3−59:爆炎の中から
「「「「シャアァァァ!!」」」」
二足歩行のトカゲのような姿をしたモンスター、リザードマン。そこにハイリザードマンを加えた8体が横にズラリと並び、20メートルほど先で口々に威嚇の鳴き声をあげている。
その迫力はオークに遥か劣るものの、実際の強さは勝るとも劣らないものがある。力強さやタフさだけが"強さ"ではないのだと、身をもって教えてくれるのだ。
リザードマンは金属板で補強された鎧を身に付け、手にロングソードと盾を装備したモンスターだ。タフさはオークやラッシュビートルに一歩譲るものの、拙いながらも剣技を修めている他、高度な連携を取る確かな知能も併せ持っている。
加えて、ハイリザードマンは姿形がリザードマンと全く同じだが、ステータスと知能はリザードマンより二回りくらい高い。一度見た魔法を予備動作や詠唱文句から推測して、発動前に動いて避けるなんてこともしてたっけな。
……なので、こいつら相手に攻撃の無駄撃ちは危険だ。学習されたら最後、同じ攻撃は簡単には通用しなくなってしまう。
相手が知らない技を使い続けるか、知っていてもどうしようもない大技を放つか、避けられないタイミングで技を打ち込むか……まあ、第5層の神殿では対応される前提で魔法を放ち、それを利用してハイリザードマンを倒したのだが。どうしようもなくなれば、今回も同じ手でいこうと思う。
「朱音さん、リザードマンは人間並みに賢いから注意だ! 攻撃の無駄撃ちは絶対にするな!
あとはファイアブレスに注意してくれ! 特にハイリザードマンは、ファイナルアタックで強力なファイアブレスを撃ってくるから!」
「え、ええ、了解!」
「ヒナタ、リザードマンはおそらく火に強い! アレは控えてくれ!」
「きぃっ!」
最低限の内容を伝えた後、先制攻撃を叩き込むべく前に出る。数で劣る俺たちは、先制攻撃で敵の数を減らせなければジリ貧になっていくだけだ。
「"ルビーレーザー・ツイン"!」
リザードマン共にガン見されながらも、一気に勝負を決めるつもりで魔法を行使する。
使ったのは、名前の通りルビーレーザーを2本照射しつつ薙ぎ払う魔法だ。オークほど体力が無いリザードマンには、ルビーレーザーでも十分なダメージを与えることができるだろう……と、そう考えて行使してみたが果たしてどうか。
「ギャッ……!?」
「「「「シャァッ!!」」」」
……やはり、リザードマンは敏捷性が高いようだ。リザードマンにも個体差があるのか、避け遅れた1体がルビーレーザーに引っ掛かって体を3枚に焼き切られたが……他の7体は、軽々とレーザーを飛び越えて避けてきた。
そのまま俺に向けて、鋭く1歩目を踏み出した……その瞬間を狙う。
「"ライトニング・スプレッド"」
リザードマン共に向けて、用意しておいた2つ目の魔法を発動させる。
通常のライトニングは、単発の雷を上空から落とす魔法だ。威力は高いが敵1体にしか効果が無い。
対して、ライトニング・スプレッドは名前の通り拡散型の雷を落とす。自然界の雷をよく見ると、枝分かれしながらも地面に向かって雷線が伸びていく (ように見えて、実は色々と複雑な過程があるらしいのだが……確たる知識をまだ身に付けていないので、これ以上話を広げるのはやめておこう)ので、比較的それに近い感じだろうか。
ライトニング・サークルは着弾してから広がるが、これは着弾前から広がるので回避が難しい。その分、フレンドリーファイアの危険性も高いのが難点だが……前に味方が誰もいない状況なら、欠点は無いも同然だ。
――バヂバヂバヂヂィッ!!
