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【資格マスター】な元社畜の現代ダンジョン攻略記  作者: SUN_RISE
第2章:朱き飃風は母を想いて舞い踊る
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2−1:袖振り合うも多生の縁ってやつか、それとも……


「今日も来てしまったな……」


 無事に探索者デビューを飾った、翌日。俺は再び、馬堀駅へとやってきていた。


 購入したばかりの、6ヶ月通勤定期を使って。


 昨日、帰ってからネットで調べたところ……ダンジョン探索自体は娯楽扱いではあるものの、なんと交通費は経費として扱われているとの情報があった。それも最初は認められなかったらしいが、いつからか公式に認められるようになったとのこと。

 何かしら大人の事情というのが働いた結果なのだろう。探索者にとってはありがたいことだ。

 そういうわけで、とりあえず6ヶ月通勤定期を購入した。経費の証明になるので、貰った領収書はこっそりアイテムボックスに保管している。結局、アイテムボックスが便利過ぎるんだよなぁ……。

 ただ、あまり大っぴらにアイテムボックスを使えないので、ドロップアイテム運搬用に一番大きなリュックサックを引っ張り出してきた。ポーションを拾うまでは、もうリュックサックも要らないかなとか考えてたのに……ほんと、ままならないよな。


「さて、入るか」


 昨日道に迷ったばかりなので、今日はさすがに迷わずダンジョンバリケードへ辿り着けた。相変わらず重厚そうな金属製の扉を開けて中に入る。

 それにしても、この扉重そうなのに簡単に開くよなぁ。なんか仕掛けでもしてあるのかな?




「ようこそ、亀岡ダンジョンへ。昨日振りですね、恩田さん」

「ええ、今日も来ました。はい、探索者証です」

「確かに確認いたしました」


 入口カウンターでは、昨日と同じ受付嬢が出迎えてくれた。すぐにロッカールームへ移動し、装備を回収する。

 ……杖、ローブ、光る盾、腕輪というファンタジー装備に組み合わさる、極めて現代的な緑色のリュックサック。一体、周りから俺はどう見えるんだろうな。

 あと気になるのは、モンスターの攻撃でリュックが破れないか、だが。まあ、破れた時は破れた時かな。


「すみません」


 声を掛けられたのか?と、チラリと声がした方を振り向いてみる。だが、対象は俺ではなかったらしい。

 ほぼ後ろ姿しか見えていないが、入口カウンターの前に女性がいた。その女性が、受付嬢に声を掛けているらしかった。


「ようこそ、亀岡ダンジョンへ。ご用件をお伺いいたします」

「あの、ダンジョン探索は初めてなんですけど……あ、これ探索者証です」


 女性がおずおずと探索者証らしきものを取り出し、カウンターの上に置く。その探索者証を見た受付嬢が、なぜか一瞬だけ怪訝そうな表情を浮かべたが……すぐに、営業スマイルに戻っていた。

 それにしても、随分と背の高い女性だな。ジーパンはともかく、まだ寒さが残る時期だというのに薄手の上着を着ている。俺の身長がちょうど175センチなのだが、女性も同じくらい背が高い。髪をショートにしているあたり、美少年と言えなくもない風貌だが……どことは言わないが、なかなか重厚な装甲をお持ちのようなのですぐ女性と分かった。

 ……まあ、あまりジロジロ見るのは失礼か。特に、ある部分への視線に敏感な女性は多いはず。意識的に見ないようにして、さくっと準備して入ダンしよう。


「探索者証……はい、確かに確認いたしました。ダンジョン探索が初めての方に、装備品が得られる特殊なアイテムをサービスしております。お持ちいたしますので、少々お待ちください」

「あ、はい」


 装備を済ませてカウンターの方へ戻ると、ちょうど裏のスペースに消えていく受付嬢の背を、女性がどこか不安そうな目で見ているところだった。うん、確かにそうなるよね。俺もそうだったし。

 ダンジョンが一般開放されてから、まだ2ヶ月ちょっとしか経っていない。探索者側も運営側も、まだまだ慣れない部分が多いのは事実だろう。


 すぐに、受付嬢が武器珠、防具珠、装飾珠を持って戻ってきた。


「これは……珠、ですか?」

「はい、これはダンジョンで見つかる"装備珠"です。原理は不明ですが、珠に念じると赤が武器、青が防具、黄が装飾品に変化します。中の数字が大きいほど、性能の高い装備が出るようですね」

