3−55:まるでタワーディフェンスゲームのごとく
唐突に始まった、モンスターとの戦い。システムアナウンス曰く、第1陣の相手はゴブリン30体とのことで、先制攻撃で14体を仕留めたものの……。
「「「「ギャギャギャギャッ!!」」」」
初手で倒し切れなかったゴブリン16体が、全方位からほぼ同時に飛び掛かってくる。知能があまり高くないとはいえ、ゴブリンはこうやって拙いながらも連携してくるから厄介なのだ。
しかも、数が微妙に多い。ゴブリンの数が5、6体程度であれば、隙間を抜けるなりなんなりして簡単に後ろをとれるのだが……その数が2桁となると、隙間が割と密に詰まっていてすり抜けるのは難しそうなのだ。
……だからといって、黙って殴られるだけかと問われれば、自信を持って"否"と答えよう。宝箱を開けたら即死トラップに追いかけ回されることもある場所で、まさかモンスターに囲まれる程度のことを俺が想定しないはずがないだろう。
「2人とも、絶対に動くなよ! "サンダーボルト・レドーム"!」
――ヂヂヂッ!!
レドームとは、レーダー用のアンテナを保護するドーム形の幕のことだ。雨や雪、紫外線などからレーダーアンテナを保護し、故障を防ぐ大事な部分になる。
翻って、サンダーボルト・レドームは自分を中心に電撃のドームを作り出し、攻防一体の盾として機能させる魔法だ。ゴブリンのように遠距離攻撃手段を持たないモンスター相手なら、特に絶大な効果を発揮する。
――バヂバヂバヂッ!!
「「「「ギャッ!?」」」」
俺を中心とした、半径3メートルほどの電撃製のドームが顕現する。比較的近くにいたゴブリンがそれに触れ、電撃を浴びて地面へと倒れ伏した。
「「「「ギャギャ!?」」」」
仲間が倒れる様を見た他のゴブリン共が、急ブレーキを掛けて止まる。そして、急いで俺たちから距離を取り始めた。
もちろん、それを黙って見ているつもりはない。
「はっ!」
――バヂィッ!
「「ギャッ!?」」
逃げるゴブリン共を追い立てるように、電撃のドームを半径6メートルくらいまで大きくする。逃げ遅れたゴブリンが更に2体、電撃に巻き込まれて倒れ伏した。
他のゴブリンにはまんまと逃げられてしまったが、電撃ドームを恐れてか一切近付いてこようとしない。全員が遠巻きに、俺たちの様子を窺っているようだ。
「………」
ここで、倒したゴブリンの数を確認する。先制攻撃で14体、電撃ドームで7体……計21体のゴブリンが既に倒れ、残りは9体となっていた。
「……囲まれた時はどうしようかと思ったわ。ありがとう、恩田さん」
「第4層用に考えてた魔法だったけど、無駄にならなくてよかったよ」
今や、フラッシュ→ライトニング・ボルテクスのコンボが第4層攻略の定番になったからな。安全性を求めるなら、そちらの方が良いだろう。
……さて、と。ゴブリンと睨み合ってても意味が無いし、ここから仕上げを……っと、その前に大事な注意点を2人へ伝えておかなければ。
「朱音さん、危険だから武器は絶対に振るなよ。今から電圧を上げていくけど、そうすると近付くだけで電撃が飛んでくるようになるからな」
「りょ、了解」
「ヒナタも、ここは俺に任せて、じっと待機しててくれ」
「きぃ」
ゴブリンを一撃で確実に仕留めるため、電圧はもともと高めにしていた。それを更に上げていけば、近付くだけで電撃が飛んでくるような、高電圧の領域に入っていくこととなる。
あまり知られてはいないが、高圧の電気とはそういうものだ。電線に直接触れなくとも、空気などを伝って電気が飛んでくるのである。雨の日によく見かける電車のパンタグラフとトロリ線との間のバチバチ放電 (アーク放電という)や、自然現象の落雷などはその代表例だろう。
……だから、駅のホーム上で自撮り棒を使ってる人。最近ほとんど見かけなくなったが、冗談抜きで危険行為だからやめておけ。自撮り棒が電線に当たったら、命の保証は無いぞ。
「「「「ギャギャギャ……」」」」
「おいおい、そんな距離感で大丈夫かよ?」
そして、ここにも危機感の無いモンスターが9体。電撃にギリギリ当たらない距離で、こちらを嘲るようにニタニタと笑っていた。
「……弾けろ、"サンダーバースト・レドーム"」
――バヂバヂバヂバヂッ!!
電撃ドームの電圧を一気に上げる、と同時に範囲を広げ、ゴブリン共にぶつけた。
無論、こんな無茶なことをすれば魔法は暴走してしまうのだが……サンダーバーストは、暴走の方向性をある程度制御する魔法だ。
つまり、電撃が全てゴブリン共の方にいきさえすれば、後はどう魔法が暴走しようが構わないのである。
――バヂィッ! バヂバヂバヂィッ!
「「「「ギャッ!?」」」」
電撃ドームが広がっていくスピードに、ゴブリン共は全く対応できなかったようだ。次々と電撃を食らい、黒焦げになって床に倒れ伏していく。
――バチィィィィンッ!!