「「シャァッ!?」」
「「「「シャッ!!」」」」
異変を察知した5体が、急ブレーキの後にサイドステップする。そして逃げ遅れたリザードマン2体が雷を浴び、拡散雷を続々と吸い寄せている間に他の5体は安全圏へと逃れていった。
哀れ雷に打たれてしまったリザードマン2体が、その場にバタリと倒れ込む。体中から黒煙をあげており、ピクピクと痙攣を繰り返していた。
「「「「シャァァ……」」」」
これで、リザードマンは残り5体。2発の魔法で3体も減らせたが、5体のうち1体はハイリザードマンが含まれているのだろう。外見の差が無いので推測しかできないが、この程度の攻撃でハイリザードマンがやられるとは到底思えないからだ。
……短時間に複数の仲間がやられて、リザードマンもさすがに警戒を強めたようだ。俺とリザードマン、互いに距離をおいての睨み合いが続く。
レーザーと落雷は既に学習されたので、次からは簡単には当たらなくなってしまったが……一方のリザードマンも、下手に動けば俺の魔法にかかって命を落としかねないことを学習したのだろう。こちらの隙を窺いつつ、盾を構えて備えている。
……しかし、先に動いた方が負けるような状況ゆえ、膠着してしまったな。このまま睨み合いをしていても埒が明かないが、まあいいさ。
戦ってるのは俺だけじゃないからな!
「きぃっ!!」
――ゴォォォォ!
リザードマン共の頭上を飛び越え、背後にこっそりと回り込んでいたヒナタがファイアブレスをリザードマンに向けて吐きかけた。
あまりに突然の出来事に、反応できなかった5体のリザードマンが後ろからの炎に包まれる……が。
「「「「シャァァァッッ!!」」」」
炎の中から、何事も無かったかのように4体のリザードマンが飛び出してくる。やはりリザードマンに火属性は効きづらいようで、その体には焦げ跡1つさえ付いていない。むしろ、装備の方が焼けているような状況だった。
「「シャ……」」
2体のリザードマンが急に立ち止まり、大きく息を吸い込んで……!?
「まずい、ファイアブレスか!? 朱音さん、備えて!」
「えっ?」
「「シャァッ!!」」
――ゴォォォォォォ!!
前回の戦いでは見かけなかったが、やはり通常のリザードマンも炎を吐けるらしい。その火力はヒナタのそれとほぼ同等、つまり【ファイアブレスⅠ】ということだな。
二筋の炎が、それぞれ俺と朱音さんに迫る。朱音さんへのフォローは、間に合わない……!!
「くそっ、盾全開!」
――ブォン!
――ゴパァァァァァ!!
防壁を全開にし、炎を防ぐ。ぶち当たった炎に圧されて少しよろめいたが、ダメージは無い。
……だが、視界の端で朱音さんが炎に飲まれたのを見てしまった。あれでは、朱音さんは無事では済まな――
「はぁぁぁっ!!」
――ズバッ!
「シャッ!?」
「たぁっ!!」
――ビシュッ!
「シャゥッ!?」
と、炎の向こうから朱音さんの声と、リザードマンの断末魔が聞こえてきた。防壁の向こうは炎で真っ赤に染まっているが、オートセンシングによれば人型の誰か――おそらくは朱音さんが炎の中をまるで泳ぐかのように動き、次々と他の人型――おそらくはリザードマンを斬り捨てていっているようだ。
……まさか。朱音さんの装備の中に、火属性の攻撃ダメージを大きく軽減するものが混ざっていたのか。
「やぁっ!!」
――ズバァッ!
「「シャッ……!?」」
人型2つが斬り裂かれ、地面に倒れる。それと同時に、俺を襲っていた炎が止まった。
防壁を小さくして前を見てみると、ソードスピアを横に振り抜いた体勢の朱音さんと、ファイアブレスを吐いていたリザードマン2体が倒れているのが見えた。そしてよく見ると、手前にはもう2体のリザードマンが倒れ伏している。
「恩田さん! 私、炎が効かないみたい!」
あの朱色の鎧に、そんな効果があるのかもしれないな。
……だが!
「気を付けろ朱音さん! まだハイリザードマンがどこかにいるぞ!」
「えっ!?」
思えば、ヒナタがファイアブレスを放った直後から姿が見えない。どこだ、どこにいる……!?
「後ろか!」
「シャアッ!」
咄嗟に振り向いた俺に向けて、ハイリザードマンが長剣を振り下ろしてきた。
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