「なるほど……」


 スラスラと、俺が受けたのと全く同じ説明が受付嬢から繰り返される。それを横目に、ダンジョンゲートの方へ向かおうとして。


「あ、ちょうど良いところに。すみません恩田さん、少々お待ち頂けますか?」

「あ、はい」


 受付嬢に呼び止められたので、その場でしばらく待つ。一方の女性は珠3つを手に取り、静かに目を閉じていた。

 やがて珠が白い光に変わり、装備品へと変化する。全金属製の槍を背負い、同じく金属製の大きな盾に胴体を広く覆うタイプの金属鎧と、明らかに重装備を身に着けた女性がそこにいた。


「「え、すご……」」


 同じ言葉が、俺と女性の両方の口から同時に漏れる。女性の格好はまさに槍戦士といった様相で、シンプルに強そうな見た目をしている。となると、ギフトも前衛に向いた内容である可能性が非常に高い。


「装備珠は、その方の適性に応じた形に変化すると言われています。久我(くが)朱音(あかね)さん、あなたのギフトはおそらく前衛タイプ---それも、最前線で戦う戦士タイプのギフトである可能性が高いかと思われます」


 うん、俺もそう思う。

 ……と、受付嬢の目線がこちらを向いた。


「そして、こちらの恩田さん。彼は昨日探索者デビューした方ですが、魔法タイプの方です。戦士タイプの久我さんとは、足りない部分を補い合えるかと。今回だけでも構いませんので、臨時パーティを組んでみませんか?」

「どうも、恩田高良といいます」


 じっと、女性---久我朱音さんの眼を見て挨拶する。黒髪黒目、かつ髪型がショートなのであまり目立ってはいないが、鼻筋の通った日本美人的な顔立ちをしている。髪を伸ばせば、まさに日本のご令嬢といった雰囲気になるのではないだろうか。


「はじめまして、久我朱音と申します。……あの?」

「あ、ああ、すみません。あまり女性の顔をじっと見るのは失礼ですよね」

「あ、いえ。目がちゃんと合う分には、私は気にしませんので」


 目がちゃんと合う分には、か。やはり、何かしら嫌なことがあったのだろうな。


「分かりました、久我さん」

「……すみません、あまり名字呼びは好きではなくて」

「あ、そうですか。では、どのようにお呼びすれば?」

「朱音で大丈夫です、敬語も要りません。恩田さんの方が歳上でしょう?」

「無駄に年齢を重ねてるだけで、僕は大した人間じゃありませんよ。

 ……まあ、朱音さんがいいなら普通に話すけど。朱音さんも、敬語は要らないからね?」

「……そう? なら、私も普通に話すわね、恩田さん」


 まあ、こんなところだろう。初対面としては上々なのではないだろうか。探索者デビューが近い者同士、無駄にいがみ合うこともあるまい。


「じゃ、早速ダンジョンに入ろうか」

「ええ、了解よ」


 二人で連れ立ってダンジョンゲートに向かう。毒々しい紫色のゲートに朱音さんが一瞬たじろいだが、意を決したのか一息に潜っていく。それを追って、俺も紫色の霧を通り抜けた。



 ◇



「うわぁ、一歩入ったらこんなに広い洞窟なのね。ゲートの後ろに空間なんて無かったのに、ダンジョンって不思議ね」


 朱音さんが、辺りをキョロキョロと見回しながら感嘆の声を漏らしている。

 まあ確かに、無機質なコンクリート製の建物の中から天然物にしか見えない洞窟の中に瞬間移動するんだからな。ほんと、ダンジョンってのは謎に満ちてるよな。


「……あら?」


 うん? ああ、()()のか。


「ギフトだね。俺は【資格マスター】ってギフトだったけど……朱音さんは?」

「……うーんと、【魔槍士】だって」


 【魔槍士】か。槍を扱う技量が上がるとか、そんな感じのギフトだろうか。でも、"魔"が付いてるのはなんでだろうな?


「ええと、効果は……槍を使う時だけ強くなったり、特殊な技を覚えたりできるみたいね。魔法も一応使えるけど、槍に炎を纏わせる、みたいに槍を絡ませた使い方をしないと効果が大きく下がるらしいわ」

「ふぅん、なるほどな」


 槍を絡ませた魔法の使い方、か。身体能力強化系とか、エンチャント系の魔法なら普通に使えそうだ。


「ところで、恩田さんの【資格マスター】はどんなギフトなのかしら?」

「ああ、俺のギフトは……」


 【資格マスター】の効果をかいつまんで説明する。朱音さんとは臨時とはいえパーティを組んでいるので、今は朱音さんが持っている国家資格も消耗度合い軽減の対象になるのだが……。


「あ、ならこれも国家資格になるのかしら?」


 朱音さんがスマホを取り出し、俺に画像を見せてくれた。


「……"2級着付け技能士"?」


 そこには"2級着付け技能士"と書かれた合格証書の画像が写っていた。

 着付け……着付け? 着付けって、着物を付け外しするアレのこと? え、そんな国家資格あるのか……?


