第109話 白き剣
巨大兵器は未だダメージと呼べるものは無く、その巨体から繰り出される攻撃は確実にアトラスの施設を破壊していった。
その惨状を目の当たりにして今まで戦争の悲惨さを俯瞰した視線で見つめてきたトニオはただただその地獄を目に焼き付けていた。
その姿を見たダルケンはトニオの背後から話しかける。
「……ここの光景はまだ良いほうさ。なにせ女子供が居ないからな。ここに居るのは戦って死んでいく事を決めた奴らだけだ。
……お前さん、こういうのを直接見るのは初めてか?」
国連事務総長であるソーマの護衛の為、最前線から下がった位置のここはまだ被害は少ない。それでも視界に広がるこの光景がまだ良い方だとはトニオは思えなかった。
──ある者は傷付いた仲間を引きずっている。
またある者は、今まさに欠損した箇所を庇いながらも届くはずのない攻撃を続けている。
息のある者は戦い続け、死んだ者は朽ち果てるのを待つ。
これがティターニア……国連に身を置きながら戦争を操る男、ガドルの成す事。
トニオはヴァルハラでコトネの放った言葉を思い出していた。
『どんなに苦しくても、戦わなきゃ守れないものも、確かに有るから……
これ以上、私達の様な存在を生まないためにも……私達は戦い続けます』
彼女の放ったその言葉の意味を、トニオはようやく理解できた気がした。
……こんな地獄はこの世にあっちゃいけない。産ませちゃ…駄目だ。
誰にも、こんな事をする資格は無いはずだ。
誰でもいい、どんな組織でも、個人でもいい。
こんな地獄を終わらせる力が有るなら、天使でも、悪魔でもいい。
どうか……終わらせてくれ。
「いくぜ!リリィ!」
「うん!かまそうアリア!」
パワードスーツのリリィを掴むアリアという
傍から見れば珍妙な存在の出現にフィレアは吹き出した。
「なんなのよそれ!馬鹿すぎっ!!」
フィレアは笑いつつもアリアとリリィが何か成そうとしていることは理解した。
この二人がこんな事をしているのだ。
きっと何かがある。そう直感した。
「ノア姉!アリアさん達のライブを飾るわよ!」
フィレアは自身の姉に合図を送る。
既に分かっていたと言わんばかりにノアもフィレアの動きに合わせ全装備を展開する。
「ライブを飾るかは分からないけど……突破口を開く……!」
アリアとリリィに並走する形でフィレアとノアが二人に振りかかる弾幕を弾いていく。
そして更にその周りをルキアとディアナが射撃武装で道を切り開く。
誰かが指示を出した訳では無い。
ただ、仲間を信じ自身の成すべき事をする。
それこそが……
「メカニカルワルキューレ全機、あの巨大兵器を破壊するわよ!」
ディアナの号令に皆が返事をした。
「ローレンツ!アトラスの人に指示を!
ミレイナちゃん……オレンジのワルキューレが攻撃を出来るように、彼女の周りをパワードスーツで守って!」
リリィの呼びかけを受けローレンツは困惑気味に返す。
『いったい何を…!』
ローレンツの問いにアリアが横槍を入れる。
「……終わらせんのさ!!アタシ達皆で!!」
ローレンツはその言葉を受け、顔も見たことも無いアリアの、あまりにも自信満々な言葉に、思わず口角が上がる。
『了解した。
オレンジの……あのワルキューレを守ればいいんだな?
こちらローレンツ。アトラス各機、地上のオレンジのワルキューレの援護を行え!活路が見えてきたぞ!』
ローレンツがそういうとミレイナの周りにアトラスのパワードスーツが集まり彼女に振り注いでいた弾幕をアサルトライフルで撃ち落としていく。
「ミレイナちゃんは一閃を放てるように待機。
レールガンが放たれる瞬間に砲台を切って!」
リリィの通信にミレイナが返事をするよりも早くソフィアが応える。
『リリィさん、私もミレイナと同時に攻撃します。エネルギーフィールドを突破しやすくする為、火力は少しでも高いほうが良い。』
「ありがとう!お願いソフィア!」
「……という訳で貴女の技と私のシステム……同時に放つわよミレイナ。」
ソフィアはミレイナの隣に立つとリミット・ゼロを発動させる。
アクアマリンの輝きがソフィアの装甲を包む。
「もちろんです!アトラスの皆さんも護衛ありがとうございます!」
それを受け、ミレイナも腰の剣に手を当てると一呼吸置き、姿勢を低くしてエネルギーを脚部に集中させていき、やがてオレンジの光がミレイナの装甲を包む。
そんな二人の温かな輝きを見て、周りのアトラスのパワードスーツ達は機能の理屈や、メカニカルワルキューレ内の作戦内容こそ深く理解出来なかったが
───何かが起こる……理屈を超えた確信を得て引き金に掛ける力を強めた。
───
連携の取り始めたメカニカルワルキューレを一撃で葬らんと巨大兵器はその大顎を開く。
───レールガンが来る。
「それを……待っていましたよ!」
ミレイナは叫ぶと同時に脚部に集中していたエネルギーを解放する。
ソフィアも呼吸を合わせ同時に上空に飛び立つ。
───目標はレールガン主砲
異なる二つの稲妻は砲弾が放たれる刹那……
───主砲を貫いてみせた。
アトラスを幾度となく苦しめてきた巨大兵器……
あまりにも強大な敵に一矢報いたという
ワルキューレ達が成し遂げた偉業に歓声があがるが
「まだだっ!このままど真ん中をぶち抜くぜリリィ!」
アリアはスラスターを吹かせ今まさにエネルギーフィールドを再展開しようとしている巨大兵器に向かう。
しかしエネルギーフィールドの展開が予想より早く間に合わない。
「くっ…!」
リリィは眉を顰める。
アリア単機なら間に合っただろう。
しかし今はリリィを抱えた状態だ。
───駄目だ……間に合わ……
リリィもアリアもあきらめようとした時──
「まだです!全エネルギーバインダー最大出力!」
メガイラは叫ぶと同時に今まさに閉じようとしているエネルギーフィールドに自身の四機のエネルギーバインダーを無理やり食い込ませフィールドを中和。
巨大兵器のエネルギーフィールドに風穴を作ってみせた。
「リリィ!!」
───主砲は潰した。
フィールドには風穴が開いた。
あとは、赤き翼に運ばれた白き剣が、その"ど真ん中"を貫くだけ……。
「行っけー!!!」
アリアはそのままリリィを投げ飛ばす。
速度の乗ったリリィのパワードスーツはまるで弾丸のように真っ直ぐ進んでいく。
───しかし、まだ足りない。
リリィはコンバットメイデン内に貯蔵しているエネルギーを解放しコンバットメイデンのスラスターを全開にする。
パワードスーツの出力など関係ない。
コンバットメイデンに宿るエネルギーが、リリィをさらに加速させる。
「はぁぁぁあああああああああああ!!」
リリィは叫ぶ。
リリィの刃が、巨大兵器に到達する刹那───
───脳裏にネガ・メガミドライヴにされた十人の名もなき少女達がよぎる。
───また……結局は彼女達を殺すしか、自分には兵器を止める術がない。
もう──自分に正義や正しさがあるとは思えない。
───それでも……
兵器に改造され、ずっと苦しめられてきた彼女達に、これ以上誰かを傷付けさせたくない。
そう願い……自分はメカニカルワルキューレになり……この手に武器を取ったのだと、リリィは思い出した。
限界まで加速したリリィは
───そのまま十基のネガ・メガミドライヴごと巨大兵器を貫いた。