そして、形を保てなくなった電撃ドームが、派手な音を立てて弾け飛んだ。ゴブリンは全て倒され、立っているゴブリンが1体もいなくなった……次の瞬間だった。
――第1陣、クリア
無機質なシステムアナウンスと共に、倒れ伏したゴブリン共が一斉に白い粒子へと変わっていく。
……だが、後には何も残らなかった。装備珠はおろか、魔石の1つでさえも、だ。
いや、致命傷を受けたはずのゴブリンが消えずに残っていたのも、よくよく考えれば変な話だ。現代ダンジョンにおいては、致命傷を受けたモンスターはその場で白い粒子へと還り、後にドロップアイテムを残すのが普通だというのに。
つまり、この場は普通ではない|ということか。外の通常階層とは異なる、別のルールが適用されている可能性が極めて高い。
「……考えても仕方ないな」
いずれにせよ、襲いくるモンスター共を捌いていく時間がこれから始まる。今のゴブリンは所詮第1陣、ここからタワーディフェンス系ゲームのように、少しずつ強いモンスターが出てくるに違いないのだから
「そろそろ第2陣が来るぞ、構えろ!」
「ええ!」
「きぃっ!」
地面が白く光ったのが見え、2人に注意を促す。光は細かく分裂し、無数の珠となって空へと舞い上がった。
――第2陣、ブラックバット50体
「「「「キィッ!」」」」
「「「「キィ! キィ!」」」」
「「「「キィィィ!」」」」
瞬間、空を埋め尽くす黒色の群れ。大量のブラックバットが、甲高い鳴き声と共に空中へと現れた。
こうなってはもはや数えられるものではないが、50体というのはおそらく正しいのだろう。それだけ多くのブラックバットが、天を覆い尽くしていた。
だが、数が増えても弱いモンスターの集団であることに変わりはない。ここは第1陣と同じ方法で凌げるはずだ。
「"サンダーボルト・レドーム"!」
――パチッ……パチッ……
再度、電撃のドームを顕現させる。
ただし、今回の相手はブラックバットゆえ、耐久力はゴブリンより低い。それに合わせて電圧を下げているので、ドームから響くスパーク音は控え目だ。魔力消費量を抑えるため、あえてそういう仕様にしている。
もっとも、派手な見た目に反して元々燃費が良い魔法なので、2回使ってもまだ95%近く魔力が残っているのだが。攻防一体とはいえ、どちらかというと防御の方が主目的になる魔法ゆえか、魔力消費量はそんなに多くないようだ。
……いやまあ、少し前の俺なら1発で1割以上の魔力を持っていかれるような、紛うことなき大技だったんだろうけどな。今は魔力も大きく伸び、このレベルの魔法を軽々と扱えるようになったわけだ。
さて、と。第1陣と同じ戦い方では、あまり面白くはないな。これまで存分に家で練習し、精度を上げてきたとある技術……その成果を、今ここで見せてやろう。
「"ライトショットガン・ダブル"!」
――パァン!
「「「「キィィィッッ!?!?」」」」
サンダーボルト・レドームを維持したまま、左手からライトショットガンを宙に向けて飛ばす。前もどこかでやったような気はするが、魔法の同時使用というやつだ。
ライトショットガンに貫かれたブラックバットが墜ち、電撃ドームに当たって更に焼け落ちる。ライトショットガンだけならまだしも、ここまでこれば確実に致命傷だろう。
だが、ブラックバットはまだまだたくさんいる。今回は電撃ドームの電圧を弱めているがゆえ、電撃が飛び火してくる危険性は低い。2人にも手伝ってもらった方が早いな。
「朱音さん、ヒナタ。今回は電圧を低くしてあるから、ドームに当たらなければ武器を振っても大丈夫だ」
「了解! それなら"飛突"!」
「きぃっ!」
――ゴォォォォォ!
「「「「ギィッ!?」」」」
朱音さんの方は、武器を振り回さなくても放てる飛突を。ヒナタは、いつも通りファイアブレスを放った。安全なドームの中から攻撃しているので、こちらが反撃を受ける可能性は皆無だ。
……そうして攻撃を続けること、およそ5分。気が付くと、空が広く見えるようになっていた。
――第2陣、クリア
「ブラックバット、討伐完了っと。"リリース"」
電撃のドームを消し去ると同時に、あちこちに散らばったブラックバットが一斉に白い粒子へと還る。そして、やはりドロップアイテムは残さなかった。
……こうやって数が多いだけなら、正直そこまで怖くはない。第4層の方が、数のうえでは明らかにヤバいからな。
問題はむしろ、簡単に倒せない強敵が複数で現れた時だが……次で第3陣か、そろそろ来そうなんだよなぁ。
――第3陣、ラッシュビートル3体
とか言ってたら来ちまったよ、強敵モンスター。しかも3体とか、2体でもめちゃくちゃ厄介なのに!
――ブブブブブブブ!!
闘技場の真ん中に、巨大な黒い影が3つ現れる。ダンジョン第2の壁とも称され、第6層で探索者を待ち構える強敵モンスター……普通は同時に相手することのないモンスターが、3体同時に出現した。
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