「……あった」


 【資格マスター】で検索してみたら……本当にあったわ、2級着付け技能士。国家資格なんだ、知らなかったな。



 ☆


資格名:2級着付け技能士

効果:付与魔法を使用可能 任意の属性ダメージを半減する(一時間経過後に再設定可能)


 ☆



 付与魔法……こっちもエンチャントか。朱音さんとパーティを組んでいる時しか恩恵に預かれないのは残念だが、幸か不幸か今は枠が無いので、付けるのはまた今度だな。


「ところで、あの青いのは何かしら?」

「ああ、あれか」


 既に朱音さんの興味は、ダンジョンからの刺客ブルースライムに向けられている。割と見た目通りに、朱音さんの好奇心はかなり旺盛らしい。


「あれはブルースライム、ダンジョン最弱のモンスターだな。ただ「じゃあ、ちょっと倒してみます」え、あ、ちょっと待って!」


 止める間もなく、槍を左手にブルースライムへ突貫する朱音さん。【魔槍士】の効果で身体能力も上がっているのか、気付いた時にはブルースライムに槍を突き入れていた。

 それで体力がゼロになったのか、体を貫かれたブルースライムが溶けるようにして消えた……その後。


「初、モンスター討伐完了ね」

「……おう、そうだな。ところで、槍は大丈夫か?」

「槍……?」


 おもむろに槍を見た朱音さん。その顔が、みるみるうちに強張っていく。


「えっ、そんなっ、なんでですか!?」

「あ〜あ、言わんこっちゃない……」


 青いゲル状の物体が付いた所から、シュウシュウという音と共に白い煙が上がっていく。すぐに槍を振ってゲルを飛ばしたからか、被害は最小限で済んだようだが……。


「うう、ちょっと溶けちゃいました……」

「………」


 槍の刃先が、心なしかデコボコしている。今のところ切れ味や強度的には問題無さそうだが、あまり繰り返して良いものではなさそうだ。


「……ブルースライムの体、強酸性らしくてね。しかもドロップアイテムが10円にしかならないし、武器攻撃は損だからやめておけって言おうとしたんだけど……」

「……ごめんなさい」

「あ〜、うん。まあ、俺は何も害を被ってないからいいけどさ」


 ブルースライムの魔石を拾いつつ、見るからに落ち込んだ朱音さんを見てつい苦笑してしまう。


「試すなら、次の階層の方が良いかもな。ちょっとモンスターが手強いけど」

「……そうするわ。絶対、今日はこの武器分くらいは稼いでやるんだから!」


 1000円かぁ。多分、第2層で20分も戦えば稼げるはず……ってああ、そういえば大事なことを忘れてたよ。


「朱音さん、先に決めておきたいことがあるんだけど」

「ん、何をかしら?」

「今日の取り分の分配。半々で考えてるけど、それで良いか?」

「いいわ。むしろ、それだと私の方が有利な条件になるけど、恩田さんはそれでいいの?」

「いいよ、そんなことで揉める方がめんどくさいし」

「じゃあ、半々でいきましょう」


 話が早くて助かるよ、ホントに。


「というわけで、第2層に行きますか」

「ええ、行きましょう」


 ブルースライムを無視して、第2層への階段に直行する。さて、ホーンラビットやブラックバットを相手に朱音さんがどこまでやれるだろうか。




◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇


 なろうに数多ある小説の中から、私の小説を読んで頂きまして誠にありがとうございます。


 読者の皆様へ、作者よりお願いがございます。


 皆様の率直な判定を頂きたいので、ページ下部より☆評価をお願いいたします。

 ☆1でも構いませんので、どうかよろしくお願いいたします。

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↓新作始めました
魔法に傾倒した大魔法士、転生して王国最強の魔法士となる ~ 僕の大切に手を出したらね、絶対に許さないよ? ~

まだ始めたばかりですが、こちらもよろしくお願いいたします。
― 新着の感想 ―
前話の感想で遊技場でもないのに三店方式って、と書いてしまった訳ですが まさか本当にダンジョン探索自体は娯楽扱いで遊技場なのか…
[気になる点] 「ブルースライムを無視して、第2層への階段に直行する。さて、ホーンラビットやブラックバットを相手に朱音さんがどこまでやれるだろうか。」 朱音さん、武器を失ったと思うけど、用心深く予備…
[気になる点] 面白いのですが、潮干狩りおじさんが頭にチラつきますね。
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