第106話 力とは
リリィに車椅子を託されたハカセはリリィの名を叫ぶも、リリィが走った先の光景を見て察する。
「全く……あの子は……っ」
ハカセはリリィの行動に眉間に皺を寄せため息を零す。
「ふふっ……命令違反ですわね。ベル博士」
リーナは目の前で戦闘が繰り広げられている危機的状況だというのにクスクスと笑う。
「な、何をっ……!?リリィ!!」
その場においてローレンツだけが、指示を無視して危険地帯へ戻ったリリィに困惑していた。
ローレンツはハカセ達を庇いながらアサルトライフルでリリィに振り注ぐ瓦礫を撃ち落としていく。
「ありがとう!ローレンツさん!」
リリィはそう言いながら瓦礫の前に立ち止まると撤去を始める。
ローレンツは舌打ちしながらもようやくリリィが成そうとしていることを察した。
───人命救助
……確かにリリィの行動は、ここが戦場で無ければ美しく誇るべき行動だろう。
しかし、その無責任な行動で他者に危険が及ぶこの状況、とてもじゃないが、ローレンツは容認しかねた。
「リリィ…!生身で瓦礫撤去は無理だ!!
隣に有るパワードスーツを使うんだ!」
───ローレンツは自分の口から出た言葉を理解出来なかった。
危険な行動だ。危ない発想だ。自分は大丈夫なんて考えのやつほどすぐ死ぬのが戦場だ。
だけど
自分の命なんてかなぐり捨てて他者を助けようとするリリィが……とにかく眩しく見えたのだ。
リリィがローレンツの声を聞き視線を動かすと、自身の直ぐ近くにアトラスが調整したであろうパワードスーツが鎮座していた。
背部にはネガ・メガミドライヴが独特の光を放っているのが見える。
リリィは躊躇した。
確かにこれを使えば瓦礫の撤去は容易だろう。
しかし、リリィはネガ・メガミドライヴの製造方法を知っている。
その過程でどんな非人道的行いが成されているのかを……
その時、瓦礫の下からうめき声が聞こえた。
リリィはハッとすると、パワードスーツの前に立ち……一瞬の躊躇の後、スーツを着込んだ。
サイズが合わなかった為、頭部バイザーこそ装着出来なかったが、パワードスーツのヘッドギアからリリィの網膜に機体性能等が投影されていく。
出力値を見た瞬間、リリィは眉をひそめた。
メカニカルワルキューレの……四分の一以下。
……ハッキリいってこんなものでティターニアと戦ってきたアトラスに対し困惑が隠せない。
そして何よりも、彼らがくぐり抜けてきた死線が思い起こされ、胸を締め付ける。
リリィは兵士の上に覆いかぶさる瓦礫を掴むと、そのまま慣性を乗せ、後方へと投げ飛ばし自身らに迫りくるミサイルを撃ち落としてみせた。
爆発と共に彼女の翡翠の髪がなびく。
───光に照らされた彼女の表情は見えない。
───ネガ・メガミドライヴを使う事を認めた訳では無い。
しかしリリィは振り返り瓦礫の下にいた兵士の手を握る
「良かった……生きてた……」
リリィは跪き、まだ息のある兵士の手を自身の頬に当てる。
兵士は自身を助けてくれた少女に何者か尋ねる。
「き、君は……」
「私はメカニカルワルキューレ……貴方達を……助けます。」
そう言ってリリィは巨大兵器と傷付いた兵士の間に立ち兵器をただ睨みつける。
ローレンツはその間も迫りくるミサイルを撃ち落としつつリリィの動きを見て改めて思った。
きっとリリィは何よりもネガ・メガミドライヴを使う事を嫌悪していただろう……
それは最初の通信から明らかだった。
しかし目の前の命を守る為に、己の信念すら捻じ曲げた……
とにかく危なっかしいが……
それでも命を守る為に全力な彼女の在り方は……
間違い無く美しいと。
───
ガドルは巨大兵器のカメラを通じ、自身の行く手を阻むか弱き者たちが消えていく様を、ほんの少し口角を吊り上げながら眺めていた。
───ガドルはあまり良い反応を示なさないアトラスをいたぶるのにもそろそろ飽きてきていた所だった。
ここで、叩いてしまおう……
ガドルは自身の手元に一基置いてあるネガ・メガミドライヴを愛おしそうに撫でた。
ネガ・メガミドライヴというエネルギー機関は実に素晴らしい。
製造方法が戦争孤児の少女達という何も生み出す事の出来ぬ弱者を死ぬまで、死んでもなお消費し続けるシステムだということに異様に興奮を覚えていた。
しかし、何よりもガドルが画面に釘付けになる存在が映し出された。
戦場のど真ん中で傷付いた兵士を背に、ただ真っ直ぐこちらを睨みつける翡翠の髪の少女……
それを見た時、ガドルの口角は異様に引き上がり、唾液は糸を引く。
───ああ、なんて美しいのだろう……
あんなに誇り高く、凛々しい瞳は生まれて始めて見た……
ガドルは指先で、画面に映るリリィの髪をなぞる。
そしてそのまま、頬を撫でるように指を滑らせた。
「あぁ……君は……どうやれば壊れるのかな?」
あの凛々しい顔が苦痛に歪む顔が見たい。
屈辱にまみれ、地面に這いつくばりながら命乞いをして自身を見上げる顔はさぞ……
美しいだろう。




