第103話 罪
リリィは花々の咲き誇る丘の上に居た。
とても温かくてこの場から離れるという選択肢は無い。
周りには小さなアリア達が顔も知らない少女達と楽しそうに追いかけっこをしている。
皆が笑顔で……争いなんて無い幸せな世界……
ふと一人の少女が自身のお腹にぶつかって来た。
その少女の頭を優しく撫でようとした時、
少女の頭がぐるりと、無機質に私の顔を覗き込む
───そして
「どうして殺したの?」
少女の二つの目は眼球が無く、真っ暗な虚空で……
その穴から大量の血が流れ出ていた。
リリィは悲鳴と共に跳ね起きた。
呼吸が乱れ、胸が激しく上下している。
「大丈夫?……リリィ……」
ハカセが私の震える手を握ってくれていたらしい。
そこはどうやらアトラスの医務室らしく、ハカセと、リーナ博士、そしてローレンツが居た。
「改めて何があったのか具体的な報告を、ローレンツ。」
リーナ博士は申し訳無さそうなローレンツに事務的な口調で事実確認している。
私が目を覚ました事で、今の話の裏取りをするつもりなのだろう。
「……はい。俺がなんか所か、アトラスの武器庫等施設の説明をしていた時に突然倒れ……俺がここまで運びました。」
ローレンツはバツの悪そうな表情をしている。
「そう……ではリリィ。
今のローレンツの発言に虚偽や事実との乖離はありませんか?」
リーナ博士は最初に私達と話した時と違い、柔らかな口調では無く、人の上に立つ……ハカセの様な口調で確認してくる。
「……あっ」
私は声を出そうとして自身の声が出ない事に気付く。軽いパニックを起こしてしまいハカセに背中を擦られる。
「わ、わた……メガミ……ドライヴを……女の子達を沢山……私…私……」
リリィは頭を抱え、今まで見ないようにしていた現実が、一気に頭を満たす。
思考がぐちゃぐちゃにかき乱されていく。
───三年間……数多の戦場を駆け抜けてきた。
見知らぬ誰かの笑顔を守る為に
無念のうちに兵器に改造された少女達の魂を解放する為に……
───でも結局は、自身の行いを必死に正当化しただけで、自分はただの大量殺人鬼だと理解してしまった。
それを聞いたローレンツはその場の誰よりも早く、普段の少し内気気味な雰囲気を吹き飛ばすかのように叫んだ。
「それは違う!!」
リリィはゆっくりと顔を上げローレンツを見る。
「ローレンツ……さん……」
「もし君が、妹……ロゼッタの事であり得たかも知れない可能性を見出だしてしまったのなら、本当にすまない……けど……」
その時ローレンツの背中からロゼッタが顔を覗かせる。
『あれー?もしかして私、何かしちゃいました?』
無神経な妹をローレンツが小突く。
『あ痛ぁ!?』
「……さっき話したが、コイツは奇跡の産物で、本来ネガ・メガミドライヴに自我は無いんだ。それはアヴェリーナ博士が認めてくれている。」
ローレンツの言葉にリーナ博士は頷く。
「本来のネガ・メガミドライヴはあえて自我を崩壊させます。兵器として運用するんですもの、それは当然ですわね……ねぇ?ベル博士?」
リーナはハカセにも確認をする。
「えぇ……これまでも何度も説明した通り、ネガ・メガミドライヴにされた少女は死体を無理やり動かされているに等しいわ。魔力結晶に生きていると誤認させ力を引き出すシステム……それがネガ・メガミドライヴ。
もはや生命とは呼べない……だからリリィ貴女は……」
ハカセの言葉をリリィは遮る
「でも……百パーセントじゃない……」
その言葉を受け、科学者の二人は押し黙る。
たしかに、ロゼッタという事実がある以上、可能性はゼロではない。
「でも……君のおかげで救われた命があるのも……事実だ」
しかしローレンツの声は、リリィには届かなかった。
その時アトラスの緊急アラートが鳴り響く。
ハカセは立ち上がった。
「もしや、ティターニア……!ヴァルハラがいる事がバレたの……!?」
「……いいえ、違いますわベル博士……これは……」
「はい、以前よりアトラスと対峙してきた大型無人機…!」
ローレンツもロゼッタをパワードスーツに納めると臨戦態勢を取る。
「私も……行きます。」
リリィは弱々しくベッドから起き上がるとデバイスを翳す。
「……え?」
デバイスは何の反応も示さない。
──そんなはずがない。
三年間、どんな戦場でも応えてくれた。
震える手でデバイスを見つめる。
そこに表示されていたのは
適合率ゼロパーセント
───リリィは、メカニカルワルキューレでは無くなった。




