2−2:朱音さんと行く第2層
あれから特に何かイベントが起こることもなく、あっさりと第2層まで降りてきた。階段を降りてきた朱音さんが辺りを見回すが……さすがに、最初ほどの感動は無いようだ。
「へえ、ここが第2層なのね。雰囲気は全然変わらないけど」
「敵の顔ぶれは増えるけどな」
ホーンラビット、ブラックバット……あとはラッキーバタフライ、か。ポーションが空を飛んでいると思うと、ついつい上の方を見てしまうな。
まあ、多分ステルス能力持ちだから見上げても見えないんだろうけど。
「で、早速モンスターのお出迎えみたいだな」
「ギィィィィィィィ!」
「あれは……」
昨日に引き続き、階段を降りた直後にホーンラビット1体と遭遇した。偶然なのか必然なのか、必然だとしたらこれ、もしかすると固定湧きなんじゃないか?
「鋭い一角とすばしっこさが特徴のモンスター、ホーンラビットだな。とりあえず、先に俺が戦うよ」
「え、でも恩田さんって魔法タイプなんじゃ……?」
「まあな。でもホーンラビットは1回倒してるし、朱音さんはまだギフトに慣れてないだろ? まずはあいつの速さに目を慣らしてから、戦った方がいい」
俺はブルースライムで魔法の練習ができたが、朱音さんはそうもいかないからな。
「……分かりました」
一歩前に出て、盾を構える。俺の予想が正しければ、そろそろ……。
「ギッ!!」
予想通り、動かない俺達にしびれを切らしたホーンラビットが、前に出ていた俺に勢いよく飛び掛かってくる。相変わらず速い、速いが……。
「動きがとにかく直線的なんだよな、っと!」
---ガキン!
光る盾を構え、ホーンラビットの突進を受け止める。ガツン、という衝撃が盾を伝って体に走るが、ダメージはほとんど無い。
攻撃を終えたホーンラビットは、反動で空中を舞っていた。
「"ライトショットガン"!」
攻撃を受け止めてすぐ、返す刀で光の散弾を放つ。昨日はホーンラビットの速度に動揺して、撃つのがワンテンポ遅れてしまったが……今日はほぼ最速のタイミングで発動させ、ホーンラビットがまだ宙を舞っているタイミングで撃ち抜くことができた。
さすがのホーンラビットも空中では散弾を避けられず、断末魔の悲鳴すらあげられないまま全身を蜂の巣にされて、光の粒子となって消えていく。後には魔石が1つ、コロンと床に落ちていた。
「………」
昨日は、ここからブラックバットと連戦になったが……空を見上げても、黒い影は特に見当たらない。これで戦闘終了と判断しても良さそうだ。
「……ふぅ」
息を吐き、残心を解く。魔石を拾ってリュックに入れてから、朱音さんの方へと振り向いた。
「まあ、こんな感じだ」
「……なるほど」
「次にホーンラビットが出てきたら、朱音さんの番だな」
「ええ、分かったわ」
朱音さんの場合は、ギフトの効果が身体能力に上乗せされるのだろう。ブルースライムを倒した時のスピードを発揮できるのなら、俺がやったように宙にいるホーンラビットを貫けるはずだ。
「……おっ、また来たな」
そして、ダンジョンは空気を読んでくれたのか。遠くから、立派な一角を携えた兎がこちらに向けて歩いてくるのが見えた。
それに朱音さんも気付いたようで、僅かに緊張の面持ちを浮かべながらホーンラビットの前に立ちふさがった。
