第1話 起動
ついに過去編を終え、現代の話が始まります。
「…やはり起動しない……か」
金髪の女性は苛立ちとも焦りともとれる声色で現在稼働試験中のパワードスーツを見ていた。
──MV-01 ヴァルキリー
それは彼女が“最初に作った”機体だった。
そして、唯一、彼女の思い通りにならない存在でもある。
それ以降の機体は既に実戦で戦果を挙げているのに、ヴァルキリーのみ適合者を受け付けないでいた。
14才の少女リリィは家族と買い物に出かけていた。成績も、運動も、取り立てて語るほどのものはない。
どこにでもいる、ごく普通の少女だった。
その日はなんてことは無い。ごくありふれた休日の昼下がり。誰もが日々を過ごし、街を行き来する誰もが、その平和が平和に感じなくなるほどの穏やかな日
買い物の途中でリリィがふと空を見上げたとき、遠くでかすかに空気が震えるような音
──飛行機だろうか──とにかくそんな音が聞こえた。
リリィはそれに得も言えぬ胸騒ぎを覚える。
しかし、それも直ぐにごった返す人々の生活音にかき消されて、リリィも気にしない事にした。
金髪の女性──皆からハカセと呼ばれる彼女は、工学と理論科学の両分野において比肩する者のいないエキスパートだった。
齢十歳にして、自身の発明だけで生活資金を得ていた天文学的天才ですら、自身が開発したこの機体だけは動かせなかった。
理論も、仮説も、すべて試した。
何度も行った自身と量子コンピュータによるシミュレーションでは問題なく稼働出来るはずだった。
それでも、ヴァルキリーは沈黙を保ったままだった。
そんな時である──。
「ハカセ!ヴァルキリーのメガミドライヴが突如稼働を始めました!」
専属オペレーターのコトネ、通称オペ子が、今まで沈黙を保っていたパワードスーツのエンジンの稼働を告げた。
リリィはソフトクリームを買いに家族から離れた。振り返れば、数十メートル離れたそこで
家族はベンチに座りこちらを見ている。
弟の分と自分の分。それを店員から受け取り、2つを両手に持って振り返った時──
──家族はこの世から居なくなった
突如として激しい爆発が街の全てを揺るがす。突然の衝撃波に押され、リリィの身体は宙に舞った。
耳を裂く轟音、あちこちから上がる悲鳴、飛び散る破片──
平穏だった日常が、瞬く間に地獄と化した。
激しい衝撃で足元の舗道がひび割れ、掌には破片の熱さが感じられた。
吐き気と耳鳴りが同時に襲い、立ち上がるのすらやっとだった。
それでも、震える足で何とか立ち上がると、家族がいた場所にゆっくりと向かう。さっきまで両親が楽しげに談笑し、
弟がアイスクリームをまだかまだかとワクワクとした表情で待っていたあのベンチに
煙と粉塵で視界は黒く霞み、瓦礫の間から時折、燃える看板や倒れた街灯が見え隠れした。
──リリィがたどり着いたそこには。
──黒く焼けた跡しか無かった。
悲しみや苦しみすら消え失せ、リリィが膝をついて呆然としていると、今度は爆発とは異なる大きなモーター音と金属が軋む音を引き連れて
巨大な多脚型の機動兵器がリリィの前に現れた。
ニュースで見た事のあるその兵器をリリィは濁った瞳で呆然と見つめていた。
機動兵器の"腕"がゆっくりとリリィに伸ばされた。
その時──機動兵器の巨大な腕が音もなく転がり落ちた。
鎧を纏った真っ赤なシルエットが機動兵器とリリィの間にそびえ立つ。
「大丈夫か?助けに来たぜ!」
金髪の髪に真っ赤な瞳の少女は振り返りニカッと笑うと目の前の機動兵器を吹き飛ばした。
リリィは更に混濁し呆気に取られていた。
吹き飛ばした機動兵器に追従し組み合った金髪の少女はリリィの方に振り返る
「おいっ!そこの嬢ちゃん!何やってんだよ!早く逃げっ…!」
先ほどの少女はこちらを気にしていたため、機動兵器に吹き飛ばされ、そこに大量の瓦礫が降り注ぐ。
少女が出てこないのを確認した後
ゆっくりと機動兵器はリリィの方を向く。人間で言う、目と思しき部位が妖しく赤く光る
──再びリリィに鋼鉄の魔の手が迫った時だった。
「ヴ、ヴァルキリー消失!空間湾曲による転移を確認!」オペ子が叫ぶ。
「空間転移!? そんな機能、組み込んだ覚えはないわよ……! いったい、何が起きていると言うの?」
研究室のラボから翡翠の光を放ちはじめた銀色の鎧が姿を消した
何とか瓦礫から這い出た金髪の少女、アリアは焦っていた。
自分のせいでせっかく助かるはずの命が潰えてしまったのでは無いかと。
──しかしアリアはそこにある光景に目が釘付けになる。
そこには自身と同じ様な鎧を身に纏い
巨大な機動兵器を──翡翠の剣で一刀両断している
──先ほどの少女が居たからだ。
アリアは過去編のラストに出てきた元気そうな子です。
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