第113話 魔力結晶と性質と
ハカセとリーナは手術では無く、工学科学的アプローチによってリリィの治療を行う事にした。
正確にはした……のではなく、そうせざるおえなかった。
今リリィの身体は崩壊していない事が奇跡の様な有様だった。
今の彼女には手術に耐えられる体力も、自己治癒も望めないだろう。
故に科学者の二人は決断した。
リリィの体内に微小なナノマシンを投与し、それにより彼女の体力を奪うこと無く、更に回復力を飛躍的に向上させると言うものだ。
───リリィの脳は奇跡か、傷付いた様子が無い。
彼女を救う道は、これしか無かった。
「待っていなさいリリィ……貴女を死なせたりなんか……させないから。」
ハカセはリリィの頬を優しく撫でた。
───
「ヴァルキリー……?え、えっと……」
リリィは目の前の少女の言葉にただただ困惑していた。
彼女は自身を魔力結晶だと言っていた。
───メガミだ、とも……
「……困惑は理解出来る。だが、事実だ。
我が名はヴァルキリー。悠久の過去……確かに存在した、人々を導く者……それが我らメガミ。」
彼女……ヴァルキリーの言葉が耳を刺す。
「お前達、メカニカルワルキューレ……もとい、ベルは……そんな我らの残滓を、
科学という……人々が紡いだ技術により動力の源として使っているのだな。
───それ自体は、構わない。
我らは既に滅んだ身、その亡骸をどう使おうと、それは今を生きる人の自由だ。」
そこまで言うとヴァルキリーは目を瞑った。
「しかし───リリィ。
お前は……我を……正義を否定し、正しさを拒絶した」
ヴァルキリーの言葉にリリィは首を傾げる。
「正義の否定……?拒絶……?」
───全く身に覚えがない。
それが魔力結晶……彼女との適合率の低下と何か関係があるのだろうか。
「我は、リリィ……お前に力を与えた。
一方的な理不尽を覆し、悪を正義の元に断罪する力。
我が剣は、秩序の上にあるものだ。
───お前なら分かってくれる、そう……考えたのだが」
そこまでヴァルキリーが言った事で、リリィはようやく理解できた。
ヴァルキリーの言った拒絶……それはネガ・メガミドライヴにされた少女達を倒す事に正しさを見出せなくなった事。
そして、破壊する事を救済だと考える事を否定した事だ……と。
「ごめんなさい……私は別に貴女を否定しようとは……」
「───謝る必要はない。だが、剣を振るう者に迷いは許されぬ。
秩序なき救済など、有りはしない。」
ヴァルキリーは更に続けようとする。
「でも……」
それをリリィは遮る。
「……でも、あの子達を“壊すこと”が、正しいなんて……もう、どうしても思えなかったんです」
そう言うとリリィは自身の両手を見つめる。
白い肌……しかし血塗られた腕。
沢山の命を奪ってきた。
それを正しいなんて……思っちゃ駄目だ。
「……貴女の言う正義も正しさも、私は要らないんです。私が欲しいのは、これ以上誰も傷付かない世界……その為に、私は……戦います。」
そこまで言うとリリィは視線を上げ、ヴァルキリーを見据える。
「……そうか、ならばリリィ。
お前は示さねばならない。
我を否定し正義を拒絶してもなお力を欲する強欲。
───それを貫ける力を。」
そこまで言うとヴァルキリーはどこからか剣を取り出し、リリィに剣先を向ける。
姿も、気が付いたら西洋の鎧を思わせる物になり、彼女の背中からは翼が生えていた。
リリィは一瞬たじろぐ。
……今の自分にはその力が無い。
メカニカルワルキューレになる為のデバイスだってこの空間には……
しかし───自身の手のなかには、確かにハカセが開発したデバイスが握られていた。
「えっ……ハカセ……」
リリィは握ったデバイスを見つめると、それを前に掲げた。
───これはきっと夢だろう。
ヴァルキリーと言う存在も、もしかしたら自分自身が生み出した幻想かも知れない。
けど、それでも……
目の前の彼女に自分自身の在り方を示す。
それだけは全力で行うと決意した。
リリィは機械仕掛けの鎧───"メカニカルワルキューレ01ヴァルキリー"を身に纏うと
自身の相棒コンバットメイデンを握りしめ、ヴァルキリーへと跳躍した。