「ギッ!? ギィィィィィ!」
「………」
ホーンラビットも朱音さんの姿を認めたようで、激しく威嚇し始める。その威嚇を軽く受け流し、朱音さんが盾と槍を構えて腰を落とした。
「ギッ!!」
一度姿勢を低くしてから、ホーンラビットが弾丸のようにまっすぐ突っ込んでくる。対する朱音さんは微動だにせず、ホーンラビットをじっと見据えながら右手の盾を前に出している。
ホーンラビットの角が閃いた、次の瞬間。
「……はぁ!」
なんと、飛び掛かってくるホーンラビットに合わせて槍を鋭く突き出した。斜め前から突き入れられた槍は一角を避け、ホーンラビットの胴体をきれいに貫いて勢いを殺してしまった。
「ギィッ!?」
痛みからか、ホーンラビットが槍に貫かれたままバタバタと抵抗するが……すぐに力尽き、ぐったりとする。そのまま、ホーンラビットは光の粒子になって消えていった。
戦利品は、魔石と武器珠だった。
「お、武器珠が出たな」
他に敵がいないことを確認して、戦利品を拾いに行く。魔石をリュックに放り込んでから武器珠を覗くと、"1"の数字が中で踊っていた。
「武器珠?」
「ああ、その方が分かりやすいから俺が勝手にそう呼んでるだけ。正式名称は装備珠・赤だな。で、この武器珠はランク1だけど使っておくか?」
さっきブルースライムに槍を溶かされてたからな。使ってみて様子がおかしければ、早めに替えておいた方がいいかもしれない。
俺の意図を読み取ってくれたのか、朱音さんが槍を見て考えている。
「……さすがにまだ大丈夫みたい。ただ、予備として持っておきたいわね」
「今すぐ壊れそうってほどではない感じ?」
「ええ。でも、もし武器が壊れた時はフォローをお願いね」
「ああ、任せろ」
武器珠ランク1をリュックに入れる。通路の先を見据えるが、敵がいる様子は無い。
「さて、昨日はここで探索を打ち切ったが……」
「ここからは恩田さんも未知の領域ってことね。なら、私が前を歩いてもいいかしら?」
「朱音さんが? いや、しかし……」
女性に最も危険な前を歩かせるのは、いかがなものか。もちろん、それが最善の形だというのは俺も理解してはいるんだが……。
「大丈夫よ、私の方が重装備なんだし」
「うーん………」
「恩田さん」
「………分かった、なら朱音さんに前を任せようかな」
「!、ええ、任されたわ」
かなり迷ったが、朱音さんに前を歩いてもらうことにした。
ここからは、地図の無い未探索領域になる。気を引き締めていこう。
◇
一本道を進みつつ、超小声でビューマッピングを唱えて地図を作成していく。ここも道が緩やかに右へカーブしているようで、次の分岐点---十字路に着くまでに、ビューマッピングを2回ほど使っている。次は十字路の真ん中で使えば、途切れなく地図を埋められるだろう。
ちなみに、道中でホーンラビット1体と2回遭遇したが、どちらも前を歩いていた朱音さんが瞬殺した。1体目は突進を盾で防いでからのカウンターで仕留めていたのだが、しっくりこなかったのか2体目は元のように迎撃攻撃で仕留めていた。なお、いずれも魔石しかドロップしなかった。
「………」
そういえば、ビューマッピングの使用回数が何となく増えたような気がする。大体2回分くらい増えて、連続使用で12回はいけそうだ。モンスターを倒して成長したのだろうか?
