が魔力結晶の"声"を受け、どの様に苦しみ藻掻いてきたのかは、部外者の私には分かりません……


しかしこれだけは───あれは……言わば内に眠る自分との対話……けして干渉等というものではございませんわ。


ベル博士。貴女が資料に記した様に、魔力結晶には確かな意思と個々の性質があります。


そしてその意思と性質にもっとも近い少女が適合者として選ばれる……


ベル博士達が魔力結晶の精神干渉と定義した現象は、


少女が己の内に眠っていたもう一つの感情と向き合う事象ですわ。」


リーナは言葉を選びながらも自身の見解を述べる。


「……違う……」


ハカセは小さく呟く。

「あれは……あれは、そんな優しいものじゃ……」


ハカセは思わず椅子に崩れるように座ってしまう。

思う様に足に力が入らない。


リーナの話す言葉……それがサイサの残した記述と一致してしまっていることが何よりも理解を拒んでいた。


サイサの残した資料……その中にも確かに記されていた。


『自分の内にこんな感情が眠っていたなんて自分自身を信じられない……』と


では、サイサが全世界を巻き込んだ大規模テロという危険な思想に陥ったのも



自分を───殺そうとしたのも……彼女自身の意思と認める事になる。


そしてサイサを殺す事が最適解だと信じ、彼女を自分の腕で殺めた事も、自分自身の意思だった……と


思わず胃の内容物がこみ上げてくる。

吐き出す事こそ無かったが、とにかく気分が悪い。


───科学者としての自分がリーナの見解を真実として認めようとしているのを必死に押さえつけていた。



「……ベル博士。過去をどう解釈するかは貴女の自由です。


けれど───今リリィさんが戦っているのは、貴女の過去ではなく『彼女の未来』ですわ」


リーナのあまりに鋭い言葉にハカセは思わず苦笑いを浮かべてしまう。

「貴女……容赦ないわね……」


ハカセの言葉を受け、リーナは笑みを浮かべる。

「ふふっ……"あの人"にも、よく言われましたわ。『君はだれよりも人の心を逆なでするのが上手だ』……と」


ハカセは震えの止まらない自身の手を見つめる。


親友を貫いてから震えが止まらなくなった右手……


───もしかしたら


この震えは───真実と、自分が犯した過ちと向き合えと、内なる自分が語りかけ続けてきたのかも知れない。



ハカセは目を瞑り一度深く呼吸が整える。


「しかし───保護フィルターが彼女達を守って来たのは紛れもない事実だわ。」

ハカセは普段の落ち着きを取り戻すとリーナに向き合う。


「確かに、それ自体は否定しませんわ。

魔力結晶との対話は言わば自己の拡張であり更新。受け入れられず精神にダメージを負う可能性は確かにあります。


───けれど、先ほどベル博士が聞きたがっていたラクシャシーとアスラの高出力化の実現には魔力結晶との対話が不可欠でした。


ベル博士自身も、サイサさんと貴女とでメガミドライヴの出力に明らかな差があったと資料に記されていた様に、サイサさんは魔力結晶の声を受け入れ、貴女は拒絶した。


──その差が、出力差として現れたのですわ」


ハカセの中で全てのピースが繋がっていく。


これまで感じた矛盾や疑問が崩れていく。


───何故魔力結晶の干渉を避るため心を育まないように調整したメガイラのメガミドライヴが低出力だったのか。


何故心を持たなかったキュベレに魔力結晶が適合しなかったのか。


それら全ての答えが導き出される。


「彼女達を守る為に私が造った機構が、彼女達の可能性を……閉じていた……?」


ハカセがそう零した時だった。


それまで反応が無かったリリィの脳波が激しく乱れ始める。


そして同じく、リリィに適合した魔力結晶─

ヴァルキリーも同じ様に反応を示す。


互いが互いを求め合う様に激しいパルスを発信し続けていた。


「貴女……魔力結晶と対話をしようとしているの……?リリィ……」


ハカセは今も瞼を閉ざしたリリィに問いかける。


質問にリリィからの返答が無いことは分かっている。


けれど、もしリリィが自らの意思で魔力結晶との対話を試みているのだとしたら……


ハカセはリーナの方を一瞥する。


リーナは無言で頷いてくる。


───もしかしたら、リリィもサイサの様に精神に異常をきたすかも知れない。


干渉……対話の結果これまでのリリィでは無くなってしまうかも知れない。




けれど……これまで、自分達ですら果たせなかった精神干渉を一度は祓い除け、どんな困難をも乗り越えてきたリリィなら……


ハカセはリリィの方を振り返る。


震える手で、これまで一度も外すことの無かった"それ"に手を伸ばす。



端末に伸ばされた手は今もなお震えている



しかし───



ハカセはリリィの可能性に全てをかけ



リリィにかけた枷を自らの手で外した。

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