これがRPGゲームなら、モンスターを倒して成長したから、となるところなんだろうが……残念ながら、現代ダンジョンにはステータスウィンドウにあたるものが無いので確認する術がない。いわゆるド◯クエシリーズタイプの成長パターンなのか、サ◯シリーズタイプの成長パターンなのかは分からないが……何となく、俺は後者な気がしている。
魔力以外に、これといって変化したように感じられる部分が無いからだ。昨日の探索はほぼ魔法しか使ってないし、敵の攻撃でダメージを受けることも無かった。魔法を使えば魔力が成長し、敵の攻撃を食らえばHPや防御力が成長する……そんな成長パターンなのであれば、魔力以外の変化がほぼないのも分かる気がする。
……ブルースライムに手を突っ込んで耐久訓練でもするか? ひ弱なままで下層に降りていくのはなんだか怖い。痛いのは嫌だが、成長に必要ならそうも言っていられないだろう。
「……げふっ!?」
そんな風に考え事をしていたのがいけなかったのだろう。背中にいきなり衝撃が走った。
肺の空気が強制的に抜け、前につんのめる。かろうじて横を向き、視界の端で後ろを見ると、黒い物体が空を飛んでいるのを見つけた。
「ブラック……バットか……!」
警戒を怠り、背後から不意打ちを食らってしまったようだ。幸いダメージはそれほどでもないが、息継ぎがままならず詠唱ができない。
そして、悪い事は重なるもので。
「!」
ブラックバットは3体いた。突進してきた個体の横から、2体がこちらに向けて飛んできている。このタイミングと体勢では、回避も盾防御も間に合わない。
「はあっ!!」
「「キィッ!?」」
せめて衝撃に備えようと、身を固くしたところで。
朱音さんが間に割って入り、2体を盾で力強く弾き飛ばした。シールドバッシュを食らったブラックバット2体が、目を回したのかフラフラと空中を飛んでいる。
「せいっ!」
その隙を逃さず、槍を突き出して1体を串刺しにする。攻撃をまともに食らったブラックバットは、一瞬で光の粒子となって魔石に姿を変えた。
ここで、俺もようやく息が整った。朱音さんの隣に立ち、魔法を使う。
「"ライトショットガン・ダブル"!」
2回唱えるのが面倒だからと、最初から倍量の光弾を撃ち出すイメージで魔法を放つ。ばら撒かれた大量の光弾が、まだフラフラと飛んでいるブラックバット1体を撃ち抜き光の粒子へと変える。
そして、俺に突進攻撃を食らわしてきたブラックバットも光弾の嵐を避けられず、翼に被弾して落下した。その落下ダメージがトドメになったのか、床で光の粒子へと変わり消えていった。
「……ふう。ありがとう朱音さん、助かったよ」
朱音さんが防いでくれなかったら、大ダメージを食らうところだった。死にはしなかっただろうが、しばらくは探索できない状態になっていたかもしれない。
「そ、そんなことより背中は大丈夫ですか!? ケガしていませんよね!?」
朱音さんが慌てた様子で、しきりに俺の背中を確認してくれる。ローブには特に損傷などなく、多少痛みはあるが探索に支障は……あ、そうだ。せっかくだから試してみるか。
「ちょっと痛いけど……"ヒール"」
回復魔法といえば、光属性。そんな勝手なイメージで魔法を使ってみたが、意外とあっさり発動した。
ほんの僅かに魔力が減った感覚と共に、俺の体が光に包まれる。装備珠を使った時と似たような感じだが、もちろん光が装備品に変わるなどということは無く……代わりに、体の痛みがスッと引いていった。
「回復魔法だよ。初めて使ったけど、うまく発動してくれたな」
「……本当に、何ともないんですね?」
「ああ、もう大丈夫だ」
そこまで言って、ようやく朱音さんがほっとした表情を見せてくれた。
「はぁ〜、よかったわ。けど、次は気を付けてよね」
「そうだな、ここは死亡事故も起きている危険地帯---その認識は、ちゃんと持っておくべきだった。本当にいい勉強になったよ」
本当に、安い授業料で済んで幸いだった。
「さて、気を取り直して戦利品の確認と……その前に周りの確認だな」
十字路に入るやや手前のところでの戦闘だったので、前後と上をさっと確認する。
……特に敵は見当たらないが、気は抜かない。
周囲にやや意識を残したまま、ブラックバット3体分の戦利品を確認する。1体は魔石だけだったのは確認したが、他の2体はどうだろうか……って。
「え、これって……」
朱音さんが、思わずといった様子で言葉を漏らす。
魔石3つに、防具珠1個。防具珠のランクは分からないが、1でも2でもどうでもいい。
羊皮紙に紐が付いた、巻物のような物体が1つ。明らかな存在感を放ちながら、床に落ちていた。
「「スキルスクロール!?」」
◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇
なろうに数多ある小説の中から、私の小説を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
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